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第十七話― 対決? 麗しき淑女と不良少年たち(1)

 暦の上では九月とはいえ、ここ矢釜市はまだまだ残暑の厳しい日々が続いていた。街のあちこちを歩く人たちも、汗を拭うハンカチが手放せないそんなある日のこと。

「先輩、お茶が入りましたよ」

「あら、どうもありがとう」

 ここは物語の主人公、夢野由美が暮らしているアパート。

 ただいま彼女の姉の理恵と、彼女が通う学校の担任の斎条寺静加の二人が談笑しているところだ。ここであえて触れるまでもないが、この二人は高校時代の先輩後輩の仲である。

 ちなみに主人公の由美はどこにいるのかというと、姉からの言い付けにより日用雑貨の買出しのためにお出掛け中なのであった。

 テーブルの上に置かれた香ばしいお茶とお茶菓子。陶器製の湯飲み茶碗を手に取り、おもてなしを丁重にいただく静加。一口すすり終えるとなぜかクスリと微笑した。

「相変わらずお茶を淹れるのが上手ね。どこで勉強したの?」

「こうみえても、お茶汲みばかりしてるOLですからね」

 微笑ましい顔を向け合う麗しい女性二人。とはいうものの、お茶菓子をつまみながら語らう話題は年寄りくさい苦労話ばかりでとても二十台前半同士の会話とは思えない。

 他愛もない会話が一区切りついた頃、理恵が素朴な疑問を投げ掛ける。それはまだ帰宅していない由美のことだった。

「先輩、由美はちゃんとやってます? わがままとか言ったり、怠けたりとかしてませんか?」

 出てくるわ出てくるわ、妹の風紀や素行に関する心配事。考えてみたら、姉妹二人きりで暮らしているので姉の彼女が親代わりといっても過言ではない。だから心配するのは当然であろう。

 姉の過保護ぶりに担任の静加は苦笑した。服装の乱れもなく成績もトップクラス、クラスのみんなからも一目置かれていると由美の優等生ぶりを余すことなく紹介するのだった。

 それなら一安心……。理恵はホッと安堵の吐息をつく。ただでさえ、転校して早々登校拒否になりかけただけに彼女の気苦労は決して小さくなかったはずだ。

 ここでふと彼女の頭の中に一つのキーワードが浮かんだ。それこそが、由美が学校嫌いになってしまうかも知れない最大の要因であった。

「先輩の学校って、不良ばかりが通う学校なんですってね」

「えっ――」

 このタイミングで問い詰められると思ってなかったのか、静加はびっくり仰天して言葉を失った。

 彼女が勤務する学校、矢釜市ではすっかり有名な派茶目茶高等学校。

 ”自主性の尊重と”自由奔放”がモットーということで学生たちは皆のびのびとしており、教師を含めて誰にも縛られることなく自由気ままな学園生活をエンジョイしている。

 勉学やスポーツという点で他校よりも劣る傾向があるせいか、矢釜市の中でもおバカな学校というレッテルを貼られており、素行不良の子供たちの託児所とまで呼ばれる始末であった。

 不良ばかりなんてことはない!静加は引きつった笑みでそう取り繕うが、理恵の方は怪訝そうに目を細めてそれを信じようはしない。どうやら彼女、会社の同僚から派茶目茶高校の良からぬ噂を聞いていたようだ。

「何でも生徒たち、割れた窓ガラスの隙間から登校して、壊れた壁の穴から下校するような学校なんですってね」

「ちょっとちょっと! そんなにスラム化してないわよ。どこからそんな話を聞いたのよ!?」

 大げさな表現ではあるが、学校に不良が少ないわけではなく理恵の言っていることもまんざら間違いではない。静加は言い逃れることができずにただ冷や汗を飛ばすしかなかった。

