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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第八章 エノリス群島
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第89話 転移した先で

新章です!

 

 エマを抱きしめたまま、俺とエマは転移した。

 初めて転移するが、なんとも奇妙な感覚だ。意外と一瞬で終わるものなんだな。

 そんな事を呑気に考えていた。転移が終わる。


「って!!どこだここ!?空!?」


 俺とエマが魔法陣から放り出されたのははるか上空だった。下に見えるのは島だろうか。大きな島と小さな島が幾つも見える。

 このまま落下すると地面に叩きつけられてしまう。


「まずい…!痛てぇ…体が思うように…」


 魔龍との激戦の後で俺の体はボロボロだ。魔力はあと少しだけしか残っていない。


「エマ!エマ!」


 エマを揺すり声をかけるが返答がない。どうやら気を失っているようだ。

 聞いた事がある。転移に慣れないうちは膨大な魔力量に当てられ気を失う事があると。


「くそ!!どうする…!?」


 最初は小さく見えた島も今では大きく見える。落下先は砂浜のようだ。


「…無理か。せめて、エマだけでも…」


 俺は残りの魔力を使い、小さな竜巻を作った。それはエマの体を包み込み、緩やかに降下していく。


「ぐっ…意識が…」


 魔力枯渇の前兆だ。しかし、前兆という事はまだあと少し魔力が残っている。

 歪む意識の中魔力を振り絞る。


「タイミング…タイミング…ミスればマジで死ぬぞ…」


 迫る地面に俺は恐怖する。間違えれば確実に死ぬ。


「ふぅ…ふぅ………ここだ!!」

『エア・バースト』


 地面に向かって風魔術を放った。


「がああ…!!」


 落下の勢いは弱まったが、強烈な衝撃は免れることは出来なかった。

 身体中に衝撃が走り、全身の骨が砕ける感覚を初めて知った。


「がっ……ゴホッ…ゲボッ…」


 骨が内蔵に突き刺さり大量に吐血する。肺に血が溜まりゴロゴロと音が鳴る。


(生きてる…生きてるが…やばい…死ぬ…)


 隣でパサリとエマがゆっくり着地する。


「エ゛…マ゛……」

(頼む…治癒魔術を……)


 エマは目を覚まさない。

 身体中の感覚が無くなってきた。視界が暗くなり、意識が遠のく。


(くそ…ここまでか……)


 そのまま俺の意識は無くなった。


 ◇◇◇


 〜エマside〜


「んっ…うぅん…」


 あれ…?私なんで寝てるんだっけ…。どこかの家のベッドになぜか私は寝ていた。

 寝起きのボーッとした頭で現状を整理する。


「スアレ襲撃…魔龍との戦い…勝利……転移…!!アレク!?どこ!?」


 アレクの姿が見えない。こじんまりとした部屋では私が寝ていただけ…。

 アレクも一緒に飛ばされたはずなのに…。そう言えば私の体の傷が治ってる…。


「起きたかの?(わっぱ)


 扉を開け入ってきたのは金髪を腰元まで伸ばした妖艶な美女だった。瞳も金色でまるで宝石のよう。


「だ、だれ…?」

「そう警戒しなさんな。空から降ってきたお主らを助けたのは(わらわ)じゃよ」


 空から降ってきた…?転移したのは上空だったってことかな。


「空から…?もう1人男の子は居なかった…?」

「おぉ、おったよ?隣の部屋で治療中じゃ」


 よかった…。アレクも無事なようだ…。


「安心しておるとこ悪いが少し不味い状態でのぉ」

「え…?どういうこと…?」

「動けるかな?隣の部屋にきなされ」


 私は立ち上がり隣の部屋に向かった。私に目立った傷はなく、たぶん治癒魔術で治しきれてない箇所は包帯で応急処置してるんだ。

 このお姉さんは魔術師なのかな。


「アレ…ク…?」


 そこにはベッドに横たわる血まみれの包帯でぐるぐる巻きになっているアレクの姿があった。


「外傷も酷いが内傷もかなり重症じゃ。落下の衝撃で全身の骨が砕けたのじゃろう。妾が駆け付けた時には膝や肘から少し骨が突き出しとった。それに、この爛れた皮膚。これはここでついた傷ではなかろう」

