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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第六章 モルディオ帝国
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第77話 雷魔術

 

 エマと時々魔術の話をする。


「アレクはどうやって聖剣技真似してるの?」


 ある日エマはそんなことを聞いてきた。


「イメージだよ。聖剣技も元は聖属性の魔力攻撃だからな」

「そうだけど…うーん…私じゃ真似出来ないや」

「そうか?」


 魔術の模倣、または新たな魔術の開発は誰にでもできる事じゃないらしい。

 ミーヤが言うには、それは俺の才能の1つらしい。もちろん魔術の模倣をする事ができる人もいる。


 だが、世界に新たな元素を作り出した人物はいなかった。


 ◇◇◇


「俺もとっておきをお披露目だ」


『属性武装:雷』

属性付与(エンチャント):雷』


 俺の身体中から稲妻が迸る。黄色い瞳からは雷光が揺れ、髪が逆立つ。雷をまとった夜桜は雷光を放つ。


「なんだ…それは…」

「新しい元素を作ったんだ。雷魔術」


 俺の言葉にその場にいた全員が困惑した。


「はったりだ!!」

「なら確かめてみろよ」

「雷魔術『轟雷』」


 俺は瞬時に肉薄し、雷電をエルガノフに放った。俺の手から放たれる広範囲の雷は絶大な威力を発揮した。


「がああぁあああ!!!!」

「どうだ?これが雷に打たれる感覚だ」


 エルガノフの身体はビクビクと痙攣している。どうやら雷魔術の威力は申し分ないらしい。


「新たな元素…そんなに凄いことなのか?」


 魔術の知識に疎いリオン皇帝はオリビアに聞いた。


「すごい…なんてものじゃないわ。新しい元素を作り出すなんて…世界でも初めてよ…」

「そ、そうか…」


 バチバチと稲妻を纏うアレクを見て、リオン皇帝は感心していた。


「は、ははっ!!無駄だな。新たな元素を作り出した所で貴様と俺の差は縮まらない!!」


 エルガノフは一瞬で俺に肉薄してきた。剣を大きく振り上げそのまま、俺の首に向かって振り下ろされる。


 不思議だ。世界がゆっくりと動いているようだ。対応するのがやっとだった超越級の動きも雷を纏えば通常の速度ほどになる。

 俺は夜桜でエルガノフの剣を弾き、そのまま体に斬撃を与えた。


「ぐああ!!くっ…一体何が…」

「なんだ、見えてないのか」


 雷によって身体能力を何倍にも強化された俺の動きは最早エルガノフでは捉えることが出来なくなっていた。


「今ので確信した。貴様では俺に勝てない」


 俺は瞬時に肉薄し、エルガノフの耳元でエルガノフが言っていた同じ言葉を呟いた。


「くそぉぉぉおおお!!!」

「ヤケになるなよ」


 俺はエルガノフの右腕を切り落とした。超越級クリーチャーの硬すぎる皮膚もまるで豆腐を切るかのように簡単に切り落とせる。


「ぐおぉ…」

「まだ終わりじゃないぞ」


 俺は再度エルガノフに肉薄し剣を振り下ろした。


「ぐっ…」

「さすが超越級だ。速さに順応してきたか」


 エルガノフは俺の剣を受け止める。


「ははっ!!慣れてきたぞぉ!」

「そりゃよかったな。だが、この程度で終わりな訳ないだろ」

「なんだと…?」


 エルガノフから距離取った。

 そして、右足を引き、腰を落とす。俺は脇構えの体制になった。纏う雷の猛々しさが増す。


「一撃で終わらしてやる」

「やれるもんならやってみろぉぉお!!!!」


 エルガノフは全ての力を防御に集中させた。

 俺の威圧とエルガノフの威圧がぶつかり合い、とてつもない重圧が王城全体を覆った。


「いくぞ」


『轟雷龍斬』


 龍の如く猛々しい稲妻の一閃は、エルガノフの硬い防御を容易く打ち破った。


「く…そ……」


 首元にある水晶ごと、俺の逆袈裟斬りが一刀両断した。水晶から大量の瘴気が溢れ漏れ、エルガノフの身体が崩れ始めた。


「エル…」


 防御魔術を解き、リオン皇帝はエルガノフの傍に行った。


「リオン。俺は強く気高いお前に惹かれた。だから、今のお前の姿は俺には到底容認できないものだった」

「そうか…」


 身体が崩壊していくエルガノフはポツポツとリオン皇帝に語り始めた。


「だが、オリビアやジークの言う、武力ではない強さもあるのだろう。それは俺にはわからなかった。リオン…その強さだけでは抗えない理不尽な存在もいる」


 エルガノフの言う理不尽な存在とはおそらく最上位デーモンや滅級剣士、天滅級モンスターの事だろう。


「武力は必要だ。お前はもう強くなれないだろう。だが、ジークやアレクサンダー。確実に若い世代は育ってきている。抗え、理不尽に。果たせ、己の使命を。若い芽を摘ませるなよ。リオン」

