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20 知らないところで話が進んでいました

ルキストが滞在して数週間経ってます!

「フィディスの家庭教師の選抜も終わったし、レンティムにはいつルディアたちが出立してもいいと許可を取り付けているから、ルキ様の良きタイミングで神聖国に移動できますよ」


 夕食時に突然アーストンがそう切り出したので、思わずフィディスとルディアの手が止まってしまう。

 家庭教師がそろそろ決まりそうだという話は聞いていたが、顔合わせもしていないのに選抜が終わったと言われては戸惑って当然だ。


「お爺様、顔合わせはしなくてもいいのでしょうか?」

「午後に呼んであるのでそこで顔合わせをしなさい」

「……わかりました」


 いつにない強引さにフィディスが戸惑いながら頷く。

 その後、ルディアの淑女教育要員の準備も整ったと言われ、ルディアも顔合わせがあるらしく、こちらも初耳ではあるが、すでに本日のスケジュールは調整済みだという。


「おじい様、なんだかいそいでいるように感じてしまいますわ」


 ルディアが首を傾げて言うとアーストンがため息を吐きだす。


「あのアホがな」

「「アホ……」」


 間違いなくプーパの事だろうとルディアとフィディスは考えてしまう。


「あの騒動(・・)でルディアとの婚約を諦めたと思ったんだがな、どうやらそんなことはなかったようだ」

「それって……」


 フィディスがあからさまに顔をしかめる。


「あの時のルディアの反応はウィクトル(バカボンボン)への恥ずかしさから出たものだと言いふらし始めたようだ」

「それは無理があるのでは?」


 あの時のルディアの悲鳴とその後の行動は恥ずかしさからなどではなく、完全に恐怖からくるものだと周囲に散々印象付けている。

 幾分日にちが経過しているとはいえ、あの時の印象を変えるのは難しい。


「その上で、ルディア()ウィクトル()好意があるとほのめかしている」

「「えぇ?」」


 無理がありすぎる、とルディアとフィディスは顔をしかめる。


「挙句の果てに、ルディアの気持ちを尊重して(・・・・)レンティムを通して、正式にルディアに婚約を申し込むとお茶会で話したらしい」

「え、お茶会を開けたんですか?」


 騒ぎを起こしたことで後宮にて謹慎処分を受けているはずだとフィディスが言うが、アーストンが呆れたように首を振る。


「後宮内でなら自由に動いていい、とアホが勘違いしたようだ。勝手に知り合いを招いてお茶会を開いたようだ。しかも子女を同伴してくるようにと指示付きで」

「「うわぁ」」


 その目的は言うまでもなく、側近候補や婚約者候補を探していると言っているようなものなのだが、その上でルディアに婚約を申し出るつもりでいるとは、何を考えているのか意味が分からない。とルディアたちは呆れてしまう。


「それと、フィディスはルディアを思って(・・・)次期当主候補を名乗らないのではないか、という勝手な憶測も話していたらしい」

「意味が分かりません」

「安心しろ、僕にもわからない」


 頭を抱えるアーストンだが、これ以上勝手な噂と行動をとられないうちにルディアたちを神聖国に避難させるらしい。

 本人たちが神聖国にいれば少なくとも婚約の申し込みは出来ないし、例えレンティムが許してもアーストンが許さない。

 そして神聖国でフィディスが当主候補教育を受けていると吹聴されれば、ルディアに当主を譲るという話も疑われる。


「大神官長殿がルディアを目にかけている。その噂もついでに広めておけば、ルディアが神官になるかもしれないと憶測する者もいるだろう。神官はわが国では当主にはなれないからな」

「わたしは構わないが、ルディア殿はそれでいいのか?」


 そこまで黙って食事をしていたルキストの言葉にルディアは少し考え、コクリと頷く。


「わたくしはおにい様をさしおいてとうしゅになるつもりはありませんもの」

「では、ルディア殿はわたしの直弟子という形で過ごせばいいだろう。住まいは神聖国にある大使館に用意しているようだが、それよりもわたしが住まう神殿の方が警備は厚い」

「ルキ様が住まうしんでんというと……」

「アストリテル中央神殿の水の奥宮だ」


(それは、アストリテル聖教の大神官長だけが住まうと言われている最重要拠点なのでは!?)


