24 せかいがいねんかんしょーりょく??
神聖国に到着!
ルディアも驚きの光景のようですw
———神聖国。
それはアストリテル聖教の本拠地であり、大神官たちをはじめとした数多の神官や神官見習い、もしくはそれを目指すものを中心とした国民で構成されている。
巡礼者やそれを目的とした商売人なども移住しているが、純国民籍は神官見習い以上でなければ得ることが出来ない。
(これは……想定外ですわ)
神聖国という名称、そしてディヌス王国が中世ヨーロッパ的な様相だったため、もしかしたら神聖国は古代ギリシャのような様相なのかと思い込んでいたルディアは、目の前に広がる光景に唖然としてしまう。
前世でよく見た高層ビルは飛空艇の発着場からも確認でき、到着した発着場は大きな空港を思い起こさせるように整備された建築物である。
もちろん自然はしっかりと保護されており、ビル群の合間に街路樹のようなものがしっかりと存在し、そしてビル群のすぐ近くにも大小の森があることを飛空艇に乗っていた時に確認しているし、飛空艇の窓からルキストが神聖学校だと指し示した場所は広々とした近未来的な学び舎のように感じられた。
「なんというか……」
「馴染みのない風景だね」
「え? あ、えーっと、そう、ですわね?」
ルディアの隣でフィディスも驚いたように言うが、ルディアとしては逆に馴染み深い光景のため何とも言えない気分になってしまう。
(もしかして、自動車もあるのでしょうか?)
ここまで近代的ならばありそうだ、とルディアは考えたのだが、迎えだと寄越されたのは馬車であった。
ただ、馬車を引く馬が普通ではない。
「ペガサス?」
「おお、よく知っているなルディア殿。あれは魔国産のペガサスだ」
あの馬車で空中を移動し、最短距離でアストリテル中央神殿の水の奥宮まで向かうと言うルキストに、ルディアたちは驚愕してしまう。
「ルディの荷物だけでも馬車数台分ありますが」
「人もたくさん付き添いますわ」
「荷物はわたしのボックスで一時的に預かる。付き添いは最低限、あの馬車なら十人までなら乗れるぞ。残りは他の馬車であとからくればいい」
問題など何もないというルキストに対して、ルディアたちはそれでいいのかと頭を抱えてしまいそうになる。
「ああ、そうだ」
ルキストはそう言って空中からブローチを取り出してアウグストに投げる。
受け取ったアウグストは手の中のブローチを確認し、珍しくぎょっと目を見開かせた。
「ル、ルキ様。これは……」
「どうせお前たちも来るのだろう? 通行証の代わりだ」
大神官長が公の場に出る際に付ける装飾品の一つとされているブローチ。
華美ではないが精巧な作りは現存の技術では再現不可能とされ、使用される魔石の純度も最高品質と言われている。
「来たら返せよ。なくすとうるさいんだ」
「もちろんです」
アウグストの言葉を聞く前にルキストは馬車の中に入ってしまったので、ルディアはとりあえず、とフィディスとアヴィシアたちをつれて馬車に乗り込んだ。
外から見た馬車はとても十人も入ることなどできないように見えたのだが、一歩踏み入れればそこは確かに十人は余裕で座る事が出来る空間が広がっている。
「ルキ様、これは?」
「空間拡張の魔術を使っている馬車だ」
「あー、なるほど?」
魔術や魔法はもうなんでもありなのか? とルディアは考えてしまうが、すぐにそれはないか、と息を吐いた。
とりあえず、とフィディスにエスコートされて座席に腰を下ろせば、この世界では初めてだが、既視感のある座り心地。
(ウレタンと高反発クッションを組み合わせたような座り心地ですわ)
ウィンターク公爵家の高級ソファでもここまでの座り心地のものはなかったのに、特別性のようにも思えるが馬車で体験できるとは思っていなかったルディアは驚いてしまう。
「神聖国はあらゆる技術が他国とは次元が違うとは聞いていたけど……」
これは確かに次元が違う、とフィディスが小さい声でつぶやく。
ルディア的にはファンタジー世界に、急に現代やSF様式が入り込んだようで違和感しかない。
(あの子の話で神聖国の話題もあった気がするけれど、こんな近代文明なんて話は聞いていませんわよ……多分)
実際には、文中にアーティファクトや古代テクノロジーが多用された都市、ヒロインであるリズリアが初めて見る光景ばかり、など説明があったのだが前世のルディアが「そうなんだー」で聞き流したし、まさかこのような様式になっているとは思っていなかっただけである。
空の移動は邪魔をするものがほとんどなく、あっという間に超高層ビル群に到着した。
(宮、とは……)
ルディア的にこれはビルであって宮でははい、と声を大にして言いたいところではある。
だが、水の奥宮だと言ってルキストが進んでいく先は、本当にビルの中なのかと思えるような空間だった。
広いエレベーターのドアの先にあるのは、水の回廊。
サラサラと壁を水が伝い、床の通路は一定の場所以外は全て水で埋まっている。
水がカーテンのように天井から流れているためよく見えないが、奥に見えるのはそれこそギリシャ神話に登場するような神殿。
そこで、ふとルディアは疑問に感じたことを口に出してしまう。
「どうしてさいじゅーよーきょ点のめいしょうが水のおく宮ですの?」
最高神と言われている神の中に水の神はいないはず、とルディアは首を傾げる。
「それは簡単だ。ここを作った魔女殿の得意魔法が水だったからそう呼んでいるだけだ」
「なるほど?」
そんな簡単に重要拠点の名称を決めていいのかとも思うが、問題がなければそれでいいのかもしれない。
迷いなく回廊を進んでいくルキストについて行くが、なぜいくつもある通路から遠回りや近道をして進むのだろうと疑問を抱いてしまう。
「不便だろうが耐えてくれ」
ルディアが疑問に感じているのがわかったのか、ルキストが足を止めて振り返る。
「空を飛んで直行したり、間違った回廊を進んだりすると周囲の水に襲われる」
「「は?」」
ルディアの手を握り締めていたフィディスの手に思わず力が込められた。
「ここを作った魔女殿の趣味なんだ……罠」
((悪趣味!))