「ああ、当たり前だ…」


 リオン皇帝の目からポツポツと涙が溢れる。そして、エルガノフは完全に石屑になった。


「馬鹿野郎…」


 石屑となったエルガノフにリオン皇帝は静かに涙を流した。

 王城での決戦が終わり。モルディオ帝国での、パンドラの脅威は去った。


 〔ドクンッ〕

「がぁ…!?」


 俺は心臓が大きく波打つ感覚に襲われた。そして、身体中から雷が迸る。


「くそっ…!まだ、扱いきれないか…!溢れる…!!」

「アレク!!!」


 その様子に気付いたシャルは俺の元へ駆け寄ろうとした。


「来るな!!制御が効かない…!離れて防御魔術を張ってくれ!!」

「わ、わかりました…!」


 シャルは謁見の間にいる全員を防御魔術内に入れた。


「ぐあぁ…!治まれ…!治まれ…!止まらない…!!があああ!!!!」


 俺の身体中から雷が放出され辺り一面を雷撃が襲う。壁、天井、床、ありとあらゆる場所に雷撃が直撃し、破壊していく。


「きゃぁ!!」

「これは、まずいわ…防御魔術がもたない…」


 シャルとオリビアの防御魔術では、俺の雷撃は抑えきれないようだ。

 すると、謁見の間の扉が勢いよく開いた。


「アレク!!」


 入ってきたのはエマだった。


「エマ…止まら…ない…」

「使ったの…?雷魔術…」


 俺は頷いた。


「ばか…待ってて…」


 エマは雷撃を掻い潜り、俺に駆け寄る。


「エマ!危ないぞ!」

「大丈夫です!」


 リオン皇帝が叫んだが、エマはまっすぐ俺のとこに駆け寄る。制御の効かない雷撃がエマに直撃した。


「エマ!!」

「ビックリするなぁ…」


 エマは咄嗟に腕で受け止めた。少し血が滲んでいる。どうやらエマの強化魔術は完全に貫くことはできないようだ。


「エマ…」

「待って、魔力の循環を正常に戻すから」


 エマは蹲る俺の背に手を当て、自身の魔力を俺に流し始めた。


「くっ…」

「エマ…ごめん…」

「静かにして、集中できない」


 体の表面を流れる雷電がエマにダメージを与えている。それでも、エマは手を離さず、魔力を流し続けた。

 次第に雷の勢いは治まり、完全に消滅した。


「はぁ…はぁ…治まった…」

「アレク」


 エマは俺を睨みつけた。


「完全に制御できるようになるまで"それ"は使わないって約束だったよね」

「…」

「顔を逸らさないで。こっち見て」


 エマは俺の両頬を鷲掴みにしてエマの方に向かせた。


「ねぇ、私が間に合ってなかったらどうなってたかわかるよね?」

「エ、エマ…アレクは俺達を救ってくれたんだ…あまり責めないでやってくれないか」

「陛下は黙っててください!!」

「は、はい…」


 エマは皇帝陛下に向かって怒鳴った。リオン皇帝もその怒気に萎縮してしまった。


 エマがここまで怒るのも当然のことだ。俺は雷魔術を編み出した時に1度今回のように暴走したことがあった。その時は幸いエマと俺の2人でクエストに行き、場所は山奥だったため周りに被害はなかった。駆け付けたルイーダによって治められた。


 ルイーダの説明によると、元素魔術は属性によって魔力の扱い方が変わるらしい。基本の4元素は世界で最もポピュラーな魔術であるため、暴走の心配はない。


 しかし、新たな元素、つまり未知の魔術は魔力の扱い方がまた変わってくるのだ。その影響で魔力が暴走し、循環が狂わされ、循環を治さない限り永遠に元素を放出し続けるのだ。

