第84話 アレク&エマVS魔龍
俺とエマは魔力を解放した。
『属性武装:雷』
『属性武装:凪(風)』
俺は雷を纏い、エマは風を纏った。モルディオに滞在している間にエマは凪を会得していた。
「凪使えたんじゃねーか」
「とっておきはギリギリまで取っておくものでしょ?」
「その前に死んだら意味無いけどな」
「そーゆー事言わないの!」
俺とエマは会話しながら魔龍に一瞬で肉薄した。
「『轟雷龍斬』!!」
「超越級風魔術『暴嵐の刃』!!」
俺は左腕にエマは右腕にそれぞれ渾身の一撃を放つ。しかし、
「硬ぇ…!!」
「超越級でも、両断できない…」
魔龍の腕を切り落とす事が叶わず、魔龍は両腕を振り上げ俺達を弾いた。
「うおっ」
空中に投げ出された俺とエマは無防備になる。魔龍はその隙を逃さない。
「ブレスだ!!魔術で相殺しろ!!」
「そんな事言ったって!体勢が…!!」
エマは弾き飛ばされた勢いで魔龍に背を向けてしまっている。このままじゃ直撃だ。
「くそっ…!『ホーリーチェイン』!!」
「わっ!!」
俺の手から放出した光の鎖がエマを縛った。それを俺は引っ張り、エマを抱き寄せた。
魔龍のブレスが俺達を襲う。
「があぁ…!!耐えろぉ…!」
「アレク!!」
俺はエマを抱きしめブレスから庇う形を取る。エマは無傷だが、俺は背中にブレスの直撃を受けた。
「アレク…!ごめんなさい…治癒魔術を…」
『エクストラ・ヒール』
エマの治癒魔術で焼け爛れた背中は綺麗に戻った。せっかくのマントが使い物にならなくなってしまった。
「大丈夫…?」
「ああ、直前に風魔術でブレスを受け流したから重症ではないよ。とんでもない威力だな。受け流しきれなかった…」
「そうだね…全ての攻撃が即死になり得る…。正に別次元のモンスター」
「知能がある分厄介だ。こいつらも学ぶからな」
魔龍は追撃を仕掛けずこちらの様子を伺っている。動きを観察しているのだろう。
「そうか…ブレスは魔力攻撃だ…なら、あれが有効だな」
俺がブツブツと考え込んでいるとエマが覗き込んできた。
「どうする?」
「そうだな…弾かれはしたが、しっかり刃は通った、ダメージは与えられる。あらゆる手を尽くそう」
俺はそう言うと自分の周囲に火の玉を浮かべた。
「なるほどね!じゃ、私は限界まで圧縮してみる!」
エマは聖属性の魔力を圧縮し始めた。
「ガアァァアアア!!」
エマが大量の魔力を圧縮し始めたのを警戒してか、魔龍は叫びエマに向かってブレスを放った。
圧縮中は好きだらけだ。だが、
「やらせるかよ!!」
『リフレクト』
エマの目の前に現れた光の壁がブレスを反射し、魔龍にカウンターを食らわした。
「ブレスも魔力だからな。立派な魔術攻撃だ」
自身のブレスの威力に魔龍はよろめいた。
「ふぅ…少しはダメージが入ったみたいだな」
「アレク!圧縮できたよ!」
「こっちに撃て!!」
「わかった!!」
「超級聖魔術『ホーリー・オーバーレイ』!!」
エマは俺に向かって限界まで圧縮された光線を放った。
『リフレクト』
俺は光線をリフレクトで反射した。威力が増した光線は魔龍に向かう。
変則的な攻撃に対応できず、光線は魔龍の肩を貫いた。
「ガアァァアアア!!」
魔龍は叫び翼を大きく広げた。
「うおっ…!」
「風圧がすごい…!」
そして、翼を羽ばたかせ上空へ。
「おい!!ズルいぞ!!飛ぶなんて!!」
「アレク…そんな子供みたいなこと言わないでよ…」
「まだ11歳だからな」
「もう…うわっ!!ブレス!?」
魔龍は俺とエマの頭上をぐるぐると周り始め、周りながらブレスを放ってきた。
動かれてるとリフレクトで当てにくい…。考えたな。
「ズルいよ!!一方的じゃん!!」
「エマ…」
俺の次はエマが駄々をこねだした。
「さて、どうするか…」
延々と降り注ぐブレスを躱しながら考える。
「ブレス避けるのは他愛もないし、このまま魔力尽きるの待ったら?」
「なるほどなぁ、じゃ、1週間ずっと避け続けないとな」
「え!?1週間!?」
ドラゴンの魔力量は無尽蔵かと思える程らしい。1週間ずっとブレスを放出できるとか。
「エマ、俺が数秒あいつの動きを止めるからその隙に撃ち落としてくれ」
「わかった!」
エマは再び魔力の圧縮を始めた。
その様子に気付いた魔龍はブレスをエマに集中した。
『リフレクト』
「ほらほら!もっと撃てよ!」
降り注ぐブレスを片っ端からリフレクトで反射した。当たらなくていい、今はエマを守るのが最優先だ。
「アレク!いいよ!」
「数秒しか持たないぞ!」
「任せて!」
『ホーリー・チェイン』
俺の手から放たれる無数の光の鎖は魔龍の体を覆いキツく縛った。
「ガアァァアアア!!」
「ジタバタすんなよぉ。馬鹿力がぁ…!今だ!!」
「『ホーリー・オーバーレイ』!!」
エマが放った光線は見事に翼を撃ち抜いた。魔龍は上空でバランスを崩し、地面に叩き落ちた。
「翼は腕より柔らかいはずだ!切り落とすぞ!!」
「わかった!!」
「我流『龍牙一閃:雷』」
「超越級風魔術『暴嵐の刃』」
「ギャァァァァァアア!!!!!」
俺とエマの攻撃は魔龍の両翼を一刀両断した。
「これで空は飛べねぇぞクソトカゲ」
「アレク口悪いよ…」
魔龍にダメージは結構入っているはずだ。だが、まだピンピンしてやがる…。
「こちとら魔力に限界があんのに…」
「まだまだ魔龍は元気だね…」
魔龍はしばらく、動きを止め、こちらの様子を伺う。何か考えているのか…?
