第82話 開戦
俺達はいつも通り、冒険者学校で授業を受けていた。突如、街門付近に現れたモンスターの気配に気付きすぐに街門に向かった。
危機を察した冒険者達も集い始め、ルイーダ指導の元防御魔術も張った。迎撃準備は万全だ。
しかし、1人足りない。
「イグナス先生!!イグナス先生は!?一体どこに行ったんだあのおっさん…!!」
「どこにもいない…」
俺達がイグナスを探しているとルイーダが近付いてきた。
「ごめんなさい…アレクサンダー君…イグナスはミアレスとの国境付近に現れたという始祖の龍の討伐に行ったわ」
「は?」
俺は一瞬耳を疑った。始祖の龍?始祖の龍の存在はもちろん知っている。だが、その龍達は討伐対象じゃないはず…。なぜ…。
「イグナスとは因縁のある相手なの。魔神龍ギルナンド…。その名を聞いてからイグナスは何も考えず行ってしまった…」
「そんな、いつ行ったんですか…?」
「昨日…」
昨日…ミアレス国境まで往復で4日はかかる。間に合わない…。イグナス抜きでやるしかない。
しかし、なぜこのタイミングで…まさか…
「テオ!!テオいるか!?」
「おう!!いるぞ!!」
民間人の避難を手伝っていたテオは丁度俺の近くに居た。
「どうした?」
「お前のサーチならミアレスの国境付近まで届くよな?」
「ああ、余裕で届く」
「すまんが、国境付近に考えられない程の魔力がないか探ってくれ」
「考えられない程の…?わかった、やってみる」
テオは集中して、サーチを張り巡らせた。改めて見ても凄まじい力だ…。
「どうだ?」
もし、これでいないとなれば…。
「いない…なにもない…いつも通りの国境だ」
「そうか…ありがとうテオ、民間人の避難を手伝ってやってくれ」
「ああ!役に立てたようでよった」
そう言ってテオは去っていった。
「くそっ!!!してやられた…」
「アレク、大丈夫…?」
「なぜ平行世界のイグナシアがイグナスが居るにも関わらず滅亡したかわかったよ…戦いの場にイグナスはいなかったんだ…!!」
「そんな…じゃ、この戦いも…?」
「いや、それは違う。平行世界は急な奇襲だったはずだ。俺達は準備が出来ている。勝てるさ」
「うん…!」
俺はルイーダの元に行った。
「ルイーダ先生、イグナス先生にその情報を伝えたのは誰ですか」
きっとそいつがパンドラの構成員だ。
「……エバン・アマリア校長よ…」
「なん…だと……」
エバンがパンドラのスパイだった…。最初から俺達の動向は探られていたのか。
ランガンも、キメラも、レディアの強襲も、モルディオの侵攻も。俺達を狙った全ての攻撃は、エバンの手引きがあったからか…。
「ホグマン会長!エバン・アマリアの身柄を拘束してください!!」
「わかった!!」
隣で俺とルイーダの話を聞いていたホグマンが冒険者学校へ急いだ。
(何かの間違いだ。エバン…お前が…)
ホグマンは冒険者学校の校長室につき、扉を勢いよく開けた。
「エバン!!!……そんな…」
そこはもぬけの殻となっていた。校長室の机にはパンドラのマークが彫られている。
エバン・アマリアがパンドラのスパイだったことが確定した。
◇◇◇
「さて、どうするか…」
目の前にいるのは100を超えるAランクとSランクのモンスター達。その後ろには一際大きな気配があった。
「SSランク…」
「ねぇ、あれって…」
「ああ、ドラゴンだ」
モンスターの頂点、4体のドラゴンが後方を陣取っていた。
「パンドラはドラゴンも使役してるの…?」
「みたいだな。あの4体をどうにかしないと勝利はないな」
俺の言葉を聞きエマは固唾を飲む。
「イグナスは頼れない。今いる冒険者達だけでやるしかない、やるぞ!」
「「「了解!!!」」」
俺、エマ、カルマ、ソフィアは真っ直ぐ敵陣に突っ込んだ。
「とりあえず雑魚の数を減らすぞ!!油断するな!!」
俺達は4手に別れ各々でモンスターを討伐していく。
「俺達も行くぞぉぉぉお!!!イグナシアの冒険者の意地見せてやれぇぇええ!!!!」
《うぉぉおぉおおおおおお!!!!!!》
大歓声と共に冒険者達がモンスターに挑む。皆A級以上の精鋭達だ。Sランクに対しても1人で挑まず、複数人で対応している。さすが、ベテラン冒険者だ。
◆◆◆
「わっはっは!!!さぁーいけー!!俺のモンスター達!!殺せ殺せ!!蹂躙だーい!!」
そうはしゃぐのはブエイムだった。ドラゴンの背に乗り、上空から戦況を見守っている。
「うわぁ…忘却の魔剣士達が帰ってまだ3日半だなぁ、よくこんだけの人を集めれたもんだ」
健闘する冒険者達を見てブエイムは感心していた。
