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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第六章 モルディオ帝国
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第67話 やり過ぎ


〜アレクサンダーside〜


モルディオ帝国に来てから2週間ほどが経った。

なんとも平和で長閑な毎日だ。


朝起きて、訓練場で鍛錬。しばらくして、生徒達の訓練の様子を見に行く。

エマの脅迫が効果てきめんで魔剣士を目指すって輩はいなくなった。

魔術部門の生徒は一生懸命、魔術の訓練に励んでいる。


なぜか、俺は最初、魔術部門の生徒達に怖がられていた。

理由を聞くと。


「ア、アレクサンダーさんは…恋人を半殺しにする…サディストで怖い御方だと聞いて…」


ということらしい。

エマの脅し文句「アレクは私を半殺しにしたことがある」が色んな意味で捉えられたようだ。

頼むぞエマ…


俺は何とか誤解を解くため、学生最強決定戦の話をした。

話を聞いて誤解は解けたようで、今では何の気なしに声をかけてくれる。


俺はいつもの様に魔術の訓練の様子を見ていた。

すると、ラングが入ってきた。


「アレクサンダー君、剣術部門の訓練場に来ていただけませんか」

「はい、今行きます」


そう言って、魔術部門の訓練場を後にした。


「ラングさん、俺の事はアレクで構いませんよ」

「そうですか?では、アレク君。剣術部門が少し不味い状態になっておりまして。手助けお願いできませんか」

「剣術部門が不味い状態…」

「アレク君はシャルロッテ様の問題も1日で解決しました。その手腕を披露してください」

「そんな大したことじゃないですよ…」


ラングさんは俺の事を過大評価しすぎだ。

本当に大したことはしていない。シャルにはただ現実を教えただけだからな。


「あれ?アレク!なにしてるの?」

「エマ」


剣術部門の訓練場に行く途中、エマと出くわした。


「俺は今から剣術部門に助っ人だよ、なんか手こずってるみたいだ」

「そうなんだ!私暇だからついて行くね!いい?ラングさん」

「どうぞ、エマさんも居ていただければ心強いです」


エマは嬉しそうについてきた。


◇◇◇


剣術訓練場と書かれた部屋に着いた。

中がなんだか騒がしいな。


「しつれーしゃーす」

〔ガンッ!!〕


なんだこの歓迎は…

いきなり剣が飛んできたぞ。

まぁ、簡単に躱せるが。


「アレク!大丈夫?」

「ああ、問題ないよ」


エマが心配してくれた。最近イチャイチャできてないから今すぐ抱きつきたい。


「さて、なんで剣が飛んできたのかな?」


そう思い訓練の様子を見ると。

なぜか木刀を持ったカルマが生徒をぶっ倒している。

それに、ストッパーであるはずのソフィアも木剣を握っている。

2人の顔は怒りに満ちていた。


「お前ら、死ぬ覚悟はできてるみたいだな?」

「誰でも構いません、かかって来なさい」


2人がそう言っているが、相手は真剣を抜いている。

只事じゃないな。


「おらァァァ!!!」


そう言って1人の生徒がカルマに向かって走った。

カルマも素早い動きで迎撃しようとしている。


「はぁ…」


俺は間に入り2人の剣を素手で止めた。


「はい、終わりー。なにしてんの、お前ら」

「アレク…」

「なっ…素手で…?」


真剣を受け止めた俺の腕からは血が流れる。


「おお!生徒の君は上級以上!剣筋からして超級だろ、よく鍛錬されてる。見事な剣技だ」

「え?ああ…どうも」

「とりあえず、落ち着いてくれるか?話がしたい」

