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19 情報不足がすぎると会話にもならない

「ルディア殿は前の人生もなかなかに波乱万丈だったようだな」


 午後、治療という名目でルキストとお茶をしているルディアの話、つまりは前世の話を大まかに聞いた感想がそれである。

 まるでよくある物語の一つの評価を簡潔に述べたような、そんなあっさりとした物言いに、逆にルディアが驚いてしまった。

 フィディスやアーストンに前世のことを話した際は、その場に自分がいれば生まれたことを後悔するほど報復するのにと言っていたが、ルキストはそうではないらしい。

 夢の中でブルアムが行っている治療は手に触れて行うものだが、ルキストが行う魔力回路のつまりを解消する治療は、その箇所に触れた方が効果は高いが、傍にいるだけでも可能という事で、こうしてお茶を飲んで対面して行われている。

 治療中黙っているのも退屈だろうと、前世の話を始めたのだが、ルキストにとってはあまり有益というか、興味の引く話題ではないようだ。

 それならば、魔法について教えると言っていたという事を思い出し、ルディアがそのことを口にすると、ルキストは少し考えるそぶりを見せる。


「生成魔法について教えるのは、口では簡単だし、わたしが目の前で実演して見せてもいい。だが、実際のところ体験(・・)しなければ感覚はつかめない」


 その言葉にルディアは頷いた。

 この体になっても前世で培った刺繍の知識はあるが、実際に手を動かして作成を試みてみれば、今は満足など到底することのできない、つたないものしか作成できない。それと同じなのだろう。


「ぜんせの……まじょであったわたくしは、どのようにしてたましいのせーせいまほうを使っておりましたの?」


 聞いた後、ルディアは自分の知らない過去について聞くという緊張からか、不自然に喉が渇くのを感じ、程よい温度に冷まされたミルクをはしたないと分かりつつもゴクゴクと飲んでしまった。


「魔女殿であった時か。自作の人形に生成した魂を入れていたぞ」

「あ、おにんぎょうに」


 それはなんともかわいらしい、とルディアが考えたところで、ルキストはため息を吐きだした。


「まったく、ちょっと神へ仕返しをすると言って、神界を襲撃(・・)する用にドラゴンの人形を作り始めた時はどうしようかと思った。ノクス、いや、ブルアムと一緒になって必死に止めたのが今でも懐かしい」

「はい?」


 それは人形という範囲を超えているのでは? とルディアは思ってしまうが、前世の映画で使用されたゴ〇ラも特撮用とはいえ人形なのだからアリなのだろうかと真剣に悩んでしまう。


(いえ、あれはジオラマだから本物は人間サイズでしたかしら?)


 もはや何を基準にしたらいいのだろうかと考えてしまうルディアだが、ルキストの話は止まらない。


「そもそも、魔女殿たち(・・)の力で作られたこの浮島の世界のどこに、魔女殿たちのいたずらと仕掛け(・・・・・・・・)が潜んでいるのか、いまだに未解明だ。アストリテル島を維持している魔法陣にもなにがどう仕掛けを施されているか、正直解明すればするほど謎が出てくる」


 もしやこれは愚痴なのでは? とルディアは気づいてしまうが、ルキストは大きくため息を吐きだして話を続ける。


「あの時だって、神への対応が面倒になったから皆で遊んでくると言って姿を消すし、どれだけ世界の混乱をおさめるのに苦労したか……」

「そ、それは大変でしたわね」


 他に何と言えばいいのかわからずルディアはそういうのだが、ルキストはさらに大きなため息を吐きだすだけであった。


「もっとも、その頃には魔女たちの存在は聖典中だけと思っている輩も多かったからな。混乱の大きな原因は魔力の供給源をどうするかだったな」

「きょーきゅうげん、でして?」

「そうだ。魔法使い(・・・・)は血統や突然変異で出現する。魔女たちは自分たちが消えるための準備を数百年に渡って秘かに行い、一定以上の魔力を持つ存在が生まれた瞬間や覚醒した瞬間に神聖国、詳しく言うのであれば大神官たちが観測できる(・・・・・)システムを構築していた」


