ご自由にどうぞ
「ディ、ディオン様………
リタのアクセサリーを買って下さるので?」
「ああ、私の母上は、こういった手作り感のあるアクセサリーが好きでしてね。来月は、母上の誕生日なので、ちょうど良いかと思って。」
「そうですか…… ありがとう存じます。」
伯爵は、あまり納得していないようだった。
正直に言うと、リタ嬢製作のアクセサリーは、王都で売れると思う。
男性目線ですら、そう思うのだから、母上や、兄の妻、王太子妃殿下に見せたら、とても人気出そうなものばかりだ。
リタ嬢が自信無さげなのは、婚約破棄の件だけじゃなく、父母がこんな感じだからだろうな。
「まあ、実は………
もうひとつ、旅に出て、
こちらに来た理由があって」
「えっ!? そうなのですか?」
「実は、そうなんだ。
周りには、あまり言ってないんだが…」
「そ、そうなんですね。
あまり言えない内容なのでしょうか?」
「婚約してたキャンベル伯爵令嬢から、一方的に婚約破棄されたばかりで、休養中なんだ。」
「えっ? ディオン様も婚約破棄を………?」
「ああ。そうだよ。
先月のことだ。」
伯爵家当主夫妻も、ユージくんも、リタ嬢も、その情報に思わず驚いて、目を見開いた。
リーンダート伯爵家の人達は、それぞれ、このような見目麗しい赤髪の美青年が、公爵子息の青年が婚約破棄!
しかも、相手は、伯爵令嬢?伯爵令嬢からは、一方的な婚約破棄は出来ないのに?
と、内心、混乱していた。
「え、ええと………」
「どうやら、キャンベル伯爵令嬢は、次期侯爵の青年と婚約したいらしい。」
「それは、いきなりは、難しいのでは………」
「ああ、難しいね。その次期侯爵である彼には、来年婚姻を結ぶ予定の最愛の恋人がいるから、相手にはされてないみたいだが。」
「な、なんと………
そのようなことが………
貴方様のような、高貴なお方でも、婚約破棄があり得るのですか?驚きました。」
王族のディオンのような公爵子息でも婚約破棄されるのだから、リタ嬢やご家族は安心しても良い、と。そう悲観しなくても良い、と。
ディオンは、そう伝えたかったのだ。
「ああ、そうだ。」
「な、なんでしょう?」
「もし良ければ、ユージくんとリタ嬢とゆっくりこの部屋で話しても構わないかな?」
「は、はい、もちろんですとも。
こちらの部屋は、ご自由にどうぞ。」
「ああ、ありがとう。」