 放出し続けるとどうなるか…まず魔力枯渇になる。枯渇しきった次に使用されるのが生命力だ。そして、生命力を使い切り死に至る。

 魔力の暴走とはそれだけ危険なものだった。


「ねぇ、アレク…お願い…もっと自分を大切にしてよ…無茶しないで…」

「ごめん…」

「謝るくらいなら、約束守ってよ…」


 エマの手は震えている。

 暴走すればいずれ死に至るとルイーダに聞かされてからエマは扱えるようになるまで戦闘での雷魔術の使用を固く禁じた。

 学生最強決定戦で俺が死んでから2、3日後の出来事だった為、エマは俺の死に対して非常に敏感になっているんだ。


「もうしないよ」

「うん…約束ね…」

「約束だ」


 エマは俺の言葉に安心し、ふぅと一息ついた。


「立てる?」

「ぐっ…痺れる…」

「無理しないで」


 暴走の後遺症は中々にはハードだ。身体が痺れてまともに動けない、感覚が麻痺して触れてるのもわからない、味もしない。あるのは体の内側で電流のように流れるビリビリとした感覚だけだ。


「アレク、エマ、我々一族を救ってくれたこと、心から感謝している。後日ゆっくり話そう。回復するまで部屋でゆっくりしていてくれ」

「はい…ありがとうございます」

「カルマとソフィアも城内にいるクリーチャーを掃討してくれました。謝辞は2人にも」

「そうだったのか…わかった。後ほど礼を言おう」


 リオン皇帝達はエルガノフの石屑をメイドが持ってきた箱に詰め、そのまま謁見の間を後にした。


 俺は、後から駆け付けたカルマにおぶられている。ソフィアもすぐに駆け付けてきた。


「はぁ…アレク。本当に反省しろよ」

「してるって」

「調子に乗りましたね。反省してください」

「だからしてるって」


 2人からは非難の嵐だ。確かに調子に乗った。最近雷魔術にも慣れてきて戦えると思ったら使いすぎてしまった。

 エマはずっとそっぽ向いて頬をふくらませている。目すら合わしてくれない。


「エマ…」

「うるさい。話しかけないで」

「わかった…」


 エマにここまで怒らせたのは初めてだ。それほど、今回は許せないことだったのだろう。

 俺が雷魔術を使えることはパーティーメンバーとルイーダ、イグナスだけが知っている。

 俺達はなんとも言えない空気の中、俺の部屋に着いた。


 ◇◇◇


「うわっ、何この空気。お通夜?」


 ロレンスの古城から帰ってきたアレイナが俺の部屋に入ってきた。

 エマがアレイナの事をラングに伝えていた為、王城まで案内されていた。


「アレク?どうしたの?まさか負けたの?」

「負けてたら俺は死んでるよ」

「そーだよね!勝ったのになんでこんな空気なの?」


 空気が読めてるのか読めてないのかよくわからないな。


「アレクが私との約束破ったんだよ」

「そ、そうなんだ…エマ、すごく怒ってるね…」

「当たり前でしょ、アレクの生死に関わる事なんだから」

「生死に関わる?」


 どうせすぐわかる事だし話したって言いか。


「雷魔術」

「え?かみなりまじゅつ?」

「新しい元素作ったんだよ」

「………………はぁ!?」

「うるさいなぁ…」

「いや、新しい元素って!嘘だよね…?」


 俺はベッドで寝転がったまま左手を上げ拳を握る。バチバチと拳の周りを稲妻が迸る。


「ちょっとアレク!!」

「こんぐらい良いだろ」

「良くない!!」

「痛っ!叩くなよ!」

「アレクのばか!あんぽんたん!」

「叩くなって!!」

「もー、2人とも喧嘩しないでください」


 ぎゃーぎゃーと喧嘩する2人にソフィアが注意をする。それを横目にアレイナは唖然としていた。


「本当に…雷を…嘘でしょ…」

「まぁ、使い慣れてない魔術だから魔力回路が暴走してな、死にかけたんだよ」

「だから、私は完全に扱えるまで使うなって言ったの!なのにこのバカが約束破ったの!」

「痛っ!叩くなって!バカって言うなよ!」

「おい、喧嘩するなって…」


 アレイナは俺を見て、真剣な顔をして聞いてきた。


「どうやって新しい元素を作ったの…?」

「え?あー、イメージだよ。聖剣技を模倣する時もだけど、発動するイメージを持つんだ」

「イメージはわかるよ。私もサイレントを作った時は拡声魔術の応用をイメージしたから」


 サイレントは比較的簡単な部類だったな。


「でも、雷はなんの派生でもない、全く新しい元素。そんなのどうやってイメージするの…」


 まぁ、的を得た質問だな。未知のものをイメージしようにも難しい。


「じゃ、逆に聞くが、なんで4元素は普通に使えるんだ?」

「え?そりゃ、教科書もあるし、火、水、風、岩は普段から目にするものだから」

「だよな。だが、火はどうやって燃えているのか、水はなんで流れているのか、風はどうやって吹いているのか、岩はどうやってこの形になったのか。そういう事は考えているか?」

