828.懐かしき再会
「お久しぶりですわね! 御三方!!」
「……何やってるんだサンベリーナ?」
北部から時間をかけてミレルに到着したアルム達をまず出迎えたのはミレルのあるトラペル領の当主ラーディスではなく……サンベリーナだった。
馬車が到着したのはミレルの噴水広場。
サンベリーナはその噴水広場の前で仁王立ちするかのように堂々と立ち、ワインを片手にアルム、ミスティ、ベネッタの三人を出迎えた。
ミレルはワインが有名であり、広場の周囲にはワインを味わえる店が何軒も連なっているが……その一つのテラス席でフラフィネが恥ずかしそうにちょこんと座っているのが見える。
「フラフィネも久しぶりだな」
「………だし」
「フラフィネさん何を恥ずかしがっておりますの? せっかく着飾ったのですから堂々としなさいな!」
サンベリーナは学生の頃より大人びてはいるものの相変わらず自信に満ちた様子で堂々としている。
風に流れるような金色の髪と自身の未来に何の疑いも持たない瞳。身に纏うドレスは体のラインをくっきりと出しており、特に太もも辺りから開いているスリットの中のすらっと長い足が周囲の目を引く。
サンベリーナがテラスから引っ張り出そうとしているフラフィネも同じデザインのドレスを着ており、恐らくは今回の集まりに合わせてサンベリーナがお揃いで合わせたのだろう。
「無理! うちにこんなの似合ってないし!」
「何を言っていますの! ほらこうしてワインでも飲んで緊張をですね……」
「あんたそれで何杯目だと思ってるし!?」
「何を言ってるんですかフラフィネさん。まだこれで五杯目ですよ?」
「あんたの場合、杯じゃなくて本じゃん! 五本飲んで何でそんなぴんぴんしてるし!?」
テラス席で騒ぐ二人は相変わらずの関係のようだった。
サンベリーナは当主になってすぐに魔石を使った装飾品のブランドを立ち上げ、マナリルでも注目されている上級貴族であり……フラフィネは"自立した魔法"を破壊する部隊に所属してからすぐに結果を残し、部隊のエースとして活躍している。
二人共方向性は違えどこの四年、各方面でその活躍を注目されている二人だが、友人関係は全く変わらないままでアルムは四年前に戻ったのかと錯覚するかのように見慣れた光景だった。
「相変わらずだねー、二人共」
「うふふ、お二人共元気そうで何よりです。サンベリーナさん、招待ありがとうございます」
「ええ、アルムさんが帰ってくるかもとの噂をキャッチしましたので……ミスティさんの所に招待状を送れば来るだろうと」
「予想通りだったし」
アルム達はサンベリーナフラフィネと順に握手をする。
話を聞けば二人共ミスティとはそれなりに連絡をとっていたらしく、ベネッタとも二年前にアルムの所に行くまでは顔を合わせていたりしていたらしい。
「ところであなた、四年も何してましたの? あなただけ完全に音信不通だったのですけれど?」
「うちに至ってはカレッラの近くで仕事あったついでに寄ったのにいない言われたし」
「ミスティさんにお話を聞かなければ正直死亡説を信じる所でしたわ」
「やばいんじゃん? って話してたし」
「え、そうなのか? すまん……まさか二人が俺に連絡を取ろうとするとは思わなくて……」
サンベリーナとフラフィネは申し訳なさそうにするアルムを前に顔を見合わせると、呆れるように笑った。
「友達に連絡をとるなんて普通にやるじゃありませんか? 何を仰ってますの?」
「アルムって相変わらずこういう所が馬鹿だし。心配するこっちの身にもなれし」
「……すまん、気を付ける」
アルムは少し嬉しそうにしながら、二人に改めて謝罪した。
「先にラーディスさんの屋敷に行っていてくださいな、まだネロエラさんとフロリアさん、それにグレースさんが到着しておりませんの」
「ここで迎える必要はあるのか……?」
「ベリナっち曰く、企画者として全員と一番に顔を合わせたいらしいし」
「サンベリーナらしいな……」
ミレルは数年前に半壊してから見事復興し、今では観光地として親しまれている。
起伏のある丘に広がる見渡す限りの葡萄畑、素朴ながらも親しみやすさを感じる人と町並み、盛んに作られる美味なワイン、そしてなんといっても目玉は霊脈によって輝くミレル湖だ。
