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第十一話― 体育祭シリーズ⑥ いよいよ決着!男女混合リレー(2)

 最後に残った三年生のリレーも滞りなく実施されて、派茶目茶高校の体育祭は盛大なる歓声が巻き起こる中で競技のすべてを終了した。

 生徒たち一同は閉幕式のためにグラウンド中央へと集結する。一部の生徒こそ面倒くさがってエスケイプしていたが、ほとんどの生徒が感動と思い出を胸に抱きながら清々しく整列していた。

 総合優勝を手に入れた八組チームが発表されると、惜しくも準優勝となった七組の生徒たちを含めて、どのチームの生徒たちも割れんばかりの拍手でそれを賞賛した。

 いよいよ栄えある八組チームの表彰式が始まった。優勝旗の授与のために教師の静加に手招きされて壇上へ上がるのは、ヨボヨボじいさんのようなこの学校の校長だ。

「え~~~。本日はぁ~~、お日柄もよく~、これから始まる体育祭には絶好な一日となりました~~」

「コウチョウ、コウチョウ。その体育祭はもう終わってますよ。ほら、優勝旗をさっさと渡してくださいな」

 すっかり呆れ果てた静加から薄毛の頭をポンポンと叩かれる、きっと天然ボケではなく本物の認知症なのかも知れない校長であった。

 名誉ある優勝旗を手にした八組チームのリーダーである須太郎。総合優勝に貢献してくれた地苦夫と中羅欧と一緒に大きな優勝旗をそよ風の中で大きく振り回した。

 グラウンド上が大きな拍手に包まれる中、静加から優勝の喜びの一言を促された須太郎はマイクを握り締めて気難しそうな表情を浮かべる。

「……我が八組の軍勢が勝利した背景こそ、緻密とも言える日頃からの訓練の賜物だ。配下の軍勢どもには、毎日腕立て伏せを百回以上と、腹筋を二百回以上……」

「あのさ、スタロウ。戦争に勝利したんじゃないから優勝した喜びだけマイクに乗せてくれよ」

 須太郎と地苦夫の漫才を見ながらケラケラと笑っている生徒たち。その和やかな群集の中には、どこか心残りを拭い切れないハチャメチャトリオの姿もあった。

「まったく、見てられないぜ、あのアホども。やっぱり、俺たちが優勝すべきだったんだよ」

「まーな。そもそも、あいつらは優勝チームの器じゃねーのよ。何たって役者が違い過ぎる」

「まーそういうなよ。勝負は勝負。今回だけは悔しいけどアイツらのことを褒めてやろうぜ」

 こんな感じでいろいろな出来事があったが、笑いの絶えない閉会式も定刻通りに終わり、派茶目茶高校のビックイベントである体育祭もついに閉幕の時を迎える。

 校舎へと引き上げていく生徒たちはみんな、参加した競技の一つ一つに思いを馳せて、その時の順位や結果を思い起こし一喜一憂したりする。

 それが一つ一つの忘れられない思い出となり、青春の代名詞となるべく高校生活の楽しい思い出として記憶に刻まれることだろう。


* ◇ *

 夕日も地平線へと落ちかけた、午後五時になろうかという時刻。

 夕暮れ時の派茶目茶高校の前庭では、生徒たちが仲間たちと雑談しながら下校しているシーンが見受けられた。疲労感もあるはずだろうが、どの表情もとても明るくて清々しい。

 学生らしいその人並みの中には、二年七組のメンバーとしてチームを牽引した拳悟と、彼に誘われて一緒に帰宅しようとする由美の姿もあった。

 競技にたくさん参加したことや同組のライバルと熱戦を演じたことなど、二人は体育祭の思い出を笑顔で振り返っていた。

「でもさ、やっぱり総合優勝はしたかったよね。今思えば、前半戦から真面目にやっておけば良かったな」

「準優勝でもすごいことですよ。わたしは順位よりも、みんなが力を合わせて掴んだ結果が大切だと思います」

 紫色のリボンで止めていた黒髪を解いていた由美。心地の良い微風に吹かれていた彼女は、この学校で初めて体験した体育祭の素晴らしさに達成感という喜びを声に乗せていた。

 そんな彼女の手のひらの上には、そよ風でも飛んでしまいそうな赤いリボンが乗っていた。それこそ、すぐ隣にいる拳悟と一緒に掴み取った二人三脚の一等賞という成果であった。

