3 お茶会は飾りつけをした人の品性がでます
王宮の一室で子供たちとその保護者が集まってのお茶会。
社交シーズンにおける子供の最大の社交である。
主役となるのは高位貴族もしくは有力貴族の子女だが、王族の子供が参加していればいやでもその者たちが中心になるのだが。
「「————————ダッサ」」
同時に呟いたルディアとフィディスの声は、小さすぎて手を繋いでいるお互い意外に聞こえなかったのは幸いだったのかもしれない。
二人の視線の先には、自己主張が強すぎる花を競わせるように、もしくは見せびらかすように飾り立てられた会場。
飾られた彫刻や絵画なども統一性に欠け、高価なことがわかるだけのもの。
挙句の果てにその中心にいるのは、デイドレスにしては夜会用のドレスと思えるほど飾り立てられたものを着用しているプーパと、そして同じモチーフのような服を着用しているウィクトルである。
品性というものが欠片も感じられない、成金というにもどこか中途半端な無様を感じられるコーディネートに、思わず呟きが漏れ出てしまったのも仕方がない。
それは参加している全員が思っている事なのか、いつもとは違うどこか落ち着かない雰囲気が漂っている。
特に同じ王族の人間であるティルム・フェルル・エティアナはどこか無理をした笑顔を浮かべて必死に参加者にフォローをしているようだ。
(大変そうですわ)
素直にそう思っていると、ふとティルムとルディアの視線が合う。
演技ではない笑顔を浮かべたティルムが話をしていた子息に断りを入れると、ルディアの方に近づいてきた。
「やあ、ルディア姫君。今日も神のみ使いもかくやというほどに愛らしい」
「ごきげんよう、ティルムでんか」
ルディアしか目に入っていないと言いたげなティルムの耳に、フィディスの咳払いが聞こえ、初めてそちらに視線を向ける。
「私もいるよ。ティルム」
「おやフィス。安心してくれ、今気づいた」
「だろうな」
やれやれ、とフィディスが苦笑を浮かべると視線を感じ、ティルムを隠れ蓑にして確認すれば、その視線の元はプーパとウィクトル。
さりげなくその視線からルディアを庇うようにしながらティルムを見れば、小さく頷かれる。
「ルディア姫君。立ち話もなんだし、あちらに移動するのはどうかな?」
「わかりましたわ」
ティルムがルディアをエスコートしようと手を出そうとすると、ルディアと手を握っていない方の手を軽くあげフィディスが牽制をする。
それを見て不服そうではあるが、ここで揉めるのは得策ではないと考えたのか、ティルムはそのまま出しかけた手を戻して二人を中央ではない席、けれどもフェルルとエティアナがいる席に近い場所に案内した。
「しかし、揃いの青の意匠とは本当に二人は仲がいいな」
「当たり前だろう」
ティルムの言葉を受けてフィディスが答えると、うちでそんなことをするのは双子ぐらいだ、と一瞬だけフェルルたちを見て言うが、そのすぐ後にプーパたちが目に入り苦笑して訂正する。
「すまない、仲のいい親子もしているな」
あからさまな皮肉。
ティルムの声が聞こえた子女は居心地の悪い思いをしているだろうとルディアは思いつつ、フィディスで隠れて見えないプーパたちがいつ絡みに来るかを考える。
絡み方によっては、フィディスに協力する可能性があるのだし、いやなことはさっさと終わらせないとルディアの体力的に問題が発生してしまいそうだ。
「そういえば、昨日、愉快なことがあったんだ」
「愉快?」
(お兄様!? いまここで話しますの!?)
突然のフィディスが話し始めそうな雰囲気を感じ、ルディアは驚きに思わず息を飲んでしまう。
そんなルディアを見てフィディスはにっこりと笑みを浮かべる。
「いや、不愉快だった。一文字違うだけで意味が真逆だ。言葉というのは難しいな」
「そうだな。それで?」
ティルムが続きを促すと、フィディスが口元だけで笑う。
「うちの姫に、既製品のドレスを着せようとした粗忽者がいたんだ」
「はあ? ウィンターク公爵家の姫君に既製品? よほどルディア姫君が気に入ったデザインだったのか?」
「いいや。趣味じゃなかったさ。なあ、ルディ」
「ええ、そうですわね」
事実なのでルディアは素直に頷いたが、それを見てティルムが呆れたように声を出した。
「その粗忽者はウィンターク公爵家というものを理解していないんだな」
「こちらとしては、この国の四大貴族に関してのことは王侯貴族の常識だと思っていたのだが、そうでもないらしい」
「ふぅん。子供ならともかくいい年の大人なら、それは常識外れと言うべきかもな」
何かを察したのか、ティルムが少し大きな声を出す。
もちろん事情が理解できない子女と保護者がほとんどのため耳を傾けながらも知らない振りをしているのだが、無視できない者たちもいる。
プーパの一派だ。
彼女たちの中ではルディアはウィクトルの婚約者になる予定なのかもしれない。
なぜティルムと一緒にいるのか、なぜプーパの元に来ないのかとやきもきしているのだろう。
鋭い視線を投げつけられたが、フィディスたちは気づかない振りをする。
