第90話 ベイガール魔導王朝
「な、なんだ…これ…」
扉の先は大きな広場になっていた。その中央には巨大な石版、広場のあらゆる所に魔導具らしき物が散乱している。
「ここにある物はただの魔導具じゃない」
「どういうことだ?」
俺が聞くとアルは少し考えて口を開いた。
「1000年前からの話になるぞ」
「1000年…」
俺とエマが頷くとゆっくり話し始めた。
「1000年以上前はエノリス群島は1つの大陸じゃった。エノリス大陸と呼ばれていた。大陸ではあるが国家は1つだけ。大陸全土を手中に収めた国『ベイガール魔導王朝』と呼ばれておった。
ベイガールはとてつもない勢いで発展を遂げ、現代文明をはるかに凌ぐ卓越した技術で数々の魔導具を生み出したのじゃ。その中でも魔力炉という発明は素晴らしい物で自ら魔力を流さずとも魔導具自ら魔力を生み出し半永久的に魔導具の起動が可能になるというものじゃ」
魔導具自ら魔力を生み出す…?そんな事ができたら魔力のない人間でも血の誓約なしで魔導具を扱えるようになる。すごいな…。
エマをチラッと見るが目が点になっている。わからないんだろう。
「じゃが、事件が起こった。突如としてありとあらゆる魔力炉が大爆発したのじゃ、日常的に使う小型な物から巨大な魔導具を動かす巨大な魔力炉まで全て。それが大爆発…エノリス大陸はどうなったと思う?」
アルは唐突に聞いてきた。
「そうか…それで、大陸は分裂しエノリス群島が出来たのか。ここにある魔導具は失われた超古代文明の物なのか。この島を囲う嵐をも大爆発が起こした天変地異ってことだな」
「おお、その通りじゃ。中々に頭がキレるの」
「ヘー、ナルホドー」
エマはわかってないようだ。
「ベイガール魔導王朝が栄えた頃の魔導具。現代だとちょっとしたものでも腰を抜かす程のものじゃ。まぁ、魔導具の説明についてはおいおい話そう。お主らが必要なのはこれじゃろ」
そう言うとアルは1枚の大きな紙を取り出した。
「これは、世界地図…?」
「ベイガールが作り上げた、自動更新型の世界地図じゃ」
「「自動更新型??」」
なんだそりゃ。
「読んで字のごとくじゃ。世界の情勢、地形、国の変化を即時更新する世界地図じゃ。イグナシアが侵略され堕とされたのならこの世界地図からイグナシアと言う国は無くなっておるはずじゃろうて」
「すごい…そんな物が…」
「こんなものベイガールじゃ序の口じゃぞ」
ベイガール魔導王朝ってすげぇな…。
「どうやって使うんだ?」
「手形の部分があるじゃろ?それに手をかざして魔力を流すだけじゃ」
俺は手をかざし、魔力を流した。
「うおっ!?」
「すごい!綺麗!」
地図から大陸が立体的に浮かび上がった。
「意識をイグナシアの方に向けてみよ」
意識をイグナシアに向ける。
「緑色に光ってる?イグナシアっていう国名も出てるよ!」
「これは?」
「緑は国が正常な事を表す、イグナシアと名前が残っとるのであればお主らの故郷は無事と言うことじゃ」
イグナシアは無事…。この情報がどこまで本当かはわからないがとりあえず安心はして良さそうだ。
「無事じゃない場合はどうなるんだ?」
「侵略中は赤色に変わり、侵略が完了したら国名が無くなる。イグナシアが侵攻されていた時は赤色になっていたであろうな」
「なるほどな。とりあえず無事でよかった。あの状況でどうやって防衛に成功したかはわからないが」
ドラゴン3体に加えマイズだ。俺とエマが居たとしてもやられている可能性の方が高い。
「イグナス先生が間に合ったとか?」
「それはないだろ。国境からスアレまで2日程かかる」
謎だが、防衛に成功したのならそれでいい。安心して帰れる。
「ちなみにじゃが、これらベイガールの魔導具の事を世間一般では文明遺産と呼ばれておる」
「へぇ、アーティファクト。あのでっかい石版もか?」
俺は広場に入った時に目を引いた大きい石版を指さした。
「あれもそうじゃ」
「あれはなんの魔導具なんだ?」
俺がそう言うとアルは石版に魔力を流した。すると…
「え?なんだ?」
石版に文字が浮かび上がった。
「えっと…シリウス・グレイブ…?イグナス・ブレイド…?なんで2人の名前が書いてあるの?」
「他にも10人ほど名前が書いてあるな。知っている名はいくつかあるな…あとは1番上のギムレットの名もある」
「初代勇者の名前だね」
これは一体なんだ…?
