第65話 エマ先生の魔術講座?
時は昼食後へと遡る。
〜エマside〜
「ねぇねぇラングさん!ここの人で一番強い人の等級はいくつですか?」
私はラングさんに連れられて魔術師の訓練場に向かってるよ!
なんか馬車で問題がどうこうって言ってたからねぇ。ちゃんと見ておかないと!
「そうですねぇ…確か、岩の上級が最高でしょうか」
え…岩の上級…?それって私が7歳の時に身に付けた等級だけど…
「そ、そうですか…た、楽しみだなぁ…はは…」
「レベル低いでしょう?」
「え!?いや、そんなことは…」
私も顔に出やすいのかな?
「ははっ、遠慮なさらずとも正直な意見を言ってください。私も現状のレベルの低さは痛感しております」
「そうですか…」
やっぱりレベルは低いんだなぁ。だって14歳の人もいるんだよね?それでまだ上級ってのはちょっと…
「訓練の様子を見ていただければ、理由もわかりましょう…」
そんなに深刻なのかな?
ラングは訓練場の扉を開けた。
〔カンッカンッ〕
木剣の音…?あれ?ここ魔術師の訓練場だよね?チラッとラングさんを見ると頭を抱えている。
中を見てみる。
「おい!しっかり剣を振れ!俺達は選ばれた魔剣士だ!シャルロッテ様に遅れをとるな!」
もう一度ラングさんを見る。
「魔剣士計画はまだ根付いております…」
「そういうこと…」
どうやら、剣術を扱える人はアレクみたいな魔剣士を目指してるみたい…。
アレクが特別だっていうのは私が1番わかってる。だから、誰もがアレクの真似を出来るはずがない。
前にアレクが言ってたっけ「相応の現実を知らなければいけない」だったっかな?
すると、1人の男がこっちに気付いた。
「これはこれは!ラング宰相!どうされましたか?そちらの女性は?」
「エルミン君、この子は、エマ。暴嵐の魔術師と言った方がわかりやすいかな?」
訓練場に居た人達がザワついている。うわぁ…色んな人から見られる…。こういうの苦手なんだよね。
「は、初めまして…エマです…」
人見知りって自分でもわかってるんだけどなぁ…。こればっかりは治せないね。
「おお!貴女が!実に美しい…!私はエルミン・モイスター!エルとお呼びくださいませ…」
「え、あ、はい…エルミンさん…」
エルミンは私の手を握った。
この人苦手だなぁ…。グイグイ来られても気持ち悪いだけなのに…。
「あの…あなた達はなんの訓練をしているの?」
すると、エルミンの顔がパァっと明るくなり後ろに下がった。
「よくぞ聞いてくださいました!!私達は選ばれた戦士!魔剣士になるべくして生まれた至高の存在です!」
この人何言ってるの?なんか、ランガンと同じ匂いがするなぁ…
「魔剣士…」
「そう!私達はいずれ!忘却の魔剣士すら超える存在です!あぁ…忘却の魔剣士はエマさんの恋人でしたね」
「はは…アレクを超えるね…」
冗談も行き過ぎると笑えないね。凄く不快だ。今までのアレクの血の滲む努力を知らないくせに。
「どうですか!エマさん!将来、有望なこの僕と…明日、お出かけでも…もちろん、夜も…」
エルミンの下卑た笑みに私は顔を顰めた。
この顔と目線をよく知ってる…。ランガンにエルハム…。私に下心を持つ人間は胸と顔をまじまじと見てくる。
気持ち悪い…。
「エルミン君!やめなさい!…エマ君…?」
エルミンを注意しようとするラングさんを私は手で制した。
「あなた達のレベルでアレクを超えるなんて、よくそんな冗談が言えるね」
私の言葉にその場にいた生徒達は顔を顰めた。
「はは…冗談…?私達は選ばれた戦士ですよ?特に私は!シャルロッテ様に続く成績です!将来忘却の魔剣士を超えるのも必然でしょう!」
