第51話 少女の喝
◇少女と夜◇
「入るね…」
部屋の外から聞こえてくる、聞き慣れた可愛い声。
ただその可愛さの中には、何か別の威圧感を感じる。
「あ、ああ」
俺はその雰囲気に押されて、こんな情けない返事しかできなかった。
ガチャッ。
扉が開かれると案の定というべきか、もの凄いオーラをまとった華音の姿があった。
正直怖すぎて声も出ない。
「ねえ、何でメール返してくれないの?私はただ心配してるだけなのに…」
華音が口を開いた途端、さらにオーラが増大したような気がした。
流石にこれ以上大きくなると手を負えなくなりそうだ。
どうにか弁解しないとやばそうだ。
「ごめんな華音。寝てたからメールに気づかなかったんだ」
俺は華音の頭を撫でながら、優しくそう言った。
華音はまだ子供らしい部分があるし、これをしておけば丸く収まるだろう。
そんな浅はかな考えだったが、現実はそう甘くなかった。
「子供扱いしないで。というか大事な用事の前に爆睡してるなんて、緊張感が足りないんじゃないの?」
「うぐっ…、次から気をつけます…」
その通り過ぎるド正論をぶつけられて、思わず声が出てしまった。
というか10歳以上年下の相手に説教されてんのか、俺は。
なんか恥ずかしくなってきた。
「うん、そうした方が良いと思う」
華音はさっきまでの威圧感を緩和させ、クスクスと笑いながらそう言った。
なんだこの小悪魔は…。
「そんなことより!華音は何か用事があって、俺の部屋に来たんだろ?」
俺は普段見られない華音の一面を意外に思ったが、このなんとも言えない雰囲気を打破するため、口を開く。
流石にこのからかいには耐えられないからな。
しかし華音はきょとんとした顔を俺に向け、静かに口を開く。
「いや、ただ心配で来ただけだけど」
「…は?本当にそれだけなのか!?」
「うん、それだけだよ」
華音の言葉に拍子抜けした俺は、思わずベッドに座り込んでしまった。
だってあれだけの威圧感で、なぁ。
何も無いとは誰も思わないだろ。
「じゃあ私はこれで。夜の任務頑張ってね」
俺が座り込んでいると、華音はそう俺に声をかけてくる。
「あ、ああ」
なんか"夜の任務"と言われるといかがわしい風に聞こえるが、俺は特に指摘する力もなく、華音が退室するのを見送った。
なんか無駄に気を引き締めて損したな。
…そう言えば華音、メールでご飯誘ってくれてたよな?
結局良かったんだろうか。
まあこの落とし前は、今度つけることにしよう。
…しかしさっきの華音、普段のあいつからだとまず考えられない態度と口調だったな…。
何かあったのだろうか?
…いや、考えすぎだな!
結果的に華音のおかげでを引き締められたんだから、良しとしよう!
そう思い俺は思考を放棄し、来る深夜に向けて準備を始めた。




