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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第六章 モルディオ帝国
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第72話 リラの決意


リラを救出し、城に戻った。

リラは体力的にもキツかったため、俺がおぶる形で帰ってきた。


城はいつも通りだった。

どうやら、リオン皇帝は大事にしないで欲しいという俺の願いを聞き入れてくれたようだ。


居住区域の居間に入る。


「ただいま戻りました」


俺達が入ると、全員が立ち上がった。

皇帝に皇后、シャル、エマ、カルマ、ソフィア、ラングもいた。


「戻ったか!リラ!!」


俺におぶられるリラを見て、リオン皇帝は駆け寄った。


「無事です。なにかされる前になんとか助けに行けました…運が良かったです」


リオン皇帝は涙目に俺を見た。


「運などではない…すべて君の実力だ、アレク…本当にありがとう…」

「…いえ…当然のことです…」


皇帝は傍らにいるジークを見る。


「ジーク!その血は…」


ジークの服は血で汚れている。


「あ、これは敵の返り血です。私は無事ですよ」

「そうか…そうか…。ジーク、強くなった」


そう言い皇帝はジークの頭を撫でた。


「ジークを連れて行ったと聞いた時は、無謀だと思ってしまった。ジークをここまで強くしてくれてありがとう」

「いえ、ジークの才能の賜物です。初陣ながら、大人の騎士6人を相手に完勝しました。恐るべき才能です」

「騎士6人を…?すごいな…。アレク残りの時間もジークの鍛錬に付き合ってやってくれんか?」

「もちろんです」


俺の言葉に礼を言うリオン皇帝にリラを渡した。

皇帝はリラをお姫様抱っこして、寝室まで連れていった。


「俺も少し疲れたから、部屋に戻るよ」


エマが心配そうに見ていたが、気にせず部屋に戻った。


◇◇◇


「ふぅ…」


俺の頭の中では今日の出来事が思い返される。


リラに外傷は何一つない、モイスターにもなにかされるすんでのところで助け出すことができた。

リラ自身も自分の足りない所、過剰だった自信も、理解出来たと思う。

この文面を見れば、十分な出来だと思う。


だが、リラの心はどうだ。

おそらく、リラが生きてきた上で1番の恐怖を味わっただろう。

服を無理矢理破かれ、最も最低な行為をされかけた。

俺もこうなることは予想していた。


「俺も、現実を甘く見ていたのか…」


俺の脳裏には下着姿で口を縛られ、モイスターに襲われかけていた、涙を流すリラの姿が焼き付いている。

俺は手に額を当て項垂れる。


俺も、リラのこと言えないな…

もっと良い方法があったのではないか…考えてもわからない…。


コンコンと扉がノックされる。


「アレク?入るよ?」


エマだ。


「おう」

「どうしたの?そんな顔して」


そんな顔…普通のつもりだったが、やっぱり俺は顔に出やすいらしい。それか、エマにはお見通しなのかもしれない。


「やりすぎたよな、俺も考えが甘かった」

「そうだね。少しやりすぎかも」


エマはストレートに言ってきた。


「でも、アレクが言ったように、いつかリラは同じ目に遭ってたと思う。その時は確実に今日よりも酷いことになってる」

「ああ、そう思ってやってみたが、リラの姿を見たら何が正しいのかわからなくなる…」


エマは俺の肩に頭を傾け、もたれてきた。


「何が正しくて何が悪いかなんて、その時にしかわからないよ。アレクはしっかりリラを助けてきたんだから、大丈夫だよ」

「でも…」

「大丈夫。リラはその位で立ち直れなくなるような子じゃないよ。アレクもそれをわかってるんでしょ?」


シャルやジーク、皇族の人間は逆境に強い。失敗しても立ち直り前を向く、その姿をこの2ヶ月で何度も見てきた。

普段から天真爛漫でおてんば娘のリラ、自信過剰なところもあるが、その目は常に先を見据えていた。

リラにも逆境に立ち向かえる力がある。


「そうだな…大丈夫」

「うん!アレクもそんなに落ち込まないで…。私は、例えアレクが悪の親玉になっても、アレクの味方でいるよ」

「悪の親玉って…俺は正義の味方でもないよ」

「そう?まぁ、私はどんなアレクでも大好きだけど!」