すると、魔龍は俺達に突進してきた。
ブレスも封じ、空も飛べない。なら、近接戦闘するしかないって訳だ。
「強化魔術限界まで上げろよ!」
「わかってる!」
俺とエマは限界まで強化魔術を引き上げ。俺は雷をエマは風を纏い直した。
俺とエマは魔龍に肉薄し、攻撃を繰り出す。ドンッと凄まじい衝撃が起こる。
「やっぱ硬ぇな…」
「ダメージ与えてる気になれない」
俺とエマの攻撃は魔龍の両手で受け止められた。ギリギリと音がなり、刃が通らない。エマの拳もまるで鋼鉄を相手にしているような衝撃があった。
一旦距離を置き体勢を立て直す。しかし、
「なっ…」
「はやっ…」
距離を置いたはずが一瞬で間を詰められた。魔龍の動きが数段速くなっている。
「がはっ…!!」
「ぐっ…!!」
魔龍の拳をもろに受け、俺とエマは後方へ殴り飛ばされた。
「アレクサンダー君!エマさん!」
ルイーダ達がいる最終防衛ラインまで飛ばされてしまったようだ。
「超級治癒魔術『エリア・ハイヒール』」
「ルイーダ先生…ありがとうございます…」
ルイーダの範囲治癒魔術で俺とエマは回復した。
「あなた達が希望よ…。お願いね…!」
「任せてください」
俺とエマは再度魔龍の元まで戻った。
◆◆◆
「な、なんだあれ…たった2人で魔龍と渡り合ってる…」
戦闘の様子を見ていたブエイムは唖然としていた。
「それに、アレクサンダーのあれはなんだ…?雷…?なんでそんな魔術が使えるんだよ…マ、マイズさんあれ真似できますか…?マイズさん?」
ブエイムの問いかけはマイズの耳には入っていなかった。
「素晴らしい…アレクサンダー君、エマさん…あなた達は私の想像以上です…。新たな元素を開発したのでしょう…。魔剣士以外のアレクサンダー君の才能…。そして、圧倒的な魔術のセンスを持ったエマさん…。やはり、生かしておいて正解でした…。素晴らしい…」
マイズは目を見開きアレクサンダーとエマの戦いに魅入っていた。
「さぁ…あなた達の真価をもっと私に見せてください…!」
「マ、マイズさん?」
「おっと、失礼。少々取り乱しました。それで、なんですか?ブエイム君」
「いや、マイスさんはあの雷魔術真似できるかなーって思いまして」
ブエイムの質問にマイズは顎に手を当て考えた。
「…無理ですね」
「無理なんですか?」
「はい、新しい元素というのは発生する根本を考えなければなりません。私は雷が発生する根本なんて検討も付きません。おそらく彼は人とは違う変わった思考回路をしているのでしょう」
「へー、マイズさんで真似出来ないなら誰にもできませんね」
「ええ、あの魔術は彼だけの魔術でしょう」
そして、マイズは魔龍に目を向ける。
「ふむ。魔龍の力が増しているようですが。ブエイム君、何かしましたか?」
「え?俺は何もしてませんよ?」
魔龍の様子を見てマイズは思案する。
「魔龍もまた戦いながら成長しているのでしょうか。これは、どうなるかわかりませんね」
そう言うとマイズは静観に戻った。
◆◆◆
「はぁ…はぁ…段々スピードが上がってきてやがる…」
「…はぁ…そうだね…魔龍も戦いながら成長しているみたい…」
雷を纏っていてもやっとだ。エマの息が上がってきている。対する魔龍はまだ余裕がありそうだ。確実にダメージは蓄積しているが、それを思わせない動きっぷりだ。
「このままグダグダしていると俺達が不利だ」
「そうだね…」
他の龍やパンドラの事を考えて全ては出し切らなかったが、これはどうしようもない。この魔龍を倒さないと結果は俺達の負けで終わってしまう。
なら、今ここで全てを出し切る方がいい。
「エマ、この魔龍はなんとしても倒さないといけない。出し切ろう」
「うん、そうだね。こればっかりは仕方ない。後のことはカルマ達に任せよう」
「「全力だ」」
2人の瞳に光が輝く。
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