王女と、推測
私、ニーナエフ・フェアリーの婚約者であるヒックド様が行方不明になった。
その報告に、私は少なからずの衝撃を受けている。ミッガ王国で行われた大規模な反乱。それに伴うヒックド様の所在不明。
……私は、ヒックド様の部下が訪問し、切り捨てるようにという伝言を承ってから、ヒックド様についての情報を集めた。とはいえ、フェアリートロフ王国もまだまだ安定しているわけではない。神子として担ぎ上げられていたアリスに関しても何とか前進していっているものの、不安要素がないわけではない。
私の動かせる手駒も少ない状況だったが、少しはヒックド様の情報が私の元へ入ってきていた。ヒックド様は、進んで、進んで獣人達の制圧などを行っていた。そして、獣人達の娼婦も集めていた。
獣狂いの王子、獣を憎む王子、制圧者の王子――そんな風に幾つかの名でヒックド様は呼ばれるようになっていた。国の内乱があった関係できちんと把握出来てなかったが、私がヒックド様にきつい言い方をしてから、彼はそういう行動を起こすようになっていた。王である父親に逆らう事が出来ない。動けないとそんな風に言っていたヒックド様。ヒックド様が、今もなお、ミッガ国王に従い続けているかというと違うと思う。あれ以来、会えていないから真実は分からない。でも――、あの訪問者の言葉を見るに、ヒックド様は今、自分の意志で動いている。行方不明だって、もしかしたら――自分の意志でかもしれない。その可能性に思い至った。
獣人と共にいたという神子。獣人の一人を殺してしまったというヒックド様。どこかに消えてしまった神子。獣人を王の命により追い立てていたヒックド様。
――自らの意志で、ヒックド様が王に歯向かっているとしたら。その結果、奴隷達の反乱に結び付いたとしたら。
ヒックド様が命令を尊重していたとはいえ、異種族の人達を奴隷に落とす行為をしていたのは確かだ。そんなヒックド様が、自分の意志で、彼らを助けようとしているのならば。
そう考えた方が、納得が出来る気がした。もしかしたら違うかもしれない。でも……それが真実ではないかと推測出来た。
王と敵対する道。王の命令に背く道。その先に待っているのは、どちらかが死ぬまでの戦いになるのかもしれない。相反する意見を持つ二つの勢力は、結局の所、勝者が決まるまでは止まらないだろう。例えば、ヒックド様が自分から行方不明となったとして、それならば本格的にミッガ王国の王と敵対する事になる。
ヒックド様が勝つか。ミッガ王国の王が勝つか。どちらかしか選択肢はないだろう。——私は、そんなヒックド様のために何か出来るだろうか。
ヒックド様は切り捨てるように言った。でも、婚約者であるヒックド様を私は切り捨てたくない。ならば、出来る事はなんだろうか。フェアリートロフ王国と私までが敵対するのは得策ではない。そうなれば動きようがない。
国と敵対しない形で、ヒックド様の支援――いいえ、ミッガ王国が混乱に陥る支援をするという方策を進めるべきかもしれない。
神子が、獣人達と共にいた。その事実がある。神子の生死は定かではないけれど、神子という存在であるならば生きていると推測出来る。というより、そう思いたい。そうなると、神子の味方をするという意味も込めて、ヒックド様の考えを支援する事は出来るのではないか。
フェアリートロフ王国は、一度間違えた。神子ではなく、神子の双子の姉であるアリスを神子として保護してしまった。その間違えた事実があるからこそ、神子を支持しなければならない。神子を間違えてしまった事は、大神殿の責任であるとされた。しかし、神子という存在を間違えてしまった責任は国にもある。そして神子ではないアリスを助長させてしまったのも。——ジュラードお兄様に、神子は獣人達と共にあった。そのことも踏まえて、隣国の騒動に一枚絡むべきであると進言してみようか。それが一番、ヒックド様を切り捨てずに済む方法な気がする。
ただ、これは諸刃の剣のようなものだ。神子の存在を理由に行動するという事は、いろんな柵を抱える事になる。神子という存在を大義名分にするという事。神子を利用するような行動ともいえる。本物の神子を利用するような行動をして、何が起こるかというのは分からない。
それに、私が隣国の騒動に関わるとしたら――アリスも、無関係ではいられなくなる。ジュラードお兄様から許可を得て、私が行動をするとして――、失敗したら私だけでなくアリスまで落ちぶれてしまう可能性もある。それだけ、王女という立場には多くの人間の人生がかかっている。
ヒックド様の事を放っておけないというのは私の我儘でしかない。その問題に、国まで巻き込んでしまっていいものか。巻き込む必要のあるものなのか。それを考えてから行動しなければならない。
選びとらなければならない、私がどのように行動するか。
そして私は、思考し続けて、選択をする。
――王女と、推測
(王女は、婚約者を切り捨てたくない。そのため推測し、思考し続けた。そして、選択する)