「それを自惚れって言うんだよ。あなたの狭い世界観と価値観で、アレクの実力を勝手に決めないで」
「なっ…自惚れですと…?この私に向かって…」
エルミンはワナワナと拳を震わしている。
「うん、自惚れだよ。あなた達じゃ、魔剣士にすらなれないよ。諦めた方が身のためじゃないかな?」
「なんですと…?」
ラングさんは後ろで静観している。
やり方は私に一任するって言ってくれたから。
「そうだなぁ…あなた達の剣術の最高等級は?」
「中級ですが」
「そっか、やっぱり大したことないね」
そう言うとゾロゾロと私の周りに生徒達が群がってきた。
「このガキ…聞いてりゃ調子に乗りやがって」
「誰が大したことないって?」
「ミアレスの英雄だからって…」
ブツブツ何か言ってる。
「そうだね、じゃ、こうしよう。あなた達みんなで一斉に斬りかかってきていいよ。」
「「「は?」」」」
「もし、私に傷一つでも付けられたら、その人と1日デートしてあげるよ。もちろん、夜もね」
私の提案に男達は鼻の下を伸ばしている。わかりやすい人達だ。
「もちろん私は手を出さないよ。1分間ジッとしているから、好きに斬りかかってきて」
「後悔するなよ…」
生徒達はニヤリと笑って一斉に斬りかかってきた。残酷な現実だけど、中級以下の斬撃は私に傷一つ付けることは出来ない。
1分後…
「はぁ…はぁ…はぁ…ど、どうして…」
「俺の…剣が…」
生徒達の剣はボロボロになっている。もちろん、私の身体には傷一つ付いていない。
「私の強化魔術は上級以上の剣士じゃないと破れないよ」
「なに…?」
「あなた達もう成人前でしょ?夢見るのは悪くないけど、相応の現実を見た方がいいよ。」
私の言葉に生徒達は落ち込んでしまった。なんか心苦しいけど、仕方ないよね。だってセンスないもん。
「ふ、ふふっ…相応の現実…?その歳で数々の武功をあげる人の言うことは違いますね…?」
「なんですか…?」
なんか嫌な感じだなぁ。
「そうだ!忘却の魔剣士!彼はミアレスの英雄だなんて言われてますが!光の神子は死んでいるじゃありませんか!ははっ!噂は聞いてますよ!彼の想い人だったのでしょう!?みすみす死なした癖に英雄気取りとは!どうですか!エマさん!私は貴女を死なせることはありませんよ!!」
「…」
こいつはダメだ。アレクにも合わせられない。アレクがこいつと会ったら、傷ついちゃうよね。
「あんな、偽物の英雄なんかとでは…な…く……?」
エルミンの体が次第に震え始める。全力の殺気をエルミンに向けた。
私は、こんなに人を殺したいって思ったのは初めて…いや、サンズ以来、2回目かな…
なんで何も知らないこのクズにアレクを悪く言われなきゃいけないの?アレクがどんな思いでいるかも知らない癖に…。
ラングさん拳を震わして怒りを顕にしてる、我慢はしなくていいみたい。
「あなたは、自分に余程自信があるみたいだね。じゃ、上手く防いでよ?下手したら死んじゃうかも」
「へ…?」
私は強化魔術を限界まで引き上げた。拳に風を纏わせ、一瞬でエルミンに肉薄した。
「グブヘェ!!!!」
私の拳はエルミンの鳩尾を捉え、反対側の壁まで吹き飛ばしす。
エルミンは壁に激突し、気を失った。
「言っとくけど、アレクは私と正面から戦って私を半殺しにしたことあるくらい強いよ?」
「は、半殺し…?」
「なれるの?魔剣士。私よりも、アレクよりも強く。なれる自信があるなら続けていいよ」
そう言って私はエルミンを指さした。
生徒達は持っていた剣を魔導袋にしまい、魔術の訓練を始めた。
