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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第七章 スアレ防衛戦
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第88話 2人の行方

 

 ヨハネス国王はシリウス達との話し合いの後、会議室で連絡用魔導具を使って会議をしていた。

 イグナシアでのパンドラの強襲、その防衛の成功、そして忘却の魔剣士アレクサンダーと暴嵐の魔術師エマの安否不明が友好国であるモルディオ、ミアレス、キーダ各国に連絡がいった。


『アレクとエマが安否不明…?それはなんの冗談だヨハネス!!』

「冗談でこんなこと言うはずがないだろう。冷静になれリオン」

『だが!アレクは超越級のクリーチャーを俺の目の前で圧倒した男だぞ!?エマも超級のクリーチャーを複数体単独で討伐していた!そんな2人が安否不明など…到底信じられるものではない…』


 アレク達4人と共にすごしたリオン皇帝は4人に対して家族並みの愛情を持っていた。それ故に、今回のアレクサンダーとエマの現状は受け入れ難いものだった。


『それを我々に連絡したということは彼らの捜索に手伝って欲しいという事ですか?』


 そう言うのはミアレス聖国のドルド枢機卿。アリア・ミアレスが亡くなり、光の神子もいないミアレスは現在アリアの父親ドルドが枢機卿となり空の玉座を守っている。神子の代理となり国の運営を担っている。


「そういう事です。ドルド枢機卿」

『彼らにはこの国を救ってもらった。亡き娘アリアの唯一の親友です。もちろん協力させて貰います』

『もちろん俺もだ。モルディオ帝国を挙げて協力させて貰う』

「ありがとう…ドルド枢機卿…リオン皇帝」


 モルディオとミアレスの協力は得られた。


『探すのは良いが、一体どこを探すんじゃ?話によればマイズとやらは世界を旅したことがあるものなのであろう。ならば、探すのは世界規模になるぞ?』


 キーダ王国国王イルナト・キーダが口を開いた。


『イルナト国王のおっしゃる通りだ。我らだけでは世界は探せんぞヨハネス』

『イルナト国王なんてよせやいリオンよ。昔みたいにイル爺と呼んでくれんもんかのぉ』

『や、やんちゃな頃の話はおやめください…。今は会議中です…』

『すまんのぉ!あのやんちゃ小僧が今や立派な皇帝だからのぉ!さて、話を戻すとしようか。どうするのじゃ?ヨハネス』


 ケタケタとイルナト国王は笑いながら話を本題に戻した。


「我々から世界に赴くのではなく、別の国または別の大陸から旅してきた者から話を聞くことは出来ると思います」

『ふむ。なるほどのぉ…しかし、そう都合良く旅人が彼らの事を知っているとは限らんぞ?』

「都合良くはいかないでしょう。しかし、我々ができるのはそのくらいです。国中を隅々まで探すのはもちろんですが、捜索チームを別大陸に送るのはすれ違いの危険性があります。なので大陸内に絞ります」

『まぁ、それが儂らにできる最大限か…』

「そうですね…大陸外に出ると通信用魔導具が機能しません。すれ違った場合戻ってくるのに2年はかかりますから、迂闊に大陸外には送れません」


 ヨハネス国王の話を聞きイルナト国王は深く考え込む。


『友好国である3ヶ国を彼らは救ってくれた。キーダ王国とは直接関わりは無いものの恩義は感じておる。キーダ王国も協力させて貰うぞ』

「ありがとうございます。イルナト国王」


 友好国である3ヶ国の協力を取り付けることに成功した。


「エノリス群島、アスモディア大陸に転移していた場合はお手上げですが、出来る限りを尽くしましょう。アレクサンダー君とエマ君は英雄覇道を歩む救国の英雄です。どうか、よろしくお願いします」