 実をいうと、彼女が冷や汗を飛ばすのは何もそういう理由だけではなく、不良というキーワードそのものに何やら意味深長な理由があるようだ。

「先輩は知っているはずです。わたしが大の不良嫌いだってことを」

「もちろん知ってるわ。でもね、あなたが心配するほど風紀が乱れているわけじゃないのよ」

 理恵はどうにも真実をごまかされているような気がして納得がいかなかった。だからといって、高校時代から信頼している先輩を疑うわけにもいかないわけで。

「わかりました。わたしだって先輩のことを信用してますから」

 ただし――!理恵が眉を吊り上げながら大声を張り上げると、さすがの先輩もビクッと心音を震わせて萎縮してしまった。正座を崩していた両足を組み直してしまうほどに。

「もしユミが不良になったら、先輩。しっかりと責任を取ってもらいますからね」

「は、ははは……。それは大丈夫よ、たぶん」

 威圧感たっぷりに脅してくる理恵。これには、いつも生徒たちの前で鬼教師と化す静加もたじたじであった。

 どうやら不良を敬遠しているのは由美だけではなく、ここにいる姉の理恵も同じ。しかも、語気を強めてまで嫌うのも何やら深いわけがありそうだ。

 それからしばらく雑談が続き、不良という言葉もすっかり鳴りを潜めたかに見えたが、後日、それがとんでもない形でぶり返してくることなど今の彼女たちは当然知るはずもなかった。


* ◇ *

 翌日、時刻は朝八時四十分。派茶目茶高校のホームルームの時間だ。

 二年七組の教室では、教壇に立つ静加が出席を取ったり連絡事項を伝えたりと、いつもと変わらない日常的なやり取りが行われていた。ただ、いつもと違うところが一つだけあったが……。

「ユミちゃん。申し訳ないけど、これが終わったらわたしと一緒に職員室まで来てくれる?」

「え? あ、はい」

 由美は椅子に座ったまま一瞬たじろいでしまった。それもそのはずで、職員室に呼び出される理由にまったく身に覚えがないからだ。

 これには他のクラスメイトも動揺の声を漏らしていた。何かしら特別な事情があるのだろうと誰もがそう思っていたところ、教室のドアを勢いよくこじ開ける男子生徒がいた。

「いやぁ、今日もしっかり寝坊したぜ。おかげさまで快調、快調。わっはっは!」

 元気良く声高らかに笑うこの男子こそ、二年七組の中でも選りすぐりの問題児、おバカな青春野郎と異名を取る勇希拳悟であった。彼は遅刻組とも呼ばれており、始業のベルと同時に着席していることはほとんどない。

 さわやかな朝を迎えた彼に待っていたのは、もはや言うまでもなく、空気を切り裂くほどの速度で飛んできた聖なる鉄槌だった。

「遅刻のくせに堂々と笑ってんじゃないわよ!」

『カッコーン!』

「ぐはぁっ!?」

 静加が渾身の力で放り投げたトンカチにより顔面を痛打した拳悟。いきなりそれはないだろうと、真っ赤に腫れた鼻先を押さえながら涙目になって不平を訴える。

「あんたは何回遅刻したら気が済むんだ? ホームルームが終わったら、わたしと一緒に職員室にいらっしゃい。いいわね?」

 鬼教師の小言がねちっこく囁かれる中、ホームルームの終了を告げるチャイムがスピーカーから聞こえてきた。彼女はふーっと大きく溜め息を漏らし、机の上にある出席簿を手に取った。

 一時限目の授業までのほんのわずかな休み時間。生徒たちは授業の準備もそこそこにしてガヤガヤと賑やかにしゃべり出す。そこには、クラス委員長の任対勝と拳悟の二人も混じっていた。

「ってなわけで、アホなヤツがいたわけよ」

「ああ、いるな。そういう世間知らずのアホ」

 困ったことに、拳悟は担任の出頭命令をすっかり忘れてしまっているようだ。そこへかかとを鳴らしてやってきた静加が、手に持っていた出席簿の角っこを彼の脳天に叩き落した。

「一緒に付いてこいと言ったろ!」

『カッコーン!』

「ぐはぁっ!?」

 本日二度目のお仕置きを受けた拳悟はまたしても涙目だ。霞んでいる彼の目に映ったのは、静加の後ろに付いていく不安と動揺を隠し切れない由美であった。

「あれ? もしかしてユミちゃんも職員室へ?」

「はい、理由は聞かされてないんですけど」

 おっかなびっくり教室から出ていく拳悟と由美の二人。彼の場合は説教の延長戦だろうが、彼女が連れて行かれる理由とはいったい……?


