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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第六章 モルディオ帝国
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第64話 最強の意味


「シャルは魔剣士を目指しているって、ラングさんから聞いたよ」


俺とシャルは訓練場に来ている。

リオン皇帝からシャルに稽古をつけてほしいと言う話だ。


「はい!アレクとは比べるのも烏滸がましい実力ではありますが、いつかはあなたの様に!」


俺のようにか…

いつかはこうなりたい、そう思って魔剣士になれるなら、魔剣士が世界に1人だけなはずがない。


「とりあえず、今どのくらいできるか見せてくれるか?」


そう言って俺は木刀を持った。


「アレクと立ち合うのですか?」

「こっちからは手を出さないよ、好きなように打ち込んでくれ。魔術も駆使してな」

「は、はい!」


俺とシャルは互いに剣を構える。

シャルは自身に強化魔術を施した。


「いきます!」


シャルは俺に肉薄し、剣を振り下ろした。


遅い。


俺はシャルの剣を防ぎ、押し返した。

そして、再度肉薄する。


「はぁ!!」


カンッカンッと訓練場に木刀がぶつかり合う音が響く。

動きも遅いが、剣速も遅い。

それに、シャルはまだ強化魔術以外の魔術を使っていない。

シャルは一旦距離を置き、息を整える。


「はぁ…はぁ…」

「上級火魔術『ヘル・フレア』」


放ってきたのは上級魔術。

威力は申し分ない。俺には通用しないが。


『ヘル・フレア』

「なっ…!?」


俺は全く同じ威力のヘル・フレアで相殺した。

シャルは驚いているが、再度魔術を放つ。


「上級風魔術『エア・バースト』」


ほう、火に続き風の上級か。魔術の才能はあるみたいだ。

しかし、俺は魔力を込めた木刀で風魔術を真っ二つに斬った。


再度シャルが肉薄する。

スタミナは中々だが、それまでだ。

剣術と魔術を交互に使っている。ただ、それだけだ。

中途半端と言わざるを得ない。


俺はシャルの剣を巻き上げ、取り上げた。


「はぁ…はぁ…さすがにお強いです…」

「シャル、君は魔剣士の戦い方をわかっていない」

「魔剣士の戦い方…?」


シャルはただ、剣術と魔術を交互に使っただけ。

これなら、少し剣を扱える魔術師なら誰でもできる。しかし、魔術師が剣術を覚えようとすると、魔術が疎かになる。

疎かにせず、剣術魔術共に鍛えたとしても、その結果はどちらも中途半端に終わる、だ。


なぜ、俺はどちらも極められるのか、それはハッキリはわからないが、1つ言えるのは、俺が異常だと言うことだ。

散々周りに異常と言われてきたが、深く考えると、魔剣士と言う存在が異常だと自分でも思う。


「クエストに行こう」

「え!?クエストですか?」

「シャルの冒険者ランクは?」

「B級です」


B級か、まぁ大丈夫だろ。


「魔剣士として、B級になったのか?」

「いえ、魔術師でそこまで行きました」

「なるほどな」

「どうしてクエストなのですか?」

「魔剣士の戦い方は、実際に見た方が速い」


そう言って俺はキルニアの冒険者協会に向かった。

一応、皇帝に許可を取って。


◇◇◇


〜キルニア冒険者協会〜


「キルニアでもスアレとそんなに変わらないな」

「そうなのですか?」

「ああ、どこも似た感じみたいだ」


俺とシャルはクエストボードでクエストを選んでいる。

俺はA級中位、Aランク以下のモンスターしか狩れない。

だが、Aランクじゃ相手にならない。


「まぁ、なんでもいいか」


俺は適当にクエストを取り、受付嬢に持っていった。


「はい!【"古城の門番"スケルトンキングの討伐】受け付けました!ご武運を!注意事項ですが、現在"特異エリア:ロレンスの古城"では"闇騎士"デュラハンの出現が確認されております!Sランクでも頭一つ抜けた強さです!ご注意ください!」


