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21 家庭教師が濃すぎてつらい

「「「「ごきげんよう、ウィンターク小公爵」」」」


 翌日の午後に早速家庭教師になる相手との顔合わせが行われ、フィディスは相手を全員(・・)確認して顔を引きつらせずにはいられなかった。


「ご、きげん、よう。ウィンルース公子殿、ウィンホルム当主夫殿、ウィンノエル公子、殿。アウグスト王弟殿下」


 誰もが間違いなく優秀な実力者であるが、フィディスの家庭教師をするために数年間家を空ける暇などあるはずがない。


「あっはー、僕のことはお兄ちゃんでいいって! 母親は違うけど兄弟だし」

「いえ、そういうわけには」

「えー? でも僕は所詮次男。兄さんが父上の跡を継いだら適当にどこかの爵位をもらう予定でしかないし? もっと気安く接してくれると嬉しいんだよね」


 いの一番にフィディスに手を差し出したのはクリプトルの次男。

 すなわち、フィディスの異母兄であるブラント=ヴェヌ=ウィンノエル。

 適齢期を過ぎても結婚はせず、次期当主である兄の補佐をする遊び人(・・・)

 端正な容姿と公爵家の人間にも関わらず気安い態度と雰囲気に、一夜の相手や愛人として名乗り出る令嬢や未亡人は後を絶たず、認められている婚外子が既に四人いる。


「あ、お兄ちゃんが無理っていうなら兄上でも兄様でも大歓迎!」

「………………ブラント卿、で」


 熟考したのち、フィディスが手を握り返さないままそう言うと、ブラントはニコっと笑う。


「あはは、まあ名前に呼びになっただけでも大進歩? 無理強いはよくないよね」

「助かります」


 以前挨拶をした時は砕けた態度ではあったがもっと落ち着いた雰囲気だったはず、とフィディスは差し出されたブラントの手を握り返す。

 遊び人ではあるが、兄の補佐としての能力は申し分なく、先見の明であれば兄を越えるとも言われているほどの人物だ。

 ただ、全体を見通す能力という当主に必要な実力は兄の方が上とクリプトルが認めたため、次期当主には選ばれなかったし、本人もそれを認めており兄の補佐に徹している。


「あの、それでウィンホルム当主夫殿は私の家庭教師をする暇などそれこそないのでは? ウィンホルム公爵の補佐としてお忙しいと」


 そう言って次にフィディスが視線を向けたのはスエンスの婿である、ガウェンク=ヴェヌ=ウィンホルムだ。


「うん、ちょうど(・・・・)神聖国の大使の交代時期ということで、わたしが数年赴任することになったんだ」

「そのことをウィンホルム公爵は」

「むしろ奥さんからの当主命令だね」

「そ、そうですか」


 作為的なものを感じるというか、大使の交代時期ではないはずとフィディスは思いながらもガウェンクを見る。

 外交的な能力だけでいえば外務大臣以上とも言われ、スエンスに婿入りしていなければ大臣職に就いていたと噂されている。

 出自は子爵家と下級貴族のためなぜスエンスが婿にしたのかと結婚当時は騒がれたそうだが、その後に妻の家の力ではなく自分の力で周囲を黙らせた実力者だ。


「あ、家庭教師になるのだしウィンホルム当主夫ではなく、ガウェンクで構わない」

「…………ガウェンク先生、でよろしいでしょうか?」

「先生か、ふふ、構わないよ」


 楽しそうに笑う表情はマルクに似ており、流石は親子だと思えてしまう。


「なら、俺も先生ですか? けれど呼び方が被ってしまうのは少々紛らわしいでしょうか? とはいえ所詮は三男の俺を公子だなんてたいそうな名称で呼ばれるのは申し訳ないですし」


