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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第七章 スアレ防衛戦
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第86話 シリウスVSマイズ

 

「そ、そんな…アレク…エマ…」

「そんな…」


 目の前で起こった事をカルマとソフィアは膝から崩れ落ち、唖然とした。


「クククッ…ハッハッハッハッ!!!さぁ!!蹂躙の時間です!!」


 静まり返った戦場に響くのはマイズの高笑いだった。その高笑いがカルマの耳に響く。ふつふつと怒りが沸きあがる。


「おまえぇえええ!!!」


 カルマは一瞬でマイズに肉薄し剣を振り下ろした。


「なにっ…!?」


 カルマの神速の刃をマイズは2本の指で掴んだ。


「速度は悪くないです。さすが彼らの仲間です。あなたも使い道がありそうですね。殺さないであげますからジッとしていてください」

「がっ…!!」

「カルマさん!!」


 カルマの鳩尾にマイズの拳がめり込む。


「く…そ…」


 重すぎる一撃にカルマは気を失った。


「さて、次は貴女ですか?第3王女ソフィア・イグナシアさん」


 とてつもない殺気をソフィアに向けた。


「はぁ…はぁ…、なんて威圧…」


 ソフィアはその圧倒的威圧に体の芯から震えるのを感じた。


(お願い!答えてください!私の魔剣…!!今戦わないと!!あいつを倒さないと!!国が滅亡してしまいます!!お願いします!!答えて!!)


