第85話 消失
「「全力だ」」
そう言い俺とエマは魔力を全て解放した。耐えうる限りの属性武装を施す。
俺の纏う雷電は猛々しさが増し、稲妻が暴れ狂う。髪は逆立ち瞳からは雷光が揺れる。手に持つ夜桜も稲妻を纏う。
エマが纏っていた凪は解除され、正反対に吹き荒れる暴風となった。暴風は俺の雷と混ざり合いその戦場は雷風が吹き荒れる危険地帯となった。
「うわっ…!!すごい…雷と暴風がここまで…」
後方で防御魔術を展開していたルイーダの所にもその余波がいっていた。
暴走と違ってしっかり制御してるから、味方を傷付けることはないが。
「エマ、凪じゃないのか?それは初めて見るな」
俺は荒れ狂う暴風を見てエマに言った。
「んふふー、これは私が考えたオリジナルなんだよ!カルマの鬼纏:迅からヒントを貰って頑張って作ったんだ!」
カルマの鬼纏:迅から?という事はスピードに特化しているのか。
それを編み出すとは…やっぱりエマの魔術センスは凄いな。
「名付けるなら『属性武装:風迅』だね!パワーとスピードに特化してるから防御面に不安は残るけど、そこは上手く躱さないとね!」
「さすがエマだ。俺の想像を超えていく。これなら、勝てそうだ」
俺とエマは魔龍を見据える。俺達の様子を見て、魔龍はなにかしようとしているようだ。
そして、魔龍の体から大量の闇の魔力が溢れる。
「マジかよ…」
「うそでしょ…」
魔龍は闇を纏い、『属性武装:闇』を発動した。
「こいつもこっからが本番だって言ってんだな」
「そうだね。全てをぶつけよう」
そう言い俺とエマは魔龍に肉薄した。
「おらぁ!!」
「はぁ!!!」
俺の刀とエマの拳が魔龍を同時に襲う。しかし、
「なっ…届かない…!?」
「厄介だね…!」
魔龍が纏う闇は俺達の攻撃を全て受止め魔龍本体には届かなかった。
「チッ…まだ威力が足りない…この闇の障壁を破る程じゃないと」
「そうだね…相手が闇ならこっちは聖を使おう」
「ああ、それがいい」
『属性付与:聖』
属性武装は雷のまま、雷を纏っていた夜桜には聖属性を付与した。
エマも風迅はそのままに拳のみ聖属性を纏わせている。
「我流『龍剣降斬』!!」
拡張された光の太刀筋が魔龍を襲う。
「はぁっ!!!」
神々しい光を放つエマの拳も魔龍を捉える。
「くっ…!!」
「まだ…届かない…!?」
俺達の攻撃はまた闇の障壁に阻まれる。
魔龍の爪が俺を襲う。
「動きも速い…」
爪攻撃もなんとか弾く。しかし、爪を弾いた後、次は太い尻尾先が俺の鳩尾を捉える。
「なっ…がはっ…!!」
「アレク!!」
強化魔術の防御も意味をなさない程の威力。防御を捨てたエマが食らったら…。
「エマ…逃げろ…!!」
「え…?」
俺に気を取られた僅かな隙を魔龍は逃さなかった。魔龍の半端じゃない威力の尻尾攻撃がエマに迫っていた。避けられない。
「ぐっああああああああぁぁぁ!!!!」
俺の雄叫びと共に雷が落ちたようなとてつもない轟音が鳴り響き、エマに向かって一筋の稲妻が迸った。
「がぁっ……!!」
「ア、アレク…」
俺は尻尾を受け止めた。限界を超えた速さで一瞬で尻尾とエマの間に入った。
「ふぅ…はぁ…エマ…俺の心配をするな。悪い癖だ…隙だらけだ。俺は死なないから思う存分戦え!」
俺の鼻からたらりと血が流れる。
「アレク!血が…」
「少しだけキャパオーバーしただけだ。まだ暴走はしない。大丈夫だ」
「わかった。ごめんなさい」
エマは自分の顔をパンッと叩き気合いを入れ直した。
「まずは闇の障壁を壊すぞ」
「うん!」
「もう一度障壁張られたらめんどうだから、破れたら最大火力を叩き込め」
「わかった!」
「いくぞ!!」
俺とエマは魔龍に向かって同時に走り出した。
俺達を迎え撃たんと魔龍はブレスを放ち、尻尾攻撃を繰り出し、爪攻撃を仕掛けてきた。しかし、それを俺とエマはトップスピードで躱していく。
俺とエマは魔龍に肉薄し、高く跳躍した。
「模倣聖剣技『聖滅』!!」
「超越級聖魔術『女神の怒り』!!」
とてつもない威力の聖属性攻撃を受け、闇の障壁にヒビが入る。
「もっと力を込めろ!!」
「やってる!!」
俺達は更に力を込め、俺は刀を振り下ろしエマは出力を上げた。
〔バリンッ!!〕
闇の障壁は砕け散った。
「やべっ…!!」
障壁が砕け散った衝撃で俺は手に持つ夜桜を地面に落としてしまう。魔力の消耗が激しく力が抜けてしまったからだ。高く跳躍していた為、夜桜が落ちた場所は遥か下だ。だが、問題は無い。
「俺は魔剣士だからな…!!」
落下の勢いそのままに俺とエマは残る魔力を振り絞り、渾身の一撃を狙う。
俺は右手を掲げ、その掌に雷の魔力を集約し圧縮させる。形状は槍、雷でできた巨大な槍だ。