ルディアとフィディスだけでなく、付き添った全員の心が一つになってしまう。
「罠にかかると、全身の血の半分が抜かれて、ここから落とされる」
「普通に即死トラップですよね?」
「普通の人間なら、死ぬな」
フィディスの質問にルキストがケロリと答える。
普通じゃない人間とはいったい、とルディアは考えるが、まさか大神官クラスになると平気なのだろうか。
その後も回廊を進むこと十分ほど。直通で進めば一分もかからない距離なのにこのように時間をかけるとは、作成した魔女の性格の悪さが伺える。
「到着だ。ようこそ、水の奥宮に」
ルキストが振り返ると、天井から流れている水の一部が割れる。
そこには———
「本当に魔女殿だ!」
「魔女様のご帰還だ!」
「こんなに愛らしい魔女様だ!」
「キャー! 魔女さまー♡」
「魔女殿おかえりなさいませ!!」
「見ろあの御髪! なんて美しい!」
「瞳のアメジストもすばらしい!」
「魔女様の転生体って初めて見る!」
「やっばい! 抱っこしたい! 跪いたらさせてくれるかな!?」
「魔女様~! こっち向いてくださ~い!」
「魔女殿かわいすぎですー♡」
などと垂れ幕や歓迎の文字やハートマークの書かれた団扇を持った人々が十一人おり、口々にルディアを歓迎しながらも一定の距離から近づこうとはしない。
「……………………は?」
「すまない」
思わずと言う感じにルディアが声を出すと、ルキストが額に手を当てて謝罪の言葉を口にした。
◆ ◆ ◆
場所を移動しようというルキストに連れられた場所は、空の見える庭園で花の香を運ぶ風が心地いい。
「室内なのに、空……」
「ホログラフィだ。この建物の外の空を投影している」
「ほろ?」
フィディスは首を傾げるが、ルディアは顔をひきつらせた。
「ルキ様、これって……まじゅつじゃ、ありませんわよね?」
「アーティファクトの魔法具を使用している。まあ、この建物自体がアーティファクトの魔法具だが」
さらっと答えるルキストにルディアは額に手を当てる。
「この世界のまほうのがいねんがわかりませんわ」
SFも混ざっているのでは? とルディアは考えるが、フィクションをファンタジーとすればSFでも間違いではないのか? など混乱し始めてしまった。
「魔法の概念か。まあ、魔術は学問、魔法は奇跡。魔法はそうだな……まあ、奇跡なんていうだけあって簡単に言えば世界概念干渉力だな」
「んん?」
なんだそれは、とルディアが首を傾げる横でフィディスも首を傾げる。
そんな姿を離れた所から見守っていた大神官たちが悶えながら散開し、各自道具をもって再度集合した。
ルキストがそれを見て「こんな時だけ」と呆れたように言いながら、大神官たちが持って来た道具を使って出来るだけわかりやすく魔法の概念について説明を始めた。
「そもそも奇跡とはなにか。まあ、説明が面倒なので教えとしては神の恩寵と言っているが、正直関係はない」
「「え」」
「今後ルディア殿に教え込む魔法……魂の生成はまさに奇跡だ」
ルキストはススっと背後に回った大神官が用意したパネルを指さす。
「流転した魂を使用することは生成とはいわない。魔術にも人工精霊を作ると言うまがい物はあるが、あれは散った魂の欠片を流用しているに過ぎない」
指し示す場所を変えてルキストは話を続ける。
「この世界にある多くの魂は流転している。言い換えれば新しい魂はほぼない。だが、そこに魂を生成する奇跡が起こせる存在がいた。それが……ルディア殿の前世のひとつだ」
魔女扱いに気を悪くしないだろうかとルキストは心配するが、この時点でルディアの頭の中にはハテナマークが飛び交っている。
「おにい様」
「なにかな、ルディ」
「意味が分かりまして?」
「うん、あんまりわからないかな」
魔術については原理がある分、学べば理解もしやすいのだが、やはり魔法は根本的に違うため理解が追い付かない。
「…………基礎から、やっていこうかルディア殿」
「そうですわね」
結局、十二人の大神官総出でルディアとフィディスに魔法の基礎を教え込む間、付き添ったアヴィシアたちや後からやってきた使用人たちだけでルディアの生活環境を整えることとなってその日一日が終わった。
これにて第二章は終了でっす!
番外編を挟んで第三章がはじまります。