「治癒魔術は…?」

「超級のものを掛けたが、1度では治りきらん。さすがに瀕死の人間を完全に回復させるには超越級しかないからの」

「でも、なんでアレクだけ…?私はなんともないよ?」


 私がそう言うとお姉さんは頭から爪先までマジマジと見た。


「ふむ。お主からはこの少年の魔力の残穢を感じる。おそらく少年はお主を助けるために自分の魔力の殆どを使ったのじゃろう。少年は残った魔力で即死は免れたみたいじゃが」


 私を助けるために…。そうだ、私は転移をした時に気を失ってしまったんだ…。私が気を失わなかったらこんな事には…。


「どうすれば治せるの…?」

「治癒魔術をかけ続けるしかないの。妾の魔力はお主と少年の治癒に使い切ってしもうての」

「私がやる」

「見た感じお主の魔力も残り僅かのようじゃが」

「大丈夫」


 こんな時の為に買っておいたものがある。私は魔導袋からポーションを2本取り出し、飲み干した。


「ほぉ…魔力回復のポーション」

「お姉さん、少し離れて…」


 この治癒魔術は私が作り出したオリジナル。発動までに時間がかかっちゃうけど、ここは戦場じゃないから関係ない。


「治癒魔術『オート・ヒール』」

「ほぉ…これは凄い…初めて見る魔術じゃ」


 私が治癒魔術を発動するとアレクの体を包み込むように淡い緑の膜に覆われた。


「ふぅ…オート・ヒールは持続型で、発動すると自動で回復していくの」

「お主が編み出したのか?」

「うん」


 アレクの呼吸が落ち着いた…。なんとかなったみたい。まだ少し混乱してるけど、アレクが目を覚ますまでは私がしっかりしないと。


「お姉さん、助けてくれてありがとう。私はエマ、彼はアレクサンダー。色々話を聞きたいんだけど、良いかな?」

「エマとアレクサンダーか。妾は…そうじゃなぁ…アルとでも呼んでくれ。話なら構わんぞ」


 私はアレクが寝てる部屋で椅子に座り話を始めた。


「ここはどこなの?」

「ここは、エノリス群島の中央に位置する島、アルテナ島じゃ」

「エノリス群島…そんな遠くまで…」

「妾も聞きたいことがあるんじゃがいいか?」


 聞きたいこと…。まぁ突然空から降ってくるから不思議だよね。


「うん、大丈夫だよ」

「お主らはどこから来たんじゃ?そして、何があった?2人の身体の傷は落下のものだけでは無い、何かと戦っていたような傷じゃった」


 どこから来て、何があったか…。私はゆっくりと転移前の事を思い出していく。


「私達は、ディノエス大陸の1番左下に位置する国イグナシア王国から転移魔法陣で飛ばされてきたの。果ての王国って言った方がわかりやすいかな」

「イグナシアから…。転移魔法陣とな。ここから果ての王国までは数万km離れておる。相当な距離を飛ばされたようじゃの」

「うん、パンドラっいう組織にイグナシアが襲われて、戦いで力を使い切った後を狙われたの」

「なるほどのぉ。それで転移魔法陣で飛ばされたと」


 アルさんは腕を組み、顎に手を当て考え出した。

 足を組んで顎に手を当てるその姿はすごく絵になるなぁ。私もこんな風になれるかな?