 純白のロングソードを握りしめ、頭の中で必死に懇願する。

 しかし、魔剣は答えてくれなかった。


「どうしてっ!!」


 ギリッと歯を噛み締め、鋭い目付きでマイズを睨む。


「ほう。その剣は…ふむ、なるほど。貴女も使い道がありそうですね」

「えっ…?消え…!?」


 マイズはソフィアの目の前から一瞬て背後に回り込んだ。


「ぐぁっ…!!」


 ソフィアの首筋をトンっと叩き、気絶させた。


 その光景を目の当たりにしていた冒険者達に絶望が訪れる。


「うわああ!!」

「くそっ、ドラゴンを抑えきれない!!」


 その絶望は伝染し、冒険者達の心を蝕む。


「魔龍を倒した忘却と暴嵐は消えちまった…ドラゴン相手に渡り合っていた2人もローブの男に一瞬で鎮められた…。もう…無理だろ…」


 1人の冒険者の呟きに、周りにいた者達の心がおれていく。

 心の折れた冒険者達を跳ね除け、ドラゴン達はマイズの後ろに並ぶ。


「さて、まずはこの防御魔術ですね。おや?貴女はルイーダさん。国唯一の超越級治癒魔術師ですね」

「失せろ!賊め!!」

「それはできません。今から王都スアレを侵略しますので」


 マイズはそう言うと防御魔術に手を伸ばした。


「ふむ…中々に強固ですね」


 マイズの手に力が入る。すると、バチバチと音を立てて防御魔術を破壊していく。


 〔バリンッ!!〕


 防御魔術は砕け散った。


「ルイーダさん、貴女は優秀な治癒魔術師ですが、超越級の治癒魔術師ならパンドラにも居ますので。侵略の弊害となりそうなので貴女はここで殺しますね」

「ぐっ…」


 マイズはルイーダの首を鷲掴みにして持ち上げた。


「最後に言い残すことはありますか?こう見えても私は紳士なので」

「ペッ…くたばれ…」


 ルイーダは唾を吐きつけた。


「口の悪い女性だ」


 マイズの手に力が入る。


「さようなら、ルイーダさん」


 マイズがルイーダを絞め殺そうとしたその時、空から何かが降ってきた。

 それはルイーダとマイズの間に突き刺さり、マイズはルイーダから手を離し、後ろに下がった。


「…燃えるように赤い剣身のバスタードソード…これは…」


 2人の間に突き刺さったのはどこからとも無く降ってきた大剣だった。


『おいおい、なんで押されてんだ?イグナスはどうした』


 後方から男の声が響いた。声の出元をマイズは見る。

 そこには黒髪の男が立っていた。


「シリウス…!!」


 マイズはギリッと歯を噛み締める。予想外のSS級冒険者の登場にマイズの表情が曇った。


『炎結界』


 シリウスの魔剣から大量の炎が溢れ、防御魔術が張ってあった位置に赤い結界が張られた。


「ルイーダ、久しぶりだな」

「シリウス…どうしてあなたが…」

「SS級冒険者シリウス…神出鬼没のあなたがまさかここに現れるとは…これは驚きました」


 マイズは体勢を立て直し、冷静に状況を見る。


「ルイーダ、イグナスはどうした」

「そ、それは…」


 ルイーダは顔を俯かせ、シリウスに事の経緯を聞かせた。


「はぁ…なるほどな、エバン校長…あの狸親父がパンドラのスパイだったのか。そして、その罠だって丸わかりの偽情報に踊らされ、まんまとしてやられたって訳か」


 シリウスはため息混じりにイグナスの状態を理解した。そして、戦場を見渡す。


「ドラゴンが3体にパンドラの幹部が1人、上空にも1人いるな。あいつがドラゴンを操っているのか…。ん?後ろでガキが倒れてるな…。アレイナ、知り合いか?」


 シリウスがそう言うと後ろから走って着いてきたアレイナが口を開いた。


「はぁ…はぁ…走るの早いよ!!えっと…。カルマとソフィアだよ!!早く救出しようよ!!」

「神速と風雅か…、あそこで死んでる魔龍は2人が倒したのか?見た感じ強力な個体なようだが」


 その問いに対して、ルイーダは顔を曇らせ泣きそうな顔をした。


「あれは…アレクサンダー君とエマさんが倒したの…たった2人でね…」

「マジかよ…」

「さすがアレクとエマ!!すごい勢いで強くなっていくね!!」


 そして、シリウスとアレイナはある事に気付く。


「んで?当のアレクサンダーとエマはどこだ?」

「まさか、後方で休んでた!?激闘だっただろうし、疲れてるよね!」

「…」


 2人の問にルイーダは答えられなかった。


「ルイーダ…?」

「アレイナ!!」


 シリウスはルイーダの心配をするアレイナを突き飛ばした。


「わっ!!」


 マイズがアレイナに肉薄していたからだ。シリウスはマイズの拳を受け止めた。


「アレクサンダー君とエマさんの行方を知りたいですか!?」


 マイズは興奮気味に言ってきた。


「てめぇに聞いてねぇよ」

「彼らはね!!私がこの場から消しておきました!!!」

「な…に…?」

「消した…?」


 マイズの言葉にシリウスとアレイナは困惑した。この場から消した。それは殺したと言う意味なのか、はたまたその場から移動させたと言う意味なのか。


「あれは…魔法陣…?」


 シリウスは倒れた魔龍の前に魔法陣の痕跡を見つけた。


「どこに飛ばした!!」

「さぁ、どこでしょうね…?忘れてしまいました」

「くそが!!」


 シリウスとマイズは戦いを始める。


「アレク…エマ…うそでしょ…ピンチの時は助けに行くって約束したのに…」

「アレイナ!!しっかりしろ!!死んでねぇよ!転移させられだけだ!!」


 シリウスの言葉にハッした。


「そうだ…!まだ希望はある」

「止めるぞ」

「うん!」


 アレイナはシリウスの横に立ち、マイズと対峙した。


「アレイナ、お前はドラゴンの相手を頼む。後ろのS級を何人か連れて行け」

「わかった!でも、後ろの人達は心が折れちゃってるよ?」

「はぁ…だらしねぇ奴らだ。アレイナ、拡声魔術を頼む」

「りょーかい!」


 シリウスはスゥーッと息を吸い込んだ。


『立て!!イグナシアの冒険者共!!!』


 拡声されたシリウスの声が戦場に響く。


『なに絶望してやがる!!忘却と暴嵐はたった1年半で魔龍を倒してみせた!!お前らはどうだ!!ベテラン冒険者達共!!新人に任せっきりでいいのか!?イグナシアを守る気概はどこに行った!?立ち上がれ!!戦え!!勝手に絶望して諦めるな!!命尽きるまで心を折るな!!』


