『その咆哮は誰が為に』登場人物紹介
番外長編『その咆哮は誰が為に』の登場人物紹介になります。
裏話がちょこちょこありますが、ここを見なくても本編はちゃんと読めるのでご安心ください。
・ネロエラ・タンズーク
タンズーク家を担う歴史の運び手。トラウマを乗り越えた天才ではなく秀才。
番外長編時二十八歳、白髪赤眼の小柄な女性。
アルム世代の獣化のエキスパートであり、魔獣を使った輸送部隊の隊長として有名な魔法使いとして過ごしていた所に今回の事件の捜査にあたる事になった。
主に王都を中心に魔法使いとして務めていたのだが、常に口元を隠している所とアルム世代の中では常識寄りの魔法使いだったのもあって一部の人間からは心無い言葉を言われる事も多い。
幼い頃のトラウマと牙のせいで自己評価が低いのもあって、ネロエラ自身もそんな声を受け入れていた。鏡の中に見えていた過去の自分はそんな自分を変えたいネロエラの意識の現れ。
イリーナとの戦いを見事乗り越えただけでなく、最後にはちゃんと自分の中で区切りをつけ、大人の女性へと成長してくれた。
自分の手でしっかりと笑顔で初恋を終わらせる事が出来た強い子。
たとえ恋が実らなくても彼女にとって夢のような現実はとっくにある。
イリーナとの戦いにおいて血統魔法【気高き友人】を覚醒。
直前に行っていた"変換式接続"はアルムが行っていた霊脈接続の簡易版。
霊脈ほどではないが、血統魔法の魔法式と自分を繋いでタンズーク家にかかわったリュテマの記録全てを受け止めているので非常に危険。下手すると過去の感情や記録に引っ張られて自我を失うのでよい子は真似してはいけない。
その力はエリュテマの魂を召喚してタンズーク家という群れを作るというもの。
覚醒前が長期戦用だとすれば覚醒後はむしろ短期決戦用。
召喚したエリュテマの魂全てと繋がっているため血統魔法にしては負担があまりに大きく、五分維持できれば長いほう。しかしエリュテマの魂全ての"存在証明"を"現実への影響力"に変えているため、その強さは覚醒前とは別格。
二分だけなら血統魔法と一体化したミスティと戦えるほどにまで底上げされており、名実ともにアルム世代の規格外の魔法使いの一人となった。ようこそ怪物側へ。
・六体のエリュテマ
ネロエラのかけがえのない友人であり、ネロエラ率いる輸送部隊アミクスの要の六体。
本編第十部の間は四体。番外長編時までに入った二体の新入りの六体が所属している。
今回の番外長編はネロエラの主役回だったので彼女にとってなくはならない彼女達を簡単に紹介する事に。
「カーラ」
ネロエラと一番付き合いの長い個体。一番古参なのもあって面倒見がよく、さらには自分達が本来人間に恐がられる魔獣と自覚して王都では姿勢や立ち振る舞いまで気にしていて頭も良い。ネロエラとフロリアがいない時のまとめ役であり、近付いてくる人間を見極めているのもこの子。みんなの姐さん。
番外長編時で十九歳であり、最新時系列では引退してタンズーク領を守っている。
「スリマ」
ヘリヤと同時期にネロエラと出会った個体。人間への警戒心が人一倍強く、フロリアですら心を開かせるのに時間がかかった。しかしネロエラを大事に思っているのには変わらないので今回も助けを呼びに走っていた。
「ヘリヤ」
スリマと同時期にネロエラに出会った個体。スリマと瓜二つでスリマほどではないが人間への警戒心も強い。スリマとは違って遊びたがりで構ってくれるフロリアには割と簡単に心を許した。
今回はフロリアについて常世ノ国に行っていた。
「ロータ」
ネロエラがベラルタ魔法学院入学に入学する二年前に出会った個体。人間に住処を追われた過去があり、タンズーク領に辿り着いた所をネロエラに保護されてそのままタンズーク家と契約した。
ご存じフロリアに一番懐いている子で今回もフロリアについて常世ノ国に行っていた。ネロエラ曰く相性がいいらしい。
