第61話 いざ、モルディオ帝国へ
「アレクサンダー君、モルディオ帝国宰相のラングさんがパーティーメンバーと呼んでいるよ」
校長のエバン・アマリアが声をかけてきた。
「留学の件でしょうか」
「おそらくね。私と国王陛下の許可は既にでているよ!さ、応接室へ」
俺は3人を呼び、応接室に向かった。
「失礼します」
「どうぞ、掛けてください」
宰相ラングが出迎えた。
「ご存知と思いますが、留学についての詳しい日程を決めたいので、都合の良い日を教えて頂けますか?」
「特に予定はありませんので、そちらの都合が良い日で構いませんよ」
「では、1週間後にしましょう」
そう言えばリオン皇帝の姿が見えないな。
二日酔いだろうか。
「皇帝陛下のお姿が見えないようですが…」
「陛下なら昨日の夜にお帰りになりましたよ」
昨日の夜、随分急いで帰ったな。
なにかあったのだろうか。
「そうですか。お見送りもできず申し訳ありません」
「いえいえ、元より昨日の夜に帰る予定でしたから。陛下が国を長い間留守にするのはあまりよろしくないですからね」
なるほど、何かあった訳ではないのか。
その後は細かい調整を行い、留学の日程が決まった。
「では、当日街門に馬車でお迎えに上がりますので、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
片道2週間で街や村に泊まりながら、モルディオ帝国を目指すらしい。
レディアに行くまでは3つの村に泊まったっけな。
モルディオ帝国、楽しみだ。
◇◇◇
1週間後…
「前も言ったがお前らってあんま王都いねーのな」
相変わらずイグナスが見送りに来ている。暇なのかな?
「仕方ないだろ。俺だってゆっくりしたいよ」
「でも、アレクは忙しい時の方がイキイキしてるよ?」
「タカハシ村の時は目が死んでたな」
俺ってそんな感じだっけ。
俺だってゆっくりしたい時もあるさ。
ただ退屈が嫌いなだけだ。
「みなさん!馬車が来ましたよ!」
ソフィアが声をかけてきた。
馬車からは宰相のラングが降りてきた。
「お待たせしました。出発しましょう」
俺達は馬車に乗り込んだ。
「しばらくレディアには帰れないねぇ」
「そうだな、1年かもっと先になるな」
「お母さん達元気かなぁ」
「今頃エマの妹か弟でも作ってるんじゃないか?」
「もう!」
「痛っ」
エマが寂しそうにしてたから、冗談言ったんだが。
叩かれてしまった。
カルマ、ソフィア、ラングが乗り込み出発した。
道中は平和なものだ。
いつものようにお喋りをしたり、ラングから帝国の話を聞いたり。
エマはラングの前にも関わらず、俺の膝でぐっすり眠っている。
それをラングは孫を見るような優しい目で見ていた。
◇◇◇
そんなこんなで1週間が経った。
ラングとも随分仲良くなった。
順調な旅をしていた。このまま帝国までって思ったが、そうは問屋が卸さなかった。
ここは国境付近の山道だ。
「ラングさん、帝国は山道にSランクが出るのは普通のことですか?」
「いえ、ありえませんね。ここは国境付近、特に警備が厚いですから」
人為的か…。
モンスターからは瘴気が漏れている。
パンドラに留学の情報が漏れてたみたいだな。
「どうやら留学の話は広まってるみたいだな」
「そうだねー、あいつどうする?」
「倒すしかないだろうな」
このモンスターは
「デュラハンか…」
首なしの騎士の格好をしたモンスターだ。
中々に禍々しい魔力を帯びているな。
「アンデット系ならアレクかエマだな」
「アレクがやる?私アンデット系苦手…怖いもん…」
「なら俺がやるか」
怖がるエマの頭を撫でて、前に出た。
「え!?アレクサンダー君1人で戦うのですか?」
この状況にラングが突っ込んだ。
「Sランクが出たらとりあえず1人で戦うのがこのパーティーのルールなんです」
「A級4人がかりで倒すモンスターを…1人で戦う…?」
(1週間共に旅をしたが、道中は普通の年頃の子供達だった…しかし、今は…)
前に出るアレクサンダーの背中は強大で歴戦の猛者を思わせる風格が漂っていた。
「さて、やるか」
俺は身体に聖属性を纏った。
「ついでだから練習しとくか」
『属性武装:凪』
俺の身体に静かな光を纏う。
「さぁ、こい!」
俺の五感が限界まで研ぎ澄まされる。
デュラハンの鎧が擦れる音が聞こえた。
「我流『龍牙一閃』」
目にも止まらぬ速さでデュラハンを真っ二つにした。
聖属性を纏っていた為、再生できず、消滅した。
凪から戦闘終了まで僅か3秒。
デュラハンがほんの少し動いた瞬間の隙を突いた。
「ふぅ…まだ完成とはいかないな」
「おつかれ!相変わらず速いねぇ」
「練度は上がってきてるぞ」
「さすがです!」
その様子を見てラングは唖然としていた。
「接戦ではなく…瞬殺…?Sランクを…忘却の魔剣士とはこれほどまでに強いのですか…いや、彼だけでは無い、他の3人もそのレベルに近付きつつある…」