「力を使い切ったか…見た感じエマとアレクサンダーは相当の戦闘力を有しておるようじゃが、何を相手にした?」

「ドラゴンだよ。魔龍」

「魔龍…」


 魔龍と聞いた瞬間アルさんの空気が少し変わった。ピリついたような感覚に思わず顔を顰める。


「おっと、すまんの。闇の龍の系統とは少々因縁があってな。しかし、魔龍か…。それは災難じゃったのう。逆に転移できてよかったかも知れんぞ?あの状態のまま戦っていたら死んでいたやもしれん」


 ん?死んでいたやも…?アルさんは何か勘違いしてるみたいだ。


「魔龍は倒したよ?アレクと2人で」

「そうかそうか倒したか。生きててよかったのう……倒した!?」

「え、うん…苦戦したけど、なんとか…」

「しかし、お主らの魔術のレベルでは適う相手ではなかろう!妾は見た相手の魔術や剣術の熟練度を見ることができる。お主らのレベルはその年ではずば抜けておるがまだ魔龍に適う程ではないはずじゃ!」

「そ、そんなこと言われても…」


 ならなんで勝てたんだろ?アレクの雷魔術や私の風迅が特殊なのかな?


「……それは…俺が魔剣士であり…新しい元素を扱うからだ…それに…エマの魔術のレベルは時と場合ではとてつもなく力を増すことがある…ゲホッ…」

「アレク!!」

「痛てぇ!!まだ治りきってないから…抱きつかないでくれ…」

「あ…ご、ごめん…」


 アレクの意識が戻って嬉しくて思わず抱きついちゃった…。


「いつ意識戻ったの?」

「ついさっきだよ。魔龍を倒したどーこーの辺りからだ」

「そっか…よかった…」


 まだ動けないみたいだけど、意識が戻ってよかった。


「ちょっと待て…お主今なんと言った?」

「え?魔剣士であり新しい元素を扱う」

「新しい元素…?基本4元素と特殊3元素以外をか?」

「ああ、雷元素だ」


 アルさんは目を大きく見開き、冷や汗をかいている。やっぱり新しい元素そのものを作り出すのって凄いことなんだ。


「そうか…数々の例外が重なり、お主らのレベルでも魔龍を打ち倒す事ができたのか…それに魔剣士…」

「それより、ここはどこだ?あんたは誰だ?」


 そっか、アレクは今起きたばっかりだからわからないんだった。


「ここはエノリス群島の中央に位置する島でアルテナ島って言うんだって。この人はアルさん、空から落ちてきた私達を助けてくれたんだよ」

「やっぱりエノリス群島か…。ん…?アルテナ…?聖神龍アルテナと同じ名前の島なんだな。まぁ、アルさん助けてくれてありがとう」

「い、いや、どういたしまして?わ、妾の気まぐれみたいなもんじゃ、礼など必要ない」


 なんかアルさんが見るからに焦ってるみたいだけどなんだろう?


「妾のことはアルで構わん。アレクサンダーにエマ、これからどうするのじゃ?」

「なら、俺の事はアレクでいいよ。これからどうするか…すぐにでもイグナシアに戻りたいが…」

「ここからイグナシアまでどのくらいかかるの?」

「ざっと2年程じゃな」

「2年…」


 私達が飛ばされた時マイズも参戦するって言ってた…。マイズの実力はわからないけど、私達より強いのはわかる。あの戦力じゃ、今頃…。

 最悪を想像して私の体が震える。


「こればっかりは帰ってみないとわからないな…」

「そうだね…」

「ん?イグナシアの情勢を気にしておるのか?」

「そりゃな、魔龍は打ち倒したものの敵の幹部が俺達と入れ替わるように戦いに加わったんだ。今の戦力じゃ…」


 アレクも同じこと考えてるみたい。帰れるのは2年後…。イグナシアはどうなっているのかな…。


「ふむ。そうか、ならとっておきの物があるぞ?アレクが動けるようになったら向かうとしよう。今はゆっくり休むことが先決じゃ」

「とっておきのもの?まぁ、わかった。すまないが世話になる」

「気にするな。ついでじゃ」


 アルは部屋から出ていった。


「アレク…その…ありがとう」

「ん?なにが?」

「残りの魔力で落下から助けてくれたんでしょ?」


 そのおかげで私は無事でアレクがこんなことになっちゃってる…。


「気にするな。俺としては当然の事だ」

「私…アレクのお荷物になってないかな…?転移で気絶しちゃうし…」


 私がそう言うとアレクはため息をついた。


「はぁ…お荷物?な訳あるか。エマがいなかったら俺はとっくの昔に死んでるよ。転移の気絶は仕方ない。俺は知識があったが、エマは知らなかった。対策のしようがないんだから仕方ないことなんだよ」