「ヒルドル」
ネロエラの卒業後カーラが産んだ娘の一体。二歳頃にタンズーク家と契約した。
カーラに似てしっかり者ではあるが、まだ遊び盛りで水浴びではしゃいだりする。
ネロエラをご主人というよりもう一人の親のように思っていて結構甘える事が多い。
「フロック」
いつの間にかタンズーク家に出入りしていた謎のエリュテマ。身体能力が高く最初から人懐こかったのでそのまま契約した。いい意味であんまり何も考えておらず、本能のまま遊んだり走ったりする子だがカーラにはちゃんと従う。序列はしっかり守る素直な子。
この六匹以外にもタンズーク家にはエリュテマがいるが、血統魔法との結びつきが強く実戦に出せるのはこの六体。
全員女の子かつ名前の元ネタがヴァルキュリアだったのはネロエラの血統魔法がどういう覚醒になるのかだけは最初のほうから決まっていたのでそのイメージで付いている。
・ジェイフ・キャステレ
南部に生まれた平凡な貴族。ネロエラと出会えたラッキーボーイ。
二十二歳。茶髪に緑の目をしたローチェント魔法学院出身の新人魔法使い。
南部の沿岸警備部隊に所属していて本来ならネロエラの部隊に所属するほどの実力は無いが、血統魔法が輸送部隊向きだった事と真面目な性格が幸いしてダンロード家から推薦を貰って今回の事件に巻き込まれる。
ベラルタ魔法学院に対してコンプレックスがあり、最初はネロエラの事も臨時の上司程度にしか思っていなかったが……ネロエラの真摯な接し方と年上とは思えない可愛らしさに惹かれてべた惚れに。
大好きな姉から「自分の出来る事から逃げない男になってね」という言葉を拠り所に魔法使いになっており、その姉との約束通り今回カーラを見事救出した。
九尾の魔力を浴びながらも動けたのは姉の言葉とスリマの助けを求める声、そしてネロエラへの恋心があったからこそ。ネロエラと出会わずに遭遇していたら恐らく漏らしてた。
ちなみに姉はエルミラの専属治癒魔導士であるターニャの友人。
血統魔法は【闘志燃やす古代戦車】。
火属性の召喚系魔法。自身の魔力で戦闘用馬車を生み出す血統魔法で今回、臨時補佐として選ばれた理由でもある。
燃え盛るその姿から戦闘向きと誤解されがちだが現状はそうでもない。乗っている人間を火や熱から守るという防御魔法に似た性質があり、ジェイフの性格もあいまって避難や救出作業のほうが向いている。今回もその方向で活躍した。
今は実力不足だが、もしかしたらいずれエリュテマがこの血統魔法を牽く未来もあったりするかもしれない。多分スリマとヘリヤは不動のまま動かない。
・イリーナ・ペレーフト
カンパトーレに生まれた本物の才女。九尾を彼の神と呼び信仰した女性。
故二十三歳。白髪金眼の女性で元々は母親譲りの水色の瞳だったが大蛇の疑似核の影響で金色になっていた。
幼い頃は遊ぶのが大好きな活発な子供だったが周囲から向けられるものが愛ではなく信仰に変わってしまい、唯一変わらなかった母親まで殺された上に追い討ちをかけるように大蛇の疑似核を植え付けられ……大蛇の意思を流し込まれた事で他者を何とも思えない残忍な性格へと変わってしまった。
本編からは想像つかないかもしれないが、伝承の王から生まれた救世主扱いなどされずに両親からの愛を真っ当に受けて育っていればそのカリスマと才能で本当にカンパトーレの救世主になれていた女性。
才能だけならカンパトーレでも随一でクエンティすら凌ぐが、魔法生命に縋る人生を選んでしまったので血統魔法に愛されないまま成長し、覚醒前のネロエラと同程度の腕前で止まってしまった。
魔法使いとして血統魔法を磨く道を選んでいれば革命を起こし、腐敗の進んだカンパトーレを変える一人となっていただろう。
一応、人工魔法生命ペリュトンを宿していたが九尾召喚時に疑似核が崩壊したので出番は無かった。
望みは本物の救世主となり、母親に褒めてもらう事。
