第93話 楽しいダンジョン攻略
西側の住宅街を探索しているが、特に何も無い。閑散とした風景が続いている。
「なにもないねー」
「なにもないな」
俺達は無遠慮に住宅に上がり込み部屋の隅々まで調べるが、アイテムもモンスターといない。住宅街の最後の住宅を探索中だ。
「ここは本当にただの住宅街みたいだな」
「そうだね…ひゃっ!」
エマが急に声を上げた。
「アレクー」
「え?なに?」
エマが急にジト目で見てくるが急にどうしたんだ?
「最近溜まってるのもわかるけどさぁ。そーゆーのはイグナシアに戻ってからにしよーよ」
「は?何言ってんだ?」
「胸揉まないでよ!」
「揉んでねーよ!!」
まじでどうしたんだ?
「ひゃっ…んっ…ほらぁ…え?アレクじゃない?」
「だからそう言ってるだろ」
まさか、透明のモンスター?
「ちょ、ちょっとアレクどうにかしてよ!さっきから、色んなとこ…んん!!んん!」
透明のモンスターはエマの口を抑え、体をまさぐっているようだ。くそが。俺だって我慢してるのに、許さん。
「雷撃」
「ギゲギヤァァア!!」
姿を現したのは人面の爬虫類のようなモンスターだった。
「ひっ…キ、キモイ…」
「……雷撃」
「ギゲギヤァァア!!」
「…雷撃」
「ギヤァァ!!」
「雷撃」
「ギャッ!!」
「雷撃」
「ギャッ…」
「雷撃」
「…」
「雷撃」
「…」
「らい…」
「ちょ、ちょっとアレク!!もう死んでるって!!」
いつの間にかこのクソモンスターは雷撃によって消し炭になっていた。消し炭になっても腹の虫は収まらない。
「この、クソ虫が…!人の女の体を…!まさぐりやがって…!クソっ…!俺だって…!我慢してるのに…!」
「ア、アレク…」
消し炭になったクソモンスターを足でグリグリしてやった。やっと収まってきた。
「だ、大丈夫…?」
「ああ、すまん。取り乱した」
「今日はもう帰ろっか…」
「おう…」
なんとも言えない気分の中、アルの家に戻った。
◇◇◇
「おー、おかえりー。どうじゃった?」
帰るとエプロン姿で金髪の髪を1つ結びにしたアルがキッチンに立っていた。
「50体のドラゴニュートに追いかけ回されたよ」
「はっはっは!!ベイガール王らしいのう!!逃げただけか?」
「ちゃんと倒したよ!強かったけどなんとかなった!」
「ほう、さすがじゃのう。初日で商店街を攻略したお主らにヒントをやろう」
アルは包丁を置き俺達の方を向いた。
「西側の住宅街には不可視のモンスターがおる」
「「………」」
「な、なんじゃ…?」
俺とエマはちょっと残念な目でアルを見た。
「もう攻略した」
「変態モンスターだったね」
「なんじゃ、住宅街も攻略しておったのか」
つまらんと言いたげな態度でアルは再び包丁を握り、野菜を切り始めた。
「なら、もう1つヒントじゃ。東側の娯楽街にはなにもないぞ。スルーしてかまわん」
「そうか。でも、なんでアルはダンジョンの情報を知ってんだ?攻略はしてないんだろ?」
俺の問にアルは淡々と答える。
「1000年前にベイガール王からこんなダンジョンを作ったと直接きいておったからの」
「へー、やっぱり面識あったのか」
「当たり前じゃろ。妾は生まれてからずっとこのエノリスに居る。その大陸の王とも自然と会うもんじゃ」
「なるほどなー」
「さ、話はここまでじゃ!飯ができたぞ!」
アルは両手に皿を持ち、机に料理を並べた。
「龍って料理できるんだね!」
「妾とて、何もせず生きてきたわけじゃないぞ。興味を持った物はしっかり学んできたつもりじゃ」
「そーなんだ!おいしそう!」
「「いただきます!」」
俺とエマはガツガツと出された料理を平らげていった。それを優しい笑顔でアルが見ていた。
アルの料理は意外と美味しかった。
◇◇◇
湯浴みを済ませ、自室に戻る。
「ふぅ…初日はなんとかなったな。娯楽街にはなにもないとなると、あとは城下町とベイガール城だけか。半年もいるか?」
ブツブツと呟きながらベットに横になる。
「ふぁ…疲れた…」
欠伸をし、ウトウトしていると部屋の扉が空いた。
「ア、アレク」
「エマ?どした?」
「いや、えっと…その…」
エマは部屋の扉を閉めた。すると、徐に自分の服を脱ぎ始めた。
「お、おい!」
「ほら、だって言ってたじゃん。俺だって我慢してるのにって…」
変態モンスターを懲らしめた時を思い出す。
「あー、まぁ、そうだな」
「だから、いいよ?」
「まずいだろ。アルもいるのに。我慢できるから」
「最後まではしないよ?でも、解消させる方法はあるでしょ…?」
そう言うと俺の膝の上に座り手を俺の首の後ろに回し、キスをしてきた。
「やめるの?」
「お、お願いします…」
俺もさすがに我慢の限界だった為、エマの言葉に甘えた。そこからは言葉には出せない激しい夜を過ごした。
「ほう、それが人間の交尾か?妾が知ってるのと少し違うのう」
「「アル!?」」
俺とエマが裸で抱き合っている所をアルが静観していた。
「い、いつから…」
「ん?事を始める前からじゃが?」
「最初からじゃねぇか…」
俺とエマは顔を真っ赤にして俯く。
「なんじゃ?続きはせんのか?」
「もう出ていって!!!」
