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空中戦

 イリアルの魔術は『白輳の翼(スカイドール)』。魔法陣の働きを備えた幾何学模様の翼を展開し、そこから様々な魔術を発動させる攻守に隙のない魔術だ。


 強力な魔術を瞬時に連続で発動できるイリアルは、白兵戦において無類の強さを誇る。


 しかし先に仕掛けたのはロゼの方だった。


「フィフィ、串刺しにしなさい」

『キハハ、任せろよぉ!』


 声は上から聞こえた。


 月を隠して飛来する夜よりも濃い矢だった。


 イリアルは即座に防御術式を発動し、矢を防ぐ。目前で衝撃が光と共に弾け、一秒と保たずに防御術式は破られた。


 イリアルは既に上空に飛び上がっていた。まともに受ければ体の半分を抉られていただろう。


 しかしそれでは逃げ切れない。矢は地を這うように木々を貫き、再び空へと舞い上がった。


「鳥?」


 それの正体は矢ではなく、四枚の翼と鋭い嘴を持った鳥だった。

 至る所が羽毛ではなく鎧のような硬質な輝きを帯び、その強固さが窺える。


 その口から聞き覚えのあるがなり声が聞こえてきた。


『よくも避けやがったな。だがこっちに来たのは悪手だぜぇ。空に攻撃できるのは(ゼネ)だけじゃねえんだからよ』


 この鳥がフィフィの正体か、あるいはフィフィがこれを操作しているのか。


 フィフィの言っている意味を理解しようとした時、イリアルは下から感じる悪寒に下を見た。


 巨大な光弾がイリアルを撃ち落とさんと迫っているのが見えた。


「っ⁉︎」


 翼を使ってその場から離脱する。大気が焦げる嫌な音が響き、光弾は空に消えていった。


 下ではロゼがこちらを見上げていた。

 ただ先ほどまでと違い、彼女は一頭の馬に横座りで乗っていた。


 それもまた雄々しい角を生やし、足元には光を湛えている。ただの馬でないことは明白だった。


 どうやらあれが光弾を撃ち出してきたらしい。


『余所見している暇はねえぜ!』


 気を取られたところに(ゼネ)が突っ込んでくる。今度は複数の白槍を作り出し、迎え撃った。


 さながら機関銃のような速度で放たれる槍が(ゼネ)に正面から衝突する。


 しかし四翼の矢は止まらない。その全てを弾き飛ばして向かってきた。


 耐久力が高いというだけではない。何らかの魔術によって攻撃が弾かれている。


 妨害無視の高速起動、厄介ね。


 イリアルはそれ以上の迎撃を諦め、回避に専念した。


 (ゼネ)ばかり相手をするわけにはいかない。今最優先で狙うべきは術師本人であるロゼだ。


 そのロゼは馬の機動力で林の中に隠れていた。暗闇のせいで視認し辛いが、枝葉の動きを見れば追うことはできる。


 イリアルは高度を下げてロゼ同様に林の中へ突っ込んだ。


 恐ろしい速度で迫る木々を巧みな動きで避けながらロゼを追う。


『それで逃げ込んだつもりかよ!』


 背後からフィフィの声と共に、(ゼネ)が障害物を切り裂く音が聞こえた。


 端から逃げるつもりはない。


 ロゼを追うのに(ゼネ)が邪魔だというのなら、まずはそれを排除する。


 イリアルはその場で急制動をかけ、勢いを殺す。内臓が潰れそうな圧を感じながら、身体を捻り上へ逃げる。


 直後、イリアルの真下に(ゼネ)が飛び込んできた。


『ああぁ⁉』


 上を取った。装甲が厚いというのなら、至近距離で貫く。

 

白輳の翼(スカイドール)』の紋様が歌うように輝き、魔力は形を成した。


「『熾天を告げる輝槍(セフィリアータ)!』


 広範囲を消し飛ばす殲滅魔術。それを一点に集中させて(ゼネ)の背へと撃ち込んだ。


 辺りに響くそれは、もはや掘削音だった。音と音が重なり、腹の底から震えるような衝撃が伝わってくる。


「砕けなさい」

『糞がぁぁああああ!』


 四翼が逃れようと羽ばたくが、時すでに遅い。


 数多の光槍が防御術式を砕き、鎧のような外殻を貫いた。


 穂先が地面にぶつかり、土砂が巻き上がる。(ゼネ)もまた制御を失い、林の奥へ墜落した。


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R15 残酷な描写あり 異世界転生 異世界転移 キーワード男主人公 ギャグ 主人公最強 勇者
― 新着の感想 ―
[気になる点] 最近全く話が進んでませんね。 魔族の話は閑話程度で良いのでは?
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