第43話 2人の恐怖
◇男のトラウマ◇
組長室を出た後、俺達は田嶋の情報をもとに、俺の以前の勤務先である"来田商事葉賀支部"まで向かっていた。
どうやら来田は、全国の来田商事系列の会社に、"あるデータ"をそれぞれ隠しているらしい。
じゃあ何故この情報を知っておきながら、田嶋や土田は調査に乗り出さなかったのかと疑問に思ったが、どうやら来田の警戒心が異常に高かったらしく、会社員の会社の情報の漏えいを徹底的に阻止していたため、潜入がかなり難しかったらしい。
たとえ侵入できても、会社の内部構造が事前に調査することができないため、任務完了には多くの時間を要し、リスクを伴ってしまう。
前までならそうだったらしい。
だが今回は、以前まで勤務していて知識のある俺がいるため、田嶋はこの作戦の決行をすることに踏み出したらしい。
だが正直この任務は、俺にとって少しつらい部分がある。
もちろん失敗は許されないというプレッシャーもあるが、それ以上に過去に勤務していた会社に、しかも来田に人生を変えられてしまうきっかけになってしまったこの場所に、俺は少しトラウマを覚えてしまっているのだ。
このトラウマは正直簡単に消すことはできない。
だが今の俺には、守るべき人間である華音がいるのだから、そんなことは言っていられない。
逆にその重圧が、俺の恐怖心を誤魔化してくれている。
俺はその仮初の勇気を胸に、少しずつ迫る恐怖の元凶へと足を進めた。
〜重圧〜
俺達が特に話もさずに歩いていると、あっという間に目的地に着いた。
別に互いに喧嘩をしているわけでもないし、互いに嫌っているわけでもない。
"プレッシャー"の一言が、俺達の背中に重りを乗せてしまっている。
俺はそんな空気を打破すべく、身体を震わせている華音に対し、口を開く。
「なあ華音。身体が震えているけど大丈夫か?もしかして怖いのか?」
「…はい。私は今まで組の中でも率先的に仕事をするほうじゃなかった。汚れ仕事は周りの人や、お父さんが全部代わってくれた。だから私は、こういうタイプの実践は初めてなので、緊張もしているし怖い部分もあります」
「そうなのか」
華音から放たれる意外な事実。
確かに田嶋ならその辺は裏を回しそうな性格をしているが、逆に今回は何故俺と共に任務に向かわせたのかが不思議に思えてくる。
普通に考えれば恐怖心打破のために、その問題は己で回復させろっていう考え方もあるだろうが、流石に初心者同士の俺達を組ませる必要はないだろう。
…ああ、駄目だ!
考えれば考えるほど、わけがわからなくなってくる。
俺は一旦考えることを放棄した。
「まああまり気は負いすぎるなよ。俺も経験はないとはいえ、土田に色々叩き込まれてるからな」
俺はそう言いながら、華音に変装用の道具を差し出す。
すると華音は、作り笑いを俺に向けて
「ありがとう」
と言い、変装道具を受け取ってくれた。
華音の調子は少し不安だが、田嶋にせっかく機会をもらったのだから失敗するわけにはいかない。
その思いを胸に俺達は、そそくさと木陰に隠れ、2人で変装の準備を始めた。




