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14 魔力回路なるものが問題だそうです

「おはよう、魔女殿」


 にっこりと微笑んで言うルキストに、ルディアはベッドに横になったままキョトンと目を瞬かせる。


「ま、まじょ?」


 キョトンとしたまま聞き返したルディアにルキストは頷く。


「まあ、記憶はないのはしかたがないか。今の名前はなんだったか? るー……ルシア?」

「るデーア=べにゅ=ウィンターク、ですわ」

「そうだ。ルディアだったな」

「はい」


 寝起きな事と、五歳児の未発達の舌に引っ張られ相変わらずうまく名前を発音できなかったが、ルキストは前もって知っていたことを思い出したかのように正確な名前を呟いた。

 いや、実際にルディアが生まれた時に魔力を持っているという事で観測はされているため、事前に知っていたのだが、実際に神聖国で魔法の勉強をしたいと訪れない限り関係ないため、忘れていたというのが正しい。


「あの、魔女というのは……その、聖典に出てくる、あの魔女ですか?」


 フィディスがルディアを落ち着かせるように頭を撫でながら言うと、ルキストが「そうだ」と頷く。


「浮島を作り出した偉人にして神に弓引く者。と、言われている魔女だ。正確には、魔女殿たちは神の求婚を断ったから、神が機嫌を悪くして魔女と呼んだんだがな」


 さらりとまたもやとんでもないことを言い出した、と全員が心を一つにした。


(情報過多で熱が出そうですわ)


 フィディスに頭を撫でられながらも混乱する脳内をどうにか整理しようとするも、あまりにも突拍子もない言葉にどう整理していいのかわからない。

 そもそも、ルディアは神の求婚を断ったことなどない。


(だいたい神って、それこそ接触できるのはそこにいる大神官様だけなのでは? あ、いや神というよりも世界か)


 ルディアが必死に考えていると、フィディスが「神に求婚されたのは神女(しんじょ)では?」と言った。

 神に求婚された女性がいるなら、女神に求婚された男性はなんというのだろう、とルディアが的外れなことを考えていると、ルキストは右手の人差し指をくるくると回しながら説明する。


「神に求婚され承諾したのを神女と言って囃し立てて、応じなかった女性を魔女と言って差別したんだ。神なんてそんな自己中心的な存在ばっかりだ」


 やっぱりとんでもないことを聞かされている。ルキストを除く全員がそう思ったのも仕方がないだろう。


「あのぉ、なぜわたくしのことを、まじょとおっしゃいましたの?」


 ルディアが不思議そうに尋ねると、確かに。と誰もが思ったが、ルキストは逆に不思議そうに「魔女殿は魔女殿だからだろう」と答えた。


(意味が分かりませんわ!)


 ルキストの回答に、ルディアは自己完結型なのだと察する。

 こういうタイプは詳しく聞くとそんなことを説明するのかと不機嫌になるのが相場だと考え、追及するのを諦め、あだ名のようなものだと思う事にした。


「聖下、ルディア嬢はまだ五歳ですよ。神に求婚されるとかないと思いますし、魔女様などと呼ぶのは失礼なのでは?」

「このわたしに同じことを言わせるつもりか、この愚か者が!」


 空気が読めないと言うか、自己完結型なのだとわかっていても突っ込まずにはいられなかったのか、アリューシャが尋ねれば、案の定ルキストが苛立ったような声を出した。


「お前は仮にも神官だろう。その知識欲を見込んで弟子にしたと言うのに、魔女殿についての知識が不足しているとは、不勉強にもほどがある」

「うっ」


 ルキストの叱咤にアリューシャがビクリと肩をすくませる。


「神聖学校に入って他の神官見習いを目指している者と一緒に学び直せ。そうでなければ神官など辞めてしまえ!」

「そんな!」


(修羅場? そういうのはよそでやっていただきたいですわ)


