第66話 SS級冒険者とデート
「うーん…」
「どうした?エマ」
「あ、いや…なんでもないよ」
アレクにも話した方がいいかな…。あの後、城に戻ってみんなで夕食を食べた。
案の定、明日の予定は自由、アレクも自由みたい。今はアレクの部屋で、アレクに膝枕してもらってる、1番落ち着くんだよねぇ。
私が寝転がると頭を撫でてくれる。これに甘えちゃう。
「なにかあるだろ、人にはしつこく聞く癖に、自分のことはなにも喋らないのか?」
「うっ…それは…」
「はぁ…俺には言えないことか?」
「ち、違う!」
アレク困らしちゃってる。でも、言っていいことなのかな?問題はないだろうけど、そうなったらアレクも一緒に行くって言いそうだしなぁ
「明日デートなんだ…」
「デ、デ、デ、デート!?」
あ、やばい…言い方間違えちゃった。アレクが真っ白になってる…
「ち、違うよ!女の子!」
「な、なんだ…女か…紛らわしいこと言うなよ…」
誤解は解けたみたい。
「誰と遊ぶんだ?ソフィアか?」
「今日会ったSS級冒険者の人…」
「今日会ったばかりの人と遊びにいくのか?しかもSS級…SS級!?」
「うん、凄い魔術だったよ。エルミンの話は聞いたでしょ?クリーチャーになった」
「ああ、さっきラングさんから聞いたな」
「クリーチャーを倒した通りすがりの冒険者って人がその人なの」
なるほどと、顎に手を当てながらアレクが考えてる。
「そうか、SS級冒険者なら俺より良いボディーガードになるな、楽しんでこいよ」
「え?止めたり一緒に行くって言わないの?」
「え?あぁ…俺もついて行こうかと思ったけど、人見知りのエマが自分で考えて決めたことなんだ、色々考えがあるんだろ?なら、その考えを尊重するよ」
「うん!ありがと!」
私の考えは杞憂だったみたい。アレクはちゃんとわかってくれてる。
「なにかあったらすぐ逃げてくるんだぞ」
「SS級から逃げれる気がしないけど、頑張るよ」
そんなことにはならないだろうけど。あの人、アレイナさんからは全く悪意を感じなかった。ただ、純粋に遊びたいだけ。そんな感じだったし。
なにか目的はありそうだったけど。
「アレクはシャルとイチャイチャしすぎないでね」
「してないだろ…」
「無自覚なのがムカつく」
「えぇ…」
私がジト目で見るといつもアレクは慌てるんだよね。それが面白くてたまにからかってみたり…
「アリアが言ってたまた会えるってシャルの事かな?」
「似た雰囲気は感じるが、違うだろ。アリアだって確信できる物がない」
「もし、確信できるものがあったら、アレクはシャルのことを好きになるの?」
アレクが私以外の誰かを本気で愛するなら、それでもいいと思う。ただ、私と別れてその人の所に行くってなったら抵抗しちゃうけど。
アレクはそんなことしないって分かってるから、そんな心配はしてないけど。
「アリアの意志を継ぐものだからって、それだけで好きにはならないよ。シャルにだってシャルの意思があるんだ。それを蔑ろにしたら、シャルが報われない」
「わかってるみたいで良かった」
「当たり前だろ」
アレクの言葉を聞いて私は立ち上がった。
「それじゃ、明日もあるから部屋に戻るね!」
アレクが寂しそうな顔してる。そんな顔するのはずるいなぁ…
「その…泊まりたいけど…我慢できなくなっちゃうかもだから…」
「あ、ああ…わかった…」
「じゃ、おやすみ」
そう言って私はアレクにキスをした。
「おやすみ、エマ」
アレクがはにかんで見送ってくれた。私はアレクの部屋を出て、隣の自分の部屋に入る。
「明日の準備しなきゃ…」
一通り準備を済ませて、私は眠った。
◇◇◇
〜翌日〜
昨日、エルミンに襲われた路地裏、いつの間にかエルミンの残骸は無くなっていた。
アレイナさんか片付けたのかな?
