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第三十七話― 春のキャンプは危険がいっぱい!?【前編】(2)

 太陽の日差しが雲の隙間から降り注ぐ昼下がり。時刻は午後二時を過ぎた頃。

 バーベキューで昼食を済ませた派茶目茶高校二年七組のメンバーたちはそれぞれ自由気ままな時間を過ごしていた。

 草原でボール遊びに興じているのは、拓郎と麻未、そして舞香の三人だ。少しばかり食べ過ぎたせいもあってか、ダイエットしようと軽い運動で汗を流すつもりらしい。

 テントの中にいるのは勝とさやかの二人だ。こちらはインドアっぽくババ抜きに七並べ、さらに神経衰弱といったトランプ遊びで時間を潰していた。

 さやかと二人きりともあって、興味なさそうな顔つきで文句たらたらの勝であったが、勝負事に熱くなる性格なだけに負けが込んでくると顔を真っ赤にしながら躍起になっていた。

 さて、残る二人の拳悟と由美はどうしているかというと。遊歩道をお散歩すること数分後、矢釜川の上流である川原まで足を運んでいた。

 上流だけに川の透明度は美しいものがある。川面を覗き込んでみると、まるで鏡のように自分自身を映し出すからびっくりだ。これには由美も感動の声を上げるしかなかった。

「とっても澄んでるね。大自然を肌で感じちゃう」

「これだけ透き通ってると、飲み水と間違うんじゃないかな」

 矢釜市は水資源の豊富さから「水の都」と呼ばれている。町の取り組みとして浄水場を整備しているため、下流である市街地でもそれほど川の水は汚れてはいないがさすがにここにはかなわない。

 豊かな自然はありとあらゆる生き物も育む。綺麗な川には幾種もの魚が泳いでいるので、ここには川釣り客も年間を通してたくさんやってくるのだ。

 案の定、本日も釣竿を手にしたフィッシャーマンがあちこちに点在している。釣り糸を垂らしてのんびり待つ者、待つのが苦手なのか何回も釣竿を振っている者、釣り客にもいろんなタイプがいるものだ。

 いったいどんな魚が釣れるのだろう?拳悟はちょっと興味が沸いたのか、椅子に腰掛けて釣りを楽しんでいる一人の男性に声を掛けてみた。

「ん、魚かい? 狙いはイワナとかヤマメだな」

 渓流の王者と言われるイワナ、渓流の女王と言われるヤマメ。透き通った川だからこその珍しい魚がここでは釣りの対象になっているらしい。

 とはいっても、経験者でもそう簡単には釣り上げられないそうだ。実際にこの男性も早朝からチャレンジしているが、成果としてはニジマスが数匹釣れたぐらいでイワナもヤマメも収穫ゼロとのこと。

 もし釣ることができたらプロ顔負けの満足感も得られるし、しかも釣れた魚は今晩のおかずにもなる。拳悟はそんな安易な発想で釣りに挑戦してみようと考えた。

「よし、ユミちゃん釣りやろうぜっ」

「えっ、釣り? でも道具がないけど」

 由美の言う通りだ。釣り目的でここまでやってきたわけではないので道具を持参していない。道具がなければ釣りなんてできっこないのだ。

 そこは拳悟も計算のうちだった。さてどうしよう……と困った人のために、このキャンプ場では道具もレンタルしているのだ。キャンプ場をとことん満喫してもらおうという配慮の一つなのであろう。

