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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第六章 モルディオ帝国
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第68話 パンドラ対策


カルマとソフィアが瘴気に当てられ、暴走してしまった。

幸い、死人は出なかったが2人が瘴気に当てられるということは、遠回しなパンドラからの宣戦布告だ。

おそらく、"いつでも狙える"と言いたいのだろう。


「はぁ…やっぱこうなるのか…」

「どうしたの?」

「いや、結局どこに行ってもパンドラに絡まれるって思ってな」

「あはは…なんかもう嫌になるね…」


現状を放置しておけない為、俺とエマはパンドラを追っているというSS級冒険者のアレイナの元を訪ねる予定だが、その前に…


「カルマ、ソフィア」

「は、はい…」

「おう…」


2人にも話は通しておかないとな。


「いつまでもうじうじするな」

「しかし…私達は、最低なことを…」

「デアルを殺してやると心を支配されていた…」


結構ショックなようだ。

メンタルケアもリーダーの役目ってか。


「本気で殺そうと思ったなら、すぐに真剣を抜いていたはずだ。だが、お前らは木剣を使っていた。真の心はダメだと抗っていたんだよ、もう気にするな」

「でも…」


ソフィアは心は強い方だ、それでもここまでショックを受けているのは…俺が殴ったからだろうな。

やり過ぎたとは思ってない。ここで甘やかしたらまた、瘴気に当てられる。

しかし、このままでもダメだ…

この方法は使いたくなかったのだが…


「ソフィア」

「ア、アレクさん!?」


俺はソフィアを抱きしめた。


「殴って悪かった。ソフィアのこと嫌いになったりしないから、そんな落ち込むな。これからも俺達の隣で共に戦ってくれ」

「アレクさん…エマさんが睨んでます…」

「…わかってる…もう大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます…」


抱きしめたのはまずかったか?頭撫でるくらいにしとけばよかったか…?

殺気が…後ろを振り向けない…


「アレク」

「は、はい…」

「そうやって女の子をたらしていくんだよ?」

「はい…」

「アレクの優しさが、女の子を傷付けるんだよ?」

「はい…」

「はぁ…今回は仕方ないよ、ソフィアもいつまでもうじうじしないでね」

「はい、ご迷惑をお掛けしました…」


エマの殺気が収まった。

許されたようだ。


「アレク、次やったら拗ねるよ」

「はい…」


やっぱ許されてないようだ。


「…また、私がうじうじしてたら、アレクさんが抱きしめてくれるってことでしょうか…それなら…」

「ソフィア…?」

「ふふっ、冗談ですよ!」


ソフィアの冗談は冗談に聞こえないんだよなぁ。


「カルマ」

「ああ、もう二度としない。この剣に誓って」

「カルマは大丈夫そうだな。抱きしめる必要はないか?」


俺がニヤニヤしながら聞いた。


「や、やめてくれ、そんな趣味はない…」

「わかってるよ、冗談だ」


俺だってそんな趣味ないぞ。


「カルマ、ソフィア。お前らは心が強い。俺は瘴気に当てられた時、真剣で相手の首をはねようとした。イグナス先生に止められてなかったら確実に。だから、お前らは自信を持て、それだけで瘴気に抗える。」

「はい!わかりました!」

「おう」


魔術を使えない剣士でも、なにか瘴気に抗う術はあるはずだ。


「俺はエマと用事があるから、出てくるぞ」

「私はシャルさんとお話でも」

「俺は剣術部門の訓練場に戻る」


それぞれやることがあるようだな。


俺達はその場で別れ、各々の用事に向かった。


◇◇◇


「アレイナって人はどんな人なんだ?」

「んー、優しいお姉さんって感じだよ」


優しいお姉さんか。このジャンルが好きな人にはグッと来そうな設定だな。


「人間族なのか?」

「あ…言うの忘れてたね。アレイナは純血の魔族だって、瞳もアレクみたいに黄色いよ」

「そうか、純血の魔族…」

「シリウスって人と2人でSS級パーティーを組んでるんだって」


シリウス…どっかで聞いたことあるな…。

確か、冒険者学校をローガンと共に最高冒険者ランクで卒業した人だっけか。

SS級だったんだな。


「それで、そのシリウスって人は黒髪の人間族なんだってさ」

「え…?黒髪の人間族と黄色い瞳の純血の魔族…それって」

「うん、私もそう思って聞いたんだけど、アレイナは子供を産んだことはないって、男性とそういうこともした事ないらしいよ。シリウスって人も絶対にありえないってアレイナが言ってた。」

