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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第六章 モルディオ帝国
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第70話 ジークの可能性


俺は今、ジークと訓練場にいる。モルディオに来る時にラングからお願いされたことの一つ。

皇太子ジークバルトの精神的な指導だ。

エマはアレイナに魔術を教わりに、カルマとソフィアは鬼纏:心の取得に励んでいる。


「ジークは虎剣流だったか?」

「はい!」

「どうして虎剣流にしたんだ?」

「それは…えっと…」

「恥ずかしがらずに言え」


ジークは恥ずかしがり屋なところもあるな。


「えっと、1番強いからです…」


その答えをカルマが聞いたらすぐに反論しそうだな。


「1番攻撃に特化しているってことか?」

「あ、はい、そうです」

「なるほどな」

「ダメでしょうか…?」

「いや、ダメじゃないよ、理由としては十分だ」


虎剣流は特にスタミナを使う。

自然と自分が得意な方に寄っていくんだろう。


「等級は?」

「中級です…」

「そうか、じゃ、打ち込んでこい」

「は、はい!」


ここからは打ち込み稽古だ。

打ち込みの過程で駆け引き、誘導の仕方を教える。


〔カンッカンッ〕

訓練場に木剣のぶつかり合う音が絶えず響く。

俺とジークは絶えず打ち込みをしながら会話する。


「ジーク、虎剣流ならソフィアにも稽古は付けてもらったか?」

「はい、時間を頂いて1度稽古をつけて貰ったのですが…」

「どうした?」

「その…ソフィアさんは感覚派と言うか、天才肌と言うか、言ってることがイマイチ分からず…」

「あー…なるほどね」


どうやらソフィアは人に教える才能は無いみたいだ。

おそらく、「ビュン!として、バッっ!って感じです!」って自信満々に言うんだろうなぁ…。想像できる…


「普段は誰に剣を教えて貰ってるんだ?」

「騎士団の団長さんとか、たまにお父様も教えてくださいます。主に、団長のエルガノフ団長です。エルガノフさんも虎剣流で、超越級です」

「へぇ…超越級」


さすが、帝国の騎士団長様だ、格が違う。

ジークも8歳で中級なら、十分に才能がある。

なぜ、ここまで自己評価が低いのかイマイチわからんな。


「あの、アレクさんはどの流派を?」

「ん?俺は全部使うぞ」

「ぜ、全部!?」


どうやら、俺が我流の剣士で、全流派の使い手ってのは知られてないみたいだ。


「ああ、4流派全て超級だ。」

「超級…!すごい!」

「だが、最近は4流派は使ってないな。俺は我流を使うからな」

「我流!?噂は本当だったんですね…」

「噂にはなってたんだな。俺の我流は魔剣士としての戦い方を最大限活かす為の剣術なんだ。まぁ、言うなれば「魔剣士流」ってとこだな」


ジークは目をキラキラさせながら聞いている。

まるで、勇者の話を聞く子供のように。


しかし、全力で打ち込みをしているにも関わらず、息を切らさず、しかも会話をしながら打ち込みを続けている。

剣筋も鈍っていない…

会話の意識とは別に、体が剣術を覚えているんだ。

ジークの才能も大きいが、それだけ必死に鍛錬してきた証拠だ。


「よし、打ち込みはここまでだ」

「はい!」

「ジーク、強くなりたいか?」

「はい…僕は皇太子、いずれ皇帝になります…皇帝は強く在らねばいけません。お父様のように…」


皇太子という重荷がそれを言わしてるんだろうな。


「本心で語れ。それはお前の置かれた環境が出した表向きの言葉だ。ジーク、お前が強くなりたい理由はなんだ?」


ジークは俺の言葉にグッと唇を噛み締めた。


「ぼ、僕は…守りたいんです…僕を愛してくれる人達を…。アレクさん、あなたは自分の大切な人達を守るため、戦っていると聞きました…。ボロボロになりながらも気丈に力強く、忘却の魔剣士は僕にとって勇気と力の象徴です…!僕はあなたのようになりたい!命に変えても守りたい人がいるんです!それが、僕が強くなりたい理由です!」


俺のようになりたい…か…


俺の脳裏にはアリアの顔が過ぎる。

守れなかった、命に変えても守りたかった、大切な人…。

ジークの覚悟は本物だ。目を見ればわかる。

俺と同じ目だ。

死んでも守りたい…と


「そうか、ジークにも俺と同じように死んでも守りたい人達がいるんだな」

「はい…!」


俺はアリアを守れなかった。

死んでしまいたいほど、悲しく悔しかった。自分の無力さを嘆いた。

そんな思いをジークにもさせる訳にはいかないな。


「よし!わかった!俺がみっちり鍛えてやる!」

「はい!よろしくお願いします!」


いい返事だ、ジークの顔にはやる気が満ち溢れている。

鍛錬前よりもずいぶんいい顔だ。


「ジーク、お前は虎剣流にこだわりはあるか?」

「いえ、特には」

「よし、ならジークお前は4流派の使い手になれ」

「4流派…アレクさんや剣鬼のような…?」


おお、ローガンはモルディオでも有名なのか、すごいな。


「そうだ、ジークが言った守りたいという思いを実現させたいなら、生半可な力じゃダメだ。虎剣流を極めてもいいが、俺はジークなら俺や剣鬼のように、4流派を使い分けて戦うことが出来ると思う」


さっきの打ち込みでジークの器用さはよく分かった。

打ち込み中に会話、俺が変則的な返しをしても会話をしながら平気に対応していた。それに、圧倒的なスタミナ。

十分すぎる素質だ。


「ぼ、僕にできるでしょうか…」

「弱気になるな。次、俺の前で弱気になったら、もうジークに稽古はつけない。俺ができるって言ったらできるんだ、わかったか?」

「は、はい!」

「いい返事だ」


そう言ってジークの頭を撫でた。ジークは照れたように笑っている。

弟がいたらこんな感じなんだろうなぁ

…俺って兄弟いるのかな?


