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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第六章 モルディオ帝国
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第76話 嫉妬のエンビー

 

 アレクサンダーが謁見の間に到着する少し前…。


 俺達は王城に到着した。すぐに王城に入り謁見の間を目指す。しかし、


「なんだ…?瘴気だらけじゃねぇか」

「嫌な感じだね…」


 謁見の間に近づくにつれて瘴気は濃くなっていく。俺は集中して、サーチを張り巡らした。


「これは…クリーチャー…8体はいるぞ」

「クリーチャーが8体ですか。偶然現れた訳じゃ無いでしょう」

「そうだな。統率は取れているのか?」

「ああ、謁見の間を守るように展開してある」


 ロレンスの古城のSランクモンスターと言い、ここのクリーチャーと言い…操られているな。


「モンスターを操る特性を持ったやつがいるようだ」

「そっか…謁見の間の扉の前にいるのが術者っぽいね」


 俺と同じようにサーチを張り巡らしていたエマがそう言った。


「そうだな。とりあえず急ぐぞ、クリーチャーは見つけ次第討伐だ」

「「「了解!」」」


 俺達は真っ直ぐ謁見の間に向かう。

 しばらく進んだ時だった。


「きゃーー!!!」

「この声…シェリさんだ!!」


 俺達の身の回りの世話をしてくれている若いメイドのシェリがクリーチャーに襲われていた。

 だが、こっちは謁見の間から大きく外れてしまう…。いや、迷ってる暇はない。助けるべきだ。

 俺が方向転換しようとするとソフィアが俺を止めた。


「ソフィア?」

「アレクさん達は先へ進んでください」

「1人で大丈夫か?」

「はい!クリーチャー如き蹂躙してみせます!」

「お、おう」


 ソフィアはやる気満々にシェリの方へ走っていった。


「急ごう」

「アレク」

「どうしたカルマ」


 俺が先を急ごうとしたらカルマが呼び止めた。


「俺は王城にいるほかのクリーチャー共を始末してくる。アレク、お前は真っ直ぐ向かい陛下達を助けろ」

「わかった、死ぬなよカルマ」

「たかがクリーチャーに殺されてたまるか。アレクこそ相手は超越級だ、警戒しろよ」


 そう言ってカルマは気配のする方へ走っていった。


「エマ、行くぞ」

「うん!」


 俺とエマは真っ直ぐ謁見の間に向かった。


 ◇◇◇


 〜謁見の間:扉前〜


「えぇ!?なんか片っ端からクリーチャー達殺られてんだけど!?」


 フードを深く被った男、ブエイムが騒いでいた。


「まっずいなぁ…それに向かってきてる2つの魔力って忘却と暴嵐だよなぁ…」


 ブエイムは扉前で右往左往し、解決策を練っていた。必死の思案も虚しく、ブエイムの前には2人の冒険者が現れた。


「忘却の魔剣士…暴嵐の魔術師…」

「お前、一度会ったことあるな。レディアの時か」


 俺は、その男を見てレディアの時を思い出していた。


「うわぁ…来ちゃったよ…エルガノフには足止めって言われてたけど、俺じゃ無理っぽいな」

「なにブツブツ言ってやがる」


 俺は瞬時にブエイムに肉薄し、剣を振り下ろした。


「うわぁ!!ちょちょ…びっくりしたぁ!」


 ブエイムはなんとか躱し、体制を立て直す。


「俺自体はそんな強くないんだよ!!モンスター操れるから優遇されてるだけで!!」

「なら死ね」

「うわぁ!!!」


 こいつ、俺の攻撃を紙一重で躱してやがる。悪運が強いタイプか…。


「それじゃ!!さいなら!!」


 そう言うと、ブエイムは懐から1枚の紙を取り出した。


「しまった!スクロール…!」


 ブエイムはスクロールを起動させ、転移した。


「くそっ!!また逃げられた!!」

「ちょ、アレク!!大変!!」


 エマが叫ぶ。扉と反対側の影からクリーチャーが出てきた。

 ブエイムの置き土産だ。3体のクリーチャーは戦闘態勢に入った。


「アレク!!ここは良いから!!謁見の間へ!!」

「ああ!!任せるぞ!」

