【23】 荒魂と和魂 5
今回は短いです。
1000文字弱の更新のとなります。
押し入れを前にして、右手の人差し指と中指を真っ直ぐに伸ばすとピタリと添わせて立てる。その右手の手のひらの中に、夜須さんは勾玉を包み込むようにして握った。それを肩の高さにまで上げると目を瞑る。
「── 臨兵闘者皆陳列在前」
いつもの飄々とした口調ではない。空気を裂くように鋭いのに、肌にしっとりと吸い付く羽毛のようになめらかな声。耳奥に残るその声は、驚くほど凛として響いた。同時に、勾玉を左から右、上から下へと素早く動かしていく。まるで空中に碁盤のマス目を描いているようだった。最後に左の手のひらに、二本の指を筆代わりにしてなにかを書き付ける。
ふうっと息を吐いてから、夜須さんは目を開いた。一仕事を終えたといった様子だった。
「とりあえずは……」
この動作は映画やアニメ、コミックなどで見たことがある。人に害を為す妖怪と闘ったり、邪悪な霊を祓う人たちや陰陽師が行っていたものだったように思う。
「今のは?」
訊ねると、器用にも片手で勾玉を手首に巻きつけながら、夜須さんは「九字」とだけ答えた。
「クジ?」
「そう。まあ、これも邪気祓い」
邪気祓い。さっきは望ちゃんにも別の邪気祓いを施していた。邪気を祓うということは、つまり、よくないものがあると云うこと。わたしには普通の押し入れにしか見えない。だが、夜須さんには視えていたのかもしれない。
よくないものとはやはり「れるちゃん」なのか……。
「もういいよ」
「あっ、すみません」
わたしの手元に視線を向ける夜須さんに、慌ててジャケットの裾を離した。
ちらりとリビングを振り返る。ボスは愛おしそうに、望ちゃんの頭に手をおいて髪の毛を撫でていた。ボスの耳には届かないように、小さく祈るようにして訊いた。
「れるちゃんは……李依瑠ちゃん?」
違うと言ってほしい。お願いだから。
「そう。といえばそう。違う。といえば違う」
どういう意味なのか。
願いも虚しく、夜須さんはまたしてもよくわからない答えを返してくれた。欲しかったのは明確な否定の言葉だった。そのために訊いたのに。
夜須さんはあの瞳でじっとわたしを見た。
緊張からなのか言い知れぬ不安からなのか、それとも両方からなのか。早くなっていく心臓の鼓動は、胸の内からわたしを打ちつける。
すっと視線を逸らした夜須さんは、ジャケットの釦を上から順番にとめていった。
読んでくださってありがとうございます。
実はインフルエンザに罹患してしまいました(-""-;)
しんどさのピークは過ぎて、熱は下がってきてはいるのですが、まだまだ本調子ではありませぬ……。
今回のインフルエンザA型。関節痛はそんなになかったのですが、寒気、悪寒はすごい! あっという間に39℃を越えました。頭痛というより頭重。締め付けられているようで、気持ちが悪くなるほど。あとは胃の不快感。軽い咳。
冬野はそんな症状でしたが、喉の激しい痛みや鼻水、咳、ひどい頭痛、嘔吐などもあるようです。
予防接種をしようと思った矢先のことでした。トホホ……(っていうか、来年はもっと早く予防接種を受けようと誓いました)。
罹ったらしんどいので罹らないことが一番です。
皆さまもお気をつけくださいね~ヽ(>⩊<)ノ
来週は更新できると思います<(__;)>




