お礼を伝えたくて
「ユージくんも、リタ嬢も、あまり領外には出たことがないんじゃないか?」
「はい、確かに、出たことがないですね。」
「サラサ姉様は、王都まで、エクトール義兄様と一緒に出たことがあるみたいですが。」
「エクトールとサラサ夫人は、次期辺境伯夫妻として、顔を出した方が良かったからな。」
「そうなのですね…?」
博物館に興味があるらしい大人しい次期伯爵と箱入り娘な伯爵令嬢の二人は、説明をしても、いまいち、ぴんと来ていないようだった。
エクトールも、サラサ夫人も、次期辺境伯夫妻として、たびたび、王都に顔を出している。
それは、貴族たちとの人脈を増やすためだ。
「僕は、王都に行ってみたいです。」
「分かった。ユージくんが興味ありそうなのは、王都立博物館や図書館かな?」
「はい! ぜひ、行ってみたいです…!
宜しくお願い致します!」
「ああ、宜しく、ユージくん」
純粋なキラキラとした目に、思わず微笑んだ。
ユージのような純粋な貴族子息は、なかなか、王都には少ないのだ。
貴重な存在を、あの王都に?心配ではあるが、ディオンとレオンが一緒だから大丈夫だろう。
「リタ姉上は、どうしますか?」
「そうですね……
わたくしも、行ってはみたいのですが………
お父様、お母様は、なんて言うのでしょう?
それだけが、心配です。」
「そうだな、彼らには、私から説明するよ。」
「はい。でしたら、宜しくお願い致します。」
「ああ、リタ嬢も宜しく。」
「ありがとう存じます。」
「あの、御二方に、お礼を伝えたくて
こちらを、サリーチェという紅茶です。」
「ああ、ありがとう。初めて見たよ。
これは、珍しい色をしているな?」
紅茶と言えば、茶色のイメージしかない。
しかし、このサリーチェは、真っ赤な色彩だ。辛そうに見えるくらい。
「この領地原産のマリーゼという赤いフルーツと普通の紅茶をまぜたものです。元々甘いので、砂糖は入りません。身体にいいですよ。
領民の好物のひとつになりますね。」
「なるほど、フルーツティー的なものか。」
「はい。どうぞ、ごゆっくり。」
リタ嬢は、ちょっと、落ち着いて来たのか
ゆっくりと、穏やかに、微笑んだ。
その安心したような笑みに、ディオンもまた、ホッとした。密かに、想い人の彼女には、安心して、ゆっくりと寛いで欲しい。
「レオン、このサリーチェ、良くないか?」
「そうですね。王都に広まりそうですよ。」
「何箱か買ってから、王都に行こう。」
「はい、かしこまりました。」




