第92話 激ムズダンジョン
特訓を初めてから1週間が経った。
戦績は35戦1勝34敗だ。ちなみに俺の1勝は戦いの最中「うぅ…し、心臓が…痛い…!!」と嘘をついた騙し討ちの勝利だ。もちろん、アルには怒られ、エマにはその後の組手で半殺しにされた。
だって勝てないんだもん。
「はぁ…勝てん…」
「だいぶ接戦になってきたと思うよ?」
「慰めはいらん」
「慰めじゃないよぉ」
たった今35敗目を記録したところだ。
「いや、本当に接戦になってきておるぞ?お主らの成長速度は異常じゃな」
「そうか?」
「ああ、確実にな。じゃが、エマに勝てるようになるにはまだまだ先じゃろうな」
「アレクもまだまだだね」
なんか腹立つな。
「いつまで組手するんだ?」
なんとなくアルに聞いてみた。
「毎日5戦は必ずじゃな」
「5戦したあとは?」
「この島の中央にダンジョンがある。お主らにはそのダンジョンを最深部まで攻略してもおう」
「ダンジョン?この島にそんなもんあるんだな」
ダンジョン
大陸に点在する魔導具や財宝が眠る古代の迷路状の構造物だ。
その中に眠る魔導具はとても強力な物が多く、出土された物は高値で取引される。一説では過去の大魔術師が作り出した、宝を隠す為の迷路だとも言われている。
もちろん宝だけがあるのではなく、相応の強さのモンスターが迷路内を跋扈している。ランクはダンジョンの難易度によって変わるが大体B~Sだ。
宝が隠されている"宝物庫"の前にはそれを守護するモンスターも存在する。場合によってはSS級が守護する場合も。
「ベイガール魔導王朝の魔導具が残るこの島のダンジョン…。とてつもない宝が隠されてそうだけどアルは攻略してないの?」
「妾はそんなめんどうなことはせん。あの魔導具庫を見つけたのもたまたまじゃ」
「そうなんだ!ダンジョンで見つけた宝は私達が貰っていいの!?」
「構わんぞ。まぁ、お主らが攻略出来ればじゃがな」
「やったー!!アレク!!頑張ろ!」
「おう、そうだな」
宝と聞いてエマのテンション爆上がりだ。
「ほら!残り4戦!ボコボコにしてあげるから早く終わらせよ!」
「おい…ボコボコにされる気はないぞ」
「ダンジョンに行きたいからと適当にするんじゃないぞー」
「「はーい」」
残り4戦もボコボコにされた。
◇◇◇
エマにボコボコにされた後は早速島の中央にあるダンジョンにやってきた。
「うわぁ!!すごいね!!」
「街…?」
初めてのダンジョンにエマのテンションは最高潮に上がっている。
中央の山の中腹にある大きな扉を潜った先に広がっていたのは大きな街だった。
なぜこんな所に街が?それにデカい。山の中身はこうなっていたのか。
「ここは、まさか…」
「そうじゃ、ベイガール魔導王朝の中央都市ノーグ模した街じゃ」
「模した?」
「ベイガールの王は慎重な男でな、自身の避難用と財宝を隠すために自分用の街を山の中に作ったんじゃ」
「街を丸ごと…スケールが壮大だね…」
大陸が消滅したあと手付かずになったこの街はダンジョン化したのか。
「結局王諸共爆散したってことか」
「怖い言い方しないでよ…」
正に宝の持ち腐れだな。
「賊の侵入を警戒してベイガール王はこの街にモンスターを解き放っておる」
「え?それじゃ、王が入ったって襲われるじゃん」
「モンスターを使役する特性か」
「その通りじゃ」
同じ特性が同じ時代に2つ存在することはない。今の時代はブエイムに宿ったが、1000年前はベイガール王に宿っていたのだろう。
俺の魔剣士も特性なのか…?いや、ギムレットは今も生きている…なら違うか…?
「そら、雑談はここまでじゃ。ササッといけい」
「でも、こんな広い街どうやって探索するの?」
「半年ある。隅々まで探索しよう」
「うん!!」
俺とエマは街門を潜った。
「あ、言うの忘れとったがここのモンスターは全てSランクじゃぞ、精々死なんようになー」
「「え!?」」
街門を潜ると視界が暗転した。
「ア、アレク!!居る!?」
「ああ、隣にいるよ」
俺はエマの手を握る。次第に視界が明るくなり、目の前にはベイガール魔導王朝中央都市モーグが広がる。
「うぅ…気持ち悪い…」
「すごいな…俺達が外から見ていた街と実際に入る内側の街は別の空間になっているのか…」
転移と似た感覚だ。エマは転移が苦手なようだな、酔ってしまったみたいだ。
「さて、どこから探索するか」
「なんか、アルがSランクがって不吉なこと言ってたけど気のせいかな…?」
「気のせいじゃないな。そこら中から強力なモンスターの気配をビンビン感じる」
「だよね…」
全てSランクか…。ロレンスの古城でSランクの大軍は
全てアレイナに任せてしまったが、今回ばかりは俺達でどうにかするしかなさそうだ。
「正面の商店街から探索しよう」
「うん!」
商店街を歩くがまだモンスターとは出くわさない。半径2kmのサーチにもモンスターの反応はない。この周囲にいないのか?