「…わかった」


どうにか真剣を収めてくれたようだ。

俺は生徒の方を見て褒めた。

そして、俺はカルマの方を見た。


「なにしてんの、お前」

「侮辱してきたクズを叩きのめしただけだ」

「はぁ…俺の気配に気付かないほど取り乱してか」

「それは…」


ソフィアの方を見た。


「お前もだ、ソフィア。なぜ止めない」

「止める必要が無いと判断したからです」

「そうか…」


訓練場全体を見る。


「何があったか、話してくれ」

「私が話す」


そう言ってきたのは剣を収めてくれた生徒だ。


「私の名前はライナー。私達は、いつもの様に訓練していたのだ。しかし、私達のクラスにも問題児がいる。それが、コイツだ…」


そう言ってライナーが引きずってきたのはボロ雑巾の様な姿になった男だ。執拗に痛めつけられている。

その様子に、思わず顔を顰める。


「コイツは、カルマ殿とソフィア殿の前で、忘却の魔剣士…あなたを侮辱した。俺の方が強い…偽物の英雄…結局は名声だけ……想い人を救えないクズの雑魚…。今思い出してもコイツの暴言は腹が立ってくる。忘却の魔剣士の強さは一目見ただけで分かると言うのに…」


このライナーって男はしっかりしてるな。正しい物がなにか、悪しき物がなにか、しっかり区別がついてる。


「コイツの名前は?」

「デアル・モイスター、モイスター男爵家の長男だ」

「貴族か…ちょっといいか?」

「なにを…?」


俺はデアルに聖属性の魔力を当てた。

すると、身体中から黒いモヤが溢れ出した。


「これは…?」

「瘴気だ。人の邪心に漬け込み、負の感情を増幅させる。もしやと思ったが、当たりのようだ」

「なんと…!」

「それで、ライナー、話の続きは?」


ライナーが思い出したかのように話し始めた。


「その暴言に怒ったカルマ殿が、木刀でデアルを殴ったのだ。腹を立てて当然だ。リーダーを侮辱されたのだから…。私は頭をついて謝った。生徒を代表して。」


カルマが怒ったのは見ればわかるな…だが、このデアルの姿は…


「しかし、カルマ殿の手は止まらなかったのだ。何度も何度もデアルを殴っていた。その光景にさすがにやり過ぎだと思い、私達は止めに入ったのだ。それを、ソフィア殿に止められた。木剣では敵わなかった、だからやむおえず真剣を抜いた…。カルマ殿の怒りは私達にも向き、叩きのめされた…その結果がこれだ…」

「……なるほどな」


考えたくもなかった、1番最悪な状況だ。

俺はカルマとソフィアを見る。


「カルマ、この話は本当か?」

「…ああ、事実だ」


なるほど。


「ソフィア、本当か?」

「…はい…事実です…」


ソフィアは薄々やりすぎたことに気付いて来たようだ。

カルマは感情が薄いため、よくわからない。


「はぁ…お前らは俺の為に怒ってくれたんだな。俺の事を想ってくれる良い仲間だ…だが…」


俺は一瞬でカルマに肉薄し顔面を殴り飛ばした。


「ぐあっ!!」


そのまま、壁に激突した。


「カルマさん!」

「お前もだ」

「がはっ…」


次はソフィアに肉薄し、鳩尾を殴った。

ソフィアはその場に倒れ込む。


「アレク!やり過ぎだよ!」

「エマ、この馬鹿2人はこれ以上にやり過ぎている。仲間を擁護したくなるのは分かるが、状況を冷静に見ろ」

「…ごめん」

「謝らなくていい」


エマも状況を理解したようだ。そして、俺が怒っていることも。

ラングはその様子を静観している。


カルマとソフィアが俺を見ている。


「失望したよ…。お前らのその力は何のためにあるんだ?侮辱した相手を執拗以上に痛めつけるためか?それを止めようとする、善ある人達を痛めつけるためか?お前らちょっと頭冷やせ。自分の愚かさが分かるまで、パーティーに戻るな」