(なるほど、まったくわかりませんわ)


 ルディアが笑顔で聞き流していると、ルキストはそれを感じ取ったのか「あー」と声を出す。


「浮島は魔力で維持されているのは、習ったか?」

「ええ」


 ついこの間、とは言わないはルディアは頷いた。


「その魔力には相性というものがある。この国の五大島で言えば四大貴族の魔力(・・・・・・・)だな」

「えっと、王族は」

「まあ、あそこの血筋からもたまに相性のいい魔力持ちは生まれるが、四大貴族ほどじゃない」


 ルキストはそう言ってから空中で指をクルクルと動かす。

 するとそこにはディヌス王国の五大浮島が浮かび上がり、それを蜘蛛の糸のようなものが繋いでいるのが見える。


「この国は本当にうまくやっている(・・・・・・・・)


 島々を結ぶ糸はキラキラと様々な色に変わり、中央のフラウム島を支えるように網を作る。


「ちゅうおうのフラウム島からの糸はありませんのね」

「当たり前だ」


 ルディアは率直に聞いただけなのだが、ルキストは肩をすくめて呆れたように言葉を吐きだした。


「かつてはフラウム島にも浮力を維持できる魔法陣が存在し、それを維持する血統が存在した」


 重なるように浮かび上がったのは五芒星をモチーフにした魔法陣。


「だが血統を蔑ろにした結果、崩落しかけた」


 五芒星の魔法陣にノイズが走り、次に五大浮島全てに六芒星(・・・)を中心とした魔法陣が浮かぶ。


「まだ魔女殿たちが存在した時代だったからこそ、魔法陣の書き換えが間に合った。そうでなければフラウム島は崩落し、地上(・・)に落ちていた」


 そうなれば地上が大迷惑だ。と吐き捨てたルキストにルディアは首を傾げた。


「ちじょう、とは?」

「ん?」


 尋ねられた言葉に今度はルキストが首を傾げる。


「地上は地上だ。ん? ああ、魔国と言ったほうが今はいいのか?」

「それであれば習いましたわ。しょーきがあって、人間はすめないばしょなのですよね」

「……まあ、そういう事になっているな」


(何かを含んだ言いかたですわ)


 ルキストの態度にルディアは気になる部分はあるものの、ここではさして重要ではないだろうと聞き流す。

 いったん刺繍の手を止めてお茶を飲んだルディアの手元を確認し、ルキストはパチンと指を鳴らして空中に描いていた島の映像を消す。


「さて、肩口までのつまりを流したが、感覚は変わったか?」

「そうですわねえ……」


 ルディアは自分の腕や肩を触って確かめてみるが、違和感はない。


「ええ、違和感がありませんわ。すごいですわね」


 今までであれば痛みはなくとも、なにかしらの違和感を抱いていたのだが今はそれが解消されている。


「それはなによりだ。直接触れて魔力回路を太くしたいが、忠犬がうるさそうだし、アイツもうるさそうだからな。神聖国で場を整えて一気に治療したほうがいいだろう」

「そういえば、ちりょーは痛いのでしょうか?」


 ルディアは前世で行ったリンパマッサージの痛みを思い出して言うが、ルキストは微妙な表情を浮かべる。


「人それぞれだから何とも言えないが……ルディア殿は痛いかもしれない」

「ぁー」


 痛い、と聞いて思わず顔をしかめてしまうルディアにルキストは難しい表情を崩さない。


「細い管のつまりを解消するからな。こうしてゆっくり時間をかければ痛みはないが、神聖国で行う予定の治療は魔力開放も兼ねているから、魔力回路を無理やり太くするという目的もある」