「こんな立派な街なのに誰もいないってなんか不気味だね」
「そうだな。まぁ、死体とか転がってないだけましだろ」
そんな他愛もない会話をしながらしばらく歩いた。
「ん?やっとお出ましのようだ」
「あれは、リザードマン?」
「その上位個体ドラゴニュートだ。その中でも特に強力な個体みたいだな」
「称号持ちみたいな感じかな」
「そんな感じだ」
丁度2km先にドラゴニュートの反応があった。しかし、
「止まれ!エマ!」
「わっ…」
俺は走るエマを手で制した。
「おいおい…うそだろ…」
「ひぇ…」
「逃げろ!!!」
2km先のサーチに引っかかったのはドラゴニュート単体ではやく、50体を超えるドラゴニュートの集団だった。
ドラゴニュートも俺達の存在に気付いたらしく、凄いスピードで俺達に迫ってきている。
「Sランク50体ってどうしろってんだよ!!」
「1体ずつ倒す!?」
「そうしたいがさすがに難しいだろ!広範囲魔術で一気に片付けるしかない!防御魔術を展開してくれ!」
「わかった!長くはもたないよ!」
エマは止まりドラゴニュートの方に向き直り防御魔術を展開した。
「ギギャァァア!!」
「うわっ…凄い力…」
ドラゴニュートは防御魔術を破らんと猛攻を仕掛けてくる。
「いくぞ!」
「雷魔術『渦雷』!!」
「「「ギャァァァア!!!」」」
広範囲に降り注ぐ雷がドラゴニュート達を襲う。
「まだ半分以上残ってるね…」
「一撃で全ては無理か…。くそっ…夜桜があればもっと…」
ダンジョンを攻略するのも剣術はなしと言われている。
「ダメだよ、ちゃんと魔術だけで攻略しないと」
「わかってる、方法を考えよう」
ドラゴニュートは雷魔術を警戒してか、俺達と距離を置き様子を見ている。
「破壊は?」
「ダメだ、タメが長すぎる。大量の魔力を解放すればあいつらは俺達を攻撃してくるだろ」
「うーん…」
残り35体ってとこか。半分に分けて各個撃破?いや、それでも15体以上相手をすることになる。危険だ。
「ドラゴニュートの皮膚ってドラゴンより柔らかいよね?」
「当たり前だろ。ドラゴンの皮膚はモンスターの中でもトップクラスに硬い……そうか、なるほど」
「やってみるね!」
「頼む、時間稼ぎは任せろ」
俺は飛び出し、ドラゴニュート達の前に出た。
「無属性魔術『ヘイト』」
『ヘイト』はその名の通り、モンスターのヘイトを全て術者に向ける無属性魔術だ。
ドラゴニュートは俺目掛けて一直線に攻撃を仕掛けてくる。
「おらぁ!!!」
「超級岩魔術『グランド・シェイク』!!」
俺は地面を思い切り殴り、超級の岩魔術を発動した。平らだった地面は大きく隆起し、ドラゴニュート達はバランスを崩し転倒する。
「いいよ!!離れて!」
エマの掛け声を聞いて、俺は大きく後ろに後退した。
「超級聖魔術『超圧縮ホーリー・オーバーレイ』!!」
限界まで圧縮した光線がドラゴニュート達目掛けて放出される。
「スプリット!!!」
エマが叫ぶと大きな光線は無数の細い光線に分裂した。
分烈した光線はドラゴニュートの眉間を貫いていく。
「ごめん!!5体外しちゃった!!」
「十分だ、あとは任せろ」
「雷魔術『轟雷』」
大きな雷が残りのドラゴニュートの脳天に直撃した。反応は無くなった。なんとか全滅させられたようだ。
「やったね!!」
「おう!」
俺とエマはハイタッチしてドラゴニュートの亡骸を見る。
「すごいな…30体の眉間を同時に射抜くなんて。エマの魔力コントロールには一生適わないな」
「えへへー、できるかもーって思ってね。でも全部は射抜けなかったなぁ」
「十分だろ。さすがエマだ」
俺がエマの頭を撫でると嬉しそうに笑った。
「この先はどうする?探索する?」
「ああ、外周を埋めていこう。次は西側の住宅街だ」
俺とエマは商店街を後にし、西側の住宅街に向かった。
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