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13 魔法の力ってすっごぉい!

 ウィンターク公爵家の最も上等な応接室に通されたルキストは、そこにいる予定であるルディアの姿がないことに入室早々に機嫌を傾けた。


「ごきげんよう、ウィンターク公爵。先日の新年祭ぶりですね」

「ごきげんよう、神官殿。お連れ様は先日の新年祭にはいらっしゃいませんでしたね」

「そうですね」


 アーストンがルキストの事を尋ねると、アリューシャが若干顔を引きつらせながら頷く。


「まだお若いですが、見習いの方ですか?」

「いえ、彼は———」

「わたしのことをお前が知る必要はない。それよりもいるべき人物がいないようだが?」


 ルキストは現在お忍びという事で子供、十歳ほどの姿に変化しており、だからこそ見習いかとアーストンは尋ねたのだが、あんまりな返しに流石のアーストンも驚いてしまう。

 アリューシャはルキストの発言に頭を抱え、「やめてください、ルキ様」と泣きそうな声で訴える。

 ちなみにルキはお忍び時の仮の呼び名だ。


「孫娘が熱を出してしまい、もう一人の孫も世話で付き添って———」

「なんだと! それを早く言え、馬鹿者!」

「申し訳ありません?」


 ルキストに突然叱咤され、首を傾げつつもその覇気に思わず謝罪してしまうアーストンに対し、アリューシャは「すみませんすみません」と何度も頭を下げる。


「今すぐ案内しろ」

「……孫娘のところにでしょうか」

「当たり前だ」

「それは出来かねますね」

「なんだと?」


 ルキストの傲慢とも尊大ともとれる物言いに、アーストンは笑顔ではっきりと断りを入れる。

 そのことに不機嫌さを増すルキストに対し、アリューシャが「押さえてください」と必死に宥める効果はなさそうだ。


「孫娘は五歳とはいえ立派な令嬢。貴殿も子供とはいえ男性ですので、具合の悪い時に身内でもない異性を部屋に招くわけにはいきません。貴殿が孫娘の治療をするというのなら別ですが」

「なんだ、そんなことか」


 言うが早いかルキストは踵を返して応接室を出ようとする。


「せぃ———ルキ様!」

「治療をすればいいのだろう。早く案内しろ」

「……かしこまりました」


 アーストンは一瞬考えるそぶりを見せたが、すぐに笑みを浮かべると自ら扉を開けてルキストをルディアの部屋まで案内し始めた。

 その光景にアリューシャが逆に慌ててしまい、「ウィンターク公爵閣下!」と引き留めようとしてしまうほどだ。


「孫娘の治療をしてくださるというのなら、是非もありません」


 先ほどまでこちらを伺うような態度だったのに、今はすっかり受け入れるような態度になったアーストンに、戸惑いを残したまま、アリューシャはルキストが変なことを言わないように必死に祈るしかない。


「先ほどからルキ様がすみません」

「かまいませんよ。彼が僕に遜る必要はありませんから」

「え?」


 アーストンの言葉にアリューシャが意味を尋ねようとした時、「早くしろ」とルキストがせかすため、真意を問いただす時間は許されないようだ。




 ルディアの部屋に到着する数メートル前になると、アーストンはルキストたちに「病人がいるのでお静かに願います」と注意をしてから、なるべく足音を立てずに部屋まで行き、扉をノックする。

 すぐに中から開けられたが、開けたパトリシアは思ったよりも多い人数に若干驚きを顔に浮かべた。


「ルディは?」

「眠っていらっしゃいます。若君が傍に」

「そうか。こちらは神聖国の神官の皆さまだ。失礼のないように」

「かしこまりました」


 深々と頭を下げるパトリシアの横をルキストが足早に通り過ぎ、ルディアのベッドに近づく。

 話が聞こえていたのか、フィディスは立ち上がり一礼をとるが、見知らぬ人間をルディアの傍に近寄らせることに抵抗があるのか、場所を譲る気はないらしい。


「……………………ああ、そうか」


 アリューシャはフィディスの態度を見て黙ったルキストが、不機嫌に任せて叱咤するのではないかと思ってハラハラしてしまうが、しばし沈黙した後に納得したような声が聞こえ目を瞬かせる。


