第83話 ドラゴンの猛攻
周囲では討ち漏らしたSランクモンスターを冒険者達が討伐している。
あちこちで激戦が繰り広げられているが、問題は目の前だ。
「火龍、水龍、風龍。そして、魔龍か。よくこうも集められたもんだ」
「ドラゴンを使役するって、すごいね」
「今回は正真正銘のSS級ですね…」
「腕がなるな」
1体は1番強い気配を放つ魔龍は俺達が相手をする。上手い具合に別れ、S級冒険者達は各々のドラゴンと相対していた。
「ぐあぁ!!!」
「下がれ!下がれ!距離をとって戦え!」
「ドラゴンに勝てるのかよ…」
左では火龍との戦闘が始まっている。
やはり、ドラゴン。並大抵なわけが無い。冒険者達は蹂躙されている。集められたS級冒険者は15人、防御魔術を展開していた魔術師も前線に合流した。
「丁度5人ずつか…しかし、どこも劣勢だ…」
「どうする…?魔龍は後にする?」
「いや、それはダメだ。誰かが抑えておかないと魔龍が前に出てしまう」
「どうしましょう…」
魔龍は特に強力な個体だ。野放しにはできない。それに、この状況をどこかでブエイムとマイズが見ているはずだ。隙を見せたら突かれる。
「SSランクモンスターか…」
「アレク…私は大丈夫だよ」
俺の考えている事をエマは理解していたみたいだSSランクモンスター…。覚悟を決めるか。
「クリーチャー化した超越級の剣士はランクで言ったらどの辺だと思う」
「え…?えっと、SSランクじゃないですかね…」
周りを見回す。
風龍を相手にしているシェリエ達はまだ余裕がありそうだ。あそこは大丈夫だろう。
「魔龍は俺とエマが相手をする。カルマとソフィアは火龍と水龍の所に援護に行ってくれ」
「お、お2人で魔龍を…?」
「ああ、大丈夫だ。なんとかなる」
「ちょっと怖いけど頑張るよ!」
「危険過ぎないか…?」
やっぱり簡単に了承はしてくれないよな。
「仲間を信じる結果がこの選択だ」
「どういう事ですか…?」
ソフィアとカルマを見て言った。
「俺とエマで魔龍は抑えておく。早々に終わらして俺達の援護に来てくれ」
俺の言葉に2人は静かに頷いた。
「ご武運を」
「勢い余って討伐してもいいぞ」
それぞれの言葉を残し、2人は去った。カルマは火龍へソフィアは水龍へ向かった。
「2人大丈夫かな…?」
「あの2人の実力はそこら辺のS級冒険者より強い。大丈夫だ、なんとかするさ。それより、俺達だ」
「そうだね…」
俺とエマは目の前で鎮座する8m程の大きさの紫色のドラゴンを見据えた。
「魔龍…魔神龍の眷属…とてつもないプレッシャーだ。まるであの時のキメラを相手にしているようだな」
「うん…あの時は震えて動けなかったけど、今は耐えられる」
さて、俺とエマは魔龍相手にどこまで出来るだろうか。
◆◆◆
「え!?あの2人で魔龍を相手にするの!?それは無謀じゃない!?」
アレクサンダーの判断を見てブエイムが驚いていた。
「魔龍相手に2人…なにか策があるのでしょうか。エルガノフのクリーチャーもアレクサンダー君単体で倒していますし、油断なりませんね」
マイズもまた固唾を飲んで戦いを見ていた。
◆◆◆
「ねぇ、なんか胸騒ぎがする…」
「なんとも言えねぇ淀んだ感じだな」
そう話すのは馬車に揺られるシリウスとアレイナだった。ローガンとミーヤも乗っている。
「あとどのくらいで着くんだ?」
「そうですね…2時間ほどでしょうか」
シリウスの問にミーヤが答えた。
「2時間…走った方が速そうだ。アレイナ急ぐか?」
「うん…なんだか嫌な予感がする。急ごう」
