第28話 驚愕と疑問
◇廊下の先に◇
長く整理された廊下、そこを歩いた一番奥にある組長室。
外から見ただけで威圧感を感じるその扉を、俺は控えめにノックする。
すると奥から、
「入れ」
という険しい声が聞こえてきた。
「失礼します」
俺は静かにドアノブに手をかけ、丁寧に礼をしながら部屋へ入った。
するとそこには田嶋と、俺の"想定していなかった人物"がいた。
「えっ!?」
その人物は俺が入ってくるなり、そう驚きの声を上げた。
そりゃそうだろうな。
その人物はもう俺と会うことなんて無いと思っていたんだから。
正直俺もまさか再開の時が来るとは思っていなかった。
「お久しぶりですね、田嶋華音さん」
俺は一応、挨拶をしておく。
何故ここにいるかは分からないが、この"海城組"の本部にいる以上、何かしら関係がある人なんだろうからな
、印象を悪くするのはよろしくない。
すると彼女は、
「ええ、久しぶり…です」
と、しおらしく面を食らったような声で返事をしてきた。
その声を聞いた瞬間俺は、少し違和感を覚えた。
以前会った彼女は、どこか自信ありげで、高飛車な印象を受けた。
だが今回は、まるで"小動物"かの様に縮こまってしまっている。
俺はこの少し気まずい雰囲気を打破しようと、何か言葉をかけようとした。
だが、なかなかその言葉は思いつかない。
彼女も彼女で何か話したそうにしているが、そちらもなかなか声が出てこない。
どうするべきだろうか。
そう思っていると、この気まずい雰囲気を察したのか、田嶋が俺達に向かって、
「まあふたりとも落ち着け」
と話しかけてくれた。
まじでファインプレーだ。
俺は、田嶋が作ってくれた雰囲気を崩すわけには行かないと思い、さっさと本題に入ることにした。
「それで組長、俺に用事とはいったい何ですか?」
それを聞くと田嶋は、
「ああ、その話な。お前もそろそろ組の雰囲気には慣れてきた頃合いだし、そろそろ新しい仕事を任せようと思ったから読んだんだよ」
と言ってきた。
まあ大方の予想通りだな。
「ありがとうございます。それでその新しい仕事とは何ですか?」
俺がそう言うと田嶋は、
「その仕事はな、」
と言いながら華音の方に目をやり、衝撃の一言を発してきた。
「俺の一人娘、"田嶋華音"の世話係をやってほしい。」
「はい、分かりま…ん!?」
返事をしようとした俺だったが、田嶋の衝撃の一言に、返答がブレーキをかけてしまった。
田嶋華音が田嶋の娘…。
たしかに一度は考えたことではあったが、『どうせ違うだろ』とどこかで否定し、考えないものとしてきた。
だが、それが真相だとすると、話は変わってくる。
「組長、娘さんがいたんですね…」
俺が弱々しく言うと、組長はニヤリと笑い、
「意外か?」
と聞いてきた。
「いえ、そんなことは!まず俺は組長が結婚していた事も知りませんでしたので驚いただけです!」
俺は焦る気持ちを抑えながら、なんとか返答した。
すると田嶋は、どこか悲しそうで、懐かしさに浸っているような顔をし、
「まあそうだろうな。俺の家内はもうこの世にはいない。勘違いしても仕方ねえさ」
と言った。
家内がもう亡くなっている。
その悲しい気持ちは俺も共感できる。
俺も実際亡くした一人だしな。
だからこそ、その気持を知っているからこそ俺は、"田嶋魁哉"という男に興味を持ってしまった。
俺はその気持ちが抑えられず、気づいたら、
「どんな人だったんですか?」
そう聞いていた。
不思議と口が勝手に動いてしまった、という表現が正しいかもしれない。
すると、その言葉を聞いた田嶋は、
「気になるか?」
と、聞いてくる。
俺はまたしても、口が勝手に動いていた。
「はい。組長の奥様の話、是非聞きたいです。」
その言葉を聞くと田嶋は、一瞬曇った顔を見せたが、すぐに笑顔を俺に向け、優しい声でこう言った。
「まあお前は俺のお気に入りだからな、特別に教えてやるよ。俺とアイツとの出会い、そして別れをな」




