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10 孫が黒けりゃ祖父も黒い

「長期出国の許可と神聖国への滞在許可を取り付けてきた」


 騒ぎを聞きつけたはずなのに駆けつけなかったので、アーストンが何をしていたのかと思っていたが、どうやらレンティムとお話し合い(脅迫)をしていたらしい。

 ルディアの気分転換と慰めという名目でいまだにサロンにいたところにやってきて開口一番に言われた言葉に、ここで話していいのかと視線で問えば大丈夫だと返ってくる。


「レンティムが第一妃の暴挙(・・)に頭を痛めていてな、このままではありえない(・・・・・)妄想で暴走(・・・・・)する可能性があるからと、ルディを物理的に離すことに賛成してくれた」


 その言葉に、今頃は泣きそうになりながら神聖国に連絡を取っているのであろうレンティムの事は想像でき、思わずルディアは同情してしまった。


(身内の不始末の後始末ほど精神的に来ることはありませんのよね)


「フィディス用の準備は出来ていないが、追々でいいだろう」

「そうですね、お爺様。何よりもルディの身の安全(・・・・)が最優先です」


 誰が聞いているともわからないサロンで、声を潜めることもなく話し合うウィンターク公爵家の当主と次期当主。

 敏い貴族であれば聞かせている(・・・・・・)意味を正しく理解できる。


「メイドと執事、コックと医師は我が家の者を連れて行けばいい。滞在先はレンティムか僕が用意しよう」

「あの、ウィンターク公爵」

「なにかな、ティルム殿下」


 話に割り込んでいいのか悩んでいたティルムがきちんと手を上げて発言の許可を取る。


「どのぐらいの期間、神聖国に滞在なさるのでしょうか? 長期というのは、その……」

「さて、それを決めるのは僕ではないね。なに、問題が解決(・・・・・)すればすぐに戻れる。なあ、ルディ」

「はい、おじい様。わたくしもこの国で安全にすごせるとわかれば、おじい様のおそばにいたいですわ」

「……せめて、学園への入学時期には戻っていただきたいですね」


 アーストンとルディアの言葉に、プーパがいなくならない限り帰る可能性は少ないと言っているように聞こえ、ティルムがせめて、と妥協案を口にした。


「ああ、それはしかたがないね。貴族学園に通わないというわけにはいかないし、その時期になったら一時帰国(・・・・)はするかもしれない」

「その前に解決(・・)している事を願います。ルディア姫君に長い間会えないなんて、心が寂しさで死んでしまうかもしれません」


 ティオルが胸を押さえて切なげに溜息を吐きだせば、アーストンがニヤリと笑う。


「なに、その切なさを問題解消に向けて発散させればいい。我が孫娘を姫君扱いしているのだ、そのぐらいはしてもらわなくてはな」

「わかりました」


 求婚の前に邪魔ものを排除しておけと言うアーストンに、ティルムはそれもそうだな、と考えを切り替えた。

 ウィクトルが王位を継ぐことに賛成しているわけではないが、自分の邪魔をされるのは困る。


(初めて会ったあの時から、僕はルディア姫君のために生きると誓ったんだ)


 ティルムはやっと会わせたくないとごねるフィディスを説得してウィンターク公爵家に訪れ、初めてルディアにあった日の事を思い出す。

 常々フィディスが「唯一の光」と言っている妹に興味があった。

 自分の妹と何が違うのかと。


 けれども一目見て【違う】と本能が脳みそを揺さぶった。

 まっすぐに自分を見つめたアメジストの瞳に、魂が揺さぶられた。

 向けられた笑みに全身に震えが走り、気が付けば傅いていた。

 今だって名前を呼ばれれば心が温かくなり満たされる。

 王籍を離れて正式に求婚する許可(・・・・・・)を得たあと、振られても構わない。

 その時は国の臣下として生きていく。

 ルディアが生きていく国を守るために。


(だから、邪魔をする存在(モノ)は許さない)


 ティオルの目に宿った狂気が滲む決意を見て取り、アーストンは内心でほくそ笑む。


(ルディの邪魔になるのなら、処分(・・)されるのは君も同じだよ。ティルム殿下(・・)


 ティルムの決意とアーストンの思惑など知らずとも、何やら不穏な気配がすると感じたルディアが話題を戻す。


「それで、わたくしはいつごろしんせー国にいけそうですの?」

「うーん、レンティムがあちらに大至急で連絡を付けるから、そんなに待ち時間はかからないだろうね」

「そうですの」


 その言葉に周囲の貴族は大使館に滞在するから準備期間が必要なのかと考えるが、実際は違う。

 ただ行って戻って来るだけなのであれば、今すぐにでも行ける。

 長期滞在となれば相手側にも準備が必要。だからこそ国王が動く。多くの貴族はそう考えてしまう。

 間違っているわけではないが、正解ともいえない。

 ルディアに魔法の才能があればそのまま神聖学校に入り魔法を学ぶ可能性が高くなる。

 だからこその長期滞在。

 ほとんどの貴族はルディアが前世を思い出した事を知らないし、病弱であると知っているがゆえに慎重なのだろうと考える。

 魔法を覚えようとしているとは考えない。

 なぜなら魔術具や魔術が発展しているこの浮島の世界で、魔法を学ぶのはある意味特殊な存在に自らなると宣言するようなものだからだ。


(魔力が多いものは不老と長寿になる。ルディに魔力があり、多ければそれはきっと……)