 そう言いだしたのはルペンスの三男であり、ミクルの弟であるレイド=ヴェヌ=ウィンルースだ。

 次男が別の家に婿入りしたため、家に残り長男の補佐をしている。

 結婚した妻は平民出身だったためヴェヌを名乗れず、一人娘を出産後に産褥熱で死亡した。

 残された娘を何よりも大切にしているが、その娘も先日成人を迎えたとフィディスは記憶している。


「あの、貴方も私の家庭教師などしてよいのですか?」

「もちろんです。娘が成人しましたので、やっと公に俺の業務を任せることができるようになりましたからね」

「えっと?」


 意味が分からずフィディスが首を傾げると、レイドはにっこりと笑みを浮かべる。


「俺の娘はとても優秀、というか奇才なのです。幼い頃から俺と供に兄の補佐をしていたのですよ」

「は?」

「兄も娘を実の娘のように可愛がっておりまして、内々ではありますが兄の長男との婚約が決まっております」

「は?」


 それは血が近いのでは? とフィディスは咄嗟に思ってしまうが、母親が平民出身と公爵家の血自体が他の身分が釣り合う親族よりも、ある意味薄まっているからこそ認められているのだろう。


「俺が離れることにより、娘が表に出やすい状況を作る。尚且つ婚約に関してウィンターク公爵家も後押しをする。俺にとっては文句のない提案です」

「そ、そうですか」


 だからと言って、筆頭執事ともいえる存在を他家の次期当主教育に差し出していいのかという疑問はあるが、本人は気にしていないらしい。


「はっはっは、ではこのじじいも自己紹介させてもらおうか」


 言いながら笑うのは、国王であるレンティムの異母弟にして王宮侍従長でもあるアウグスト=エジス=プグナトル。

 テンペルトの王太子任命にともない王位継承権を手放し、準王族(エジス)を名乗っている。


「このじじい、後進の育成も終わり侍従長の役を引退することになって暇を持て余すことになっての。ちょうどよいところにアーストン殿から声をかけられてウィンターク小公爵の家庭教師に名乗りを上げさせていただいた」


 それも絶対に作為的だろう、とフィディスは顔の引きつりが収まらない。

 アーストンのやりすぎともいえる布陣に頭の処理が追い付かないと混乱していると、いまだに握られたままだった手が離れ、その手がバシンとフィディスの肩を叩く。


「当主であるウィンターク公爵が集めた家庭教師だぞ。四大公爵家と王家がお前を次期当主と認めている証拠だ。聡い貴族は当然だが、バカも次期公爵家の当主を妹君に譲ろうとしているなんて、アホが言いふらしても信じないさ」


 だから安心しろと言うような笑顔に、フィディスはやっとこの人選の意味を理解する。

 アーストンたちが親族会議を行ったことは知らされており、本人の意思が変わらない限りウィンターク公爵家の次期当主はフィディスのままとされた。

 国を離れ神聖国に行っている間にプーパが嘘を吹聴したところで、四大公爵家と王家から重要人物(・・・・)がフィディスの教育にあたる。

 その事実はそのままフィディスの当主就任への後押しになる事を意味しており、いらぬ憶測を封じるということだ。


「ありがたいのですが、ここまでする必要があるのですか?」

「「「「ある」」」」


 フィディスの質問に四人が即座に頷く。


フェルル(第三王子)エティアナ(第一王女)がいるとはいえ、ティルム(第一王子)ウィクトル(第二王子)が公爵令嬢に婚約を申し込むと言っている状況だ。王太子が若いからまだ子供が生まれる可能性はあるとはいえ、継承権を放棄すると言い出す王族が二人。状況がよくないことはわかるな?」