* ◇ *

 朝の職員室では、これから始まるさまざまな授業を前にして各科目の担当教師たちが所狭しと動き回っていた。

 テストのプリントをコピーしたり、教科書から課題項目を抜き出している教師たちがいるその脇で遅刻常習犯の拳悟はこっぴどく叱られていた。

 今年度の遅刻回数延べ五十二回。この学校設立以来の金字塔を打ち立てた彼にしたら、ここでのお説法などもう慣れっこではあったが。

「あなたね、わたしの立場も考えなさい。学年主任にどれだけ小言を言われるかわからないでしょう?」

「まぁまぁ、そう怒らないでよ。こう見えても俺さ、遅刻は多いけど欠席はゼロなんだぜ?」

「他の事を立てても意味はない。だいたい、最後の一時間だけ出席して欠席ゼロなんて威張らないでちょうだい」

 教師の静加と生徒の拳悟の掛け合いは、傍から見ていると漫才のようなコミカルさがある。それを横で眺めていた由美は笑い声こそ抑えつつも、ついつい頬だけは緩んでしまうのだった。

「あの、ケンゴさん。口を挟んで申し訳ないけど目覚まし時計とかセットしてないんですか?」

「目覚ましならセットしてるよ、ちゃんと」

 目覚まし時計を毎朝定刻に鳴らしているという拳悟。それなのにどうして寝坊してしまうのだろうか?静加と由美はそう聞き返さずにはいられなかった。

「いや実はさ、夏休み終わってから時刻を遅らせたんだ。あまりに早いとつい二度寝しちゃうもんで」

 拳悟が苦笑しながら言うには、これまでは朝の七時に目覚まし時計をセットしていたらしい。それならば、身支度や学校までの移動距離を考慮したとしてもどうにか遅刻しないで登校できる。

 ギリギリにも関わらず、セット時刻をさらに遅らせるという大胆不敵ぶり。彼がいったいどれぐらい時刻を遅らせたのか気になるところだ。

「やっぱり、八時半にセットし直したのがまずかったか……」

「ちょっと、八時半ってホームルームが始まる時刻じゃないの! それなら遅刻して当然でしょうが!」

 呆れ返ってしまい怒る気力すら萎えてしまった静加。ガックリと肩を落として、落第したくないなら遅刻を繰り返さないよう忠告するのが精一杯だった。

 拳悟の方も落第なんてまっぴらご免なわけで、明日から七時にセットし直すと改善を約束するもその表情はやや困惑気味であった。

「ケンゴくんはもう教室へ戻りなさい」

「へ~い、失礼しました~っと」

 まるで犬を追い払うように裏側にした手を振る静加、つまらなそうな表情で職員室を出ていこうとする拳悟、そして一人残されて心細くなる由美。

「お待たせ、ユミちゃん。ちょっとお話があってね」

 話の内容が極秘事項なのか、由美は静加の顔の近くまで寄るよう促された。

 ――いよいよ彼女がここへ連れてこられた理由が明かされる。ただでさえ職員室という独特の雰囲気に飲まれてか、彼女は表情を強張らせて緊張の息をゴクッと呑み込んだ。

「あのね……」

「はい……」

「…………」

 そこには女性二人しかいないはずだが、なぜか一つだけかぎかっこが多いのはどうしてか?それは、彼女たちのひそひそ話を盗み聞きしようとしている好奇心旺盛の男子生徒がいたからである。