 ひとっ走り行ってくると、彼は道具を借りるために受付に向かって駆け出していった。一人川原に残された彼女は、溜め息を零しながら微笑ましく苦笑した。

「もう、いつも思い付きで行動するんだから……」


* ◇ *

 それから二十分ほど経ち、拳悟が釣りの道具を引っ提げて川原まで戻ってきた。

 借りてきたのは釣竿に玉網、そして魚を入れるポリバケツ。これだけ揃えば釣りの準備も万端といったところだ。

 少しばかり上流側へ歩き釣り場を決めた彼ら二人。他の釣り客も近くにおらず、椅子代わりになる大きな石もあって釣りを楽しむには絶好のポジションと言えよう。

 カーボン製の釣竿を受け取った由美。しかし、ここで釣り針にエサが付いていないことに気付いた。いくら素人の彼女でも、エサが必要なことぐらいは常識として知っている。

「あれ、エサがありませんよ」

「心配ご無用。ちゃんと捕獲してきたよ」

「えっ、捕獲……?」

 拳悟がポリバケツから取り出したもの、それは片手に収まるほどの大きさの金属の容器。よく見ると、それは缶詰の空き缶であった。

 その缶詰には何と、ウネウネとうごめいているミミズが入っていた。どうやら彼は、ここへ来る途中に草原の土を掘り起こしてエサとなるミミズを捕獲していたようだ。

 釣りをするなら新鮮な生き餌が一番。そうはいっても、女の子の由美にしたらミミズなんて気持ちが悪くて触れるどころではない。彼女は悲鳴を上げて後ずさりしてしまった。

「イヤ~、こっちに来ないでぇ!」

「あらら、ユミちゃん、こういうのダメ?」

「あ、ああ、当たり前ですっ!」

 涙声で拒絶を訴える由美を尻目に、拳悟は缶詰の容器から一匹、また一匹とミミズを摘み出しては腕の上に乗せた。

「ミミズなんて何も悪いことしないんだよ。ほら見てみなよ、かわいいでしょ?」

「か、かわいくなんてないですっ!」

 腕の上でうごめくミミズを撫でながらかわいがる拳悟は、生き物の大切さと素晴らしさをある歌のフレーズに便乗して語り出した。そう、手のひらを太陽にかざすあの歌である。

「ミミズだって、オケラだって、アメンボだって、みんなみんな生きているんだ、友達なんだぞぉ」

 ちなみにミミズの豆知識を一つ。ミミズは自然環境になくてはならない存在だ。

 落ち葉を食べて微生物を排泄し腐葉土を生産する。さらに土の下で穴を掘り続けることによって水はけを良くし、土壌を豊かにすることで野菜や穀物といった作物に実りを与えてくれるのだ。

 人間様にとって有用なミミズではあるが、それでも好みというものがある。誰もお友達になんてなりたいとは思わない、それが由美の答えだった。彼女はガクガクと全身を震わせて拒絶を示す一方であった。

「そんなに怖がらなくてもいいのになぁ」

 拳悟の腕の上でウネウネしている数匹のミミズ。地中に生息しているだけに、明るい地上ではどこか落ち着きがない様子だ。

 ――よく観察してみると、一匹だけ赤色というよりも赤茶色に染まったミミズがいる。いや、動きからしてミミズではない生き物のようだ。

 その正体こそ、ミミズの仲間であっても人間様から嫌われる、哺乳類の生き血をすするあのヤマビルであった。

「いたたっ! ヒルが血吸ってやがる」

 チクッとした痛みが拳悟の神経を駆け巡った。腕をぶんぶんと大きく振り回して、ヤマビルをミミズごと振り落とした。

「このやろ~、ヒルの分際で俺様の新鮮な血を吸うなんて、許さん!」

 怒り心頭の拳悟は鬼の形相でヤマビルを足蹴にする。死ね、死ね、死ねと、しつこく連呼しながら。

 ちなみにここでヒルの豆知識を一つ。吸血のヒルは昔から医療現場で使われていた。

 ヤマビルではないものの、チスイヒルの一種から分離されたヒルジンという名の物質が当時ただ一つの抗血液凝固物質だったそうだ。また、血行障害や肩こりに血を吸わせるという瀉血療法も伝統的ながら使われているという。

 それはさておき、ヤマビルに対する凶行とも言うべき一部始終を困惑した表情で見つめていた由美。拳悟の傍に恐る恐る近づいていき、そっと声を掛けてみる。

「あの、ケンゴさん。生き物はみんなお友達なんですよね?」

 拳悟の動きがピタッと止まった。そうだった、ヤマビルもミミズと同じ生き物であり仲間なのだ。

 ゆっくりと顔を振り向かせた彼は、ばつが悪そうな顔つきでポツリと言い訳を漏らす。

「俺にだって好みがあるさっ!」

「……説得力ないですね」

 ちょっぴり呆れている由美はやむを得ないとして、これから楽しむのは生き物談義などではなくアウトドアの定番とも言うべき川釣りである。

 いざ始めようと思ったものの、彼女は釣りに関しては丸っきりど素人。経験者である拳悟から手解きを受けながら川釣り初挑戦となった。

 彼はカーボン製の釣竿に浮きと餌を取り付けると、お手本とばかりに釣竿を目一杯振りかぶって川面に向かって勢いよく放り投げた。釣り糸の先端はしばらく宙を舞うと、川魚が戯れていそうな絶好のポジションに着水した。