「うん!!」


 後ろのクリーチャーはエマに任せ、俺は真っ直ぐ謁見の間に突入した。


 ◇◇◇


 そして、今に戻る。ジークを治癒魔術で治療し、シャルに預けた。


「ブエイムのヤツめ。使えん男よ」

「パンドラを信用する方が馬鹿だろ」


 俺とエルガノフは鍔迫り合いをしながら言葉を交わしている。


「しかし、忘却の魔剣士の実力はこの程度か、過大評価していたようだ」


 俺と数回打ち合ったエルガノフがそう言った。

 俺は今、属性武装も属性付与もしていない。何故そんなことをしているか、それは単に剣のみで超越級とどこまで渡り合えるか気になったからだ。

 俺はまだ、剣術のみで超越級を相手にするのは分が悪いようだ。

 本気でやろう。


属性付与(エンチャント):火』

『属性武装:凪(火)』


 静かに揺らめく火は俺の体を覆い、夜桜を覆った。


「ここからは魔剣士として戦ってやるよ」

「ほう、それがお前の本気か」


 エルガノフがそう語る時にはもう既に背後を取っていた。


「なに…!?」

「我流『龍牙一閃』」


 横薙ぎの火の一閃はエルガノフの背中を捉えた。


「ぐおぉ…」

「どうした?本気でやれよ」


 俺は自身の周囲に無数の火の玉を浮遊させ、そこから熱線を放つ。


「ちっ…小賢しい…!!」


 エルガノフは熱線を弾き落としていく。腐っても超越級だ。動きに無駄がない。

 だが、確実に体力は消耗させている。


「超級火魔術『バーン・フレア・バースト』」

「ぐあぁ…!!」


 熱線を全て弾き落としたエルガノフへ追撃の魔術を放った。


「超越級の俺でも、圧倒されるのか…?」


 エルガノフはすんででガードし、直撃を避けた。


「なにぼーっとしてんだ」

「我流『昇り龍』」

「ぐああ!!…くそっ…!!」


 すくい上げた俺の火の斬撃はエルガノフの顔面を掠めた。

 エルガノフの顔には浅い切り傷ができる。


「アレク兄さん…凄い…超越級を手玉に取るように…」


 その様子を防御魔術の中で見ていたジークはポツリと呟いた。


 俺は追撃を仕掛けようと思ったが立ち止まった。このエルガノフには、なにか違和感を感じる。

 超越級なのに、その圧を感じない…なぜだ…。

 答えは直ぐに出た。


「おい、お前は誰だ?」


 俺はエルガノフにそう問いかけた。


「何を言っている。俺はエルガノフ・ギザンだ」

「側はな、中身の話をしてんだよ」


 俺がそう言うと、エルガノフはニヤリと笑った。


「はっはっはっは!!まさか気付かれるなんて!!俺の憑依に気付いたのは君で2人目!!イグナス・ブレイド以来だ!!」

「お前は…イグナス先生が言っていたデーモンか」


 エルガノフの身体から大量の禍々しい魔力が溢れ、そこから1体のデーモンが姿を現した。

 エルガノフはバタリと倒れた。


「なるほどな、憑依した相手の力を100%扱える訳じゃないのか」

「ありゃりゃ、まぁ、そこまでバレちゃうよね。その通りさ」


 その様子を見ていたリオン皇帝が口を開く。


「デーモン!?では、さっきの言葉はデーモンの言葉なのか!?」


 リオン皇帝は藁にもすがるように、聞いた。あれはエルガノフの本心ではないと願うように。しかし、


「ん?あれは正真正銘エルガノフの言葉だ。俺が入れ替わったのは、アレクサンダーと戦い始めた所からだからね」

「そ、そんな…」


 変わらない現実にリオン皇帝は肩を落とした。


「お前が戦うのか?」

「いーや、アレクサンダー、君の相手はエルガノフだ」


 そう言いデーモンがニヤリと笑うと、エルガノフの身体から大量の瘴気が溢れ出た。


「まさか…!」

「そのまさかだ。超越級剣士のクリーチャー…さて、どうなるだろうか」


 そう言うとデーモンは足元に魔法陣を展開した。


「逃げる気か!」

「まぁ、逃げるね。君程度簡単に殺せるが、今それをしても意味がない。契約主のマイズにも怒られるからね。そうそう、自己紹介がまだだったね」


 デーモンは仰々しく礼をした。


「俺は最上位デーモン7柱の1体、名を『嫉妬のエンビー』。以後お見知りおきを」


 最上位デーモンだと…?