 ヨハネス国王の締めの言葉を切り目に会議は終了した。


「ふぅ…ソフィアとカルマ君は大丈夫だろうか。ルイーダに任せたはいいが、心配だ…」


 そう呟き会議室を後にした。


 ◇◇◇


「私は治癒魔術師であってメンタルカウンセラーじゃないんだけどなぁ…」


 そう呟き歩いているのはルイーダだった。ソフィアとカルマのメンタルケアをする為に2人を探している。


「やるしかないよね…。よし!どんとこいだ!」


 そう言い2人が休んでいる病室を勢いよく開けた。


「あれ!?いない!?どこいったの!?」


 そこはもぬけの殻だった。


「一体どこに…まさか…探しに…?」


 ルイーダは顔を真っ青にして2人を探しに走った。


「まずいまずい…陛下からしっかり見張っておくように言われてたのに…!!」

 〔カンッ!カンッ!〕

「ん?」


 木剣で打ち合う音が聞こえた。ちょうど訓練場の前を通った時だ。

 ルイーダは扉から中の様子を覗いた。


「ソフィア!!遅いぞ!そんなんだから動きを追えず1発でのされるんだよ!」

「カルマさんだって1発で気絶してたではありませんか!!」


 そこには言い合いをしながらひたすら木剣を打ち合うカルマとソフィアが居た。


「あの2人は魔龍を倒してみせたぞ!俺達も負けてられない…!」

「もちろんです…!」

「ちょちょちょ!なにしてるの!?2人も軽傷じゃないんだよ!?」


 その様子に見かねたルイーダが割って入った。


「俺達は動けます」

「動けますじゃないって!怪我は治っても血も戻ってないし、体力も万全じゃない!そんな状態で鍛錬したって逆効果だよ!」

「…」


 ルイーダに言われカルマは黙った。


「…アレクとエマは、帰ってきたらもっと強くなっていると思います」

「え?」

「あの人達はそういう人です。困難を乗り越え力に変える。だから、私達もアレクさんとエマさんが帰ってきた時に笑われないように強くなりたいんです」


 ルイーダはその強い瞳にメンタルケアは必要ないことを悟った。


「なら、まず体を休めなさい。やけくそに鍛錬したって逆効果よ。どう鍛錬するからその後考えなさい」

「「はい…」」


 2人は渋々病室に戻った。


「はぁ…大した精神ね。2人が戻ってくると信じて疑わない。逆に、そう思っていないと心がもたないんだろうけど…」


 ルイーダはため息をついて考える。


「メンタルケアが必要なのは、イグナスだろうけど…」


 憂鬱な気持ちになりながら、ルイーダは自室に戻った。


 数日後。イグナスがスアレに帰ってきた。


「はぁ…はぁ…スアレは無事だ。杞憂だったか…?いや、街門前がすごいことになっている。勝ったのか…」


 イグナス胸をなでおろし、安心してスアレに帰還した。

 最初に会いに行ったのはルイーダだ。


「ル、ルイーダ…いるか…?」

「……どうぞ」


 扉越しからでもわかるルイーダの怒りに満ちた声にイグナスは身構え、部屋に入った。


「おかえり。イグナス」

「た、ただいま…」

 〔バチンッ!!〕


 ルイーダはイグナスの前に立ち強烈な平手打ちをした。


「あなたイグナシアの守りの要でしょ…?罠だって冷静に考えればわかるのに、自分の個人的な復讐心に駆られて…」

「悪かった…」

「私があんな話をしたからだよね…。だったら私にも責任がある。ごめんなさい、焦らせるつもりで言った訳じゃなかったの…」

「違う!ルイーダは何も悪くない。本当に俺が馬鹿だっただけだ…。今回の戦いの話を聞かせてくれるか?」


 ルイーダは今回の戦いの全てをイグナスに話した。


「…アレクサンダー君とエマさんは魔龍との死闘で重症だった…。今どこにいるか、生きているのかさえわからない…」

「そうか…」


 イグナスは苦しく後悔と責任に押しつぶされそうな感覚に陥っていた。


「シリウスとアレイナはどうしてる」

「2人はスアレを出たよ。イグナシア近辺にはいるらしいけど、すぐ連絡が取れるように通信用魔導具を持たせてる」


 しばらくイグナスは黙り込み、考え込んだ。


「あいつらはおそらくパンドラの脅威を取り除きながらアレクとエマの帰りを待っているんだろう。俺もあちこち自由に動ける訳じゃない…」

「わかってる。あなたはいつも通り教職を続けて?2人が帰ってきた時にいつでも迎え入れられるように」

「ああ…アレクとエマは長期の遠征って扱いにするようにホグマン会長と掛け合っておくよ」


 そう言ってイグナスはルイーダの自室を後にした。イグナスは自身の行動を悔い、唇を噛み締める。


「早く帰ってこいよ…早く謝らせてくれ…」


 イグナスはその場を後にし、日常に戻った。


 ◇◇◇


 数日でアレクサンダーとエマの安否不明の情報は各地に広まった。もちろん、レディアの街にも。


 〜レディアの街〜