「そ、そうか…」


色んな可能性が考えられるが、それはこの後聞こう。


「着いたな…」

「いないねぇ」

「店のテラス席で待っとこう。エマを見て寄ってくるだろ」

「人を撒き餌みたいに言わないでよ」


しばらくして…


「来ないね…」

「いや…」


凄いな…完璧に気配と魔力を断ち切っている。

だが、俺は視線と空気感でも感知することができる。


「そこだ!」


俺は、俺の後ろの柱の影にスプーンを投げた。


『うわっ!!』

「え…?」


柱の影から声が聞こえた。

エマは困惑してるみたいだ。まぁ、エマはまだ視線と空気感で察知することはできないからな。


「あんたがアレイナか?」

「うっそー!シリウスじゃあるまいしなんで分かるの!?」


アレイナは被っていたフードを取り顔を見せた。


焦げ茶色の髪の毛を腰元まで伸ばしてる。瞳は黄色い…

確かに、鼻口辺りが俺に似ているか…?


「うっ…!」


頭痛だ…。こういう時は決まってなにか光景を見る。


「なんだ…?」


今回はただ、アレイナと誰かの姿が重なって見えただけだった。

誰かはわからない…


「うぅ…エマぁ…目を合わせたら顔を顰められたよぉ」

「アレク?どうしたの?」

「いや、少し頭痛がしただけだ…大丈夫」


俺達は席に着いて改めて自己紹介をする。


「俺はアレクサンダー、A級中位冒険者だ」

「知ってるよー、忘却の魔剣士くん。世界でたった1人だけの魔剣士」

「アレイナは世界を旅してきたのか?」

「うん!エノリス群島も行ったし、アスモディア大陸も行ったよ!」


アスモディアまで…ここから行くのに2年ほど掛かるのにすごいな。


「その旅の中でも、魔剣士はいなかったのか?」

「いないよ!魔術と剣術を扱うなんて、騎士系のモンスターくらいだよ…ハッ!もしかして、アレクってモンスター…?」

「アレイナ、怒るよ」

「じょ、冗談だよ…」


エマが真顔で言うとアレイナは萎縮した。

すると、アレイナはまじまじと俺を見てきた。


「な、なに」

「いやぁ、似てるなって」

「似てる?」

「うん、目の色は私と同じ黄色だけど、その目付きはシリウスによく似てる…本当に私とシリウスを足して2で割ったような顔だね…黒髪だし」

「エマから俺の親の話は聞いてるよな?」

「うん、残念だけど、私達じゃないよ。黒髪だからシリウスが父親の可能性を考えるだろうけど、それも有り得ない、力になれなくてごめんね?」

「いや、大丈夫だ」


そこは期待していないが、1つ気になることがある。


「シリウスは、冒険者学校を出てるよな」

「う、うん…そうだね…」


アレイナの目があからさまに泳ぎ始めた。


「エマから聞いたが、シリウスとパーティー組んだのは20年前だそうだな」

「そ、それがどうしたのかなぁー?」

「冒険者学校は去年で創立20周年だ。イグナス先生から聞いたが、シリウスは歴代最高ランクで卒業したらしいな」

「うーん、そ、そうだったかなぁ?」


アレイナから冷や汗が滴り落ちてる。


「おかしいなぁ…ローガンさんとシリウスは同級生と聞いているが、アレイナはシリウスが9歳の時からパーティーを組んでいるのかな?まだ冒険者になれない9歳の時から」

「……。」

「それに、エマから聞いた、アレイナの口ぶりだと、20年以上前からシリウスは冒険者として活動しているような言い方だが?つまり、シリウスは冒険者学校が創立される前から冒険者として活動してた訳だ」