 アーストンは今までとは違う心配を抱えて死ぬことになるのかと思ったが、それがルディアの選ぶ選択肢なら尊重しようとも考えている。


「ルディがどこに行こうとも、そこには私も一緒だから、何も心配することはないよ」

「おにい様」


 フィディスはルディアの口元に半分に割った(・・・・・・)マドレーヌ(・・・・・)を持っていきほほ笑む。

 何の疑いもなくそれを口にしたルディアの行動に、アーストンは見慣れた光景なので反応はしないが、ティルムをはじめとした周囲は息を飲んだ。

 その反応に逆に驚いてしまったルディアがフィディスを見れば、「私たちの仲の良さに驚いているだけ」と言われたので、そうなのかと納得する。


(ある意味間違ってはいない)


 アーストンはゆっくりと紅茶を飲みながら、この光景を見せつけられた(・・・・・・・)周囲に同情してしまう。

 実の兄妹なので正確な意味では違うが、この国において給餌行動は求愛と同意だ。

 幼い頃からの習慣とはいえ、人前で平然と差し出されたものを口にしたルディアは、フィディスからの求愛を受け入れている。そういっているようなもの。

 だからこそ周囲が驚いたのだ。

 満足げにほほ笑むフィディスに、アーストンはサロンに来る途中に聞いたルディアとフィディスのやり取りも含めウィンターク公爵家の未来は明るいと安堵する。


(そういえば、ルディが話した可能性では、フィディスは留学先の流行り病での死亡だったか。この国から留学するとなると数は限られるな)


 何の病なのか、いつ発生するのかもわからない。


(わかれば(うち)で薬草を栽培して輸出し、恩を売るんだがな)


 なかなかうまくいかないらしいとアーストンは内心で計算をする。

 流行り病で死者が出る国があるのなら、その国からの難民が流れてくる可能性も、世界規模の情勢不安につながる可能性も出てくる。

 ルディアの話ではそういうことはないが、全くないとは言い切れない。


(我が国だけが安全でも不審がられる。かといってルディのことを公にするのも問題がある。はあ、ままならない)


 【政治】に関しては王家の仕事とはいえ、(実家)が傾いては子供(公爵家)も無事では済まない。


(今回ばかりは、先日話したようにレンティムとテンペルトの手腕に期待ばかりもしていられないか)


 誰にも気づかせないように、表面上は微笑ましくルディアとフィディスを見守る祖父の顔をしながら、頭の中では冷徹な公爵家当主として計算をする。


「旦那様。若様、お嬢様」

「ああ、すんだのか。フィス、ルディ。部屋の片づけが終わったそうだ。戻ろうか」

「「はい」」


 なんの片付けが終わったとも、どこに戻るとも指定していない。

 貴族はフィディスたちがここに来る前にあった騒動、ここに来る途中の会話、そしてここに来てからの会話を目撃している(・・・・・・)

 片づけにここまで時間がかかったと考えた者は、客室でプーパがどのように暴れたのか、もしくは荒らしたのかを考える。

 そしてこれらの事は想像(もしかして)という産物を生み出し、噂を媒介に広まっていく。


 ルディアとフィディスが仲良く並んで歩くのを見守りつつ、アーストンは心の中で「逃がすものか」と呟いた。

 愛する妻の忘れ形見。愛娘であるヴィリアを死に追いやった罪は、同じように社交界からも生命という意味からも、同じ目に遭ってもらわなければ気が済まない。

 今回の騒動を起点とした噂により、プーパは社交界で他の貴族から距離を置かれることになる。

 この状況でもプーパに近づこうとしている貴族がいれば、それは反乱分子とみなしてもいいだろう。


(まあ、せいぜい餌になってもらおうか?)


「おじい様」

「なにかな、ルディ」

「いけないことは、じこせきにん。人にめいわくをかけてはダメ、ですわよね」

「……もちろん」


 一瞬自分の考えを読まれたのかと思ったが、プーパの事を言っているのだろうと思いなおしたアーストンは笑顔で頷く。

 けれども、ルディアはしっかりとアーストンの心の内を読んでいた。

 あれほど大切にしていた愛娘(ヴィリア)を死に追いやられて、アーストンが犯人に何もしないわけがない。

 今回のプーパの暴走は、復讐をしたいアーストンにとって恰好の機会になる。

 そして、ルディアの記憶から考えても、その機会を逃すアーストンではない。


(お母様に手を出さなければ、もっと賢く行動していれば、プーパ妃はちゃんと平穏無事(・・・・)に生きることができましたのに)


 国王と王太子、そして四大公爵家に目を付けられたプーパには、この国における安息などもうない。

 その状況に「いいざま」とまでは思わないが、同情もしない。

 前世の記憶のおかげで幾分薄まっているとはいえ、ルディアにとってヴィリアが母親であり、愛情を注いでくれた存在であることに間違いはない。

 そんなかけがえのない存在を奪ったプーパは、しっかりと責任を自覚し罰を受けて欲しい。

 そう考えている。

この物語の主人公はルディアなのに、サブキャラの方が動いてる?(汗

あと、相手役が夢の中で声しか登場してねぇよ!

まっててね! 登場したらイッチャイッチャするから!(妄想

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