俺はもたれかかるエマの頭を撫でた。

幸せそうに笑うエマを見て、とてもとても愛おしく俺には必要不可欠な存在だと改めて思った。


◇◇◇


翌日、リラの体力が戻り俺達は皇帝に居間に呼ばれた。

シャル、リラ、ジークに皇后とラングもいる。勢揃いだ。


「アレク、改めて礼を言う。ありがとう」


皇帝は頭を下げた。


「幾つか質問があるのだがよいか?」

「はい、大丈夫です」


質問の内容は大体予想が着く。


「なぜ、リラは貴族の周りを嗅ぎまわっていたんだ?」


そうだろうな。

本来リラがすることじゃない。普段から探偵ごっこが好きな事はラングから聞いているが、今回はごっこで済むことではない。


俺が情報収集を依頼したことを話すしかないな。

どんな罰でも甘んじて受け入れよう。


「私が!…私が…独断で行いました…」


俺が言おうとする前に、リラが嘘を言った。

俺の作戦を知っているのは、パーティーメンバーだけだ。ラングにも言っていない。


「どうしてそんなことをしたんだ?」

「…アレクに…認められたくて…」


リラが涙目になりながら理由を話し始めた。


「姉様やジークは、魔術や剣術でアレクに認められてきています…。私には武の才能はありません…だから、人より得意な頭で認めてもらおうと思いました…。アレク達はパンドラという組織について探っている情報を得ていましたので…なにか役に立ちたいと…」


おそらく、これは本心だろう。

俺が依頼した時は、踏み込みすぎるなと念を押しておいた。それなのに、こんなことになったという事は、認められたい、兄弟に負けたくないという思いがあったのだろう。


リオン皇帝はリラを見つめる。


「そうか…わかった。リラ、お前は1週間の外出禁止だ。部屋で反省しなさい」

「はい…」


そう言ってリラは部屋に戻った。

残る俺達を見て、リオン皇帝は口を開いた。


「今、モルディオ帝国はパンドラの脅威に晒されている。それは知っているな?」

「はい」

「今回アレク以外にも、エマ、カルマ、ソフィアがそれぞれ怪しい貴族を見張っていたと聞いている。ある程度の情報は掴んでいるという認識でよいか?」

「はい」


皇帝はそれを確認し、ふぅと一息ついた。


「留学中の学生の身である君達に、恥を承知で頼みたい。どうか、力を貸してはくれんか…」


そう言って皇帝は頭を下げた。


「私からも…」

「私からも…」


続いてオリビア皇后とラングも頭を下げた。


「顔を上げてください。皇帝陛下、皇后陛下、宰相」


3人は顔を上げる。

俺は一人一人の目を見て言った。


「イグナシアにいる時から、私達はパンドラと敵対しております。モルディオ帝国にパンドラの影ありという情報も事前に知らされております。微力ながら、私達の力を帝国の為に使わせてください」


俺の言葉を聞き、皇帝は俺の手を握った。


「ありがとう…」


俺は皇帝と握手を交わし、パンドラと戦うことを改めて決意した。


皇帝は椅子に座り直し、一息ついた。


「なぜ、俺達皇族ではなく、貴族共を狙うのだ?」


皇帝は単純な疑問を打ち明けた。


「イグナシアにいたパンドラの幹部から聞いた情報では、モルディオ帝国をパンドラの傀儡とするためと言い、帝国には欲深い貴族が大勢いると言っていました」

「欲深い貴族…」


皇帝は思案に耽る。

このモルディオ帝国は小国が成り上がり大国となった。

惹かれ合う運命か、野望を持つ者の元には野望を持つ者が集まりやすい。

類は友を呼ぶと言うべきか。


「内からジワジワと攻めてくるつもりなのか…。アレク達は引き続き貴族共の調査を頼む」

「「「「はい」」」」


皇帝の指示を受け俺達は居間を出た。


◇◇◇


俺はリラの部屋の前に来た。

色々話したいことがある。

コンコンと部屋をノックした。


「アレクだ、ちょっといいか?」

「…」


返事がない…

ショックなのか?それ程までにトラウマになってしまったのか…?

それとも何かあったのか。

最悪の展開避けたい。そう思い、扉を開けた。


俺の目に飛び込んできたのは予想を反する光景だった。


「はぁ…はぁ…アレクに見られちゃった…下着姿…どうしよう…この前のエマみたいになるのかな…んっ…はぁ…アレク…はぁ…」


荒い息遣い、紅潮した頬、下半身に伸びモゾモゾしている手。


うそ…だろ…。

つい昨日、酷い目にあいかけたってのにリラはナニをしているんだ…?