「あ!エマちゃん!待ったかな?」
「わっ!い、いえ、今来たところです」
曲がり角からアレイナさんが飛び出してきた。やっぱりサーチに引っ掛からない…気配も感じ取れない…。
「あはは!そんなに緊張しなくていいよ!私の事は呼び捨てでいいよ!敬語もいらない!」
「そうですか…?わ、わかった…!よろしくね、アレイナ!」
「いいね!よろしく!エマ!」
デートしようって言われたけど、何するんだろう…。
「とりあえず、商店街に行こうよ!」
「うん!」
私達は商店街に向かった。
「エマは普段からその格好なの?」
「え?ああ…うん、この格好の方が動きやすいし」
私の格好はいつも通りの冒険者の格好。黒のマントに黒の長ズボン、マントの下は白のワイシャツを着てる。
篭手はいつでもすぐに取り出せるように魔導袋に入れてる。アレクも同じ格好をしてる。私はお揃いが嬉しいから普段からこの格好だけど、お洒落とかした方がいいのかな?
「女の子なんだから、何着か持っておいた方が良いと思うよ?忘却の彼も喜ぶんじゃない?」
「え!?アレクのこと?」
「当たり前でしょ、2人が恋人なのは有名な話よ!」
「そうだよね…。お洒落な服も何着か…」
私がそう言うとアレイナの目がキランと光った気がした…
「じゃ!早速服屋さんにいきましょ!」
「え!?アレイナ、ちょっと…」
「はやく!」
アレイナは私の腕を掴んで服屋に駆け込んだ。
「んふふ、こんなに可愛い子にどんな服を着せようかなぁ…」
「アレイナ…程々にね…?」
「うん!程々にね!」
アレイナの目がギラギラしてる…私はこの目を知っている。ソフィアと洋服を選びに買い物に行った時もソフィアも同じ目をしてた…。
この後どうなるかは知ってる…私は、着せ替え人形にさせられる…!
「あの…私やっぱりお腹空いたかなぁ…なんて」
私は店から出ようとする。しかし、
「逃がさないよ!」
『ホーリー・チェイン』
「うわっ!魔術使ってまで!?」
地面から出てきた光の鎖が私の足を止めた。動きを封じられた…もう覚悟するしか無いみたい…。
それからは沢山の服を着せ替えられた…。
「町娘風!」「ドレス!」「貴族風!」「メイド!」「ナース!」「ネコミミ!」「際どいメイド!」
「アレイナ!際どいのはちょっと…」
「あ、ごめんねぇ、夢中になっちゃって」
後半はよく分からない衣装だったけど、帝国では普通なのかな?
「しかし…でへへ…エマは良い身体してるねぇ…」
「アレイナ…顔がおっさんみたいになってるよ…」
アレイナは私に近づき、体を指でスーッとなぞった。
「ひゃっ…!ちょ、アレイナ」
「でへへ…私よりも身長は低いのに、この美乳…Eカップかな?引き締まったウエスト…ちょうどいい腰つき…」
「ひゃんっ…ちょっと…」
アレイナが私の身体を指でなぞった後、胸を揉んできた。アレク以外に揉まれたことなかったのに…この人は危険な人だった…。
ここが試着室でよかった…誰にも見られてない…。
「っと!ごめんごめん!また夢中になっちゃった!可愛い子を見ると着せ替えたくなっちゃうんだよねぇ…えへへ…」
「アレイナ…」
「そんな泣きそうな顔で睨まないでよ!ごめんって!この後ご飯奢るから!」
「ほんとに!?」
(チョロ…)
ご飯奢ってくれるなら許してもいいかなぁ丁度お腹も空いたし!
◇◇◇
「服も買って貰って、ご飯まで…ほんとにいいの?」
「気にしないで!お詫びでもあるし、SS級だと嫌ほどお金は貯まっていくから」
「す、すごいね…」
A級中位の私達でも最近はお金の使い道に困ってる。貯まる一方…。それがSS級になると私達の額より何倍も多いから、凄い額貯金してるんだろうなぁ…
「さ!好きなだけ食べて!」
私はその言葉に甘え、好きなだけ食べた。
「エ、エマって大食いだったんだね…」
「だって、お腹空いてたんだもん」
「それで太らないのが不思議だよ」
私が太らないのは、たぶん、毎日アレクの鍛錬に付き合ってるからかも。
しかし、改めて見るとアレイナは凄く綺麗な顔立ちしてるなぁ…街行く男の人達がチラチラと見てる。どことなく、アレクに似てる…?