エマがキレて枕をアルに投げつけた。
「な、なんじゃ、怒ることなのか…?交尾など寿命がある者の自然の摂理じゃろうて。なにも恥ずかしがることでは…」
「いいから出ていって!!」
エマはその場にあるありとあらゆるものをアルに投げつけ、追い払った。
「エ、エマ…落ち着け…」
「恥ずかしい……」
「俺も恥ずかしいよ…今日はもう寝よう」
「うん…おやすみ…」
「おやすみ」
俺はエマの頬にキスをしてそのまま眠りについた。
◇◇◇
「あー、よく寝た。スッキリした朝だ」
色んな意味で。
「ん…おはよう…」
「おはよう、エマ」
昨晩のエマの献身のお陰で俺の溜まっていたものは全て解消された。今ならなんでもできそうだ。
〔コンコン〕
扉がノックされる。
「あ、朝飯ができておるぞ…」
「ああ、すぐいくよ」
「う、うむ…」
アルは昨晩の事を気にしているのだろう。まぁ、龍と人間じゃものの価値観が違う。仕方の無いことって言えば仕方の無いことだ。
「エマ、許してやれよ」
「もう怒ってないよー」
「そうか」
食卓につくと、テーブルには豪華な食事が並べられていた。
「そ、その。昨晩はすまんかったの…せめてもの詫びじゃ。たらふく食ってくれ」
「そんな気にしなくていいのに」
「そ、そういう訳にはいかん!」
アルはどことなく律儀だな。
「やったー!!アル大好き!!」
「そ、そうか?喜んで貰えたならなによりじゃ」
あー、これでアルも覚えてしまったな。エマの機嫌を取る方法は飯だけで良いってことに。
俺とエマは豪勢な料理を平らげていつもの組み手を始める。
「ふむ。どうやら昨日のダンジョンでいくつかヒントを得たようじゃな」
俺とエマの組み手を見ながらアルは感心している。昨日の組み手よりレベルが少しあがっているからだ。
エマの魔力の圧縮スピードが速く、俺の雷魔術の質が良くなっている。
魔術を使い続けるってのはこういうことなのか。魔力が馴染む。
これなら、勝てる。
その後、5連敗した。
「はっはっは!!調子に乗ったのう!まだまだじゃな」
「うるせー、早くダンジョンいこーぜ」
「いこいこ!!」
「アレク、エマ」
ダンジョンに向かおうとする俺達をアルが呼び止めた。
「ベイガール城からモンスターのレベルが上がるぞ。気をつけろ」
「おう」
「はーい」
アルは2人の背中を見送った。
「はぁ…妾が童の心配なぞ…。久しく無かった感情じゃな」
アルは溜息をつきながら家に戻った。
◇◇◇
俺とエマは城下町を探索している。
「ほい、おわりー」
「楽勝だね!」
城下町にはデュラハンやスケルトンキングの様なSランクモンスターがうろうろしていたが、大したことはなかった。
城下町の探索を終え、ベイガール城の門前付近に来た。
「なにあの2体のモンスター」
「ガーゴイルだ。デカいな」
「門番みたいな感じかな?」
「多分そうだろ。あいつら倒さないと中には入れないみたいだ」
巨大な槍を携えた巨大なガーゴイル2体は門前からピクリとも動かない。
ガーゴイルは本来Aランクのモンスターだ。体長も小型から中型のはずだが、あいつらは突然変異種だろうか。ただ、確実にSランク以上の気配を感じる。
「どうする?」
「一撃必殺だな。一瞬で全力を出し切るぞ。戦いが長引けば俺達が不利だ」
「わかった」
エマは頷き、構える。
基本的にダンジョンのモンスターは特異エリアのモンスターのようにリポップすることはない。1度倒せばそれまでだ。つまり、あのガーゴイルも倒してしまえば後は自由に出入りできる。
「いくぞ!!」
俺とエマは同時に飛び出した。ガーゴイルは俺達に気付き槍を構える。魔力を最大限に高め、高く跳躍した。
「雷魔術『雷神の撃槍』!!」
「風魔術『風神の撃槍』!!」
ガーゴイルの頭上から2本の魔槍を放つ。
しかし、ガーゴイルの正面に透明の障壁のような物が展開された。嫌な予感がする…。あれは、まずい。
「エマ!!離れろ!!」
「え?きゃっ!!」
俺はエマを風魔術で吹き飛ばした。
イグナスの聖剣技を間近で見て、日常的に模倣してきた俺だからわかる。あの障壁は、魔術を反射する。
〔ガンッガンッ〕
2つの魔槍は跳ね返り、1つの巨大なエネルギーになった。それは、俺に直撃した。
「ぐああああ!!!!」
「アレク!!」
ギリギリで防御魔術を展開したため、即死は免れたが、巨大なエネルギーの直撃を受け身体中が焼け爛れボロボロになる。
「アレク!!どうしよ…治癒魔術…」
「エマ…!!まずは避難だ…!すまないが、おぶって逃げてくれ…」
「わ、わかった!!」
エマは俺をおぶり走った。ガーゴイルはやはり門を守護することが目的のようで深追いはしてこなかった。
「今治癒魔術かけるから…」
商店街まで戻りエマは俺に超級治癒魔術をかけた。焼け爛れた皮膚は綺麗に戻った。しかし、
「ど、どうして!?」
綺麗に戻ったはずの皮膚は再び焼け爛れる。
「ぐぅ…はぁ…はぁ…」
「アレク!しっかりして!どうしよう…治らない…」
何度も治癒魔術をかけるが結果は同じだ。エマはオート・ヒールを俺にかけ俺をおぶりそのままダンジョンを後にした。
第93話ご閲覧いただきありがとうございます!
次回をお楽しみに!




