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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第六章 モルディオ帝国
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第79話 また会おう

 

 アレイナは、アレク達と別れてから2週間後シリウスの元に戻っていた。


「おかえり、アレイナ。モルディオはどうだった」

「パンドラが襲ってきた」

「だろうな。忘却達ならうまくやっただろ?」

「そうだね」


 アレイナは無愛想に答えた。


「なんだよ。なんでキレてんだよ」

「七つの大罪」

「……その言葉どこで聞いた」


 七つの大罪と聞いてシリウスは真剣な顔になった。


「モルディオを侵攻してきたパンドラの首謀者は最上位デーモンだった。『嫉妬のエンビー』」

「嫉妬の…エンビー…!」


 シリウスは怒りを顕にし殺気を放った。


「ほら、知ってるじゃん。なんで教えてくれなかったの?」

「必要ないからだ」

「必要…ない…?」


 シリウスの言葉にアレイナは顔を顰めた。


「なにそれ…」

「教える必要が無い。七つの大罪は全員俺が殺すからだ。だから、教えなかった」

「でもあの場にあなたはいなかったでしょ!?あいつが逃げなかったらモルディオは無くなってたかもしれない!!」

「教えていた所で、お前になにかできたのか?」

「それは…」


 シリウスの言うことはごもっともだった。ロレンスの古城ではSランクの大量発生。アレクサンダー達は王城に無断で入れる唯一の冒険者。アレイナが入ろうにも色んな手続きが必要。七つの大罪が来るとわかっていてもアレイナが残るのは必然だった。


「でも、囮になるくらいはできる。その隙に皆を逃がせる」


 自身の言葉にアレクが見た光景の話を思い出していた。

 囮になりアレクサンダーともう1人の男を逃がした女性の話。


「出会って数ヶ月の男に命をかけるのか?」

「じゃないとアレクが死んじゃうじゃん!!」

「死んだらそこまでの人間だったってことだ」


 〔バチンッ!!〕

 アレイナはシリウスに平手打ちをした。


「なんでそんな事言うの…」

「忘却らじゃ七つの大罪には勝てない。アレイナもだ。ただの天滅級とは訳が違う。その違いを分かれ」

「わかんないよ!!シリウスみたいに色んなこと知ってるわけじゃない!!シリウスみたいに頭も良くない!!大切な人を守りたいって思うことはダメなの!?その為に…シリウスの隣で戦いたいって思うのは…ダメなの…?」


