第30話 2つ目の盟約
◇男の決意◇
「俺にヤクザになれ?いったいどうしてそんな事を?」
俺が純粋に思ったことを女に尋ねると、女は顔色を変えずに、理由を語ってくれた。
「まあ困惑する理由もわかるよ。じゃあ1から説明しようか。涼子さん殺害の真犯人、それは来田正成っていう男なんだ。来田は尻尾を中々掴ませてくれなくて私も困ってる。そんな中、最近あることが発覚したんだ。来田は自分の勢力を強めるために、"ヤクザ"や"暴力団"に接近しているらしいんだ」
「つまり、俺に来田正成と接近して欲しいって事か?」
俺が聞くと女は、頷きながら、
「話が早くて助かるよ」
と言った。
「だがなぜ俺がやる必要がある?別に他のヤクザ事務所と手を組めばいいんじゃないか?」
俺がふと頭に浮かんだ疑問を聞くと、女は、
「それができたら1番楽だったんだけど、もう日本の有力なヤクザ事務所や暴力団は、みんな来田の勢力圏にあるんだ。来田の莫大な資金力が原因だろうね」
と言われてしまった。
だから1からヤクザ事務所を作り、その組と来田を接近させる。
いわば、潜入捜査をしろってことか。
だが…、
「そんなぽっと出のヤクザ、来田が信用するのか?逆に怪しまれて潰される可能性もあるんじゃないか?」
俺は、考えられる可能性を女に伝えてみた。
すると女は、
「信用されるようにすればいいんだよ。長丁場にはなるだろうけど、ヤクザ事務所としての名を日本中に轟かせるんだ。もし潰されそうになっても、私がいれば大丈夫。絶対思い通りにはさせないよ」
と、自信ありげに話してきた。
いったい何者なんだよこの女は。
そんな疑問も頭によぎったが、たしかに少しずつ努力していけば、ヤクザ事務所の規模も大きくなるかもしれない。
そうなれば、俺が望む来田への復讐は可能になるのかもしれない。
その可能性に希望を持ってしまった俺は、もう立ち止まれなかった。
「そういうことなら良いぜ、その条件を呑んでやる。ヤクザにでもなんでもなってやるよ」
気づいたらそう言っていた。
その言葉を聞いた女は、
「ありがとう、君が条件を飲んでくれて嬉しいよ。今ここで盟約は結ばれた。君と私は今から盟約者だ!」
と、力強く言った。
盟約か…。
そんな大層なものだとは思わないが、まあいいだろう。
俺はこれからヤクザになって、来田正成を欺き殺してやる。
俺の野望は今ここで、この盟約をもって始まってしまった。




