少女と、女史の会話 2
「レルンダ、私は貴方に聞きたいのですが」
「ん、なに?」
「レルンダは……もし、あなたが本当に神子だったとしたら貴方はどういう選択をするつもりですか」
「選択……?」
私はランさんの言葉に思わず問いかける。どういう選択をするつもりか、そう聞かれても私はぴんと来なかった。
「レルンダ、貴方には辛い話かもしれませんが、私はこれから起こりうるかもしれない話を貴方にします。レルンダが、神子であるのならばどうしても直面していく問題です」
ランさんは、真剣な目でそういった。これから、起こりうるかもしれない問題。私が、神子であるのならば、起こってしまう問題。それを聞くのは怖いけれど、だけど、私が受け止めなければならない問題。
私はランさんの言葉に頷く。
「神子は、世界にとって特別な存在です。神に愛されている子供で、特別な力を持つとされております。実際に、他にない力を持ち合わせているでしょう。その力は良い影響も、悪い影響も与えてしまうものです」
神子は、良い影響も悪い影響も与える。それだけ影響が大きい存在。特別な力を持っていると、ランさんは改めて言う。
「神子を手中に収められれば、それだけで国は豊かになる。そう、認識している者が多く居ます。実際にレルンダの双子の姉君を神殿に引き取ったのも、神子という存在を国として保護したかったからです。神子が神聖な存在であるから保護したという事もありますが、一番は神子を手に入れるためと言えるでしょう。決して、神子が保護されるのは善意だけでは、優しい感情だけではないのです」
「……うん」
私はランさんが語る話に耳を傾け、頷く。
「神子を手にした国は、それだけで他の国にとって脅威となります。歴史の中では過去に神子を保護し、好き勝手に行動し、結果として神子の恨みを買い、破滅した国だってあります。神子に憎まれれば、それだけで破滅に追いやられる事さえあるのです。けれども神子に憎まれないようにしながら神子を操る事だって、出来ないわけではないのです。神子にとって幸せな世界を作ってしまえばいいのですから」
「神子にとって……幸せな世界?」
「ええ。神子にとって優しい世界を作り、神子の前でだけ幸せな世界を装う。そして神子のことをいいように操るという事も、出来ないわけではありません」
神子にとって、優しい世界を作る。神子の前だけ幸せな世界を装う。そして神子のことをいいように操る。
そんなことだって出来るのだという。
私に置き換えて考えてみる。私は、優しくされたらそれを信じ切ってしまうかもしれない。優しくされて、幸せな空間をつくられて、だけど、本当はそんなことじゃなかったとしても。その優しい世界を信じたまま、そのまま、考えたくもない話だけど死んでしまう可能性もある。優しいと、信じたまま。どれだけ本当は残酷だったとしても。
「だから……レルンダ、貴方は貴方が、居たい場所にいるべきなのですよ」
「どういう、意味?」
「世の中にはですね、神子を傍に置くために交渉をしてくるような存在もいます。例えば、レルンダ、貴方は獣人の人たちが大変な目に合っていたら助けようとするでしょう?」
ランさんは、そんなことを聞いた。ランさんが問いかけてきたことは、私にとって頷くのが当然のことである。皆が大好きだから、大変な目に合っていたら助けようって、そう思う。
「その時に、誰かが獣人の人たちを助けてあげるからと交渉をしてきて、貴方を傍に置こうとしたらどうしますか。貴方が、こちらに来たら、獣人たちを助けると、幸せにするといわれたら———」
「……それ、は」
獣人たちを助ける、幸せにする、そんな風に言われたらどうするか。その代わり、私がそちらにいけばいい。それだけなら……、それでも、いいのかもしれないとは思った。私が、行くだけで、皆が笑えるなら。
「皆が、笑えるなら——」
「それで頷いて、貴方がそこにいったとして本当に彼らが助かるか、彼らが幸せになるかは分からないのですよ」
「え」
「助けてくれる、そう言われたとしてもそれを本当に相手が守ってくれるかはわかりません。獣人たちが助かって幸せになっているということを装うだけ装って、それでいて正反対の———獣人たちを傷つけるという事をやる可能性だってあるわ」
助けてくれる、という言葉を相手が守ってくれるかは分からないとランさんは言った。皆が幸せになっていると、私に見せかけて、全然違うことをやる可能性だってあるって。
「それに、獣人の人たちは……レルンダがね、自分たちの安全のために自分の身を差し出すなんていう事を喜ぶはずがないのです。大切な人が自分たちのために犠牲になるなんて望む人はいません。貴方は、もっと、自分が大切にされている事をちゃんと自覚したほうがいいわ」
ランさんは、真っ直ぐに私を見ていう。もっと、自覚をしたほうがいいと、そんな風に。
「貴方は大切にされているの。貴方は、ちゃんと愛されている。大切にしている存在が、大変な目に合うのは皆悲しむの。貴方が、獣人の人たちに思っている事と一緒なの。レルンダがね、レルンダの居たい人と一緒に過ごして、幸せに笑って、そうやって過ごす事を皆望んでいるの」
ガイアスがいってくれたような言葉を、ランさんも言ってくれた。
「貴方は獣人の人たちが大切で、彼らも貴方が大切で、だから、大切で一緒に居たいなら一緒に居ればいいの。皆揃って幸せになるのが一番なのよ。片方ずつだけが幸せでは駄目なのよ。片方の幸せのために片方が不幸になるなんてことでは誰も幸せにはならない」
片方だけが、幸せでは駄目なのだと。両方、幸せになるのが一番良いのだと、ランさんはいう。
「……うん」
「貴方が本当に神子だった場合、貴方はこれから様々な選択を突きつけられるでしょう。その時に、貴方がどうしたいか、どう選択するのか。人間たちの世界で生きるか、このまま獣人たちと生きるか、そういう選択が出てくるんですよ」
「……うん」
もし、本当に神子だったとすれば選択を突きつけられる。どうしたいか、選ばなければならない時が来る。そして、それが神子だったのならば様々な影響を与える。
「選んだ先で、大きな影響が起こるかもしれません。それは、色々なことに繋がるかもしれません。それを考えなければならない。けど、貴方が望む選択をしていいんです」
「……むず、かしい」
「ええ。難しい問題です。だからレルンダが悩んだときは、誰でもいいから相談して、ちゃんと考えて決めなければならないわ」
「……うん」
私は頷く。難しいけど、ランさんの言葉にちゃんと考えなければならないと思った。
「ラン、さん。私、神子、かも……言った方が、いい?」
悩んでいること、考えたこと、ランさんに聞いた。
私は神子かもしれない。本当にそうか分からないけれど、神子の可能性があるのなら皆に言ったほうがいいのだろうか。
「それは……難しい話ですわ。私としてみれば、アトスさんにだけは話してみるのは構わないと思いますが」
「……うん」
「ただ本当に神子であるか、という事が示せるわけではありませんから難しい話ですわ。タイミングを見計らって考えてみましょう」
「……うん」
「眠たそうな顔をしているわ。今日はもう、おやすみなさい。また、明日、考えましょう」
「……うん」
私は頷いて、そのままベッドに向かい、話しつかれて眠ってしまうのだった。
――――少女と、女史の会話 2
(多分、神子な少女は女史の言葉に頷く)