図太い精神どころの話じゃない。

心配したのが馬鹿らしくなってくる。


俺は見なかったことにして、1度扉の前に戻る。


リラだって年頃の女の子だ、避妊の方法がないこの世で未成年が性欲を解消する方法など限られてる。

エマが1人でいたしている所に出くわしたこともある。

仕方ない。リラも性欲が強い方なのだろう。


「ふぅ…気を取り直して」


少し強めにノックした。


「アレクだ、ちょっといいか?」

「うわぁ!!ア、アレク!?ちょ、ちょっと待って!」


部屋の中ではドタドタと慌てる音が聞こえる。

しばらくして、その音も静まった。


「い、いいよ!」

「おう」


俺はリラの部屋に入った。

リラの頬は紅潮したままだ。途中で止めてしまったせいか、モジモジしている。


俺はリラの隣に座った。


「ん?このシーツ湿ってないか?」

「え!?そ、そんな訳ないじゃん!ばか!」


もちろん湿ってない。からかっただけだ。


「リラ、庇ってくれてありがとう」

「庇ったつもりなんかないよ、あれが私の本心だから。認められたくて、暴走しちゃった…冷静に考えればわかることだよね…」


リラはそう言いながら俯いた。


「諦めるのか?」

「え?」

「俺に認められたいんだろ?諦めるのか?」


リラは顔を上げ、俺を見た。


「諦めるなんか言ってないじゃん。私は馬鹿だったの、自分の元の頭の良さにかまけてそれ以上に学ぼうとしなかった。努力をしない人は何者にもなれない。」


リラは俺の瞳をじっと見つめそう言った。

エマの言う通り、心配の必要は無かったようだ。


「そうだ、わかってるようだな」

「当たり前でしょ、これからはこの国の頭脳として活躍できるように勉強する」

「そうか、そういう事ならラングさんから学ぶのが適任だ。生憎、俺は国の情勢には疎い」


リラは少し残念そうな顔をして、苦笑いをした。


「わかってるよ、アレク、助けてくれてありがとう」

「どういたしまして、頑張れよ」


俺はそう言って立ち上がった。

すると、リラは俺の腕を引っ張った。

そして、俺の頬にキスをした。


「これは、お礼だよ…勘違いしないでね!」


リラは顔を真っ赤にさせて、そっぽを向いた。

俺が振り向くことはないとわかっての行動だろう。

また、エマに女たらしって言われるんだろうな…


「ああ、ありがたく受け取っておくよ」


俺はリラの頭を撫でた。

ドアノブに手をかける。

俺の悪戯心がうずく…


「あ、リラ」

「ん?」

「そういう事する時は扉の鍵は閉めといた方がいいぞ。邪魔してごめんな?続き楽しんで」


俺がそう言うとリラはこれ以上にない位顔を真っ赤にさせた。


「ふぇ!?見たの!?ちょっと!!アレク!!聞いてたの!?」

「さぁ?なんだっけ?下着姿見られちゃった…とか何とかだっけ?覚えてないな…」

「ばか!!!嫌い!!大嫌い!!最低!!女たらし!!変態!!私も抱いてよ!!」


リラは半泣きになりながらあらゆる物を投げてきた。

出うる限りの暴言を俺に浴びせてきたので、俺はそそくさと退散した。

最後に言った言葉は忘れておこう。

デリカシー?なにそれおいしいの?


まぁ、リラも大丈夫そうでなによりだ。


俺の部屋の前に戻るとエマが立っていた。


「リラは大丈夫そう?」

「ああ、心配無さそうだ」

「そっか!よかった!………あれ?」


エマは俺の顔を見て、首を傾げる。そして、睨んできた。


「ねぇ…これ、キスマークだよね…?」

「うぇ!?…あ…いや」

「リラとなにしてたの?」


エマは笑顔だ。笑顔だが、額に青筋が見える。

俺はこの顔を知っている。

ある日ラルトがきれいなお姉さんがいるお店からキスマークをつけて帰ったとき、ミシアがしてた顔と同じだ…


「しばらくアレクとイチャイチャしないから」

「えぇ…これは違うって、勘違いだ」

「へー、勘違いでキスマークができるんだね?リラとイチャイチャしてきたら?」

「エマぁ…」


しらないと言いエマは怒って自分の部屋に行ってしまった。


リラのドヤ顔が目に浮かぶ…

まさか、こうなることを仕組んでいたのか…?

油断ならんな。


それから丸一日エマは口を聞いてくれなかった。

その様子をニヤニヤしながらリラが見ていたのは言うまでもない…


第72話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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