デートスタート
思い返してみるに、陽向と仲が良くなったのはいつ頃か判然としないことに気付いた。新入生たちはよく誘って飲みに行っていたし、文芸部の活動の時には意識して話しかけるようにしていた。
そうしているうちに、なんとなく陽向と黒井さんが近くにいる事が多くなったような気がする。
そうは言っても、月子と付き合っている時は、そんな一緒にいた覚えはない。
特に距離が近くなったのは、やっぱりここ最近なのだ。
そんな彼女だから、怖がらせてしまったことに動揺した。
陽向はどういうつもりで俺を呼び出したんだろう。
「悪い、待たせたか」
「大して待ってないですよ。三人くらいから声はかけられましたが」
「それは待ってたアピールなのか、私可愛いアピールなのか」
「両方です」
そうでしたか。
彼女の口調はいつもと変わらない。
俺もいつも通り話せているのか、よく分からなかった。
「袴似合ってるな。陽向もレンタルしたのか?」
「ありがとうございます。先輩もリーシャちゃんたちと過ごして、少しは女の子の扱いが上手になりましたね。ちなみにこれは実家に眠っていた母のです」
「余計なお世話だ。袴が家にあるって、すごい家だな‥‥」
陽向の袴は、菖蒲色のグラデーションが鮮やかな袴だった。見た目は現代のイケイケギャルといった陽向なのに、和服を着るとシャンとした雰囲気が出るから不思議だ。多分、立ち方とか、一つ一つの所作が綺麗だからだろう。
「別に、物持ちがいいだけの普通の家ですよ」
「物持ちがいいのレベルが高いんだよ」
前々から思ってたけど、君結構いいところの生まれだろ。
これでも高貴な方々とは地獄のように付き合いのあった俺だ。それくらいは見れば分かる。
陽向はクルリと向きを変えると、言った。
「じゃ、行きましょうか」
「なんか用件があったんじゃないのか?」
「そんなの歩きながらでも話せますよ」
確かに。
俺は陽向の一歩後ろを歩き出した。
今回は少し短めです。
ここからは陽向のターン。