 ブラントの言葉にフィディスは眉を寄せてしまう。


「王家の内部分裂、ですか」

「それに伴う、国内貴族の派閥争いの激化だ」


 まだまだ甘いぞ、とブラントはフィディスの肩を軽く叩くとアウグストを見る。


「王宮内ではもうその動きがあるんでしょう、アウグスト王弟殿下。いや、()侍従長殿」


 ブラントはその言葉ににっこりと笑みを浮かべたまま頷く。


「テンペルトの地位は盤石とは言い難いですな。すべては陛下がプーパ妃をあのような条件とはいえ認めてしまったが故。予定通りカリュア妃が正妃となって、プーパ妃が時期を待ち側妃に甘んじればよかったのですが、実際には正妃不在の()就任ですからの」


 そのせいで王子や王女の王位継承権はいまだに不安定だ。


「国内でもカリュア妃が正妃にならなかったことを不満に思っている家門は多いのですよ」


 レイドが言えば他の三人も頷く。

 それはそうだろう。

 テンペルトが王太子として有力候補になる前から、令嬢たちは正妃候補になるための厳しい教育を受け、競い合い、選び抜かれたのがカリュアであった。

 家柄、人格、能力、実力。どれをとっても他の令嬢も家門も文句を言えない正妃候補であったにもかかわらず、プーパが介入したせいで第二妃に甘んじる羽目になった。

 カリュアを慕っている貴族も多い分、この状況を認めた(・・・)王家への不信はぬぐえない。


「挙句にプーパ妃の母国に突き付けた輿入れの条件。我が国の属国になったような一方的不利な条件のせいで、ドマナン王国内でも不満を抱く貴族は多いんだ。それこそ、ウィクトル殿下が国王にならなければ割に合わないと考えるほどにね」


 ガウェンクがそう言って面倒そうにため息を吐きだす。


「妻がドマナン王国の王太子に交渉を持ち掛けているが、うまくいくかは今の状態では半々。いや、ルディア嬢に婚約を申し込むなんて話をプーパ妃が出した以上、交渉がうまくいく確率は低くなったかもしれないな」


 面倒なことをしてくれるものだ、と言うガウェンクだが外交面に強い分他の国の反応も把握している。

 他国もディヌス王国の状況を見極めている状態だ。

 王侯貴族の制度が他国とは若干異なるが故に、巨大な五つの島が争うことなく支え合っている故に、ディヌス王国は他国から監視されている。

 歴史が古い国ほど、その動きは顕著だ。


「今回の件。四大公爵家の令嬢、ルディア嬢が大神官長様のお気に入りの直弟子となった話が広まれば、我が国の貴族だけでなく他国の王侯貴族も黙ってはいられないだろうな」

「国に関係なくルディに婚約を申し込んでくると?」


 フィディスが気に入らないとばかりに言えば、ガウェクがにっこりと笑って頷く。


「それだけの価値があるということだ。利用価値(・・・・)、がね」


 挑発にも感じ取れる言葉だが、事実なだけにフィディスは反論が出来ない。


「逆に、そんなルディア嬢だからこそ四大公爵家の当主になる可能性がある……なんてことを認めるわけにいかないのさ」


 まとめるようなブラントの言葉に、フィディスは静かにうなずいた。

 四大公爵家は多少の変動はあったとしても、その影響力は平均的でなければならない。

 ルディアが当主になるとなれば、実父の存在やルキストの影響もあり、そのバランスが崩れるのは少し考えればわかる事。


「私はルディを守るために、ウィンターク公爵家の次期当主となるという名目(・・)を守る必要があるんですね」

「そう。そして、その行動に対して王家と四大公爵家が全面的に協力する」


 これが国を支える(・・・)ための最善だとアウグストは断言した。

予定通りのフィディス家庭教師陣営だけど、こうして文章にすると…

濃すぎてフィディスが可哀そう(´;ω;`)

これに加えて神聖国で騎士団の訓練が待ってるんだぜ?

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[気になる点] スエンス様の婿君のお名前は ガウェク? >「あ、家庭教師になるのだしウィンホルム当主夫ではなく、ガウェンクで構わない」 「…………ガウェンク先生、でよろしいでしょうか?」 となっ…
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