観光シーズンになると家の格を問わず、美しいミレル湖見たさに貴族どころか比較的裕福な平民も来訪してくるようになった。
領主と平民の距離が近く互いに友好で理想的な関係を築いている領地としても有名で、町が半壊する程の被害から復興したという経緯からか町全体に一体感があり雰囲気が常にいいというのもミレルが観光地として人気な理由の一つだろう。
「久しぶりだなアルム」
「ようこそおいでくださいました」
ラーディスの屋敷はミレルの町の中にある一番高い丘の上にある。
数年前にアルム達が来た時と変わっておらず、屋敷の入り口ではラーディスとシラツユの二人が出迎えてくれた。
二人は共にミレルを襲った魔法生命、大百足と戦った戦友だ。
ラーディスは成長して垢抜けており、背も伸びているが……シラツユはほとんど変わっていないようだった。髪が伸びたくらいだろうか。
しかし二人の関係性は明確に変わっているようで、左手の薬指には指輪が輝いていた。
「ミスティさんとベネッタさんもお久しぶりです」
「うわー! 久しぶりー! シラツユさんきれー!」
「お久しぶりですお二人共」
「久しぶりだなラーディス、シラツユ」
挨拶もそこそこにベネッタはシラツユに抱き着く。
シラツユも久しぶりの再会で嬉しいのか両手を広げてベネッタを受け入れた。
「さっきルクスとエルミラに聞いたぞアルム、四年も音信不通だったとか……連絡はしろよ」
「会う度に言われるから何も言い返せないな」
「まったくお前は……ミスティ殿だけに連絡すればいいってわけじゃないんだぞ。少しは自覚をだな……」
「すまん」
再会した瞬間ぐちぐちと言うラーディスの隣でくすくすとシラツユが笑う。
「さっき聞いたみたいな事言っていますが、本当は卒業してからすぐアルムさんの消息が途絶えたのをラーディスさんはずっと心配していたんですよ」
「そうなのか?」
「ば、ば、馬鹿言うな!」
「今日もアルムさんが来るのを楽しみにそわそわしていました」
「シラツユ! 頼む! やめてくれ……!」
恥ずかしそうに顔を覆うラーディス。くすくすと笑うシラツユ。
どうやら二人が夫婦としてどんな関係性かはこの短い間で見えてきた。
数年前は尊大な態度が当たり前のようだったラーディスも少しは落ち着いたらしい。
「そういえばご結婚おめでとうございますー! アルムくんからの結婚祝いは馬車に運ばせてるのでー!」
「まぁ……アルムさんありがとうございます」
「いや、なんか……四年前にはもう婚約してたらしいな。マナリルを離れてたから全く知らなかったんだ。遅れてすまない」
「いえいえ、嬉しいです」
「シラツユは常世ノ国に帰ると思っていたが、マナリルに残る事にしたんだな?」
アルムに聞かれてシラツユは頬を染めながらラーディスをちらっと見る。
「アルムさん達が魔法生命の一件を終わらせてマナリルが常世ノ国と友好を結んだ結果……情報源だった私の価値はマナリルにおいてなくなりまして……。
本来なら常世ノ国に送還される予定だったのですが、そこでラーディスさんがプロポーズしてくださったので妻としてマナリルに留まる事になったんです」
「し、シラツユ! そんな事まで教える必要は――!」
「あんたが必要だから帰らないでくれ! と顔を真っ赤にして言ってくださったのがとても嬉しくて……あんなに素敵な愛の告白を受けたのは初めてでした。私はラーディスさんより年上なのもあって少し躊躇があったのですが……そんなの関係無いと言ってくださって……」
「シラツユ!? シラツユさん!?」
羞恥に耐えられず隣で騒ぐラーディスを無視して、ミスティとベネッタはシラツユの話に目を輝かせている。
無理に止められる雰囲気でもなく、シラツユの口からラーディスのプロポーズについての話が赤裸々に語られる。
「アルム……笑えよ……」
「いや、幸せそうで何よりだ」
「……おう」
五分ほどシラツユの話が続き、アルム達が広間のほうに案内される頃にはラーディスは顔を上げられなくなっていた。
いつも読んでくださってありがとうございます。
本当に懐かしいね君達。




