107話 波乱の幕開け
あの後、ネルヴィアとの間にできた関係を朝食の席で皆んなに報告したのだが。
お子様3人衆は、キャッキャと楽しそうに騒ぎ出し。
悪魔娘3人衆は、グヘヘと効果音がつきそうな雰囲気で何やら妄想を始め。
頼れる秘書こと、悪魔娘達の保護者であるノワールは感慨深そうに目頭を押さえ。
そして、龍王と妖精王は生温かい視線を向けて来た。
その後、数回ほどヘルとヴァイスロギアがからかってきたが……勿論、慈悲深いお仕置きで泣かせてやった。
とまぁ、そんなこんなでそれなりに忙しいながらも平和な日常を過ごし、遂に文化祭当日を迎えたのだが……
「これは、一体どういう事なのかなソータ・ユーピルウス侯爵殿?」
溢れ返るような人々が行き交う魔導学園の正門にて、現在大きな人だかりが出来ている。
そして、その大勢の観衆の中。
額にハッキリと大きな青筋を浮かべ、両手を腰につき。
目が全く笑っていない満面の笑みで俺にサムズアップしてくるプラチナピンクの長髪をした一人の女性。
メビウス帝国の長きに渡る歴史においても歴代最強と称される剣帝、アンジリーナ・エレ・アルニクス・メイビスその人だ。
白昼堂々そんな有名人に絡まれれば、そりゃあ注目を受けるのも頷ける。
何せ、超実力主義国家であるメビウス帝国においてSSSランク冒険者と並び人類最強の一角たる彼女は、それはもう凄まじい人気を誇っている。
一度、その顔を見せれば歓声が巻き起こり。
帝都を歩けば、彼女の後を追って大行列が作られる。
そんな彼女が俺に詰め寄ってくるところを目撃した人達は、アイツ一体何をしたんだ?
と、言いたげな表情で俺のことを凝視してくる。
だが!声高々に叫んでやろう、俺が知りたいわっ!!
一体全体、何をそんなに怒っているのか……残念ながら一切心当たりが存在しない。
しかもだ、アンジリーナが俺にサムズアップして詰め寄ってきた事で、隣から感じる視線が怖い。
てか、繋がれた俺の右手がミシミシと物理的な悲鳴をあげている。
側から見れば、両手に花だろうが。
一方は三大国の中でも最大の国力を誇る帝国の最高権力者。
もう一方は単独でその帝国を容易に潰せる吸血姫。
今も常人なら一瞬で握り潰されるであろう力で俺の手を握りしめ。
俺に向けて放たれるこの威圧を一般人がその身に受ければ容易く死ぬだろう。
この魔境を知ってもまだ、両手に花なんて言う奴がいれば今すぐこの場を代わってやろう。
「ま、まぁ、落ち着いて下さい陛下」
「落ち着く?
私は落ち着いているが?」
えぇ…そんなこと言っちゃいますか。
何処からどう見ても、落ち着いているとは言い難いのだが。
さて、どうしたものか?
早急にどうにかしないと、そろそろ俺の右手が……
「ご無沙汰しております、ユーピルウス殿。
陛下も、そう詰め寄られてはユーピルウス殿がお困りになってしまいます」
そう言ってアンジリーナの後ろから姿を見せた貴方は救世主ですか!?
「む、そうか。
申し訳ないユーピルウス侯」
そして、救世主の言葉を受けてやっと身を離してくれるアンジリーナ。
まぁ、隣からの圧は増すばかりで一切収まってないんだけどね。
「いえいえ。
こちらこそご無沙汰です、メーシスさん」
謝罪をしてくるアンジリーナに軽く答え、救世主、メシアの宰相メーシスさんに挨拶する、なんちゃって。
兎も角、メーシスさんと潰されかけている右手ではなく左手で握手を交わす。
「アンジリーナ陛下は如何なさったのですか?」
その際に、他の誰にも聞こえない程度の絶妙な声でそう聞くと
「それが私にもよくわかってないのですが、手紙がどうとか仰っていました。
ユーピルウス殿も何か心当たりがないのですか?」
社交辞令を交わしているふうに見せかけてそんな言葉が返ってきた。
はい、俺が悪かったです。
あります心当たり、むしろ心当たりしかないです。
そう言えば、アンジリーナから手紙が使者と共に送られてきて、それに対して格好をつけて明日出向くって返事を返したんでした。
すっかり忘れてたました。
でも、でもだよ!?
仕方ないじゃん、だってあの後、ネルヴィアとあんな事になっちゃったんだもんさ!!
俺じゃなくても衝撃すぎて忘れるよね?
ってか、ノワールは何故教えてくれなかったのか!?
くそっ!早く言い訳を考えなければ……
「取り敢えず、こんな場所にいては他の方の迷惑ですし落ち着いて話せる場所に移動しましょう」
俺の右手も、もう限界だし。
俺の申し出は見事に聞き入れられ、全員で学園内にあるカフェに移動する事になった。
そして、内心の動揺を一切見せないポーカーフェイスを発揮しつつも、必死でアンジリーナとネルヴィアへの言い訳を考える。
俺の異世界初の文化祭は、一時の平穏をぶち壊しながら波乱の幕開けを迎えるのだった。
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「伝説の吸血鬼となった商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください!!