「ローガンさん…ミシアさんは妊娠中です。精神的に苦痛があればお腹の子にも影響が…」


 ローガンとミシアはレディアの街に戻っていた。2人が話しながら向かうのはエマの実家、ミシアとラルトの元だ。


「話さない訳にいかないだろ。もし数年戻らなければ嫌でも気付く。その時こそ2人は1番苦しい思いをするだろう」

「そうですね…」


 話していると2人は家の前に着いた。だが、なかなか1歩を2人とも踏み出せなかった。


「あれ?ローガンとミーヤじゃないか。玄関の前でなにやってるんだ?てか、アレクの救援に行ったんじゃ」


 後ろから話しかけてきたのは仕事から帰ったラルトだった。


「ラ、ラルト…。ミシアはいるか?」

「おう、いると思うぞ」

「少し話がある。上がっていいか?」

「構わないが…」


 ローガンとミーヤの暗い表情にラルトは不安に思いながら家に入った。


「あら、ローガンにミーヤちゃん随分早く帰ってきたのね?ラルトもおかえり」

「ただいま。それで、話ってのはなんだ?」


 いつものテーブルを囲み4人は椅子に座った。


「……」

「……ぐすっ…」

「お、おいミーヤ…」

「どうしたの…?」


 話を切り出せず、ミーヤの瞳には涙が溜まっていく。まだ死んだと決定した訳じゃない。生きている可能性も十分ある。しかし、不安は一向に拭えない。


「…アレクとエマが戦いで行方不明になった……」

「…は?」「え…?」


 ローガンの思いもよらぬ一言に2人は困惑した。


「スアレがパンドラの襲撃に遭い、アレク達冒険者が撃退したんだ。アレクとエマはその中心になり、大将格を討ち取った。だが、全ての力を使い切った所を敵に狙われ転移魔法陣でどこかに飛ばされた…」

「え…?ちょ、ちょっとまて…」


 ラルトはローガンの説明を頭の中で整理する。理解するにつれて冷や汗が止まらない。


「そ、それで、どこに飛ばされたんだ…?」

「わからない」

「イグナシア周辺か…?」

「わからない」

「い、生きて…生きているよな…?」

「……わからない」

「嘘だろ…」


 ラルトは頭を抱え俯く。


「アレクとエマの状態はどうだったの?」


 ミシアは冷静に聞いた。


「エマは魔力を殆ど使っていたが比較的軽傷だったらしい」

「アレクは?」

「アレクは…重症だったらしい…。自力で立っていたみたいだが、早急な治療が必要なほどと聞いている」

「そう…あのアレクが…。あの子の事だからエマを庇ったりしてたんでしょうね」

「そう言う場面もあったと聞いた」

「あの子らしいわ…」

「ミシア…」


 ミシアは口を抑えポロポロと涙を流す。ラルトはミシアの肩を抱き寄せ、涙を流した。


「なんで…あの子達が…」

「2人がパンドラに狙われる事は多々あったそうだ。なにか特別な力があるのかもしれない」

「アレクはわかるが…エマは魔術が得意な普通の女の子だ…。俺とミシアの子なんだから」


 ラルトがそう言った時、ミシアは若干表情を曇らせた。ローガンはシリウスの反応を思い出した。


『ミシアって言ったか…?』


 考えすぎだと、首を横に振る。


「話はそれだけだ…。俺とミーヤはこのままアレクとエマの捜索の旅に出る。しばらくは戻らないだろうが、もしアレクとエマが戻ってきたらこのブレスレットの魔力石に魔力を流してくれ。魔力を流したら対のブレスレットの色が変わるようになっている」

「わかったわ…。ローガン、スアレが襲撃された時どうやって防衛したの?スアレには剣聖が居るから彼が?」

「いや、イグナスはその場にいなかった。俺達とスアレに向かっていたシリウスとアレイナというSS級冒険者が先行してスアレに向かってな。それで防衛に成功したんだ」


 その話を聞きミシアは目を見開いた。


「そう…シリウスが…。あの人が関わるってことは…」

「ミシア?」


 ミシアは深く考え込み1人で何かを呟いていた。


「ごめんなさい。なんでもないわ。ありがとう、ローガン」

「感謝される様なことはしてない。罵倒されてもおかしくなかった。守ると約束したのに…申し訳ない…」


 そう言ってローガンとミーヤは頭を下げた。


「謝ることじゃないわ。あの子達ならきっと無事よ。エマにはアレクが着いてる。アレクにはエマが着いてる。あの子達が一緒ならどんな困難だって乗り越えるわ」

「そうだな。あの子達が帰る家を俺達は守るよ」


 2人はそう言い、ローガンとミーヤを見送った。


 ◇◇◇


 しかし、アレクサンダーとエマが消息を絶ってから約2年と半年、2人の情報が入る事は一切無かった。


第88話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回から新章です!!

その前に補足パートを更新しますんで是非見てってくださいね!

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