 アレイナはポロポロと涙を流す。


「もういい…」

「アレイナ!待て!」

「もういい!ついてこないで!」

「アレイナ…」


 アレイナは部屋から出ていき、自室に戻った。

 部屋に1人残るシリウスは溜息をつきソファに深く腰をかけた。


「はぁ…お前が大切だから死んで欲しくない…。どうしてそれが言えないんだ俺は…。柄にもなく忘却に嫉妬したか?」


 七つの大罪を思い出し、魔剣を握る手に力が入り震える。


「七つの大罪…お前らは俺が全員ぶっ殺してやる…」


 その瞳には強い殺意が込められていた。


 ◇◇◇


 あっという間に1ヶ月が経った。俺達はイグナシアに戻るために準備をしている。


 〔コンコンッ〕


 俺の部屋の扉が叩かれた。


「アレク様、準備は整いましたか?皆様城門前でお待ちです」


 シェリが催促しに来たようだ。俺は少し寝坊してしまったみたいだ。


「今行きます」


 扉を開けるとシェリが待っていた。


「シェリさんやっとアレクって呼んでくれましたね」

「はい、最後くらいはと思いまして」

「そうですか。また会う時もアレクって呼んでくださいね」

「ふふっ、アレク様とあと2年早く出会いたかったです」


 ん?どういう意味だろうか。2年前…、確かシェリさんが旦那さんと結婚する前の年…。いや、考えるのはやめておこう。

 俺はシェリに連れられ城門前に着いた。既に馬車も到着している。


「お待たせしました」


 城門前には、リオン皇帝、オリビア皇后、シャル、リラ、ジーク、ラングが居た。見送りしてくれるらしい。

 馬車の前には3人もいる。


「お前ら、またいつ会えるかわからんぞ。別れの挨拶すませとけ」


 俺がそう言うと3人はジト目で俺を見た。


「もう済ませた。アレク待ちだ」

「最後の日くらいしっかりしてください…」

「はぁ…20分遅刻だよ…」


 おっと、こりゃ悪い事をした。


「すみません陛下。お待たせしてしまい」

「気にするでない!アレクよ、本当にありがとう。モルディオを救ってくれた事もそうだが、子供達を指導してくれたことも、3人とも見違える程だ」

「いえ、本人達の努力の賜物ですよ。私はきっかけを与えたに過ぎません」


 俺とリオン皇帝がそう話すと、シャルが俺の前に来た。


「うおっ…」


 シャルが俺にハグをした。


「アレク…本当にありがとうございました…」

「シャル、魔術の鍛錬怠るなよ。シャルはもっと凄い魔術師になれる」

「はい…次は共に戦います…どうかお元気で…」


 ポロポロと涙を流すシャルの頭をポンポンと叩いた。次はリラが来た。


「ハグするか?」


 俺は両手を広げる。


「いらない!」

「痛っ…」


 リラに鳩尾を殴られた。リラの拳の方が赤くなっているが。


「リラ、遊びすぎず、ちゃんとラングさんから学ぶんだぞ」

「わかってる!次会った時はもっと魅力的な女性になってるから!」

「ああ、楽しみにしてる」


 リラの頭を優しく撫でた。


「ま、またね…アレク…」


 気丈に振舞っていたが最後の最後で泣いてしまったな。

 最後はジークだ。


「アレク兄さん…」

「ジーク、5ヶ月前に比べて随分腕を上げたな。だが、慢心するなよ。まだまだ俺もお前も発展途上だ。共に高みを目指そう」

「はい…」

「そんな顔するな。…そうだ、これをやるよ」


 俺は魔導袋から一振の刀を取り出した。


「これは、カルマさんと同じ?」

「ああ、なんとなく作ってもらったんだが、やっぱ使い道なくてな、ミスリルの刀だ」

「ミスリル…貴重な物では…?」

「俺が持ってても腐らすだけだ。それに、俺とカルマが教えたせいか、俺達と似たような癖が付いてしまった。両刃のロングソードより片刃の刀の方が扱いやすいだろ。俺からの気持ちだ、受け取ってくれ」

「は、はい…!」


 ジークは大事そうに刀を抱えた。


「いいか、相手が自分より遥かに格上で勝ち目が無くても、心だけは折るな。諦めなければ勝てるなんて精神論は言わない。勝つために必要なのは強さだ、それは変わらない。だが、人は時として限界を超えた力を引き出せる。常に心に火を灯せ。お前は強いジークバルト・モルディオ。お前の名がイグナシアまで轟くことを楽しみにしてる」

「はい…!この刀に誓って…」

「またな」

「はい、アレク兄さん…ありがとうございました…」


 ジークは泣きながら俺に抱きついてきた。俺もジークを抱き返し頭を撫でた。


「あなた達の部屋はそのままにしておくわ。モルディオに来た時はいつでもいらっしゃい。歓迎するわ」

「ありがとうございます」


 オリビアに頭を下げる。


「アレク君、こちらの事は任せてください。ジークバルト様にもリラ様にも私の持つ知識全てを伝授しますので」

「ビシバシお願いしますね」


 クスクスと2人で笑いあった。ラングはだいぶ年上だが気の合う良き相談相手だった。


「それでは、またお会いしましょう」

「達者でな、4人とも」


 皇帝一家に見送られ、俺達はモルディオ帝国、帝都キルニアを後にした。


「あっという間だったねぇ」

「そうだな、7ヶ月早いが随分長いことモルディオにいた気分だ」

「また来ようね」

「ああ」


 エマとそんな事を話しながら馬車は進んでいく。2週間と言う長い旅路だ。


「早く…早くスアレに戻らなければ…」

「ソフィア、気持ちは察すがあまり気張るなよ。しっかり休んでおけ」

「はい…」


 ソフィアはイグナシアの第3王女だ。自国のピンチと聞いて落ち着けるわけがない。


「パンドラが…どう攻めてくるか…だな…うぷっ…」

「カルマ…お前はいいから寝てろ」

「す、すまない…」


 カルマの乗り物酔いは相変わらずだな。


 そして、2週間後俺達は5ヶ月ぶりにイグナシアに帰還した。


 ◇◇◇


「ふぅ…とりあえず、着いたら襲われてましたなんてことはなくて良かった」

「い、急ぎお父様に連絡を…」

「待てソフィア」


 あまりに不確定要素が多すぎる話だ。慎重にやらないと。


「急にスアレが襲われるなんか言ったらパニックになりかねない。それに平行世界の俺が言っていたなんて言っても信じる人の方が少ない。話す人を絞ろう」


 信用できる人といえば…。


「イグナス先生じゃない?」

「そうだな、あとルイーダ先生にも話そう」

「でしたら、お父様のみにお伝えしておきます」

「あとは、ホグマン会長か」


 だいたいこの4人か。信じてもらえるかは別として、彼らの耳には入れておかなければいけないだろう。


「ソフィアとカルマは陛下に伝えてきてくれ。モルディオの時のような内部侵略も有り得る。慎重にな」

「「了解」」


 2人は真っ直ぐ王城へ向かった。


「エマ、俺達はまずイグナス先生の所へ行こう」

「うん!今は昼前だから授業中だね」


 俺とエマは冒険者学校へ急いだ。


 その様子を影で盗み見ていた男がいた。


「マ、マイズさん…計画が気付かれている可能性が…」


 男はパンドラの構成員だった。通信用魔導具でマイズに連絡をしていた。


『なぜ彼らがここへ…まだモルディオで留学中では…』

「ど、どうしますか…」

『まぁ、大した問題ではありませんが、彼らの底知れぬ力は少々厄介ですね。ふむ。では、こうしましょう』


 マイズは男に対アレクサンダーパーティ用の作戦を伝えた。

 男はニヤリと笑う。


「了解しました」


 男は通信を終え、その場を去った。


第79話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回から新章です!!

モルディオ帝国編は中々に長くなりましたが、それだけ進展がありましたね!

気に入って頂けたらブックマーク登録と評価よろしくお願いします!!


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