「え…考えるわけないじゃん。そんな事考えなくても発動するし。発動の仕方は嫌でも覚えるし」


 基本の4元素を覚える時、大体既に魔術を使える人からコツを学ぶ。その為の教科書も存在する。だから、みんな根本を考えない。


「俺は根本から考えたんだよ。雷はどうやって発生するのか、魔力をどう変換すれば雷になるのか、雷そのものの物質構成はどうなっているのか。雷魔術の開発は7歳の時からしていた。完成したのはつい4ヶ月前だよ」

「なんか…すごいね…。魔術に対する考えが普通じゃない」

「普通だと普通で終わるんだよ。俺は誰よりも強くなる為に普通ではいられない。だから、普通とは違う観点から見るんだ」


 基本の4元素、聖、闇、無を生み出した人物も同じような考えだったのかもな。


「とりあえず、まだ雷魔術に対応しきれてない体で使ったから反動で大変なことになったってとこだ」

「なるほどねー、まぁなるほどってほど理解はしてないんだけど…」


 アレイナは顎に手を当てて、何かを考え始めた。そして、何か閃いたかのような顔をした。


「アレク!その雷魔術の理論っての教えてよ!」

「いきなりだな…まぁ、いいけど」

「……私も」

「え?エマも?」

「なに、ダメなの」

「いや、いいけど」


 すごく威圧的なお願いだが、それでも可愛いから教えてあげよう。


「アレイナもいるし丁度いい。エルガノフとの戦いで起こったことを話しておくよ」

「「「「??」」」」


 全員が首を傾げて俺を見た。今回で新情報があったからな。


「まず、エルガノフはデーモンに取り憑かれていた」

「それはイグナス先生が言っていたデーモンでしょうか」

「ああ、間違いない。俺が見破った時イグナス以来だって言っていた」

「そうですか。戦ったのですか?」

「いや、戦わずデーモンは逃げたよ。重要なのはここからだ」


 俺は4人に最上位デーモン『七つの大罪』のことを話した。


「そんな…では、ミアレスに封印されているのは…?」

「あれは七つの大罪の1体「傲慢のプライド」らしい。7体の中で最強だと言っていた」

「天滅級が、7体も…パンドラは七つの大罪を使役しているのでしょうか…」

「さあな、だが、最強のデーモンは封印されている。それが唯一の救いだ」


 アレイナは握る大杖を震わせていた。


「最上位デーモン…嫉妬のエンビー…傲慢のプライド…」

「アレイナ?大丈夫?」


 その様子を見てエマが心配していた。


「大丈夫だよ。最上位デーモンが存在する可能性は考えてた。でも、確証がなかったから。ありがとうアレク。やっぱり雷魔術の理論はいいや。すぐにシリウスの所に戻るね」

「あ、ああ、色々ありがとうなアレイナ」

「ううん、助かったのはこっちだよ。ありがとうみんな」


 アレイナはなにか切羽詰まった様子だ。大丈夫だろうか。

 俺達に頭を下げて部屋を出ようとする。アレイナはもう一度俺を見た。


「アレク、これは予想だけど、あなたの記憶は魔術の代償で奪われたんじゃないかな」

「魔術の代償…?」

「うん、ロレンスの古城であなたが見たのは、もしかしたら、あなたが見てきた光景なのかも」

「それはないだろ。夜桜を思い出した時以外は全て大人だった」

「そうよね…。でも、未来に起こることという確証もない。アレクの見る"それ"は、もしかしたら、有り得た未来。平行世界(パラレルワールド)の光景なのかもね」


 平行世界…パラレルワールド…考えたこともなかったな。でも、平行世界だとしても、なんで俺はその光景を見ることができるんだ…?そういう特性なのか…?


「まぁ、これは私の予想だから気にしないで。また会おうね!アレク!エマ!カルマ!ソフィア!」

「ああ、またな」

「またね!」

「また」

「お元気で!」


 アレイナはモルディオを後にした。そして、アレイナは怒りに満ちた様子でシリウスの元に戻ったのだった。


第77話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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