 シリウスの言葉を聞き、冒険者の瞳に力が宿る。だが、相手はドラゴン、SS級である事に変わりはない。力の差を思い出し、恐怖が沸きあがる。


『安心しろ。お前達には俺達がついている。SS級冒険者シリウスとアレイナがな』


 シリウスとアレイナはSS級冒険者の中でも特に謎に包まれた存在だった。だから、今演説をしていたのも冒険者達からしたら誰かわかっていなかった。しかし、シリウスがSS級冒険者であることを名乗ったことにより、冒険者達の心に希望が宿る。


「へっ…他力本願で結構だ…。怖いもんは怖いんだよ…だが、つえーやつの肉壁にくらいなってやるか!!」

「やるぞ!!イグナシアを守るぞ!!」


 《うぉぉおぉおおおおおお!!!!!!》


 冒険者達は雄叫びを上げ、アレイナの後ろに続いた。


「チッ…これは、まずいですね」


 その様子にマイズは舌打ちした。


「よそ見していいのか?」

「くっ…」


 シリウスはマイズに肉薄し、連撃を食らわせる。カルマやソフィアでは手も足も出なかったマイズを圧倒していく。


「熱いですね…その火の魔剣、非常に厄介です」

「火じゃねぇ炎だ。それに、魔剣だけだと思うか?」

「がはっ…」


 シリウスの蹴りがマイズの鳩尾を捉える。


「ほら!休んでる暇はねぇぞ!!」

「魔剣技『炎帝』」


 大剣から放たれる巨大な炎の太刀筋は3つに別れ、巨大な火柱を作った。


「ぐああ!!」


 火柱はマイズに直撃し、全身を焼く。


「さすがに…強いですね」

「お前は思ったより大した事ないな」


 シリウスは挑発気味に言った。


「ふっ…安い挑発ですが、乗ってあげましょう。イグナシア侵略は成功させなければいけませんし」


 そう言いマイズの身体中から闇の魔力とか瘴気が溢れる。


「…瘴気を操れるってのは本当みたいだな」

「さぁ!第2ラウンドです!!」


 マイズは闇の魔力を纏い、シリウスに肉薄した。


「へー、さっきより数段速ぇな」


 シリウスはマイズの拳を大剣で受け止めた。しかし、受け止めた大剣はマイズの拳に押された。


「力も増してやがる。鬱陶しいやつだ」

「火の魔剣…初めて目にしますが、凄まじい威力です」

「だから、火じゃなくて炎だ。魔剣ばっかじゃくて俺も見てくれよ」


 シリウスがそう言うとマイズはニヤリと笑った。


「あなたについても知っていることはありますよ。"シリウス・グレイブ"さん」

「チッ…お前らの情報網はどうなってんだよ…」


 家名を明かされ、シリウスは顔を顰める。シリウスが家名まで教えたことがあるのはほんのひと握りの人間だけだった。それでも、その情報を手に入れることができているパンドラに対してシリウスは更に危険視をする。


「まぁまぁ、盗み聞きは私達の得意分野ですので。グレイブ…いやぁ、あなたがねぇ」

「黙れ。グレイブの名は捨てた、今はただのシリウスだ」

「あなたが捨てたつもりでいても、知っている人からしたらあなたは死ぬまでグレイブの人間ですよ。それに、なるほど。グレイブであるあなたがアレクサンダー君達に肩入れするのは、あなたも彼らの力に気付いているからでしょう?」

「…」


 マイズの問いにシリウスは無言で答えた。


「無言は肯定としますよ!それで、彼らの力…どう使うのですか?」

「使うだ…?お前らと一緒にすんじゃねぇよ。どんな運命であろうと俺はあいつらの意志を尊重する。それだけだ」

「意志を尊重ですか。しかし、彼らにある選択肢は戦いしかありませんよ?」

「そんなことねぇよ。あいつらが戦うと言うのならそれでもいい。だが、平和に暮らしたいと言うのであれば俺達が代わりに戦い、あいつらの平和を守るだけだ」


 シリウスのその目には確固たる意思が込められていた。


「ほう…そこまで気にかけているとは。やはり、グレイブですね」


 そう言いマイズはニヤケ顔を全面に出す。


「かつての仲間、ギムレットと重ねているのですかぁ?」


 マイズは不敵な笑みを浮かべ、驚くべき言葉を言い放った。


第86話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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