恐るべき才能にラングは冷や汗をかいた。
「ラングさん!早く行きましょう!」
「はい、今行きます…」
そこからの旅は順調だった。
2日程経った頃…
「みなさんに、お話があります」
ラングが改まって俺達に言ってきた。
「今回は留学という形を取らせて頂きましたが、正直モルディオの冒険者学校で、あなた達に教えられることはないでしょう。」
まぁ、それはイグナシアでも同じことだが。
「みなさんには、モルディオ帝国の冒険者学校の生徒について、率直な意見がほしいのです。」
「アレクさんはともかく、私達もですか?」
ソフィアが不思議そうに聞いた。
「はい、正直11歳でそのレベルは異常です。モルディオ帝国では少々問題がありまして、あなた達の目で同年代冒険者を見てもらい、アドバイスを頂けたらと」
ふむ。このタイミングで問題となると。
「魔剣士計画でなにか影響があったんですか?」
「さすがに鋭いですね。その通りです。現状については着き次第確認してみてください」
そんなに深刻な問題なのだろうか。
「それと…アレクサンダー君にはもう1つお願いがございまして…」
いつも背筋を伸ばしている宰相が珍しく少し猫背になった。憂鬱なことなのだろうか。
「皇帝陛下が必死に勧誘されたのは…これが1番の理由でしょう…」
「と、言いますと?」
「皇帝陛下のご息女、ご子息に指導をお願いします…」
指導…?
「それは、剣術と魔術ですか?」
「それもですが、精神的な指導もお願いしたく…」
精神的な指導?反抗期なのかな。
「俺はメンタルカウンセラーではありませんよ」
「重々承知しております…」
「では、なぜ?」
「実は…」
ラングがポツポツと詳しく話し始めた。
話はこうだ。
リオン皇帝には3人の子供がいる。
1番末の男の子は8歳。皇太子として、日々鍛錬しているが、弱気な性格で自分に自信が無いらしい。
剣士をしている。
次女は自由奔放な性格ですぐに城からいなくなるらしい。剣術の才能も魔術の才能もないそうだ。しかし、人一倍頭がキレ、いとも容易く、大人の手から逃げるようだ。
「長女のシャルロッテ様が中ではアレクサンダー君に関わりがあるかもしれませんね。シャルロッテ様は現在14歳で成人前です。陛下は早く良い相手を見つけて、女性としての幸せを掴んで欲しいとお考えなのですが…」
まぁ、親からしたら娘の将来が心配なのだろう。
ソフィアタイプなのかな?
「彼女は現在冒険者をしていまして。魔剣士を目指しているんです…。正直もう伸び代はありません。冒険者として生きていくなら、魔術1本に絞ってほしいのですが、魔剣士に拘り続けておりまして…」
なるほど、魔剣士計画の1人だったのか。
世界に1人しか居ない魔剣士。次は私と意気込んでいるのだろうか。
「その3人にはある共通点がありまして」
「共通点?」
「はい、僅か11歳にしてA級中位冒険者、その活躍は留まることを知らず、ミアレスの英雄、格上相手に重症を負いながらも勝利を収める若き英雄。世界に1人だけの魔術、剣術共に極める魔剣士。
…忘却の魔剣士は3人の大きな憧れなのです」
そういうことか…
「すごいね!大人気じゃん!」
「俺は有名になりたい訳じゃないんだ…」
「これも英雄覇道を歩む者の運命だ」
「カルマまで…」
キリルが言ってたっけな「結果の後に名声はついてくる」だっけか?
俺はただ自分の記憶を取り戻し、エマを幸せにしたいだけだ。
「エマもミアレスの英雄ですよ?」
「ええ、エマさんやソフィアさん、カルマ君にも憧れを抱いております。あなた達パーティーの活躍を伝え聞く度に大喜びでしたから。」
「なら、俺じゃなくても…」
「そうはいきません。やはり世界に1人だけの魔剣士というのは嫌でも注目を集めるものです。」
結局俺がやるしかないのか…
「ご子息、ご息女のお気持ちよくわかります。私もアレクさんに憧れた1人ですから」
「アレクサンダー君、どうかよろしくお願いします」
そう言ってラングは頭を下げた。
「はぁ…やりますけど、上手くいかなくても文句言わないで下さいね?」
「ありがとうございます!アレクサンダー君ならきっとうまくやりますよ!」
その自信と信頼はどこから来てるんだ。
俺はなんでも出来る完璧超人じゃないぞ。
エマが大好きな普通の冒険者だ。
「憧れか…」
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
憧れるのは良いが、それになれるとは限らない。
現実は残酷だ。特に長女のシャルロッテ…それが理解出来ればいいが。
少し憂鬱になりながらも、5日後…
モルディオ帝国、帝都キルニアに着いた。
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