俺の言葉にカルマとソフィアはショックを受けている。


「ア…レク…俺はお前が侮辱されたから…」

「わかってる。だが、ここまでして、俺が喜ぶと思うか?」


俺の悲しげな顔を見て、カルマとソフィアは俯いた。


「剣術部門の生徒の皆…本当に申し訳ない…!」


俺はそう言って、膝をつき、頭をついて謝った。

その様子を見て、生徒達は驚いた。カルマとソフィアも。


「アレクサンダー殿が謝ることでは…」

「いや、アイツらは俺のパーティーメンバーだ。この不祥事は俺の責任にある…。すまなかった」

「わ、わかった。顔を上げてくれ。こちらもすまなかった、デアルの所業は代表して、俺が謝る」


お互い謝罪しあい、和解してくれた。


その後はエマと俺の治癒魔術で剣術部門の生徒達の怪我を治した。

デアルは初級の治癒魔術で、放っておく。

それにはライナーも承諾してくれた。


「カルマ、ソフィア。ちょっとこっちこい」

「アレク…もう殴らないでね…」

「何言ってんだ、もう殴らないよ」


俺はエマの頭を撫でた。

トボトボと、カルマとソフィアが俺の元に来る。


「あ、あの…アレクさん…」

「何も言うな、そこに座れ」

「は、はい…」


2人は言われるがまま正座した。別に正座じゃなくていいんだがな。

俺は2人の頭を鷲掴みにして、聖属性の魔力を送った。


「え!?」


エマが驚いている。

2人の体から瘴気が溢れ出し、浄化されていく。


「こ、これって…」

「ああ、お前らは瘴気に当てられてたんだよ」

「それで、感情が抑えれなく…」


2人の瘴気は浄化し終わり、元に戻った。


「今回のことを、瘴気のせいにするなよ?しっかり自分と向き合え。己を律せ」

「それ、イグナス先生の受け売りだね」

「余計なことを言うな、エマ、今リーダーらしくカッコつけてんだから」


その様子にカルマとソフィアはクスクスと笑った。


「カルマ、ソフィア。殴ってすまなかった。もう頭はスッキリしただろ?」

「はい…申し訳ありませんでした…」

「すまなかった…」

「気をしっかり張っとけよ。イグナス先生も言っていたが、パンドラはモルディオを拠点にしている」


カルマとソフィアが瘴気に当てられていた。

強く警告してなかった俺の責任でもあるな…

一体いつ当てられたんだ。

考えられるのは城の中か。


だが、城の中は数々の貴族が出入りする。

見つけるのは容易じゃないな。


「カルマとソフィアは剣術のアドバイスを頼まれていたが、その辺は問題ないのか?」

「ああ、初日に全て終わっている。今日はライナーが指導をして欲しいと言ったから来たんだ」

「ソフィアもか?」

「はい、そうです」

「そうか…とりあえず、2人は生徒達に謝ってこい。俺とエマは少し相談することがある」


2人は頷き、生徒達に謝りに行った。

俺とエマは訓練場を後にした。


◇◇◇


「アレク…もう怒ってない?」

「怒ってないよ、2人も反省してたし。大丈夫」

「そっか…アレクがカルマとソフィア殴るの初めて見たから、ちょっとビックリしちゃった」


俺は基本的に仲間に怒ることは少ない。

それが、あれだけ激怒したらビックリするわな。


「エマ、パンドラについて情報を知りたいんだ。アレイナって人と会えるか?」

「アレイナ?」

「カルマとソフィアが瘴気に当てられた。十中八九、奴らの仕業だ。パンドラについて探ってるアレイナならなにか分かるかもしれない。」

「そうだね。私も、我慢できないや」


俺の仲間に手を出したこと、後悔させてやる。


「アレイナは遊んだ時に行ったご飯屋さんによく居るって言ってたよ」

「そうか、俺とエマだけで行こう」

「カルマとソフィアは?」

「あの2人は魔術師じゃない。瘴気から身を守ろうにも無防備になりがちだ。今回は置いていこう」


俺とエマはアレイナの元へ向かった。


第67話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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