「……ケンゴくん、あんた何してんの?」

「あっ……。うん、あのね、ぼくも混ぜてほしいなーと思って」

 ――次の瞬間、静加の目が鬼のごとく吊り上がり、鋭利な牙を覗かせる口がバックリと開かれた。

「さっさと教室へ戻らんかぁぁ!!」

「イエッサ~~!!」

 拳悟はそれこそ、犬のように尻尾を巻いて逃げ出していった。他の教師たちまで振り返るほどの怒声を上げた静加は、目を血走らせながらハァハァと肩で息をしている。

 由美はというと、取り乱している担任の目の前で呆然としていた。というよりも、その豹変ぶりにすっかり萎縮して言葉を失ってしまっているだけだろう。

 さて邪魔者が消えたところで……。静加は冷静さを取り戻して仕切り直す。由美は由美で、鼓動の激しさを止める余裕もないまま耳を傾ける羽目となってしまった。

「お話というのは他でもない、あなたのお姉さんのことよ」

「え、お姉ちゃん、ですか?」

 姉の話題を想像していなかったせいか、由美は驚きのあまりビクッと身震いした。しかも、小声による内緒話だから尚更だ。

 静加は悩ましげに眉根を寄せて、理恵を極力刺激してほしくない胸のうちを明かす。それはお願いというよりも命令に近いものがあった。

「あのね、理恵の前で不良がどうのこうのってお話はしないでくれる?」

 不良という存在を執拗に毛嫌いしている理恵。そのことはもちろん、彼女の妹である由美も知っているところ。しかし、その理由についてこれまで触れたり聞いたりする機会はなかった。

 由美自身も、過去にある古傷を引きずって不良そのものに嫌悪感を持っているが、姉にもそういった複雑な事情でもあるのだろうか?

 このような展開となれば話さないわけにはいかない。静加は意を決したよう溜め息をつき、理恵が高校時代に経験した”ある事件”について語り始める。

「あれは彼女が高校二年の頃かしら。部活動で帰りが遅くなってしまって、かなり急いで帰宅しようとしていたらしいの」

 ――ここからはその当時の回想シーンとなる。

 理恵は電車に乗り遅れまいと、いつもの通学路を横に反れて近道をしようとした。そこは数年前に閉鎖した工場の跡地で、そこを潜り抜ければ時間を大幅に短縮できる。

 後ろめたい思いながらも立入禁止の入場口の隙間から侵入した彼女は、夕闇という暗がりの下で視界の悪い足場を慎重に歩を進めていく。

 行いが良くないと天罰が下るのか、彼女はここで危機的状況に遭遇してしまう。誰もいないはずの廃墟と化した工場跡地にも関わらず、ここを集会場代わりにしている不良たちがいた。

「おっ、丁度いいところに女がやってきたぜ」

「えっ――?」

 気付いた時にはもう後の祭り。工場のすぐ脇でたむろしていた数人の男性に取り囲まれていた理恵。有無を言わさず拘束されてしまい工場内へと連れていかれてしまうのだった。

 一方、その工場内には番長格らしき不良の面々が顔を揃えていた。俗に言うウンコ座りをしながらタバコをふかしている彼ら、乱れた格好からも不規則で怠惰な私生活ぶりが垣間見える。

 ここに一人だけ、長ランと呼ばれる丈の長い学生服を着こなし鼻ひげを生やした貫禄のある男性がいる。どうやら彼がこの不良たちを取り仕切る総番長のようだ。

 低俗ながらも楽しい雑談に耽っている不良たち。そこへいきなり飛び込んできた男性の呼び声を耳にして、総番長はご立腹なのかしかめっ面を向けて怒鳴り声を張り上げた。

「うるせーな。どうかしたのか?」

「見てください、ほら。女を連れてきましたよ」

 女……?総番長の目の色が変わった。何やら怪しい狙いでもあるのか、ニヤリと口角を吊り上げる。

 彼の見つめる先にいる若き女性こと理恵は、小動物のようにすっかり怯え切っており目線の焦点が合わずに虚空を彷徨っていた。

 身の危険を察知してはいても、数人の男性に捕まっていては逃げることも叶わない。助けを呼びたくても、閉鎖された工場内ではその声すらも届くことはないだろう。

「総番、この女にやらせてみますか?」

「そうだな。女だったら誰でもできるだろう」

 密談のごとく小声で話し合っている総番長と番長格の男性。やはり、理恵のような女性を拉致することに何かしらの目的があったに違いない。

 それは突然の出来事だった――。総番長は立ち上がるなり、無造作に学生ズボンをずり下ろしたのだ。女ならできること、それを行動で示さんばかりに。

「えっ、えっ、えーっ!? ちょっと待って!?」

 ここに連行された真意を悟ったのか、理恵は声も全身も震わせながら大声という形で拒否反応を示した。彼女はまだ初心な高校生、男性のあらわな下半身など見慣れているわけがない。