そう言って2人は馬車から飛び降りた。
「ローガン達はゆっくりこいよ!」
「まぁ、馬車を置いていく訳にもいかんからな…」
シリウスとアレイナは全速力でスアレに向かった。
「アレク達、大丈夫かな…」
「あいつらならなんとかするだろ」
「会ったことないのにすごい信頼だね」
「前にも言っただろ?なんとなくわかるんだよ。特に忘却のことはな」
そう言いシリウスは笑う。
「なんでそんなに自信あるの?」
「んー、忘却は俺の親友によく似ている気がする。アレイナから聞いた話でも似ている箇所がいくつもあった。だから、なんとなくわかるんだよ」
「親友?」
「ああ、昔のな」
少し寂しそうな顔をシリウスはした。それを見たアレイナは何となく察した。もうこの世にはいないのだと。
「アレクのとこに急ご!」
「あんまアレクアレク言うなよ…」
「どうして?」
シリウスは少し顔を赤くしてそっぽを向いた。
「……妬く」
アレイナはそんなシリウスを見て笑顔になる。
「そっか!妬いてたんだ!ふーん」
「な、なんだよ…」
「可愛いねシリウス」
シリウスは更に顔を赤くした。
「急ぐぞ」
「わっ、待って!」
恥ずかしさを紛らわすようにシリウス全速力で走った。
◇◇◇
〜ミアレス国境付近〜
「くそっ!!どこにもいねぇじゃねぇか!!」
そう1人で叫ぶのはイグナスだ。
「はぁ…はぁ…落ち着け…落ち着け…」
イグナスは深呼吸して、冷静に状況を考える。
「俺はエバン校長からギルナンドの話を聞いて、真っ先に向かってきた。ギルナンドと聞いて冷静さを失った俺が馬鹿だったな…。あとでルイーダに謝ろう…」
荒野に1人佇み、思案に耽る。
「なぜそんな嘘をつく…?エバン校長も偽情報を掴まされてたのか…?……いや、違う…」
そして、ひとつの結論にたどり着いた。
「嵌められた…!!くそっ!!!」
イグナスは叫び来た道を戻る。
「エバン校長が内通者だったのか…!冷静に考えればこんな場所にクソ龍が出るはずないだろ!!不安に思ってもテオにサーチ頼めばいい話じゃねぇか!!」
全速力で来た道を駆け抜けていく。
「まずい…今のイグナシアの戦力じゃ…」
イグナスは後悔の念に駆られながらひたすら道を走った。
◇◇◇
場面は主戦場に戻る。
「カルマとソフィアでもドラゴン相手だと苦戦してるな」
「ちょっと!よそ見しないで!」
俺とエマは紙一重で魔龍の攻撃を掻い潜っている。
やはりドラゴンは別格だ。動きに規則性がなく考えて動いてやがる。
今しがた俺も腹に風穴開けらる所だった。
「アレク、どうする…?」
「どうするかな…どうやら、カルマとソフィアの援護は期待できなそうだ」
別に嫌味を言ってるわけじゃない、自分の敵に集中して欲しいだけだ。
「避けるのでやっとだ。爪攻撃とブレスが特に要注意だな」
「うん…体当たりも結構あぶない…」
さっきからずっと攻めあぐねている。こっちの体力を消耗するだけで、一撃与えられない。
「痛っ…くそっ…」
爪攻撃を脇腹に掠めてしまった。
「アレク一旦下がって体制整えよう!」
「ああ、そうだな」
俺とエマは魔龍から距離を取り体制を立て直した。
「ふぅ…凪を使っても躱すのがやっとか…」
「私の強化魔術も簡単に貫くね…」
分かっていたことだが一筋なわじゃいかないな。
「早くケリをつけよう。魔力は使い切るなよ」
「うん!」
俺とエマは魔力を解放した。
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