それに…アレクやカルマと同じ黄色い瞳…。
「アレイナって、半魔族なの?」
「え?どうしてそう思うの?」
「瞳が黄色い…私の恋人も、同じパーティーメンバーの1人も、瞳が黄色くて半魔族だから」
「なるほどね!私は半魔族じゃないよ!」
「そうなの?」
「うん!純血の魔族だよ!」
純血の魔族…黄色い瞳…アレクに似た顔立ち…。見た目は10代だけど、魔族はエルフと同じくらいの寿命がある…。
まさか…ね…。
「そ、その、アレイナのパーティーのシリウスさんは、もしかして、人族で"黒髪"だったりする…?」
もし、これで人族で黒髪なら…。
「え!?シリウスのこと知ってるの!?SS級だけど、謎に包まれた人物だって有名なのに!!」
「やっぱり…」
「やっぱり?」
聞いてみるべきか。なにか複雑な事情があるなら…。いや、アレクのためにも聞こう。
「2人の間に子供っているの?」
「…ふぇ!?子供!?」
「え、あ、うん、子供」
「こ、子供って…いやぁ、確かに最近、シリウスとは良い感じだけどぉ…出会って20年ぽっちだしぃ…それに、"まだ"シリウスの子供を授かる準備なんて…ハッ!"まだ"なんて言っちゃった…キャーーー…!」
「…そう」
「なにその冷めた感じ!自分で聞いといて!」
どうやら、思い過ごしだったみたい。黒髪なんて、滅多に居ないから間違いないって思ったのに。
「なんでそんなこと聞いたの?」
「んー、アレク…私の恋人は親の顔を知らないの」
「そうなんだ…それで私?」
「そう…アレクは半魔族で、黒髪。瞳もアレイナみたいな黄色なの。だから、そうかもって」
「なるほどね…でも、私は子供を身篭ったことはないよ!それどころか男の人とそういうことも…」
なるほど、アレイナの可能性は完全になくなった。でも、黄色の瞳の人は魔族なら多いって聞いたし、なら、黒髪のシリウスさんが父親である可能性も…。
「シリウスさんに子供がいたりは?」
「それはないよ、絶対」
「絶対?」
「うん、彼は人を愛することを過度に恐れてる…過去に何があったかは知らないけど…。少なくとも私がパーティーを組んだ20年間は誰かに子供を身篭らせたことはない。断言できるよ」
20年間…私達は11歳だから、ありえないか…。進展があったって思ったんだけどなぁ。
「アレイナの顔もどことなくアレクに似てる」
「そうなの?じゃ、忘却の彼は美少年ってことだね!」
「自分で言わないでよ」
「今度紹介してね!」
「惚れないでよ!」
「惚れないよォ、私にはシリウスがいるからー」
さっき人を愛することを過度に恐れてるって言ってたのに。大丈夫かなぁ。
「それで、アレイナは私になにか用があったんじゃないの?」
「あはは…バレてた?」
「なんとなくね。悪意はないみたいだったから、それに楽しかったし」
「そう言って貰えてよかったよ…。話っていうのはね…」
アレイナはスッと真剣な顔になった。
「忘却の魔剣士と暴嵐の魔術師はパンドラと敵対してるって聞いてね」
「パンドラと敵対?」
「うん、私達はパンドラの動向を探ってるの、あいつらがやってることは極悪非道だからね。元はシリウスが追っていたんだけど、それに私も乗っかってね」
なるほど、アレイナ達はパンドラと敵対しているんだ。私達からしたら味方かな。
「私達は敵対してるって言うより、降りかかった火の粉を払ってるだけなんだけどね」
「だろうね。話は聞いてる。あなた達2人がパンドラに狙われてるってことも」
「そうなの?なんで狙われるんだろう…」
「それは私もわからない…でも、シリウスはなにか知っているような感じだった。話してはくれなかったけど」
「そっか…」
なんでパンドラは私達を狙うのか…それはまだわからない…ただ、不安だな…また、アレクが死んじゃったら。
「パンドラの最近の動きが活発化してる。イグナスがイグナシアでパンドラと敵対の意思を示したから、イグナシアでの脅威は一時的に無くなった…」
「次の標的はモルディオ帝国って聞いてるよ」