しばらくして視線が外れるが、そのかわりにウィクトルがルディアたちに近づいてきた。
ルディアはフィディスの影になっているので気づかないが、ティルムたちは当然気が付いている。
「やあ、ルディアじょう」
「ごきげんよう、ウィクトルでんか」
「ウィクトル、どうしたんだ?」
「ごきげんよう、ウィクトル殿下。私のルディに何か御用ですか?」
ウィクトルがルディアに声をかけると、すぐに牽制するようにティルムとフィディスが声をかけた。
その態度にムッとしたようなウィクトルだが、「少しはなしがあるだけだ」と返した。
「はは上がルディアじょうにおくりものをしたと聞いている。大切にしていたイヤリングだそうだな。どうしたんだ?」
「それ——」
「ああ、あの大きな。聞いてくれティルム。その既製品を着せようとしたものが贈ってきたものの中に、このぐらいの大きさの宝石が付いていてな、しかも純金。ギラギラしているし重いし、ルディの耳に支障しかなさそうなものがあったんだ」
「へえ、こんな幼く小さく可愛く愛らしいルディア姫君に、そんな大きさのイヤリングとは、何を考えているんだろうな」
ルディアが答えようとしたのを遮る形でフィディスが両手の親指と人差し指で輪を作り、付属されていたイヤリングの大きさを表すと、ティルムが馬鹿にしたように笑う。
「そうだよな。もちろん丁寧に返却させてもらったよ。夫の方宛てに」
「それが正解だな」
フィディスとティルムが二人で笑いあうのを見て、ルディアは楽しそうだと思いつつ、子供なのに会話が怖いと思ってしまう。
(これが、貴族の子供)
自分自身も貴族令嬢なのにもかかわらずこのようなことを考えてしまうのは、ルディアが前世の知識を持っているからだ。
大人顔負けのいやみは見ていていっそ感心すら覚えてしまう。
「そんなルディアじょうにふつりあい? なものを贈ってきたヤツがいるのか? そのものは相手を見てかんがえるということが出来ないんだな」
(((お前の母親だよ)))
わかっていないウィクトルの言葉にルディアたちは心の中で同時にツッコミを入れてしまったが、聞こえていないので問題はないだろう。
「ウィクトル殿下もそう思いますか? やはりそうですよね。贈り物は相手の事を考えるのが常識ですよね」
「ああ。もちろんだ。そのようなじょうしきがなってないものは、きぞくとして失格だな」
(((だからお前の母親だよ)))
またもや心の中でシンクロしてツッコミをいれてしまうが、やはり聞かれていないので問題はない。
尊大な態度のウィクトルに内心で呆れたり嘲ったりしつつも、フィディスは表面上に笑みを浮かべたまま、「そういえば」と話を続ける。
「先ほどからティルム殿下と話していたのですが、ウィクトル殿下は公爵家の令嬢が既製品のドレスを着るのをどう思いますか?」
「はあ? かいきぞくやビンボウきぞくじゃあるまいし。そんなバカなことをするこうしゃくけがあるのか? もしや、ルディアじょうが?」
「正しくは、ルディに既製品のドレスを贈ってきた人がいるんです」
「そうなのか、大変だな」
「ええ」
そこで間を開けてから———
「そういえば、ウィクトル殿下はルディに何の御用でしたか?」
先ほどと同じ質問をしたフィディスに対し返事をしようとして、ウィクトルはハッと顔をしかめる。
今の今まで話していた常識がない者が自分の母親の事だと気が付いたのだ。
しかし、ウィクトル自らも常識がないと言ってしまっている以上、不敬などと責めることも出来ない。
「なっなんでもない。じゃましたな!」
言い捨てて戻っていくウィクトルの背中を見つつ、フィディスは馬鹿にしたように笑う。
「ルディに送りつけたものを知らないで話をしに来るなんて」
「愚弟がすまないな」
ティルムの謝罪にフィディスが「ティルムは悪くない」と肩をすくめる。
その様子を見ながらルディアは「わたくしの出番」と一人嘆く。
フィディスの目論見としてはルディアを目立たせたくないがためにこのような方法を取ったのだろう。
打ち合わせはしていないものの、ティルムもそれに乗った形だ。
しかし、今の会話を聞いていた子女、そして保護者はルディアに既製品のドレスや体に似合わない装飾品を贈ったのがプーパだと理解してしまう。
そしてプーパがウィクトルの婚約者にルディアを望んでいるという噂に真実味が帯びてくるも、ウィンターク公爵家としては望んでいないということもわかってしまった。
どことなく気まずい雰囲気が漂ったその時————
「ふざけないでちょうだい!」
お茶会の会場全体に響き渡るようなプーパの金切り声が聞こえ、何事かと参加者全員がそちらの方向を向くと、怒りに顔を赤くするプーパと、怯えたように顔色を悪くして震えるウィクトルの姿があった。
穏やかなお茶会にふさわしくないその声は、何か事件でも起きたのかと誰もが考えたが、次に発せられたプーパの言葉によって、事件でも何でもないことが明らかになった。
作者は陰キャなのでサプライズとかフラッシュモブは苦手です。
海外の映画とかで見るド派手に飾り付けられた誕生会も「うわぁ、おかためんどくさそう」って考える人です