「あっ…なるほどね…」


エマが納得したようにアレイナを見た。


「そ、そんな目で見ないでよ…」

「サバ読んだのか?」


その言葉にアレイナは涙目になって言ってきた。


「私は止めたんだよ!?そしたらシリウスは面白そうだからって!無理矢理裏口入学したんだもん!!私のせいじゃない!」

「いや、誰もアレイナのせいとは言ってないだろ…」

「じゃ!なんでそんな話してくるの!ばか!」

「えぇ…」


逆ギレだ…。

でも、それを問いただす為に聞いたわけじゃない。


「シリウスは、アレイナがパーティーを組む前から冒険者として活動していた。つまり、それなりの年齢って事だ。さすがに、見た目がおっさんの奴を裏口でも入学させないだろ。なぜ入学できたか、理由は簡単だ。見た目が若いから、10代と見間違うほど」


その言葉にアレイナは俯いた。


「アレイナ、シリウスは一体何者なんだ。人間族がいくら若作りをしようが、おっさんが少年のフリをするにはさすがに無理がある。本当に人間族なのか?」


だんまりだったアレイナが口を開いた。


「人間族だよ。ただ、少し特殊なだけなの。それ以上は言えない…ごめんなさい…」


口止めされてるのか…。

だが、シリウスが悪者ではないと言うのはアレイナを見ていればなんとなくわかる。


「聞いてみただけだ。本題はこれじゃないから気にするな」

「え!?これじゃないの!?」

「おう」


悔しそうな顔でアレイナが睨んでくる。それを俺はドヤ顔で返す。


「ねぇ!エマ!あなたの恋人どうなってるの!?意地悪すぎない!?」

「あはは…なんか今日はいつもより意地悪だね…」

「アレイナは弄りがいがありそうだったからな」


(頭キレすぎでしょ…本当に11歳?…シリウスも言ってたっけ。『おそらく忘却は相当に頭がキレるぞ、注意しろよ?』…ごめんなさい…シリウス…)


アレイナはそんなことを思いながらシクシク泣いてた。


「さて、本題だ」


俺の真剣な顔に、アレイナも姿勢を正す。


「俺の仲間が瘴気に当てられ、暴走した。俺とエマではなく、カルマとソフィアをピンポイントで狙ってきた。これはパンドラからの宣戦布告だろう」

「カルマとソフィア…神速と風雅だね。ピンポイントなら十中八九、あいつらの仕業だろうね」

「ねぇ、瘴気に当てる理由ってなんなの?だって、少し強くなるけど、すぐ鎮圧されるのに、意味あるのかなって」


エマの疑問は最もだ。瘴気を当て、負の感情を増幅させると多少強くはなるが、それだけだ。聖の魔力で浄化すれば万事解決だ。

なぜ奴らがそうするか…それは…


「強力なクリーチャーを生み出す為だろうな」

「強力なクリーチャー?どうして?」

「パンドラにはモンスターを使役する特性を持つ幹部がいる。特性図鑑で調べたが、人そのものを使役する特性はなかった。」


クリーチャーは人間として扱われるのか、モンスターとして扱われるのか。それはランガンの様子を見た時からわかっていた。


「強い人間をクリーチャー化させ、モンスターとして使役する。すると、あっという間に強力な味方の出来上りだ。特異エリアから強力なモンスターを探し出すより、遥かに効率がいいだろう」

「なるほどね」

「それに、瘴気はデーモンを強化することも出来る。パンドラはデーモンを召喚し、使役しているからな」

「確かに、ベリウルはアレクから溢れ出した瘴気で強化されてたね」

「嫌な思い出だ」


人に瘴気を当てる理由はこのくらいか?


「ねぇ、その情報どこで手に入れたの?」


アレイナが怪訝な顔で聞いてきた。


「ん?手に入れたってより、俺達の経験則だな」

「経験則?」

「ああ、クリーチャー化した人間と戦った、大量の瘴気が溢れ出し、使役されたキメラとか、カースリッチと戦った、上位デーモンとも戦ったな。その時、デーモンは俺の瘴気で強化していた」

「私が聞いていた話よりも、遥かに修羅場を潜って来てるんだ…よく生きてるね…」

「命からがらだ」


あくまで俺達の経験則だ。


「その予想は全て合ってるよ。さすがだね。つまり、アレクとエマはモルディオでのパンドラについて情報が欲しいってのが本題かな?」

「ああ、その通りだ」


アレイナがふぅと一息つく。


「エマに好きなようにやっていいって言ったからね。情報はあげるよ。でも、条件がある。」

「条件?」

「っと、その前に」

〔パチンッ〕

アレイナは指を鳴らした。


『サイレント』


透明の膜がアレイナと俺達の周囲をドーム型に包んだ。


「音が聞こえない…」

「拡声魔術の応用『サイレント』私の半径2m以内の範囲の音を遮断するの。外からの音は何も聞こえないし、外の人達は私達の声は聞こえない。便利でしょ!」

「すごい…」


拡声魔術の応用…?