「と、とと、とにかく許して! わたしそういうの経験がないというか、その下手というか何と言うか……」

 顔中真っ赤にして汗びっしょりの理恵。拘束されている両手首を振り乱して逃げ出そうと試みるが、不良たちの強い力に阻まれてしまいどうすることもできなかった。

 もはやここまでか――!彼女は目を塞いで神様に祈った。いや、祈るしかなかった。

(…………)

 ――その数秒後、恐る恐る片目を開けてみると、視界に映ったのはどういうわけか、総番長の両手から差し出されている学生ズボンとソーイングセットであった。

「悪ぃけどよ、ここの解れ、糸繕いしてくれ」

 理恵は足を滑らせてすってんころりん。床に頭を強打したせいで軽い脳震盪を起こしてしまった。

 匿名の通報により警察に保護された彼女、病院で精密検査を受けた結果異常はなかったものの、それからしばらく記憶がなかったという。ただ、不良に対する嫌悪のイメージだけは焼き付いてしまったが。

 姉が高校生の頃に体験した忌々しい事件――。それを初めて知った妹の由美は困惑の表情で俯いていた。彼女とて、不良にイタズラされそうになった過去があるだけに他人事ではないのだ。

「というわけだからユミちゃん。リエのことをあまり刺激しないでくれる?」

「わかりました、先生。わたしも口にしないよう気を付けますね」

 ホッと胸を撫で下ろす静加、そして複雑な思いに戸惑いを隠せない由美。立場こそ違えど、お互いにとって不良は切っても切れない仲なのである。

 彼女たち二人がそんな会話をしていることなど露知らず、不良と呼ばれてもおかしくはない拳悟はすでに教室に戻っていた。戻ってきて早々、仲間たちから質問攻めに遭ってしまったが。

「おい、ユミちゃん、何で呼ばれたんだ?」

 勉強熱心で品行方正な由美がなぜ!?クラスメイトたちはここぞとばかりに拳悟のもとに詰め寄った。みんながみんな色めき立って目の輝きが明らかにいつもと違う。

「あー、もう暑苦しい! おまえら、芸能人のスキャンダルを追っかけ回す報道陣かっ」

 こっそり盗み聞きしようとしたものの、あと一歩のところで職員室から追い出されてしまった拳悟。当然ながら、由美が静加に呼び出された理由など知り得るはずがない。

 あの優等生な彼女のことだ。気に留めるほどではないと思いつつも、小声で話すような秘密めいた雰囲気からもつい怪訝な顔つきをしてしまう彼なのであった。

 騒がしい報道陣(?)が去ったものの、拳悟と勝の二人はやはり由美と静加の内緒話が気になって仕方がないようだ。

「ユミちゃんとシズカちゃん、こそこそと何話してたんだろうな」

「う~ん、はっきりわからんが、男には話せない秘密の話なんだろう」

 男子には内緒の秘密なお話――。はてさて、それはいったいどんなもの?

 勝と拳悟の頭の中に膨らんでくる妄想とは、バラやユリの花で敷き詰められた花園で、肌と肌を寄せ合う女性二人の魅惑に満ちた艶かしい姿だった。

(ユミちゃん、とってもきれいよ)

(あっ、先生……。ダメ、そんな、女同士でこんなこと……)

 いわゆるガールズラブ。そこに映し出されたシーンは、静加と由美の誰にも知られてはいけない教師と生徒の垣根を越えた禁断の愛。

 まさか職員室で密会の相談?いくら何でもそれはありえないと、浮世離れした妄想をしてしまった彼らは赤面しながら苦笑していた。

「おいおい、それは冗談じゃ済まないって」

「ははは、俺たち何考えてんだろうね、まったく」

 それから数分後、一時限目の授業が始まる直前に由美は教室へ帰ってきた。

 やはりというべきか、仲間たちから興味ありげにいろいろと詮索される彼女だったが、最後まで細部について触れることはなかった。いやむしろ黙秘したかったのが本音であろう。

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