「これは受け売りだが、何かを守る、守りたいという想いは人をどこまでも成長させる。ジークのその力は、この先も何かを守るためであってくれ」


ヨハネス国王にかけられた言葉だ。


「はい!頑張ります!」

「よし!まずは全流派を中級まで上げるぞ!」

「はい!」


ジークの特訓が始まった。


◇◇◇


「よし、今日はここまでだな」

「はぁ…はぁ…は、はい…!ありがとうございました」


想像以上だ…

驚いたと言わざるを得ない。


通常、8歳の子供が習い始めたばかりの剣術を1つ中級まで上げるのに、1年以上はかかる。

俺はジークの才能を見越して、1ヶ月と考えていたが、それでも甘かった。


ジークはたった1日で、鷹剣流を中級まで上げた。


「大丈夫か?」

「は、はい…!あと3時間はいけます…」

「無理するな、休むことも鍛錬だ」

「はい…」


俺も人の事言えないが…

俺達は朝から夕方まで、鍛錬し続けた。昼休憩を1度入れただけだ。

これには流石のジークでも堪えたようだ。


「鬼纏は四六時中しとけよ、最初はキツイだろうか次第に慣れてくる。鬼纏の練度が上がれば、更に強く素早く動ける。上級もあっという間だ」

「はい、アレクさんが上級になったのは何歳の頃でした?」

「んー、俺は確か8歳の時だな」

「僕と同じ年齢で、すごいですね」

「俺は6歳の時から剣鬼に教えて貰ってたんだ。嫌でも上級に上がるさ。ジーク、お前もまだまだ強くなれるぞ」

「はい!」


俺とジークは汗を拭き、訓練場を出ようとする。


「あ、あの…アレクさん…」


ジークがモジモジしながら声をかけてきた。


「どうした?」

「あの…えっと…」


なんだ?トイレか?それなら気にせず行けばいいのに。


「えっと…アレク"兄さん"と呼んでもいいですか…?僕、兄という存在に憧れてて…」


なんだ、こいつ、可愛いな。


「いいぞ、シャルやリラと結婚するつもりはないが、特別に呼んでもいいぞ」

「あ、ありがとうございます!アレク兄さん!」

「おう!」


なんだかむず痒いが、悪いものではないな。


◇◇◇


「ん?ジーク、鬼纏をしてるのか?」

「ジークさんの気配がより洗練された物になりましたね」


居間に戻るとカルマとソフィアがくつろいでいた。

エマとシャルもいる。


「それに…良い顔をしている。アレクの稽古は為になったか?」

「はい!すごく!」


カルマは微笑み、そうかと言った。


「ジークは今日だけで鷹剣流を中級まで上げたぞ」

「今日だけで…?凄まじいな。なるほど、アレクと同じ4流派の剣士にするのか」

「そゆこと、ジークは器用なやつだ。すぐに成長するだろう」


俺がそう言うとカルマは顎に手を当て少し考えた。


「ジーク、鷹剣流だけでよかったら俺も稽古をつけよう。構わないか?」

「いいんですか!?是非お願いします!」


ジークは満面の笑みで返事をした。


「よかったな、ジーク」

「はい!アレク兄さん!」

「「「「兄さん!?」」」」


アレク兄さんという言葉に全員が反応した。


「ジ、ジークが兄さんって呼ぶってことは…アレクはシャルかリラと結婚するの…?」

「うぇ!?ア、アレクが…私と…?」


エマが恐る恐る聞いてきた。

その言葉にエマとシャルが反応した。


「はぁ…ちがう。ジークが兄さんって呼ばせてくれって言ったから特別に呼ばせてるだけだ。兄貴分って事だ。勘違いするな」

「あ、そういうこと…」


納得してくれたようだ。


「なら、ジーク!私の事は、エマ"姉さん"って呼んでいいよ!」

「い、いいんですか?」

「うん!いいよ!」

「はい!エマ姉さん!」


エマ姉さんと呼ばれてニヤニヤしながら、俺に近付いてきた。


「えへへ、ジークって、可愛いね…」


俺は冷めたジト目でエマを見た。


「エマは年下趣味か…俺が捨てられる日は近そうだな…」

「ち、違うよ!そういう意味じゃなくて…こう、弟みたいな…」

「わかってるよ、冗談だ。俺も可愛いと思ったしな」

「もう!」

「痛っ」


慌てたエマも可愛いな。


その後は、皆で楽しく談話した。そこにリラの姿はなかった。

シャル曰く情報収集に熱中してるらしい。予想通りだ。


◇◇◇


「ねぇ、ジークってやっぱり凄いの?」


俺の部屋でくつろいでいるエマが唐突に聞いてきた。


「急にどうした?」

「私剣士じゃないから、ジークの実力ってわかんないんだよね」

「そうだなぁ、今はまだだが、近いうちにその才能を開花させるだろうな」

「へー、そうなんだ」

「魔術が使えないのが勿体ない。もし、ジークに魔術の才能があったなら、おそらく魔剣士になれてただろうな」


あの器用さは俺と通ずるものがある。

将来が楽しみだ。


「将来が楽しみだね!」

「そうだな」


俺の膝で寝転がる、エマの頭を撫でながら俺達は未来に期待をしていた。


その1ヶ月後…事件が起こった。


第70話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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