なぜ、わたくしと?
「ディオン様は
高貴なお方なのでしょう?
話せたらで構いませんが…」
「ああ、リタ嬢なら構わないよ。
私は、ハリウィム公爵家の次男坊、ディオン・シェオ・フォン・セイレン・ハリウィム。
改めて、宜しく。」
「まあ! 公爵子息様!?
そうでしたの!?」
「なぜ、わたくしと?」
「一目見て、君と喋ってみたいなと思って。」
「まあ!そうなのですか? わたくしで宜しいのでしたら話し相手にならなれますが。」
明らかに、困惑しているようだった。
それもそうだろう、初対面の青年が、単純に、興味だけで話がしたいと言っているのだから。
さすがに、警戒心のありそうな彼女に対して、異性として気になるのだとは言えなかった。
「うふふ。大丈夫よ、リタ。
リラックスして下さいな。この方は、ただただ交友関係を増やしたいだけなのよ。」
「サラサ姉様……… そうなのですね!」
ああ、本当に、今日は、同行者がサラサ夫人で良かった、と思えるな。リーンダート伯爵家の姉弟は、仲が良いようで、なによりだ。
王都に住む令嬢の姉妹は、お互いにライバル視していて、常に、ピリピリとしているから。
彼女たちは、姉妹の仲が悪いのを隠し、仮面を被っているつもりなのだが。
姉妹が不仲だと隠し切れていないような曖昧な貴族令嬢が多いのだ。
実際に、あのステイシー嬢は、妹のアイナ嬢と不仲なのを隠していた。アイナ嬢は、実姉とは全く似ていない優しい少女だ。
「ああ。一番の理由は、ただの休養だが。
いろいろとあって、こっちに来たが、今回は、幸運にも、ユージくんやリタ嬢に知り合えて、本当に、嬉しいよ。ありがとう。」
「はい!こちらこそ、ありがとう存じます!」
「ああ、そうだ、ふたりとも。
聞きたいことがある。エルナール辺境伯領に、オススメの観光地はあるだろうか?」
やはり、ここで無難なのは、オススメの領地の観光地を聞くことだろう。
このまま、ずっと、リタ嬢が警戒していたら、疲れてしまうだろうから。
ディオンは警戒されても仕方が無いとは思っているが、彼女を疲れさせたいわけではない。