「ブエイム君、油断しないように。彼らの動向は随時チェックするように」
「うわぁ!!マイズさん!びっくりするなぁ、転移で急に現れないでくださいよ」
「さて、戦況はどんな感じですか」
「聞いちゃいない…」
マイズはドラゴンの背からじっくり戦況を見極める。
「ふむ。私達の軍勢が押されてますね」
「そうですね。でも、表層はAランクで固めてますから、奥に進めば進むほど敵は強くなりますよ」
「ほう、レディアでの反省が活かされてますね」
ブエイムは嬉しそうにしている。
「さてさて、アレクサンダー君、君はどう出ますか?」
マイズは不敵に笑い、上空から戦況を見守っている。
◆◆◆
「くそっ、敵が多いな…」
「Sランクも出てきたね」
「奥に行くにつれて強くなってくる仕組みなんだろう」
この感じ…どこかで…。
「そうか。レディアの強襲はこれの予行練習だったのか…!!」
「そうだね…似てる。確かにあの後ろのドラゴンをどうにかしないと…」
モンスターを討伐しながら俺とエマは奥に進んでいく。
「ぐあぁ!!!」
「くそっ!急に強く!!」
周りの冒険者達もギリギリになって来ているようだ。
「まだ3割ほどか…」
仕方ない…。
「エマ、あれやるぞ」
「そうだね、この数相手じゃ分が悪い」
そう言って俺とエマは立ち止まり、下がった。
そして俺は拡声魔術を使い全体に聞こえるように叫んだ。
『全員!!!退避!!!』
キーーンと音がなり、一瞬の間が空き、冒険者達は一斉に退避した。
さすがベテラン冒険者、俺のたった一言で察し指示にしたがった。
「よし、やるぞ」
「うん!」
俺とエマは両手を空に掲げる。2人の頭上には果てしない量の魔力が集約されていく。俺は火をエマは風を作り出す。
俺はチラッと後ろを見る。全員防御魔術内に退避できたようだ。
モンスターが迫ってきている。だが、間に合う。
2人の頭上に作られた火と風はやがてひとつにまとまる。
それは、無属性にも似た果てしないエネルギーの集合体。
2人は空に掲げた両手をモンスターに向ける。
「「混合魔術『破壊』」」
とてつもないエネルギー量の光玉が集団の中央に着弾する。
「うおっ…エマ…捕まってろ」
「うぅ…うん…!」
凄まじい爆音と爆風が戦場に吹き荒れる。発動者である俺とエマも吹き飛ばされる程に。
エネルギーは集団の大部分を覆い、直撃したモンスター達を消滅させた。
「ふぅ…上手くいったな。魔力の3分の1は使ったが」
「これで戦いやすくなったね!」
後ろで見ていた冒険者達は唖然としている。
「すげぇ…!これが、忘却の魔剣士と暴嵐の魔術師…」
「勝てる!勝てるぞ!」
後ろでは大歓声が上がる。しかし、これで終わりじゃない。討ち漏らしたSランクモンスターとドラゴンが4体残っている。
ドラゴンにいたってはA級冒険者が束になって掛かろうとも勝てないだろう。
「討ち漏らしたモンスター達をお願いします!S級の方達はドラゴンの討伐を!!」
「おうよ!!」
俺の指示を聞いて、冒険者達は動き始めた。
「アレクサンダー君」
「シェリエさん、お久しぶりです」
話しかけてきたのかつてキメラ討伐に協力してくれたS級中位冒険者のシェリエだった。
「久しぶり、恥ずかしい話だがS級の俺達じゃドラゴンの討伐は難しい。やれるだけやってみるが足止め程度にしかならない。君達はどうする?」
「真ん中に陣取る1番強力なドラゴンを討伐します」
俺の言葉を聞いてシェリエは目を見開いた。そして、静かに笑った。
「まぁ、君達ならもしかしたら勝てるかもしれない。土壇場の君達の強さは俺とナニアが知っている。無茶するなよ」
「はい」
そう言ってシェリエは左側に陣取るドラゴンの方へ向かった。
「えぇ…今のなんすか…?なんかデカい玉がバーーーンって俺のモンスターの大半やられたんですけど」
上空から見ていたブエイムが呟いた。
「ふむ。彼らの成長は凄まじいですね」
「なんでそんな嬉しそうなんですか…」
ブエイムの言葉にマイズはニコニコしながら言っていた。
「しかし、今の大魔術はどうやら1度きりのようですね。魔力量の3分の1を使ったようです」
「マイズさんの魔眼便利ですね。相手の魔力量を見れるんでしたっけ」
「まぁ、それだけしかできませんが」
深く被ったフードから紅い瞳がチラリと覗く。
「さぁ、ここからですよ…思う存分踊ってください」
マイズは余裕の笑みでアレクサンダー達を見下していた。
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