「それは、わたくしのたいりょく的にだいじょうぶでして?」


 ルディアの質問にルキストはすっと視線をそらす。


「あの……」

「あー、ほらなんだ。忠犬がいるからなんとかなるだろう」


 つまり大丈夫ではないということなのだな、とルディアは顔を引きつらせてしまう。


「だ、大丈夫だ。ちょっと魔力回路を広げる際にあいつの魔力回路と繋げるだけだ。終われば解除するし、後遺症は残らない……ようにする、一応」

「おにい様にめいわくはかけたくありませんわ」

「あの忠犬はルディア殿にかけられる迷惑なら喜んで引き受けるだろうし、仮に魔力回路がつながったままでも……いや、むしろ繋げたままにしろと言い出しそうだな」


 それは言いそうだ、とルディアは思わず頷いてしまう。


「そういえば、たましいのせーせーまほうはけっきょく、どうなりますの?」

「ん? ああ。一言でいえば、人口精霊を作り出す、だったか?」

「じんこーせいれい」


 どこのファンタジーだ、とルディアは咄嗟に考えたが、そもそもファンタジーな世界だったと思いなおす。


「魂の生成とはある意味神の領域だからな。魔女殿たちの中でも実際に行えたのは一握りだ。ルディア殿が魔女であった時は第一人者として活躍していた」

「そうですの」


 覚えてないけどすごいことしていたのか、とルディアは漠然と考えたが、次のルキストの言葉で顔を引きつらせてしまう。


「その技術も、神の求婚を躱したり報復したりするために磨かれたものだがな。人生何が役に立つかわからないものだ」

「そ、そうですの」


 知らない人生はいったいどんなことが起きていたのかと考えるが、覚えていないのでどうしようもない。

 ただ———


(この世界の神様は、前世の世界の神様より俗物なのでは?)


 とは思ってしまう。

 前世の神も大概俗物だと記憶しているが、求婚して断られたら魔女と呼んで陥れるとなると、より俗物に思えてしまう。


(いえ、一神教の場合は他の神の信者を悪魔としていたからどっちもどっちなのでしょうか?)


 やはり基準がわからないとルディアは困惑するが、ルキストはそんなルディアをじっと観察する。


(魔力回路を広げるにしても、魔力操作をするにしても、魔女であった時の記憶を思い出すのが一番手っ取り早いが、そうなると(アレ)も目を付けそうだ)


 そうなる前にルディアの護りを固めておく必要があるとルキストは考え、フィディスも何かしらの手を加えるべきだと考える。


(前と違って弱いしな。忠犬気質は変わっていないが、護りには足りない。アッチも悠久の時を生きるせいか異常に執着心が強いし、ルディア殿に気づいたら接触してくるだろう)


 そうなる前に別の女に気をそらしてくれていればいいが、とルキストは考えるが、世界(・・)からの情報ではその様子はない。

 いまだにかつて求婚した女が戻る(・・)のを待っているようだ。


(実際には戻って来ているが、記憶がないからアヤツ的には戻って来ていないと考えている、か? 今の状態だと伴侶にするには力が足りないし)


 ルディアの前世。魔女であった時代を知るルキストにしてみれば今の力はそれこそ指の先ほどもない。

 不変の神界において神が求婚する相手は強き者でなければならない。

 そうでなければ、神気にあてられてすぐに死んでしまうから。


「そういえば、他の魔女殿が言っていたが、コトダマだったか? 言葉にも魔力が宿り力が宿る。文字は形であり象徴。だから魔女殿たちが使用した魔法陣に使われる浮島神代語は複雑に感じるのだと」

「うきしましんだいご」


 それは数千年前に浮島が出来た時にあったという言語らしい、という知識だけは習ったな、とルディアは考えるが、見たことのない文字なので何とも言えない。


(何をするにしても、情報量が不足しておりますわ)


 神聖国に行く前にルキストから出来る限りの情報を聞き出し、勉強もがんばり、尚且つ治療もすすめる。

 やる事が山積みになっているとルディアは「はー」と深く息を吐きだした。

次は物語が進展します!(多分

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