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正午の人
蛇に舐られしおんなの
汗ばみたる肌のおとこの、
誉れより去りて相似を、
沈黙のうちに呑みほせるもの、
あゝ、おのれといふ幻影を
この荒野にてしりぞけしもの。
おゝ、汝、高潔なるもの、
ふたがれぬ器官をもつもの。
記せよ とおつた眼、汝がための
この光、このただ一度の曙を、
触れよ 耳朶うつ音、汝がための
この地、このただ一度の風を、
おゝ、汝、至高なるもの、
あまねく天をいただくもの。
越えよ また越えよ、汝がための
この光、このただ一度の輝きを、
刻めよ 失する足跡、汝がための
この地、このただ一度の渇きを、
蒼白なる騎馬といふおのれの
錯視におびえ臥すこの荒野の、
枯れし背のなだらかな丘陵を、
とぐ爪もなく細りゆく虎の、
あゝ、憐れみたまへ、その姿を、
あまたの夜に屈したものどもの!
時は満ちた! さあ、正午がきたるぞ!
指折りかぞへ 空を眺むる道化と
首たれ、まどろみ、身をたのむ群れを、
見下ろす、さみしき、孤高なる青。
汝、無垢なる輝きに、聳えゆくもの。
われら、砂塵のもと、孫生の贄なるもの。