「その情報も掴んでるんだね。その通り、次はモルディオ帝国、だけど、まだパンドラの足を掴めてないの」
動きがあったと言えば、エルミンのクリーチャー化くらいかな。私達がモルディオ帝国に来てもまだ動きは見られない。これからかもしれないけど。
「私は、エマとアレクサンダーを保護したいの…」
「保護?」
「そう、パンドラはなぜか執拗に2人を狙ってた。学生最強決定戦の話も聞いた…。1度アレクサンダーが死んだっていうのも、エマも殺されかけたっていうのも…」
アレクの心臓が止まり動かなくなってしまった場面を思い出して、私の体が震える。
「エマ、私はあなた達を守りたいの…。あなた達のここ1年の活躍は聞いてる、でも、パンドラの力は強大なの。もし、マイズが本気を出してきたら、あなた達じゃ勝てない。いくら忘却、暴嵐、神速、風雅の4人が話題の若き英雄だったとしても、絶対に勝てない」
「…」
アレイナのこの言葉は私達を馬鹿にしているわけじゃないSS級冒険者の観点から正確に事実を伝えてるんだ。でも、
「私の一存じゃ決められない、でも、アレクならきっとこうやって言うよ」
『余計なお世話だ。自分の身は自分で守る。それも出来ないで、俺達はこの先何を守れるんだ』
「ってね!」
その言葉を聞いて、アレイナは驚いていた。
その時、アレイナはシリウスから言われた言葉を思い出していた。
◆◆◆
〜とある部屋〜
アレイナとシリウスがいる。
『あ?忘却と暴嵐を保護する?なんで』
『だって!あの子達はまだ11歳だよ!?今はまだ大丈夫だけど、このままじゃ死んじゃうよ…』
『余計なことするな、お前の行動次第で更にあいつらが狙われるぞ』
『でも…』
顔を暗くするアレイナの頭をシリウスは優しく撫でた。
『大丈夫だ』
『なんで?まだ会ったこともないのに…』
『なんとなく、わかるんだよ。特にあの忘却の魔剣士ってやつはな。奴ならこう言うと思うぜ?』
『余計なお世話だ。自分の身も自分で守れない奴が、この先何を守れるんだ』
『ってな』
◆◆◆
「ふふっ…アレクサンダーとシリウスは似てるのかもね…」
「どうしたの?」
「さっきの話は忘れて!あなた達の好きなようにやって!ただ、あなた達が危ない時は私達が助けにいくから…そのくらいは許してね?」
「うん!ありがと!アレイナ!」
その後は2人で楽しく食事をして、別れた。
アレイナはしばらく帝国にいるらしい。まだなにもパンドラの情報を掴んでないからって。
私はそのまま帰路についた。
◇◇◇
「ねぇ、アレク」
「ん?おかえり、エマ。SS級の人はどうだった?」
「優しい人だったよ!顔はアレクに似てる!」
「へぇ、ならその人は美女だな!」
「ふふっ、似たようなこと言わないでよ」
なんて答えるかなんて、わかってるけど、一応聞いておこうかな。
「アレク、SS級冒険者の人がパンドラから狙われないように保護してくれるって話してたよ?」
「あ?なんだそれ」
アレクはあっけらかんとした感じで口を開いた。
「余計なお世話だ。自分の身も自分で守れない奴が、この先何を守れるんだって言っておいてくれ」
「やっぱり?大丈夫、そうやって言っておいた!」
「さすが、俺の恋人だ」
そう言ってアレクはキスしてくれた。
「ゴホンッ!」
「「うわっ!!」」
後ろにはシャルが居た…
「そういった事は、部屋でお願いします」
「「はい、ごめんなさい」」
そういえば通路だった…
恥ずかしい…。
私達は各部屋に戻った。
「アレイナはアレクの母親じゃなかった…シリウスって人も、父親じゃなかった…」
私はアレクと初めて出会った日を思い出していた。
ボロボロの大きい服に、あちこち傷だらけの身体。6歳とは思えない程の知識と力…。
「ねぇアレク…あなたは一体何者なの…?」
その呟きに首を振る。
「何者でも関係ない。私はアレクがなんであれ、愛し続けることに変わりはない…」
そう思い、私は眠りについた。
第66話ご閲覧いただきありがとうございます!
次話をお楽しみに!




