第40話 覚悟と誤解
◇翌日◇
華音誘拐から1日、俺は華音と共に、組長室へと向かっていた。
華音の通う景栄高校は、今回の騒動の後処理のため、1週間の休校ということになった。
だが、流石裏社会の学校というべきか、今回の騒動はニュースにすらならなかった。
そのため今日は、朝早くから2人で行動ができるわけだ。
「やっぱり気まずいか?自分の父の過去を探るのは」
俺が歩きながら、華音にそう尋ねると、彼女は、
「もちろん気まずいですけど、私にとっても、牧野さんにとっても大切なことだから、覚悟はできてます」
と顔色も変えず答える。
周りに目があるからなのか、いつもの強気で、怖がられるような態度を取る華音。
いつもの彼女を知る俺にとっては、少し苦しくも見える。
「そうか。あまり無理はするなよ」
俺はそんな華音が不安になり、そう声をかけた。
だが華音は、相変らず調子を崩さず、強気な態度で返事をしてきた。
それから雑談がしばらく続き、あっという間に長い廊下の奥に着いた。
相変らずの大きい扉に圧倒されつつも、俺は扉を軽くノックした。
すると部屋の中から、
「入れ」
という声が聞こえてきた。
俺たちは互いに頷き、緊張しつつもドアノブに手をかけ、扉を開けた。
「失礼します」
「失礼します、お父さん」
俺達が挨拶をすると、田嶋は驚いた顔をし、
「お前ら2人が同時に来るなんて珍しいな。何か用か?」
と言った。
確かに何度か組長室に来ることはあったが、2人で来ることはなかったな。
田嶋が驚くのも納得だ。
「俺達が来たのは、田嶋に聞きたいことがあるからだ。」
俺がそう言うと、田嶋は渋い顔をしながら華音を見つめ、その後俺の顔にも目を向け、
「なるほどな。お前たちが聞きたいことはある程度分かった」
と言った。
流石はくせ者をまとめる組長といったところだ。
他人の感情を読み取るのがうまいな。
そう思った俺は、田嶋に、
「ああ、田嶋の想像する通りだ」
と言いながら、強い眼差しを向ける。
すると田嶋はため息をつき、口を開いた。
「分かった。じゃあその質問を聞く前に、俺からも聞くことがある。」
俺はその声を聞くと、心臓の鼓動が速くなっているのを感じた。
果たして何を聞いてくるのだろうか?
「お前たちは互いのどんなところを好きになったんだ?」
「…は?」
突然発せられた謎の質問に、俺は時が止まったように固まってしまった。
互いが好きなところ?
何を言ってるんだ?
「私は優しいところと、無茶をしてでも助けてくれるところと…」
「何平然と答えてるんだ!?」
何故か顔を赤らめながら答える華音に、俺は思わずツッコミを入れた。
そのツッコミを聞くと田嶋は、不思議そうに俺を見つめてきて、俺に衝撃の一言を放ってきた。
「えっ、だってお前ら付き合うんだろ?」
「何いってんだ!付き合わねえよ!」
俺は田嶋の一言に対し、強めな反論を返した。
すると田嶋は、
「えっ?だっていつも感情を出さない娘が、気恥ずかしそうに男を連れて来たんだぞ。交際の許可を取りに来たんじゃないのか?」
という馬鹿げたことを言ってきた。
だから俺は弁明も兼ねて、田嶋に正論をぶつけてやることにした。
「あのなあ、華音にも言ったが、三十路手前の男が高校生を狙うわけないだろ。それに、交際の許可は基本取らないぞ。許可を取るなら婚姻の方だろ」
すると田嶋は、目線を下にやりながら、
「そうだったのか、悪かったな」
と言ってきた。
まったくなんて間違いをしてるんだ。
この前は手を出すなとか言ってきたくせに。
まあもっと謎なのは、俺の好きなところを言い、今隣で茹でダコのように頬を赤くしている華音なんだが、そこは触れないでおいてやる。
それよりも、脱線した話から本題に戻さないとな。
「田嶋、俺達がお前に聞きたいのは、恭子さん殺しに関わっている人間についてだ。昨日の騒動から華音の調子がおかしいんだ。華音のためにも教えてくれないか?」
俺が改めてそう頼むと、田嶋はあからさまに暗い顔をした。
だが、しばらくの沈黙の後、田嶋は覚悟を決めたように口を開いた。
「今から話す話は、ここにいる3人だけにとどめておけ。たとえ信用できる人物であっても、絶対に話すな。それができるなら話してやる」
その声を聞いた俺達は、全く同時のタイミングで、
「「分かった」」
と言った。
あまりの即答ぶりに田嶋は驚いていたが、すぐに安心そうな顔をして、俺達に目を向け、力強くこう言い放った。
「分かったよ。あまり話したくはなかったが、娘のためだからな、教えてやるよ。あの事件の俺が知る限りのことをな」