「ふぅ…ちょっと頭に血が登っちゃったな。ラングさんごめんなさい、手荒になっちゃった」
「気にする必要はありませんよ、見事でした。エルミンはリューク元校長の息がかかっておりまして、少々厄介でしたので丁度良かったです」
そう言いラングさんは笑った。怒られなくて良かったぁ…
「私もアレクのこと短気って言えないや…」
「似た者同士ですね。お似合いですよ?」
ラングさんはからかうようにクスクスと笑っている。お似合いって言われるのは嬉しいけど、なんか恥ずかしいな…。
しばらく生徒達の訓練を見たけど、特に教えることも無さそうだったからラングさんに断りを入れて帰ることにした。
◇◇◇
「アレクはもう帰ってるかなー」
時間は夕方だけど、まだ城に戻るには早いから適当にキルニアの街を散策してる。
「魔剣士計画の影響って結構深刻なんだなぁ…」
なんでそんなに魔剣士になりたいのかな?魔剣士が強いんじゃなくて、アレクが強いってのわかんないのかなぁ…
アレクはいつも私の事を1番に考えてくれる。自分のことはそっちのけで…。たまには自分を大事にしてほしい。
アレクに無理をさせない為に私はもっと強くならなきゃ
だから、アレクを傷付ける人は許さない。容赦もしない。
あの、エルミンって人、ランガンと同じ空気がした。あの悪意には、瘴気が感じた気がする…
ランガンはまだ、ただの中級剣士だった、でも、魔術も扱うエルミンがクリーチャーにでもなれば…。
…考えたくないな、私の嫌な予感はよく当たる…。
確か、モンスターは魔術も剣術も扱う場合があるってアレクが言ってたっけ、
なら、エルミンがクリーチャーになれば本当に魔剣士になれちゃうかも?理性のないモンスターになっちゃうけど
気付いたら辺りは薄暗くなっていた。
路地裏かな…ちょっと気持ち悪いから城に戻ろう。足を急ごうかとかと思ったら、背中からゾクリと嫌な気配を感じた…
この気配はエルミンだ…でも、瘴気が濃くなってる。
「はぁ…やっぱり私の嫌な予感は当たっちゃうな…」
「エマさぁぁん!こんばんわ!月が綺麗ですね!」
「なっ…」
後ろを振り向くとエルミンは肉薄していた。
「くっ…」
エルミンの剣は私の強化魔術を破り、腕に切り傷ができた。
「あは!!傷付けましたよ!明日はデートですね!」
「それは訓練の時の話でしょ…」
「はぁ!楽しみです!どうしましょうか、まずはお食事に行きましょう!宿は今日のうちに取っておきますよ!夜が楽しみでぇす!ぐへへぇ…」
エルミンは私に絶えず剣を振り下ろしてくる。強化魔術を破られたのはビックリしたけど、大したことはないね。
「アレク以外の男性から向けられる好意はただ気持ち悪いだけなの、やめてもらえる?」
「ぐへぇ…!」
エルミンの鳩尾に風の拳がめり込む。
「あんまり、その力を過信しないほうがいいよ?人間じゃいられなくなるから」
「うるさぁぁい!これはリューク校長から頂いた認められし者のみが与えられる力だ!私は最強の魔剣士になり!世界の覇者となるのだ!!」
世界の覇者…?なに馬鹿なこと言ってるんだろ。いきなりぶっ飛んだこと言い出すからどう反応すればいいかわかんないや。
「もっとだ!もっと力を!もっともっともっとぉぉお!!!」
エルミンの体から大量の瘴気が溢れ出る。
「あらら…結局こうなっちゃうんだね…」
エルミンの体が変形していく。体はゴツゴツになり、体格は5m程まで大きくなる。クリーチャーになってしまった。
禍々しい瘴気だなぁ。これは、ランガン以上…モンスターで言うなら、幼体キメラほどかな?