なるほど、空気振動での音波そのものを遮断してるのか


「だとすると、拡声魔術には色んな使い方が出来る…拡声魔術と言うよりも音魔術だ…どうやって使うんだろう…」

「アレク!魔術の研究は後で!情報を聞かないと!」

「あ、ああ…ごめん…」

「アレクはキリッとしてるのか、ぬけてるのかよくわからないね」


アレイナがそんなこと言ってきた。否定してやれ、エマ。


「基本ぬけてる時の方が多いよ」

「おい!」


2人に笑われてしまった…いいじゃん、魔術に夢中になったってさ。


「話を戻すよ?」


アレイナが真剣な顔に戻った。条件だったな。


「条件は、カルマ君とソフィアちゃんも作戦に参加させること」


カルマとソフィアを?


「それは危険じゃないのか?あの2人は瘴気を防ぐ術を持っていない」

「そうだね、持っていないなら、習得させるまでだよ」

「方法があるのか?」


アレイナはクスッと笑った。


「アレクみたいに頭がキレる人ならわかりそうだけど?」


……そうか、なるほど。冷静に考えればわかることだ。


「そうか、確かに瘴気や精神攻撃を防ぐ術がなければ、剣士の存在意義が無くなってくる。剣士が扱う力と言えば…鬼纏」

「そう!その通り!」

「なるほど…」

「シリウスは魔剣使いなんだけど、火属性だから精神は保護できないの、それで習得したのが『鬼纏:心』!」


『鬼纏:心』か、そのまんまだな。


「普段は体を強化する目的の鬼纏を精神に働きかける、すると、あらゆる耐性を得るんだって!それは聖属性で保護した精神と同等らしいよ!これなら、戦えるでしょ?」

「そうだな、しかし、習得は難しそうだ」

「カルマとソフィアなら大丈夫だよ。絶対できる」


エマがそう言い俺の手を握った。


「そうだな、2人を信じよう。でも、なんで2人が必要なんだ?」

「単純だよ。人手が足りないから」


人手が足りない…つまり、パンドラの攻撃は単体ではなく複数ってことか。


「わかった。条件を受け入れるよ。」

「おっけー!じゃ、はいこれ」


アレイナは魔導袋から1枚の紙を出した。


「これには、パンドラと繋がりのある貴族や冒険者学校の人物が書かれてる。幸い、まだ皇族は接触して無いみたい。でも、そのうち必ず接触してくる。パンドラのモルディオ帝国での目的は、"モルディオ帝国をパンドラの傀儡にするため"」


傀儡に…大陸でも有数の軍事国家がパンドラの傀儡になれば大変なことになる。


「あなた達がやるべきことは、皇族を魔の手から守ること、これは私じゃできない。どっちみちあなた達の協力が必要だったの」


なんだ、そうだったのか。1本取られたな。


「鬼纏:心の習得方法も書いてあるから、2人にも見せておいてね!情報はこのくらいだよ!」

〔パチンッ〕


アレイナが指を鳴らすと、外の音が聞こえ始めた。


「決行される日はわかるのか?」

「おそらく、半年後くらいだと思うよ」

「なるほどな、パンドラの準備が終わるまでに半年か…その間に2人には習得してもらわないとな」

「そゆこと!がんばってね!」


「ああ、シリウスが火の魔剣使いって情報もありがとな」

「あっ………えへへっ……記憶消せない…?」

「無理だな」


泣きそうな顔で笑って、アレイナは立ち上がった。


「じゃ、私はこの辺でー」

「アレイナ」


去ろうとするアレイナを俺は呼び止めた。


「ん?どしたの?」


〔パチンッ〕

『サイレント』

俺は指を鳴らし、防音領域を展開した。その中にアレイナは入ってない。


「ありがと、助かったよ」


そう言って俺は笑った。

〔パチンッ〕

防音領域を閉じる。


「じゃーなー」

「またね!アレイナ!」

「え!?なんて言ったの!?てか、会話中にサイレント覚えたの!?」


騒いでいるアレイナを横目に俺達は城へ戻った。



第68話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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