「あ、その一等賞のリボン、持って帰るんだね」

「はい。わたしにとって素敵な思い出ですから。もしかして、ケンゴさんは捨てちゃったんですか?」

 そんなバカな!といった顔で両手と頭をぶんぶんと振り乱した拳悟。すぐさまジャケットのポケットから功績の証しであるリボンのすべてを取り出した。

 彼の手のひらの上には二人三脚で勝ち取った赤いリボンだけではなく、ムカデ競争で勝利したリボンや、それ以外に奮闘してゲットした二等賞の青いリボンも混じっていた。

「賞金も賞品もないケチな体育祭の数少ない記念品だからね。自宅の額縁にしまってさ、子孫に代々受け継いでいかないとね」

「それはまた、気が遠くなるようなお話ですね。受け継いだお子さんたちもきっと、拳悟さんのことを誇りに思ってくれますよ」

 拳悟の他愛もないジョークを由美は素直な気持ちで真に受けていた。彼女のことが愛おしく思えたのか、彼はそれにあえてツッコんだりせずその心遣いを心のままに感謝するのだった。

 日の沈みかけた景色に映える赤色と青色のリボン。それらをまじまじと眺めて、由美は口元を緩めながら囁き始める。

「ケンゴさんの成績も、チームの準優勝も、やっぱりスグルくんとの男同士の決戦が大きかったかも知れませんね」

 体育祭という華やかな舞台の裏で繰り広げられた、拳悟と勝のプライドをかけた熱き闘い。カラフルなリボンのいくつかはそれをきっかけにして手に入れたものだ。

 まさにその通りだなと拳悟は一人でクスリと苦笑する。とはいうものの、顔色には少しばかり恥じらいの色が浮かんでいた。

「ちょっとクサイ感じはあったけど、すべては結果オーライだもんね。これも青春ドラマっぽくて俺向きだったのかもな」

 その時、笑い合う二人に声を掛けてきた男子生徒がいた。怒鳴りにも似た声色から、拳悟にとっても由美にとっても馴染みのある聞き慣れた人物の声だとすぐにわかった。

「おう、スグル。何か用か?」

 拳悟たちに駆け足で近づいてくるのは、同じクラスの勝と拓郎、そして彼らのことを慕って群がる十数人のクラスメイトたちであった。

「いやな、これから準優勝を祝して、近くのサ店で反省会と打ち上げをやろうと思ってるんだ。どうだ、二人とも付き合わねーか?」

 勝はさっぱりとしたスマイルを零し、最後までチームのためにがんばってくれた功労者二人を誘おうとした。もちろんその背景には、健闘と努力を労いたいというクラス委員長としての責任感があったのだろう。

 そういう勧誘は大歓迎の拳悟は、両手をパチンと叩いて行こう行こうといった感じで嬉しそうに口元を綻ばせた。

 一方の由美は逡巡とした顔つきからして、どちらかといえば自分の意思では決断に困っており、他の誰かに背中をもう一押ししてほしい気分だったようだ。

 そう、そんな彼女の背中を優しくプッシュする者こそ、傍にいてくれたからこそ一生懸命にがんばれた、彼女にとって憧れの的であり誰よりも信頼を寄せている拳悟だった。

「ユミちゃんも一緒に行こう。みんなでパフェでも食べながらさ、今日の一日を賑やかに振り返ろうよ」

 由美はパッと表情を明るくして、迷いも戸惑いすらなく本心のままに声を弾ませた。

「はい! ご一緒させてください」

 由美はこの時、親友と呼べる存在の価値をさらに知ることになった。

 遠慮したり、周囲に気兼ねなんてもう必要ない。彼女は派茶目茶高校の二年七組の生徒の一人として、逃げたりせずがんばっていこうと新たなる決意を固めていた。

 拳悟と由美も加わり、勝を筆頭にした二年七組の集団は和気あいあいとしながら喫茶店に向けて闊歩していく。友情という絆で繋がった彼らのことを暖かみのある黄昏がいつまでも見送ってくれた。

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