第50話 思考と絶望
◇眠り前の思考◇
土田と話したあと俺は、自室へと戻ってきてある問題について思考を巡らせていた。
それはもちろん、俺達が行っていた事件の調査についてだ。
土田との会話で俺達が知りたかった情報は手に入ってしまったが、事件の実行犯を見つけることは、来田の情報を集めるためにも必要なことだ。
本来の目的は達成したのなら、華音を巻き込まないためにも俺が単独で動くべきだろう。
しかしそれならば、田嶋が俺に華音を同行させた意味がなくなってしまう気もする。
その意味は何なのか分からないが、田嶋に何かしらの企みがあるのならば、改めて話し合う必要があるだろう。
でもまあひとまずは、今日の深夜の呼び出しに集中するのが良いだろうな。
これは1人で解決できなくはない問題だし、さっきの問題の結論が不透明である限り、華音には変に連絡しない方がいいだろうし。
別に今日直接連絡してもいいんだが、良くも悪くもさっきの土田のせいで、軽率に会話することの危険性を理解させられてしまったため、中々その行動を行うには勇気がいる。
それより重大な問題は、今日俺を呼び出した人物について、そしてその人物をどう対処するかだ。
土田曰く、来田はマフィアとの関わりでアメリカにいるらしいため、まず来田本人であることは考えにくい。
となってくると、来る人物は本当に想像ができなくなってくる。
でも来田商事株式会社のパソコンからデータがでてきた時点で、来田側勢力の人物であることはほぼ確定なんだけどな。
まあこれ以上は考えても無駄か…。
そう思った俺はある程度の護身用具を用意して、その後はタイマーを午後7時にセットしてから、ひとまず仮眠を取ることにした。
◇眠り後の絶望◇
ゴーン、ゴーン♪
俺のスマートフォンからの独特な重低音で、俺は目を覚ました。
時間は7時30分、どうやらスヌーズ設定をしてから寝るという行為を何回かしてしまったらしい。
社会人あるまじき行動だな。
そう思いながらも俺は、画面のストップに手を動かし、大音量のアラーム音を切った。
切ったついでに通知を見てみると、華音から7通ぐらいのメールが送られてきていた。
俺は不思議に思い、恐る恐るメールを確認してみる。
ーー牧野さん、今から夜ご飯一緒に食べない?ーー
ーー私は丼系が食べたいかな。カツ丼を食べて、今日の勝舞に勝つっ!なんてねーー
ーー返事がないけどどうかした?もしかして何かあった?ーー
ーーどうしたの?ーー
ーーねぇ?ーー
ーーもしかして私のこと無視してるの?ーー
ーー今から部屋に行くねーー
メールはここで途切れていた。
特に面白くもないダジャレもそうだが、本人は意図していないであろう、メンヘラムーブを醸し出しているこのメールに、俺は少し戸惑ってしまった。
俺はひとまず落ち着いて、メールに返信しようとした。
しかし俺が言葉を打ち込む前に、
コンコンコンッ
と壁を叩く音が聞こえてきた。
メールの内容的におそらく華音だろう。
意図せぬメールスルーで気まずいと思っていたのに、流れるように俺の軌道修正を阻止してくる現実。
俺は思わず、
『あ、これ終わったわ』
と心の中でそう力無く呟いた。