「まぁ、こんな感じだね。ユミちゃんもやってみなよ」

 浮きと餌を付けてもらった釣竿を受け取った由美は、拳悟がやって見せたイメージを頭に思い浮かべながら釣竿をギュッと握り締めた。緊張しているせいか両手は汗で湿っている。

「それじゃあ、行きますよ。えいっ!」

 掛け声とともに釣竿が後方から前方へと弓なりにしなった。ところが、釣り糸の先端が川面に向かって飛んでいかない。いったい何がどうなってしまったというのか?

 もう一度グイっと引っ張ってみてもやはり前に飛んでいかなかった。どこかで引っ掛かっているのかと思って、由美は焦りの表情で後方へと顔を振り向かせる。

「いててててっ!」

 涙目になって泣き声を轟かせる拳悟がそこにいた。

 びっくり仰天。由美が振りかぶった釣竿の先端が拳悟の耳に引っ掛かっていたのだ。川魚を釣るどころか、まさか人間を釣ってしまうとは。ある意味、これも素人ならではの才能なのかも知れない。

「わぁ、ケンゴさん、ごめんなさい!」

「あはは 、気にするなよ。この勢いで大物をゲットしてくれよな」

 いろいろと騒がしかったものの、拳悟と由美の二人はようやく川釣りに興じるのであった。

 静かながらも険しく流れる川面に佇む浮き。それをただじっと辛抱しながら見つめる彼ら二人。まさに魚と人間の根競べ、これこそが釣りの醍醐味と言えよう。

 根気よく待つこと数分、まだ釣竿に伝わる振動はない。上流で暮らす川魚は知恵があるのか、餌に食らい付くのも慎重になっているようだ。それともただ餌に興味がないだけなのだろうか。

 ポジションが悪かったのかと拳悟が釣り糸を引き戻そうとした瞬間、釣竿の先の浮きがぷくんぷくんと水中に沈んだ。これは引きがあった証拠であろう。

「よし来たっ! 釣ってやるぜ」

 拳悟は渾身の力を込めて釣竿をしならせる。思いのほか引きが強くて手応えは十分、大物の予感だ。

 数秒の格闘の末、水しぶきを上げて川から釣り上げられたもの。それはピチピチと暴れる川魚――ではなく、何とも冷たくて無機質な物体であった。

「うぉ!? 何でこんなものが釣れたんだ」

 本日最初の釣果は何とステンレス製の”やかん”だった。本来、自然界にあるはずのないものがなぜここに?川沿いでキャンプしていた際、何かの拍子に流されてしまったのだろうか。

 拳悟が首を捻って不思議がっている丁度その時、今度は由美の釣竿の先がぴくんぴくんと動いた。彼女は素人のせいか、振動の異変に気付いていないようだ。

「ユミちゃん、引いてるぞっ」

 由美は驚きのあまり条件反射的に釣竿を持ち上げた。釣り糸がピンと真っ直ぐに突っ張って、川の中から何かしらの物体が釣り上げられた。

 これもビギナーズラックというやつか。釣竿の先には小振りながらも活きのいい小魚がくっ付いていた。

「おおっ、ニジマスじゃないかっ!」

 上流釣りでも割とポピュラーな川魚のニジマス。もともと日本には生息していなかった外来種である。頭が小さくて体中に黒い斑点があるが、マスだけに身はサーモンピンク色をしている。