称号持ちのデュラハンがいるのか、丁度いい。


「は、初めてのA級クエストです…それに、称号持ちのSランクも…」

「気楽にしてろ。戦うのは俺だ」

「で、でも…」

「心配ない」


そう言って俺達は特異エリアにロレンスの古城に向かった。


◇◇◇


〜特異エリア:ロレンスの古城〜


ここは、かつてロレンスと言う国だった。

初代皇帝が、戦争で勝利しロレンスを吸収した直後、ロレンス城の謁見の間に特異点が出現し、この城全体が特異エリアとなった。


「昼なのに薄暗いな…濃密な闇の魔力の影響か。」

「うぅ…ごめんなさい…私、お化けとか苦手で…」


シャルは俺の腕にしがみついてプルプル震えている。

こういう所見るとうずうずしてしまう…


「わっ!!!!」

「ひゃあ!!!!!痛っ!」


いい反応をしてくれる。

腰を抜かしたみたいだ。


「ア、ア、アレク…?」

「ははっ!ごめんごめん、ついな」

「アレクは意外と子供ですね…」

「まだ11歳だからな」


しばらく休んで、目的地に着いた。

城の門の前だ。


「あ、あれが称号持ちのAランク…スケルトンキングですか」

「待ってろよ」

「アレク!?」


俺はスケルトンキングに向かって歩く。


「今回はお前に用はないんだ」


俺は強化魔術を施し、5mほどある巨体の顔面まで跳躍した。


「おらぁ!!」


頭蓋骨を殴り砕いた。

その中にある、コアを潰すとスケルトンは砂になって消えた。


「す、すごい…」

「行くぞ」

「え?どこへ?」

「"闇騎士"のとこだ」

「え!?」


シャルは驚いているが、まだ魔剣士の魔の字も見せてない。

称号持ちのデュラハンってのも気になるし。


「A級なのに、Sランクを相手にして大丈夫なのですか…?」

「国境付近でもSランクと戦ったが」

「それもそうですけど…」

「まぁ、大丈夫だから心配するな」


俺達は闇騎士がいると思われる城の上階を目指す。

しばらく階段を上がると、ガチャガチャと鎧が擦れる音が聞こえてきた。


「いるぞ」


階段を上り、正面の部屋の扉を開けた。

部屋の中は拓けていて、戦うのに十分な広さだ。

元は訓練場だったみたいだな。


「あ…あれが…称号持ちの…Sランク…」


シャルの震えが増した。

仕方ないか、俺達も去年はSランクで震えていた。


「シャル、下がってろ」

「しかし…!」

「俺は忘却の魔剣士だ、あの程度に負ける訳ないだろ」


俺がそう言うとシャルは黙って後ろに下がった。


「魔剣士の戦いを見せてやる。しっかり見とけよ」

「はい…!ご武運を…!」


俺はデュラハンと対峙した。

見た目は国境付近で会ったやつと大して変わらない。

だが、禍々しい気配はやつの比じゃない。


属性付与(エンチャント):聖』


夜桜に聖属性を纏わし、自身も聖属性を纏った。


「これは、属性武装だ。魔術師でも使うだろ?」

「はい…私は使えませんが…」

「だろうな」

「え?」


困惑するシャルを無視して、デュラハンに肉薄する。


〔ガキン!!〕

金属のぶつかり合う音が響く。


「普通の属性武装じゃ、止められるか」


俺は再度、距離を取り、感覚を研ぎ澄ませる。

俺を纏う光は次第に落ち着き、静かな光となる。


『属性武装:凪』


そして、俺の周囲に光の玉を浮かべる。


俺を警戒したデュラハンが一気に肉薄してくる。


「さすがに速いな」


デュラハンの攻撃を夜桜で防ぎながら考える。


俺の周囲に浮かぶ光の玉絶えずデュラハンに光線を打ち続けている。


俺も間髪入れずに肉薄する。


光線に斬撃、圧倒的手数でデュラハンを推していく。


「危ない!」


シャルは俺に叫んだ。

ホーミングした光線をデュラハンが躱し、俺に向かってきた。


この手には、慣れている。


『リフレクト』


俺に向かってきた光線は光の壁に当たり威力が増してデュラハンに跳ね返った。

直撃だ。


〔ガチャ…ガチャン…〕

「しぶといな…」


光線は直撃したが、決定打にはならない。

デュラハンの鎧が所々崩れ始めたが、こいつの禍々しい魔力はまだ収まっていない。


デュラハンは胸の前に剣を掲げ、魔力を込めた。

瞬間、暗闇が場を支配する。


「チッ…超越級闇魔術『邪域』か」


邪域は魔の力を上げ、敵と定めた者にダメージを与える。


「ジワジワくるが、大したダメージはないな」

「ぐぅ…ゲボッゲホッ…!アレク…」

「シャルは耐えられないか…」


このデュラハンもSランクと呼ばれるだけはあるか。


「仕方ない」

「超越級聖魔術『聖域』」


光と闇が衝突する。広範囲魔術は質よりも量が重要だ。


「ほら、もっと魔力を込めろよ」


俺の聖域が邪域を封じ込めた。

地面は光に覆われた。


「終わりだ」

「我流『龍剣降斬』」


聖域によって弱体化したデュラハンは躱す事が出来ず、光の斬撃はデュラハンを真っ二つにする。

そのまま、デュラハンは消滅した。


「す、すごい…ほぼ無傷でSランクを…」

「ふぅ…これが、魔剣士だ。シャルとの違いがわかるか?」

「は、はい…」

「城に戻ってゆっくり話そう」


俺達はロレンスの古城を後にした。


◇◇◇


冒険者協会に報告をした後、城に戻って俺用に用意してもらった部屋でシャルと2人でいる。

辺りはもう暗くなっている。

エマはそろそろ帰ってくる頃かな?