「これは、世界を守護する12名の強者の名じゃ。言わば世界の最強ランキングみたいなもんじゃ」
「世界を守護する…?最強ランキング…?」
ここに載ってる人達が世界で最も強い12人ってことか?どういう仕組みだ?訳が分からん。
「死人も載るんだな」
「いや、死んだら名前は消え下のものが上に繰り上がるぞ」
「え…でも、ギムレットって…」
「まぁ、つまりそういうことじゃな」
「「え!?」」
初代勇者ってまだ生きてるのか…?確かに"行方をくらました"と言われているだけで"死んだ"とは言われていない。なら、今どこで何をやっているんだ…?
石版に載っている名前はこうだ。
1位ギムレット
2位ニーナ・マレナ
3位シリウス・グレイブ
4位イグナス・ブレイド
5位カルディア
6位ルーク・アルフィア
7位リアム
8位アイリーン・シャトル
9位レオン・ミレド
10位メイナード
11位シンシア
12位クレア・ミリアニア
イグナスは4位なのか。道理で化け物な訳だ。それより強いシリウスってどんなんだよ。
「ニーナ・マレナ…確か女性のSS級冒険者で魔術師だったっけ」
「知ってるのか?」
「うん、モルディオにいる時アレイナから聞いたんだ。アレイナの師匠で凄い魔術師らしいよ?」
「だろうな、この石版ではシリウスとイグナスより強い事になってる」
余程の強者だ。アレイナの師匠なら納得か。
「まぁ、この石版にはこう書いておるが、人というものは時と場合で発揮する力が変わってくるからのう。一概には言えんな」
「だが、なんで世界の守護者なんだ?」
世界を守護する12人って本人達に自覚はあるんだろうか。
「妾も詳しくは知らんが、世界に危機が迫った時この石版に載る12人は自然と集まるらしいぞ」
「自然と?なんでだ?悪者もいるかもしれない」
「いや、この石版には邪な心を持った者は載らないらしいんじゃ。じゃから"世界の守護者"なんじゃろうて」
「なるほどなぁ、本人達に自覚はあるのか?」
「ないに決まっておろう。ただ、邪な心はないと言うのは確かじゃな」
しかし、個人の力量まで特定してしまうのか。ベイガールの技術は一体どうなっているんだ。仕組みが全くわからん。さっきの地図もそうだが、なぜそんな情報が勝手に記録されるのだろうか。
まぁ、だからベイガールは超古代文明と言われるんだろうが。
しかし、なんで急に魔力炉は爆発したんだろうな。
「30年前に漂着した少年はここの事を知っているのか?」
マイズだったら悪用しかねないが。
「いや、知らんぞ。あやつがここを見つけることは無かったのう」
「ん?アルはその少年と俺達みたいに話したりしなかったのか?」
俺がそう言うとアルは顔を顰めた。
「あやつからは明らかな悪意を感じてのう。遠目から眺めてはおったが、明らかに邪悪さがあったの。もしあやつがここの存在に気付いたら真っ先に殺しておったの、悪用しかねんからな」
「俺達には見せていいのか?悪用するかもよ?」
アルはあっけらかんとした顔で俺を見た。
「ハッハッハ!!お主が悪用か!それはないじゃろ!魔剣士の力を持つものが悪用なぞ!」
「え?なんで魔剣士と関係があるんだ?」
「え!?あ…いや…なんとなくじゃ、なんとなくー…」
なんだこの人…怪しすぎるだろ…今更だが。
「まぁ、なんじゃ、そこら辺の詳しい話はシリウスの小僧から聞くが良い」
「シリウスを知っているのか?」
「ああ、随分昔に会ったことがあっての。色々話したことがあるってだけじゃが」
シリウスとも知り合いだったのか。まだ本人とは会ったことないが、色んなところでシリウスの名は聞くな。
「ベイガール魔導王朝…。これだけの魔導具の力があればこの世界そのものを掌握できそうだが」
「そう考えた輩もいたのう。実際、他大陸への侵攻も視野に入れていたそうじゃが、その矢先滅亡した。ベイガールの滅亡は危機を察知した他大陸民の策略だとも言われておる」
世界規模の戦い…。考えたくもないな。
「さて、イグナシアの無事も確認できたようじゃが、お主たちはどうするのじゃ?すぐに出立するのか?」
魔導具をひとしきり見たあと、アルが唐突に聞いてきた。
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