 ニジマスの調理法といったら塩焼きでいただくのが定番。天然ではなく養殖であれば、刺身のように生食でもおいしくいただけるお魚なのだ。

 ピチピチと暴れるニジマスの扱いに困っている由美。とはいえ、初めての釣りで見事にお魚をゲットした喜びはひとしおであろう。その表情は晴れやかでとても嬉しそうだ。

「よーし、俺だって釣ってやる!」

 羨ましがっていても魚が釣れるわけでもない。拳悟は負けてたまるかとばかりに、餌を付け替えた釣竿を威勢よく放り投げた。狙うは渓流の王者のイワナか、はたまた女王のヤマメか。

 欲が出るほどなかなかうまくはいかないもので。ぷかぷかと浮かんでいる浮きを眺める時間ばかりが虚しく過ぎていく。

 ここぞという時に釣り上げてみても、釣れるのは空き缶や空き瓶といったゴミばかり。川の清掃に一役買うばかりで肝心の収穫はまるでなし。

 そうしている間にも、由美にはまた嬉しい当たりがやってくる。大物ではないものの、二匹目、三匹目と川魚を立て続けに釣っていった。

「ここよく釣れますね」

「……そう?」

 入れ食い状態で上機嫌の由美を尻目に、一匹も釣れていない拳悟はしかめっ面で溜め息をつくしかない。釣竿も仕掛けも餌もまったく同じだというのに釣りの神様も意地悪なものだ。

 せめて一匹だけでも――。そう願ってはみても、焦れば焦るほど釣竿に苛立ちが伝わるのか、お魚たちはゆらゆらと泳ぐばかりで興味を示してはくれなかった。

 バケツの中を覗き込んでみると三匹のニジマスが所狭しと泳いでいる。これはすべて由美が釣り上げた結果であり、時間潰しで始めたわりにはそれなりな釣果であろう。彼女はとても満足げな顔をしていた。

 彼女はふとバケツを両手で持ち上げると、川の近くへと歩いていった。

「おいおい、まさか逃がしちゃうのか?」

「うん。釣りを満喫させてもらっただけで十分だもん」

 動物愛護の精神からキャッチアンドリリース。故郷である川へと放流されたニジマスたちは四方八方へ元気いっぱいに泳いでいった。

 今夜の晩ご飯のおかずにできなくてちょっぴり残念な思いの拳悟。しかし、釣り上げた彼女の意志ならそれを尊重すべきだろう。彼だって生き物の大切さは理解しているつもりだ。

「ケンゴさん、そろそろテントへ戻りましょう」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。せめて一匹だけでも釣らせてよ」

 拳悟の涙ながらの懇願により、もう少しだけフィッシングタイムを継続した。

 いつになく彼の表情が真剣になる。川の中に潜んでいる魚との心理戦、果たしてどちらが勝ち名乗りを上げるのだろうか。

 浮きがわずかに動いた――。強い引きではないが、魚が何かしらのアクションを起こした確たる証拠。彼はそれを逃さなかった。

「よし、今度こそっ!」

 釣竿が大きくしなり、釣り糸もピンと突っ張った。これは予想以上に大物かも知れない。

 由美の黄色い声援が背中にこだまする。プライドと男の意地を掛けて、拳悟もそれはもう必死の形相だ。

 彼は釣竿を小刻みに振ってタイミングを見計らう。相手もそう易々と釣り上げられようとはしない。勝負の時間は十数秒にも及んだ。

 まさにここぞという絶好のタイミング!彼はリリース覚悟で一気に釣竿を引き上げる。すると、釣竿の先に黒光りした何かがくっ付いていた。最初で最後の大物をゲットできたのだろうか?

「うわぁ! 最悪だぁ」

「あらら」

 驚愕のあまり大声で叫んだ拳悟、そして落胆な吐息を漏らした由美。それもそのはずで、釣り上げたものは何と真っ黒なゴム製の長靴。またしてもゴミの清掃作業となってしまった。