「そう…?」

「ああ、だからあんま思い詰めたような顔するな。ほら、寝るぞ。自分の部屋戻れ」


 気付けば外は真っ暗だった。


「今日はここにいるよ。アレクの容態も気になるし、治癒魔術もかけるから」

「そうか。なら俺は眠るとするよ」

「おやすみ、アレク」

「ああ、おやすみ、エマ」


 私はアレクにキスをした。しばらくして、アレクは寝息を立て始めた。


「いつもありがとう。大好きだよ」


 そう呟き、治癒魔術をかけ直した。


 ◇◇◇


 〜アレクサンダーside〜


 寝てる間は心地いい感覚だった。確か、エマが新しく作った治癒魔術だっけ?1度発動すると自動で回復するってやつだ。効果は20分ほどだとか。


「ふぁ…よく寝た…」


 体の傷も完全にではないが治っている。内蔵も骨も元に戻っている。


「痛っ…くぅ…まだ所々痛むな…」


 だが、後は自分で何とかなる。魔力もほぼ完全に回復した。

 エマは自分に治癒魔術はかけてないようだ。あちこち包帯が巻いてある。今は机に突っ伏して眠っている。


「一緒に治すか…『エリア・ハイヒール』」


 範囲型の超級治癒魔術でエマも一緒に治した。これでバッチリ。あら不思議、さっきまで痛くて動けなかったのに今では野原を駆け回れるほどに。


「ん…?アレク…?おはよ…治癒魔術かけてくれたんだ。ありがと」

「おはよ、エマ」


 すると部屋の扉が開いた。


「起きたかの?アレク、エマついてくるがよい」

「はいよ」


 俺はベッドから起き上がりアルの後ろについて行った。

 外に出ると、ここがイグナシアではない事がすぐに分かった。


「わぁ…すごい山脈…」

「魔龍連山なんか目じゃないな…」


 目の前にはそびえ立つドデカい山脈があり、山脈の麓には長閑な平原が広がっている。


「ここでは滅多にモンスターは出現せんのじゃ。特異点もないからの。じゃが、住み着く人間もまたおらん」

「なんで?こんなにいい所なのに」

「海の向こうを見てみよ」


 俺とエマは振り返り、海の先を見た。


「なに…あれ」

「嵐?」


 島を囲むように嵐が吹き荒れていた。


「ここは秘境とも呼ばれておる。世界のど真ん中に位置するこの島はあの嵐によって通行を遮られておる。辿り着ける者は50年に1人くらいはおるの。お主らが来る30年前くらいにも青年が漂着したことがあった」


 転移魔術は1度行ったことがある場所にしか転移することはできない。ということは、その30年前に漂着した青年っていうのはマイズだろう。


「その青年はどうやって脱出したんだ?」

「さぁの。あやつは転移魔術を既に会得しておった。この島を探索した後に早々と転移で立ち去ったのじゃ。転移…そうか、あの青年にお主らは飛ばされたのか」

「そうだろうな。イグナシアに帰るにはあの嵐をどうにかしないといけないのか…」

「結構強そうな嵐だね…」


 嵐を打ち消す…天候操作の魔術なんか滅級に匹敵する力だ。厳しいな。


「着いたぞ。ここじゃ」

「え?なんもないぞ」

「ただの岩肌だけど…」


 アルが岩肌に手をかざすと洞穴が出現した。


「え!?なにこれ!?幻術!?」

「すごいな…全くわからなかった…」

「まぁ、幻術の一種じゃな」


 そう言って薄暗い洞穴の中に入る。中は薄く明かりが灯っており、下に続く階段になっていた。しばらく降りると大きな扉にたどり着いた。


「『開けゴマ』」

「え?」

「そんな安直な合言葉ある訳…え?」


 大きな扉はゴゴゴと音を立てて開いた。その中にある物とは…。


第89話ご閲覧ありがとうございます!!


次回をお楽しみに!

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