「今だったら幼体キメラも1人でなんとかなるね」
「ゲヒヒヒッ!死ねぇぇえ!!」
エルミンが肉薄し、剣を振り下ろすが、私は片腕でそれを受け止める。
「まだ私には届かないよ」
「ぐへへ…僕は魔剣士だぁあ!!」
エルミンの剣に闇が纏われる。
「属性付与!?」
「ゲヒヒヒ!!ほらほらほら!!!」
アレクが剣に属性を付与して戦う戦法は有名だ。でも、
「荒いね」
『ヘル・フレア』
「ぐはっ…!」
至近距離で上級魔術を放った。相当なダメージを受けたはずだけど…
私はエルミンと距離をとる。
「やっぱり、再生するよねぇ…」
「ゲヒヒヒヒヒヒ!まだだよぉ…エマさんを抱くまで僕は諦めないよぉ」
気持ち悪い…
『うわぁ、クリーチャーになってるねぇ!』
「!?」
私の肩の上から声が聞こえた。
「なっ!?誰!?」
「あ、驚かせてごめんね!なんかすごい瘴気を感じたから来たんだ!」
ビッッックリしたぁ…全く気づかなかった…気配を完全に消してた…。
アレクに言われて外にいる時は常にサーチを張り巡らしてるけど、それにすら引っかからなかった。
冷や汗が滴り落ちる。この女性は…私じゃ相手にならないくらい…強い…。
思わず飛び退き構える。
「あ、ごめんね!警戒しないで!君の味方だよ!とりあえず、あのクリーチャーなんとかしないと!」
「そ、そうですね…」
悪意は感じない…
「ちゃちゃっと終わらせるねぇー」
そう言うと女性は手に持つ、大杖から聖の魔術を発動した。
「す、すごい密度…」
「ゲヘヘッ!女が2人!今夜が楽しみだぁ!!」
「確かにコイツ気持ち悪いね」
「上級聖魔術『ホーリー・レイ』」
「ホーリー・レイ!?」
ただの上級魔術…?
女性が放った超高密度の光線はいとも容易くエルミンの首にある水晶を撃ち抜いた。
「上級魔術で…ていうか上級魔術の威力じゃない…」
撃ち抜かれたエルミンはそのまま岩屑になった。
「はい!終わり!」
女性はクルっとこっちを向いた。その笑顔は子供のように明るかった。可愛い…
「あ、あの…」
「あれ!?君って…」
女性は私の顔を覗き込んできた。綺麗な黄色い瞳…まるでアレクみたいな…。
「やっぱり!暴嵐の魔術師エマちゃん!そうだよね!?」
「え!?あ、はい…」
この人はなんなのだろう…
「私はアレイナ!一応SS級の冒険者やってるよ!」
「え、SS級!?そんな人が1人でどうして…?」
「普段はシリウスっいう同じSS級の男と2人でパーティー組んでるんだけど、今は単独クエスト中でね!」
シリウス…?どこかで聞いたような…?
「ミアレスの英雄がモルディオに留学に来たって聞いてね!!もしかしたら会えるかもって思ってたんだ!」
「どうして私に?」
「んー、強い魔術師を見てみたくて?可愛い女の子って聞いてるし」
そう言って私の顔をジーッと見てきた。なんだかむず痒い…
「ふむふむ…この魔力量に…ふむ…超越級かな?」
「わかるんですか?」
「なんとなくね!」
私はわからない…この人がどのレベルなのか…でも、私よりも圧倒的に強いことはわかる…。
「ねぇねぇ!明日暇!?」
「え、明日はたぶん暇です…」
「そう!ならお姉さんとデートしようよ!」
デ、デート…初対面なのにグイグイくるなぁ。でも、SS級なら知ってることも多いかも、パンドラとか、記憶を戻す方法とか…。
「わ、わかりました…」
「やった!なら、明日の朝、ここに集合ね!」
「は、はい!」
勢いで色々決めちゃったけど、アレクに相談した方がいいかな?
「こいつの事は私に任せていいよ!しっかり報告しとくから!」
「よろしくお願いします、アレイナさん」
「アレイナでいいよ!エマちゃん!また明日ね!」
エルミンの残骸の1部を拾い、どこかに去っていった。嵐のような人だったな。
また、明日色々聞いてみよう。
第65話ご閲覧いただきありがとうございます!
次話をお楽しみに!