「最上位デーモンはミアレスで封印されているはずだろ!!」

「ああ、それは『傲慢のプライド』だね。7柱中最強のデーモンだ」

「そんな…最上位デーモンは、7体居るのか…」


 ベリウルの何倍も強い化け物、天滅級の規格外のモンスターが他に6体も…。

 デーモンは俺を見て言った。


「500年前の人間共は俺達をこう呼んでいた。魔神の使徒『七つの大罪』とね」

「七つの大罪…」


 そして、エンビーの魔法陣が発動する。


「くそっ!!!」


 俺はエンビーに向かって、とあるナイフを投げた。そして、そのナイフはエンビーの肩に突き刺さり、そのまま転移した。


 ◆◆◆


 〜パンドラのアジト〜


 エンビーはマイズの目の前に転移した。


「がああぁぁあ!!!!!くそくそくそ!!!!あのクソガキ!!!!」

「おや、エンビー君。それは呪術を仕込んだナイフ。どうやらリュークの物ですね」


 マイズは冷静に状況を観察している。


「マイズ!!!いいから解呪しやがれ!!」

「私は解呪の方法は存じ上げません」

「クソが!!ゴホッ…ゲボッ…があぁ!!!!」


 アレクサンダーが放った呪術のナイフはしっかり効果を発揮していた。

 エンビーは1時間悶え苦しんだ。


 1時間後…


「はぁ…はぁ…はぁ…クソがァァァァァァァ!!!!」


 エンビーの叫びで辺り一面吹き飛んだ。


「アレクサンダー…!ぶっ殺してやる…!!マイズ!!俺をモルディオまで送れ!!」

「それはできませんね。彼にはまだ使い道があります。殺す訳にはいきません」

「あ?クソ人間の分際で俺に指図するのか…?」


 エンビーはただならぬ殺気をマイズに向ける。しかし、マイズが怯むことは無かった。


「デーモンの分際で私に指図するのですか?」

 〔パチンッ〕


 マイズは指を鳴らした。


「ぐあああああ!!!」


 突然エンビーの身体中から聖属性の魔力が溢れ出た。


「わかった!!大人しくしておく!!」

「分かればよろしい」

「くそっ!とんだ貧乏くじだ」

「そう言わず仲良くやりましょう」

「そう言うなら俺にかけた不当な契約を破棄しやがれ」


 エンビーとの契約はマイズが上位になっていた。


「マイズ、お前もアレクサンダーを殺そうとして呪術を掛けたのだろう」

「ええ、彼が死んだ場合、運命の糸はどう変わるかと思いましてね。結果はまさかの"生き返り"。彼には色々使い道がありそうだと判断しましてね。念を押しておきますが、彼を殺してはいけませんよ」

「へいへい」


 そう言うとエンビーは部屋の奥に消えた。


 ◆◆◆


 場面は戻る。


 〜謁見の間〜


「アレク、何を投げたんだ?」

「リュークが契約した呪術のナイフです」

「そうか、では刑は執行したという事だな?」

「はい」


 リュークの刑の執行は被害者である俺に委ねられていた。呪術の発動、つまりリュークの死刑だ。

 リュークの家からは国家転覆を謀る資料が大量に出てきた為、当然死刑判決だった。


「エルガノフ…」


 リオン皇帝は瘴気により、クリーチャーに変貌したエルガノフを見ていた。

 超越級のクリーチャー…。どんなものか。


「いい気分だぁ…これが魔に堕ちた感覚かぁ…ははっ!!これなら滅級の剣士も怖くない!!!」

「エルガノフ!!」

「うるさいなぁリオン。お前のせいで俺はこうなったんだよぉ!!!」


 エルガノフの負の感情が暴れ狂う。


「お前ばっかりお前ばっかりお前ばっかり!!!!!富も名声も女も!!!全てお前が持っていく!!!」

「お願いエル!!これ以上はやめて!!」


 オリビアはエルガノフに向かって叫んだ。


「お前も同罪だオリビア!!!俺はお前を愛していた!!リオンよりも早く!!なんども交際を申し込んだ!!リオンと婚約するまで!!!なぜリオンなんだ!!くそくそくそ!!!」


 エルガノフは完全に魔に堕ちた。


「全員死ねぇぇぇええ!!!!!」


 エルガノフは防御魔術で守られているリオン皇帝達に向かって走った。


「やらせるかよ!!」


 俺はエルガノフの前に立ちはだかった。


「どけぇぇ!!!」

「なっ…」


 エルガノフは俺を殴り飛ばした。俺は防御魔術に激突した。


「がぁっ…!!」

「アレク!!」

「強いな…」

「アレク!大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。私が何とかします。シャル、オリビア様、引き続き防御魔術の維持よろしくお願いします」


 俺の言葉に2人は頷き、防御魔術の維持に力を注いだ。


「忘却の魔剣士、邪魔をするなら殺す」

「殺してみろよ」

「虚勢を張るな。今の一撃で確信した。貴様は俺に勝てない」


 確かに、超越級のクリーチャーはとてつもない力だ。俺じゃ役不足かもしれない。

 だが、俺の後ろには守るべき大切な人達がいる。


「俺は死んでも、お前を殺す」

「ははっ!!精神論だな!!己の非力を悔やんで死ね!!」


 エルガノフは臨戦態勢に入った。


「俺もとっておきのお披露目だ」


 ニヤリと笑う俺の周囲に、小さな稲妻が迸った。


第76話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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