エマは左手を掲げ、その掌に風の魔力を集約し圧縮させる。奇しくも俺と同じ形状だった。
「これで終わらせる!!!」
『雷魔術『雷神の撃槍!!』
『風魔術『風神の撃槍!!』
雷と風の巨大な槍は魔龍の左右の胸を捉えた。しかし、強化され更に強固になった皮膚に阻まれる。
「ガアァァアアア!!」
魔龍は抵抗し、俺とエマにブレスを放った。俺達に避ける余裕はない。魔龍のブレスは俺とエマに直撃した。しかし、俺達は魔術を止めなかった。
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」」
俺とエマは叫びながら魔槍に全ての力を込めた。
「おらぁぁああ!!!」
「はぁぁああ!!!」
戦場に凄まじい轟音と衝撃が響き渡る。巨大な雷の槍と風の槍は魔龍を穿つ。
魔龍の足元には巨大なクレーターが出来ていた。
2つの魔槍に貫かれた魔龍は口から大量の血を吹き出し、力無く倒れた。
「はぁ…はぁ、やったぁ…」
「はぁ…はぁ…はぁ…俺とエマの…勝ちだ…」
《うぉおおおおおおお!!!!!!》
戦場からは割れんばかりの歓声が上がる。おそらく敵の大将であるモンスターを討ち取ったのだ。この戦いは俺達の勝ちと言ってもいい。
「ぐっ…はぁ…なんとか暴走はしないな…」
「よかった…けど、魔力があと少ししかないや…」
「俺もだ…」
なんとか魔力枯渇が起こる前に決着をつけられたようだ。
「落としてごめんな…」
落としてしまった夜桜を拾い腰に挿した。俺とエマもボロボロだ。ブレスの直撃で火傷を負っている。エマはマントが威力を弱めてくれたようで軽傷だ。そのマントも使い物にならなくなっている。
俺は身一つでブレスを受けたため、シャツは完全に焼け焦げ上半身裸の状態だ。火傷と焼け爛れた肌が自分で見ても痛々しい。
「他は…」
俺は周囲を見渡す。
どうやら苦戦ているようだ。だが、冒険者達は俺達の勝利を目の当たりにし、負けじと力を振り絞っている。だが、劣勢であることに変わりはない。
カルマとソフィアは善戦している。冒険者のサポートを受けながらドラゴン相手に有効な一撃を幾つも叩き込んでいる。
この調子なら…いけるか…?
◆◆◆
「ま…じかよ…。魔龍を倒しやがった…。2人で…。SS級だぞ!?あいつらのどこにそんな力があるんだよ!!」
魔龍が敗れ、ブエイムは憤慨していた。
「はっ…ははっ…」
「なに笑ってんですか、マイズさん」
すると、マイズは両手を広げ涙を流した。
「すっばらしい!!!!あぁ!!!なんと!!やはり、あの2人は特別か!!ハッハッハッハッ!!!まさかまさか倒してしまうとは!!!計り知れぬ成長速度!!!底知れぬ力!!!いいでしょう!!あなた達が私達の天敵である事を認めましょう!!!あなた達を乗り越えた先に!!私達パンドラの悲願が達成される…!!」
「えぇ…」
マイズは興奮を抑えきれず、そう叫んだ。その様子にブエイムはドン引きしていた。
マイズは涙を拭い、目を細めアレクサンダーとエマを見る。
「しかし…この場ではアレクサンダー君とエマさんは不要です。ご退場願いましょう…」
すると、地上にいるアレクサンダーとエマの足元に魔法陣が展開された。
◆◆◆
俺とエマは互いに肩を持ち合い、ギリギリ立っていた。
「足が震える…」
「頑張りすぎたね…早くアレクの傷治さないと…重症だよね…」
エマが心配している。確かに重症だ。もうギリギリだ。安心しきったその時、俺達の足元に魔法陣が光を放った。
「なっ…」
「魔法陣!?」
俺達の様子はその場にいる冒険者達の注目の的だった為、俺達の足元に展開された魔法陣をその場にいる皆が見ていた。
『前も言ったでしょう。「こんな公の場で力を使いきるのは不用心じゃないですか?」と』
今1番聞きたくない声が俺とエマの耳に入った。後ろを振り向くとそこにはマイズが立っていた。
「あなた達には消えていただきます。私も戦いに加わる事にしました。もうあなた達の勝ち目はゼロです。パンドラの傀儡となり変わり果てたイグナシアでお待ちしております。まぁ、生きていればですが」
そう言うとマイズはパチンッと指を鳴らした。
視界の端ではカルマとソフィアがこっちに走ってこようとしている。
無理だ、間に合わない。俺はエマを抱きしめ、光に包まれた。
「アレク!!!!!」
「エマさん!!!!」
カルマとソフィアの叫びが木霊する。
そして光が消えた時、アレクサンダーとエマはその場から消失していた。
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