 ルディアは師弟の言い争いのようなものを冷めた目で見ながら、フィディスの手を借りて起き上がった。


(わたくしが魔女なるものなのはともかくとして、大神官長がしばらくこちらに滞在なさるということですわよね)


 それはそれで、国を挙げての大問題なのでは? とルディアは思うが、話に聞いたことのあるルキストの姿はそれはもう見目麗しい美青年(・・・)だ。

 今の姿はどこをどうみても美少年(・・・)

 関係者かと疑われることはあるだろうが、当人だとは思われることはないだろうと考える。

 しかし、なぜルキストはルディアに対してこんなにもよくしてくれるのだろうかという疑問もある。


「お前は若いとはいえ、神官となったのだ。見習いや信徒を導く立場にあるのに、聖典をうのみにして真実を見ない。それでは真に神という存在を理解できるわけがない。そもそも神を妄信するなぞくだらない」

「聖下ぁ!」


 情けない声を出したアリューシャにルキストは呆れた視線を向ける。


「お前はまだ年若い。勉強をする余地はまだあるだろう。わたしが直弟子にしてしまったから逆に狭い世界で学ぶことになってしまったんだろうな」

「そんなことはっ」


 師弟の言い合いのようなものを見せつけられたルディアたちは、全員が「よそでやってくれないかな」と思っているのだが、片方はアストリテル聖教の大神官長なので、下手に追い出すことも出来ない。


「ルディの体に障るので、喧嘩をするなら部屋を出て行ってください」


 こともなかった。

 フィディスはそう言うと笑顔を浮かべて廊下に繋がる扉を指でしっかりと指示した。


「申し訳ありません」

「……んんっ。すまないな」

「え!?」


 アリューシャに続いてルキストも謝罪の言葉を口にする。

 そのことに驚いたのは当然アリューシャだ。


「聖下が謝罪の言葉を!?」


 信じられないと言うように目を見開いているアリューシャを無視し、ルキストはルディアをしっかりと見つめる。

 その視線が僅かに気に入らないようにフィディスが眉をしかめたが、視線を遮る事はしない。

 一方、見つめられているルディアはこれも診察の一環だろうかと、逆に見つめ返し、お互いに視線をそらさないまま数分経つと、不意に「やっぱり接触しているのか」とルキストが呟いた。

 そこでやっと視線を外したルキストは、アーストンを見るとここにしばらく滞在すると宣言した。


「はぁぁぁぁぁ!? なにいってくれちゃってるんですかぁ!?」

「うるさい。お前は用事が終わったのだからとっとと神聖国に戻れ」

「聖下ぁ!」


 もはやどの感情が高ぶっているのかはわからないが、すっかり涙目になってしまったアリューシャが床に膝をついて必死にすがるが、ルキストが気にする様子はない。

 これはもしかしていつものことなのだろうかとルディアたちが思っていると、アーストンが貴賓室を用意いたしますと言ったのを聞いて、執事がすぐに部屋を出て行った。


 ひと悶着はあったが、とりあえずルキストは神聖国からの客人ということでウィンターク公爵家に滞在することになり、アリューシャは予定通り(・・・・)滞在中の神殿に戻った。

 万が一のことを考え、滞在中は子供の姿でいる事になり、正体を知っている者も接することになる上級使用人のみである。

 もちろん箝口令が敷かれているし、呼び名も「ルキ」となった。


「やはり、妙な感じに接触しているせいで魔女殿の魔力回路が開いているな」

「まりょくかいろ、とはなんですの?」


 部屋の準備が整うまで、というよりもルディアの体調を確認するために部屋に残ったルキスト。

 フィディスとウィンターク公爵家お抱えの医師立ち合いの元で手首を触ったり首筋を触ったり額を触ったりと、問診とともに触診をしていく。

 流石に胸元を触ると言い出した時はフィディスからの殺気が激しかったが、気にせず触診し、鎖骨にもふれ、背中側もしっかりと確認して、掛布団をはいで足首や膝裏なども確認する。