 ルディアは思わず顔を引きつらせてしまいそうになるが、「コホン」と咳払いをして誤魔化す。


「おにい様とはなれて暮らすのはいやですの」

「二人とも住まえばいい。部屋はあるぞ」

「ほかの人がなんと言うか、しんぱいですわ」

「気にする必要があるのか? このわたしが許すというのに」


 何を言っているのかというようなルキストの言葉に、ルディアたちは「気にしますが」と心を一つにしてしまう。


「フィディスまで神殿で過ごすとなれば、一緒に神官を目指すなどという噂も出てしまうかもしれません。それは困ってしまいます」


 アーストンがだから大使館に滞在させると暗に言うのだが、ルキストは鼻で笑う。


「忠犬は愛しの妹と離れたがらないから付き添う。それだけだろう」

「それでも憶測は出てしまうものです」

「くだらんな。……ああ、だったら土の奥宮に家庭教師とやらたちと滞在すればいい。水の奥宮に近いが今は使用されていないからな。それとも他の大神官がいるが木の奥宮がいいか? 火の奥宮は今は書庫扱いだし、金の奥宮は祭具の倉庫となっているからその二つは住むには適さないぞ」


 神殿に住まう事が問題なのだが、と誰もが思うが口に出せない。

 なぜならルキストの中でルディアが神殿に住むことは決定事項なのだとヒシヒシと感じ取れてしまうからだ。


「そもそもだが、ルディア殿を神聖国にある大使館で預かり切れると思うのか?」

「と、いいますと?」

「あそこの大使館にいる騎士は、所詮この国から派遣されている騎士だ。神聖国の騎士とは練度に差がありすぎる。なんならわたし一人が動くだけでこの国は落とせる(・・・・)


 ルキストの言葉にアーストンとフィディスが今まで見たことのない笑みを浮かべる。


存じています(・・・・・・)。我ら四大公爵家の直系は、魔女様が認めた(・・・・・・・)魔法使い(・・・・)に対して畏怖を抱いていますからね」

「おじい様?」


 話の見えないルディアが不安そうに声をかけるが、アーストンの視線はルキストを向いたままだ。

 一方でフィディスはルディアの行動を止めるように手を握り締めている。


「ああ、それは正しい感情(・・・・・)だ。流石は魔女殿たちが直接手を貸した国の人柱(・・)だな」


(人柱? 四大公爵家の直系が?)


 ルディアは驚きにドクリと心臓が高鳴るが、フィディスは特に反応していないところを見るに、すでにアーストンから聞いているのだろうと咄嗟に理解してしまう。

 もしかしたらいずれルディアも聞くことになったのかもしれないが、少なくとも今はその知識がない。

 アーストンは笑みを崩さないまま「それでも」と続ける。


「フィディスは現時点で我がウィンターク公爵家の次期当主とされています。親族会議でも今は(・・)現状維持と決まったのですよ」

「ふーん? それをわたしが気にしてやる義理があるとでも?」

「ルディアはウィンターク公爵家の娘です」


 はっきりと口にした言葉に、ルキストは少し考え「なるほど」とため息を吐く。


「直弟子にしたところで大神官(・・・)にならなければ家の問題は付きまとうからな。まったく、神官以下が還俗してもいいようにと残した仕組みではあるが、こうなると撤廃しておけばよかったと思えるな」