「忠犬もここまでくるといっそ清々しいな。ああ、そのままでいいが、お前の隣にはいくぞ」

「……どうぞ」


 ルキストが子供の姿を取っているとはいえ、フィディスから見れば自分よりも年上で、かつアーストンが失礼のないようにと口にした相手。

 フィディスの感情もきちんと推し量ってくれている態度に、妥協しないという選択しなかった。

 ルキストはルディアの顔を見て「熱か」と呟いたのでフィディスが「はい」と頷く。


「神官殿に会えるのが楽しみすぎて」

「なるほど。彼女らしい」


 ルキストはそう言って笑うとフィディスの位置を変えないようにしながら手を伸ばす。

 そのままルディアの中に治療用の魔力を流そうとし、ふと考えて逆に魔力を奪う(・・・・・)


「……今のは、魔法ですか? ルディの熱を取り除いた?」

「お? 流石だな。でもちょっと違う」


 フィディスの言葉にルキストの機嫌は直ったようで、笑みすら浮かべている。


「なんとなくですが、ルディから貴方に何かが移動したように感じました」

「現時点では及第点だ。正確には彼女から魔力を奪った。熱の原因は興奮による魔力暴走だからな」

「ルディに魔力が!?」

「何を驚く。お前にもあるだろう」

「えぇ!?」


 自分とルディアに魔力があると言われ、思わず驚きの声を出してしまったフィディスは慌てて口を手でふさぐ。

 ルディアが起きていないことを確認してから、再度ルキストに視線を向けた。


「私とルディに魔力が?」

「あるぞ。お前はそこまでじゃないが、彼女は魔力が多い。潜在的なものもそうだが……最近なにかあったな?」

「母が亡くなってから、年齢以上にしっかりしたことは確かです」

「ふーん?」


 フィディスの言葉に嘘はない、と思いつつもすべてではないと判断したが、ルキストは詳しくは聞かずそのまま視線をルディアに戻る。


(相変わらず、惹きつけるらしい)


 ルキストは懐かしい気持ちになりながらルディアの様子を見て、熱が完全に下がったことを確認してフィディスにそれを伝える。


「ありがとうございます」


 素直にお礼を言ってくるフィディスに驚いたのか、一瞬言葉を詰まらせたルキストだったが、笑顔になると「かまわない」とだけ照れ臭そうにボソッと呟いた。


「んんっ。彼女の魔力の多さはともかく、不安定さは少々問題だな」


 軽く咳払いをした後にルキストはそう言ってからフィディスを見る。


「お前は変わらずに身体強化系か。現時点で既に循環方法を身に着けているようだな」

「えっと?」

「だが彼女は……魔力が多すぎて扱いに困る状態か。発散させるにもここでは浮島の機能に問題が出そうだな」


 ルキストはどうするかと顎の下に手を添えて考え始めるが、その言葉に反応したのはアーストンだった。


「孫娘はもともと神聖国にいって魔法を学びたいと言っています。貴方が来てくださったのならちょうどいい。孫娘を気にかけてくださるのでしたら、前向きに検討してくださいませんか?」

「お爺様!?」


 アーストンがこのように誰かに対して丁寧な言葉で話すところを見たことがないフィディスは、自分とそこまで年が変わらないように見える少年が何者なのかと訝し気に視線を向けてしまう。