「残念でしたね」

 由美の口からは慰めの言葉しか出てこない。初心者の自分ばかりが釣れたのはまさに幸運。釣りという遊戯は運が左右するものだと実感していた。

 拳悟は意気消沈として石の上に座り込んだ。カッコいいところを一度も見せることができず、プライドも男の意地もボロボロになって崩壊状態であった。

「……あれ」

 おもむろに長靴の中を覗き込んでいた拳悟が何かを発見した。

「ユミちゃん。俺の運もまんざらじゃないみたい」

「えっ?」

 長靴をひっくり返すと、その中から川の水と一緒に一匹の小さな魚が落ちてきた。

「あはは、本当だ。これは幸運ですね」

「だろ? これで一匹釣ったことになるよな」

 何とか面目を保つことができて苦笑いの拳悟だった。ある意味、ゴミだけを釣り上げるのも技能の一つかも知れないが。

 もうまもなく日が暮れようとしている。こうして、釣りを楽しんだ二人は軽やかな足取りで他のメンバーが待つキャンプ場まで戻っていった。


* ◇ *

 夕方四時になろうかという時刻。派茶目茶高校二年七組一同は夕食の準備に取り掛かっていた。

 キャンプでご飯といったら飯ごう炊飯。電化製品といった文明の利器に頼ることなく、自然の力だけでこしらえる今夜のご馳走はカレーライスだ。

 女性チームの役割は食材の調理。飯ごうに詰めるお米を丁寧に洗い、そしてカレーライスの具となるジャガイモにニンジン、コロコロの豚モモ肉などを手際よくカットしていく。

 一方、男性チームの役割は炭火の準備。着火剤に火を点けて、薪が真っ赤に染まるまで息を吹きかけるだけの単純で面倒なお仕事だ。

 薪が遠赤外線を放つ炭になる頃、カレーライスの材料となる飯ごうとお鍋が網の上へと設置される。直火に熱された飯ごうとお鍋はしばらくしてグツグツとおいしそうな湯気を上昇させる。

 お鍋の蓋を開けるなり、メインディッシュのカレー粉を投入する。香辛料が織り成すスパイシーな香りが鼻腔をくすぐり、育ち盛りの若者たちの空腹をより一層刺激させた。

 沸騰すること十数分、お野菜やお肉もいい感じで煮えてきた。味見してみようと、男性チームのハチャメチャトリオの三人はフォーク片手に食材を摘み始めた。

「うんうん、なかなかいけるぞこれ」

「おっ、カレー味が効いてうまいな」

「ホントだな、早くメシが食いたい」

 食べ出したら止まらないのか、食材をパクパクと口に放り込んでいく彼ら三人。その量が明らかに味見の域を超えていたのは言うまでもない。

 もちろん、それを黙って見過ごす女子チームではなかった。リーダー役の麻未がフライパン片手に彼らの背後へと忍び寄る。

「つまみ食いすんなっ!」

『ゴツーン、ゴツーン、ゴツーン!』

 三つの鈍い音が夕暮れのキャンプ場に鳴り響いた。側頭部を激しく殴打された男子三人は、激痛のあまりその場で頭を抱えて悲鳴を上げた。不意打ちだっただけに痛みのレベルも半端ではない。

「うぉぉ、殺す気かぁ!?」

「殺さなかっただけでもありがたいと思いなさい」

 働かざる者食うべからず。麻未は怒号を放ちながら、男性三人に料理のお手伝いをするよう指示を出した。ペナルティーとして晩ご飯抜きをちらつかせながら。

 頭を叩かれたばかりではなく、晩ご飯抜きなんて冗談では済まされない。ハチャメチャトリオの三人は大慌てで料理に勤しんでいる女性陣のもとへと駆け出していった。

「次にサボったら、包丁で三枚おろしにしてあげるからね」

 麻未の怖い怖い脅し(?)のおかげもあって、夕食の準備はそれから滞りなく完了し、夜を迎える前に待望のディナータイムとなった。

 上手に炊けたご飯、そしていい具合に煮えたカレーを取り囲んで、全員がステンレス製のお皿とスプーンを手にしていただきますを合掌した。

 キャンプの夕刻は賑やかに過ぎていく。お馴染みの仲間同士とはいえ、学校とはまた違う爽快感と解放感に包まれてみんながみんな、とても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

 ところが――。それから数時間後、楽しんでいた彼らにちょっとした事件が起こることなどここにいる誰もが想像していなかった。その成り行きと結末は次回を乞うご期待。

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