 その結果に出た単語が魔力回路というものだった。


「お嬢様、魔力回路はそのまま人体に宿る魔力の流れをつかさどる回路の事です」


 医師の言葉にルディアは確認された箇所などから血流やリンパのようなものだろうかと考える。


「魔力回路はな、人によって持つ太さが違う。そこに流れる魔力量も違う。それが釣り合わなければ、最悪死ぬ」


 補足するように言われたルキストの言葉に、全員がぞっとしてしまう。


「魔女殿は魔力量が桁外れに多いのに、回路が細い。あっちこっちでつまりも出来ている。これは虚弱体質に見えるぐらいにしょっちゅう倒れても不思議はないな」

「わたくしの体しつは、魔力のせいでしたのね」


 困惑したように言うルディアの手を握ると、ルキストはその魔力を吸い取った。


「どうだ? かなりの魔力量を吸い取ったが、違和感はないだろう?」

「ええ、とくにありませんわ」

「今日一緒に来ていた神官だったら倒れていた量だ」


 基準がわからないであろうルディアたちのために例を出したルキストだが、そのたとえでもわからず曖昧に頷くしか出来ない。


「…………例えばだが、最近指先……いや、手か? だるさが消えているという事はないか?」

「手、でして?」


 ルディアは首を傾げてしまう。

 ルキストは「ここまで」と言ってルディアの手首までを優しく撫でる。


「魔力回路が広げられている。もちろん魔力量に対してはまだ細いが、他の回路よりはずっと太い」

「はあ、そうですの。それは生まれつきではございませんの?」


 心当たりのないルディアはそう言うが、ルキストは意図的に広げられたものだと言う。


「わたしとしては心当たりというか、思い当たる節がしっかりあるが、魔女殿は覚えていないんだな?」

「ええ、おぼえがありませんわ」

「あいつもたいがい辛抱強いな」


 ぼそりとルキストは呟いた後、ルディアの手首に手を添える。

 するとそこからほんのり暖かい何かが流れてくるような感覚がしてルディアは「ほう」と息を吐きだした。


「ここの魔力だまりを取り除いた。少しは魔力の流れがよくなったから楽になっただろう」

「らく、はよくわかりませんが、あたたかかったですわ」


 今まで魔力に触れたことのないルディアはそう答えるが、ルキストは「だったら」と今度はフィディスの手を取った。


「え?」

「黙っていろ」


 今度はフィディスに何かをしているらしいルキストにそう言われ、フィディスは素直に黙る。

 そうしていると、体を動かすために剣を振るった後のように体が軽くなったのを感じ、驚きに目を瞬かせてしまった。

 しばらくそのままでいたが、不意にルキストが「どうだ?」と尋ねる。


「体が楽になりました」

「そうだろうな。お前は魔力回路がそこそこ太いが魔力量が少ない。魔女殿とは逆の意味で循環が悪くなって不調になる。体を活性化させて魔力量を増やすことで体調も良くなるんだ」


 説明を受け、フィディスは確かに体を動かしている時の方が体調がいいと改めて考え、その理由にやっと納得がいったようだ。


「今はお前の魔力量を少し増やした。いいか、魔力治療と一言でまとめられているが、人によって対応が変わる。魔力が多く魔力回路が細い魔女殿に魔力を注いでみろ、魔力回路が切れて最悪死んでしまう。逆にお前のように魔力回路はそこそこ太いが魔力量が少ない相手から魔力を抜けばこれまた最悪死ぬ」


 真面目な顔で話すルキストに、安易に頼もうと思っていたルディアは己を恥じたが、その気配を察したのかフィディスが頭を撫でる。


「知らなかったし、ルディアは治療よりも魔法を習得する方が主な目的だっただろう?」

「うっはい」


 頷きはしたが、虚弱体質を治すことは簡単なことではないのだと改めて実感し、神官以上でなければ出来ないとアーストンが言ったことも納得しか出来なかった。

複雑ですね~

でも魔力回路と魔力についてはテストにでま~す!

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