環境と大蛇の影響で残忍な性格になったがその本質は愛に飢えた子供。
ネロエラがアルムやエリュテマに出会わずにトラウマと間違った向き合い方をしていたら、もしかしたらイリーナのようになっていたかもしれない。
血統魔法は【蓮華踊る夢幻の姫】。
自分と寸分違わぬ氷の分身を形成する血統魔法なのだが、正確には氷の分身にイリーナの姿の幻覚が投影されている。仕組みはフロリアの血統魔法とほぼ同じ。
イリーナが魔法生命に縋ってしまい、血統魔法に一ミリも愛されていないので"変換式固定"の文言で強化されているにもかかわらず最弱の状態。イリーナの才能なら本来は世界改変魔法となっていたはずだった。
本来の力の搾りかすみたいな"現実への影響力"しかないが、それでもネロエラに多少劣る程度の力はあったのでそこは才能の力が大きい。
・キヨツラ・ヤコノ
故四十三歳。妻子より自分のプライドをとった男。
青髪の中年で魔法生命事件の元凶組織コノエの研究者。魔法生命研究に携わった常世ノ国の元エリート貴族であり、当時は若くしながら大嶽丸とキマイラの研究担当を任されていた。
最初の四柱の反乱によって組織が壊滅した後はネレイアの指示に従っていたが、ネレイア敗北後は後ろ盾も無くなりそのまま常世ノ国でただふんぞり返る生活を続けていた。
常世ノ国がモルドレッドによって復興し始めた際にはモルドレッドとカヤに金品などを持っていきアピールしたが、モルドレッドもカヤも特に興味は示さず元々魔法生命は研究対象の格下という意識が強かったため反旗を翻す事を決意した。
カンパトーレにも同志がいるはずと数年探し、共通の目的を持つイリーナと協力関係になった。オルリック領から鵺の魔力残滓を取り込み、九尾をイリーナに降ろす所までは上手くいったが結果はあの通り。常世ノ国に逃げ帰るもアルムに敗北した。
最新時系列におけるティア達の友人、カワヒトの父親でもある。
血統魔法は【阿倉空暗】。
闇属性の防御、拘束魔法に類似しているがその本質は隔絶した空間生成。
大蛇と鵺の影響でこの世界と異界の境界は今曖昧になっており、この血統魔法によって隔絶された倉の中の空間を曖昧な境界に定義する事で九尾を呼び寄せる祭壇に変えた。
とはいえ、鵺の魔力残滓から九尾の魔法式を読み取らなければここまで無茶苦茶な運用は出来ない。
・九尾
白の平民魔法使い世界から見た異界にいる怪物。信仰無しでも力を維持する神獣。
今回の大迷惑枠にして被害者兼加害者。人間に擬態してのオーストラリア旅行中にイリーナによって呼び出された。
鵺の時とは違い、血に変えた生贄も足りている上にイリーナが何故か自分を本気で信仰していたので鵺の時のように呪殺する事は無くその呼び声に応えた。しかしそれは優しさとかではなくましな玩具が向こうから来たので暇潰しをしようという超越者の趣味悪い道楽。
イリーナの器を試すように力を注ぎ込み、普通の人間なら一尾分も入らない所に四尾分も力が入ったのでキャッキャとはしゃぎながらイリーナを観察していた。使いこなせれば面白いし、呑まれればそれはそれ
四尾までの能力でイリーナが使えたのは"落雷"、"鎌鼬"、"黒炎"、"暗雲"の四つでネロエラに見せた最後の幻覚は九尾からのサービス。
他には"血染めの魔眼"、"反転の呪詛"、"擬態"、"白毛の死群"などがあったが肉体が必要で、イリーナが魔力による具現化しかできていなかったため使えなかった。
イリーナの体が狐の体に変化していたが、あれは他の魔法生命がやっていた人格浸食の肉体バージョンみたいなものでイリーナが徐々に力を使いこなせるようになっていたとかは一切ない。
お読み頂きありがとうございました。
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次の更新は短編『アモルトゥリスの呼び声』を更新予定です。創始者のお話をひとつまみ。