腹が減ったが、その前に…


「シャル、俺とお前の違いはなんだったかわかるか?」

「はい…私は、剣術と魔術をただ交互に使っていただけ…アレクのは、剣術と魔術を混合させた戦法…正に魔剣士でした…」

「そうだ、魔術師が剣を取らない理由、それは能力の限界が来るからだ」


能力の限界、自身が扱える力の限度。伸び代が無くなるとも言い換えれる。

魔術師が剣術を扱うようになれば、魔術の質が落ちる。


「超越級の魔術を扱える魔術師が剣を取り、剣術を上級まであげたことがある。しかし、次に魔術を使う時、超越級を扱えなくなっていた。そういう話を聞いたことがある。」

「では、なぜアレクは両方高レベルで扱えるのですか…?」


なぜ俺は両方高レベルで扱えるのか…


「それは、俺も分からない」

「わからないですか…」

「ああ、俺が生まれてから6歳までなにか特別なことをしたのか、生まれた時点で魔剣士としての才能があったのか…なにもわからない」

「そうでしたね…その記憶を取り戻す為に冒険者になったのですよね…」


シャルはしょんぼりしてしまった。

だが、相応の現実を知らなければならない。


「シャル、なぜ俺は強いと思う」

「魔剣士だから…?」

「そうだな、魔術と剣術を駆使して戦う、唯一無二の冒険者だ」


みんな、俺を特別扱いし、勝てるはずないと競うのをやめる。


「俺は、魔術でも、剣術でも、1番にはなれないんだよ」

「え…?」

「俺は魔剣士だ。魔術師でも剣士でもない。魔剣士としてしか生きられない。それが何を意味するかわかるか?」

「…個を極めた者の方が上だと?」

「そういう事だ」

「しかし、アレクはエマにもカルマにも勝利しております!」


確かにその通りだな。


「だが、それは魔剣士としてだ。俺がカルマと剣術の勝負をすれば俺はおそらく負ける。エマもそうだ、魔術だけの勝負なら確実に負ける。」


エマ、カルマ、ソフィアは俺と競い、高め合っている。そのレベルは日々高まっている。


「まぁ、魔剣士として強さを求める俺が、魔術も剣術も最強でありたいなんて贅沢な話だ」

「それでも、魔剣士の力は最強です」

「そうだな。シャル、お前はこの域に達せると本気で思うか?」

「それは…」


シャルの表情が曇る。

今日の俺の戦いを見て、現実を理解したのだろう。

既に能力の限界が来ていることも…


「私は…冒険者になって、このモルディオ帝国を守りたいです…騎士では行動が限られます、冒険者は基本自由、モルディオの各地を巡りながら、現状を把握し解決する。そうしてモルディオをより良い国にしたい…。しかし、そうするには相応の力が必要です。だから、英雄であるアレクの力を目指しました…」


そういう理由で魔剣士を目指していたのか。


「シャルの気持ちはよくわかる。俺もよく最強の人の技を真似てるからな」

「そうなのですか…私はどうしたら…」

「簡単な話だ。今言っただろ?せっかく魔術が使えるんだ。エマみたいに魔術で俺を超えればいい」

「魔術で…」

「ああ、魔剣士をも上回る魔術師になれれば、夢が近付くだろ?」


シャルは少し迷ったが、決心したようにこっちを向いた。


「アレク、私は魔術師になります。今からでも間に合うでしょうか」

「余裕で間に合うな、エマもいるんだ、色々と教えてもらうといい」

「ア、アレクからは教えて貰えないのですか…?」

「え?ああ、時間があれば教えるよ」

「はい!」


満面の笑みでシャルが返事をした。

嬉しそうでなによりだ。

すると、シャルは自身の純白のロングソードを腰から抜いた。


「アレク、この剣を貰ってくれませんか?」

「え?俺はこの夜桜しか使わないぞ?」


ロングソードも使えないこともないが、夜桜以外使う気になれない。


「わかってますよ、この剣はオリハルコンでできているんです。貴重な金属です。私が持つより、あなたが持っている方がなにかしら使い道があるかも知れません」

「オリハルコン!?でも、これは大事なものだろ?」


オリハルコンっていえば、ミスリルよりも貴重な金属だ…。そんなもの簡単に貰えない。


「魔術師になる私には必要ない物です。溶かすなりして、自身の装備を強化しても構いません。貰っていただけませんか?」

「…わ、わかった、後で返してとか言うなよ?」

「言いません!」


溶かすってのは、さすがに気が引けるが…

まぁ、寮の部屋にでも飾ろうかな。せっかくシャルから貰ったものだし。


「ふふっ、ラングかお父様に説得を頼まれたのでしょ?ご迷惑をお掛けしました」

「あ、いや、気づいてたのか…」

「なんとなくですけどね!それでは!また明日!おやすみなさい!」

「ああ、おやすみ」


シャルはイタズラな笑顔を向け、部屋を出ていった。


おやすみって言ったが、この後夕食で顔を合わすだろ。


夕食の時に顔を真っ赤にしたシャルが居たのは言うまでもない。





第64話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!


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