 視線を向けられている事には気付いたが、ルキストはアーストンが自分の正体に気が付いたことを理解した。


「勘がいいガキだな」

「以前、妻の件で神聖国に訪問した際、貴方は姿を維持するだけではなく変化させることも出来ると聞きましたので」

「なるほどな」


 余計なことを、と不機嫌そうに呟きながらも、アーストンに正体がばれたこと自体は気にしないのかルキストはフィディスを見る。


「お前はわからんだろうから教えておこう。大神官長をさせられているルキスト=フリューリスだ」


 ルキストの宣言のような発言に、フィディスは目を見開いた。


「ルキスト=フリューリスって、大神官長の!?」

「だからそうだと言っているだろう」


 名前だけは知られているが、めったに表舞台に出ない大神官長。

 そう言われてまじまじとルキストを観察すれば、紫の長髪に金色の瞳。

 外見年齢こそ違うが習った神官長の特徴と一致する。


「えぇ?」

「フィス。その方はさっきも言ったように外見年齢も操作できるんだ。目の前のものをそのまま受け止めることも大事だが、本質を受け入れることが最も重要だぞ」

「……わかりました、お爺様」


 アーストンの言葉にフィディスはまだ混乱しながらも頷く。


「大神官長様。ルディの虚弱体質は治るのでしょうか?」

「ここでは無理だな。彼女の魔力を一度開放する必要があるが、この浮島でそれをすれば魔法陣に影響が出てしまう。対処がされているアストリテル島じゃないと」

「ルディはすぐに体調を悪くするので、移動には眠りの魔法をかけてもらうつもりでいました」


 フィディスはルキストに予定していた内容を全て話すが、ルキストは呆れたように首を振る。


「彼女に眠りの魔法をかけるのは大神官クラスでなければ無理だぞ。まあ、わたしがいるから問題はないが、神官クラスでは彼女の魔力に妨害されるだけだな」


 さりげなくとんでもない事を言われているな、とルキスト以外の全員(・・)が思ったが、誰も口には出さない。


「とはいえ、彼女の体調次第では眠りの魔法など必要ないだろう。わたしがいるからな。体調がすぐれなくなればすぐに対応できる」

「本当ですか?」

「当たり前だ」


 ルキストの言葉にフィディスは顔を輝かせるが、すぐに大神官長がこちらの都合に合わせることなどできないと思いなおし顔を曇らせる。


「なんだ、このわたしが手を貸すと言うのが気に入らないのか? これだから忠犬は面倒なんだ」

「あ、いえ。大神官長様をこちらの都合に合わせていただくのはと考えて……」


 不機嫌そうな声になりかけているのを察し、フィディスが慌てて理由を伝えると、ルキストがキョトンと目を瞬かせた。

 意味が分からないとでも言いたげで、フィディスも首を傾げてしまう。


「わたしは彼女の傍にいるつもりだが?」

「え?」

「はぁ!? 何を言っているんですか聖下!」


 驚きの声を上げるフィディスだったが、誰よりも驚き大声でルキストの発言を拒絶したのはアリューシャであった。


「傍にって、まさか神聖国にウィンターク公爵令嬢が来れる準備が整うまでずっといる気ですか!? 仕事は!? 他の人への言い訳はどうするんですか!?」


 捲し立てるアリューシャにルキストは鬱陶しそうに眉をしかめると、「やかましい」と一喝した。


「少しの間ぐらいわたしがいなくてもどうにでもなるに決まっているだろう。何のために他の大神官がいると思っている。この様子だと、数日で」

「それは無理ですね」


 ルキストが提案した日数を即座にアーストンが否定する。


「……数週間ぐらいなんともない」

「そんなぁ」


 日数を変更したルキストにアリューシャが絶望的な声を出す。

 そんなアリューシャを気にせず、ルキストは「ところで」とルディアを見て声をかけた。


「いつまで寝たふりをするんだ?」

「……なんだか、タイミングをのがしてしまいましたの」


 気まずそうに眼を開けてそっと布団で口元を隠しながら、ルディアがそう言うと、ルキストは懐かしそうに眼を細めて笑った。

ルキストはルディアの相手役ではありません

ルキストはルディアの恋人にはなりません


重要! ルキストはフィディスと同じくルディアの絶対的味方です

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