「ご理解いただき光栄です」


 笑みの種類を変え頭を下げるアーストンの行動で、知らないうちに張り詰めていた空気が緩むのを感じ、ルディアは知らずに詰めていた息を吐く。


「とはいえ、護りの厚さに関してもだが、ルディア殿の治療のために対処がされている神殿に住む必要があるのは事実だ」


 大使館では万が一広げた魔力回路やそれを循環する魔力の暴走に対処が出来ないと言うルキストに、アーストンは頭を上げる。


「表向きは大使館に滞在していることにし、実際は神殿に住まうようにせよ。ということですか?」

「それしかないだろう。そこの忠犬が神殿に通う理由は、そうだな……神殿の騎士に訓練を受けるためとでもしておけばいいし、ルディア殿はそれこそわたしの直弟子になったと公表すれば問題ないだろう」


 その言葉にアーストンが息を飲む。

 わかっていたが、公表すれば正式にルディアの後見人の一人にルキストが、アストリテル聖教の大神官長が名乗りを上げるということになるのだ。


(ルディの後見人が重すぎる)


 今は直接連絡を取る気はないようではあるが、ルディアの実父も後見人として名乗りを上げるつもりなのはスエンスを通じて知らされている。

 神聖国ほどではないとはいえ、ディヌス王国よりも大国の権力者。


(この国で言えばテンペルトも名乗りを上げるだろう)


 フィディスの後見人は実父のクリプトルが正式に名乗りを上げた以上、今から王太子というだけで後見人に名乗りを上げるのは難しい。

 だが、現時点で正式な後見人が決まっていないルディアであれば、名乗りを上げてもおかしくはないし、国内で最も自由に動ける後見人と名乗りを上げれば誰もが納得せざる得ない。


(だがなぁ、大神官長やアレと並ぶにはテンペルトは少々弱いんじゃないか?)


 主に権力的な意味で、とアーストンは心の中で同情してしまう。


「じきでしになると、どうなりますの?」


 ルディアはアーストンの心のうちなど知らずに純粋な目でルキストに質問をする。


「神聖学校に通わずに魔法に関する知識、歴史、実地などを行える。早いものなら神聖学校に通うよりも早く神官見習いになれる」


 ちなみに、大神官が直弟子を取るのは珍しい。というルキストにルディアは少し考えてしまう。


(それは、ものすごく目立つと言う事ですわよね?)


 神聖学校に五歳児が通うと言うのも十分目立つだろうが、大神官長の直弟子になるとなれば目立つどころではないのではないだろうか。


「あの、じきでしになったとこーひょうされると、わたくしのたちばは」

「心配することはないぞ、ルディア殿。わたしの直弟子の中でも最重要人物として、大神官クラスの扱いを保障しよう」

「ばっ……んっんん」


 思わず「ばかですか!?」と叫びそうになったところを耐え、ルディアは咳払いをする。


「そのようなとくべつあつかいは、よくないと思いますの」

「そんなものを気にする必要はない。文句を言いそうな大神官も事情を話せば納得するだろうからな」

「そ、そうではなく……」


(面倒ごとにしたくないのですけれど)


 ルディアはどうやって断ろうかと考えるが、ルキストには引く気はなさそうに見える。


「言っておくが、末弟子として扱ったらやっかみが増えるだけで面倒だぞ」

「え?」

「末弟子なのに兄姉弟子よりも待遇がいいと言われて絡まれる。そもそも水の奥宮に自由に出入りする権利を与える時点で、大神官待遇だ」

「ぐっ」


 ルディアは咄嗟にアーストンに視線を向けて助けを求めたが、首を横に振られてしまう。


(そんなぁ)


「あと、これが一番の理由だが」

「ほかにありますの?」

「ルディア殿は気を良くしないかもしれないが、ルディア殿が魔女殿の転生体だと他の大神官が知れば、それこそ自分たち以下の扱いをするわけがない」


 ルキストの言葉に、ルディアは何とも言えない気持ちになってしまったのは言うまでもなかった。


大神官は曲者(変人)しかいません(ネタバレ

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